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45p【ヒルコからの妨害】

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目覚ましの音が部屋中に鳴り響いた。もぞもぞと布団の中から手を伸ばして目覚ましを止めて、パジャマのポケットに手を突っ込んだ。しかしポケットにはスマホが入っていなかった。
そうだった。ここ、現実世界なんだった。そりゃあ入ってるわけないよな。
手を一度握って開いて感触を確かめた。それから部屋を見渡せば、どこにでもあるかのような素っ気ない部屋で、自分の部屋かと安堵する。
(学校、行った方がいいよな。)
でも、先に咲を迎えにいかないと。もう、正直言ってうずうずしていて、今すぐにでも家を出たい気分だった。
とりあえず冷静になり、制服に着替えてリビングへ行った。
「え!?アンタ遅刻じゃない!?」と姉に言われた。
「あー、うん。今日はちょっと大事な用事があって、9時に近所の花店さんによらないといけなくてさ。遅刻にはなるけど。」
「へぇ~。高校生の癖に大事な用事ねぇ。まぁ、いいわ。私は仕事行くから、戸締りよろしくね。」
「あ、うん。行ってらっしゃい。」
姉が仕事にいって、僕は朝食を作りはじめる。
姉さん、朝食食べたのかな?いつもは僕が姉のぶんも用意してたっけ。
一ヶ月半か。【リアル】のせいで時差ボケが酷い。
9時まで時間があるのに、やけに急いでしまう。トースターでパンを焼こうとしたけど、半生状態で取り出して、バターを塗って食べた。歯を磨いて寝ぐせをなおしても、まだ時間が余っていて、イライラしながら座って8時50分になるのを待った。
カチッと時計の秒針が50分を指せば、急いで家を出て、しっかり戸締りをして、走って花屋さんを目指した。
咲が「おはようございます。」と挨拶してくれて「おはよう。」と返して咲を眺めながら9時を待つ。

ガラガラとシャッターが開いて、店員のおばさんが顔を出す。
「おはようございます!!あの!!100BP貯めました!!チップを譲ってくれませんか!」と前のめりになって興奮して鼻息を荒げながらおばさんに詰め寄った。
「……頑張ったね。店に入りな。」とおばさんが扉をあけてくれた。
「ありがとうございます。」と言って、花屋さんに入ると、おばさんがホログラムに繋がれてるであろうチップを抜いて僕に渡してくれた。
「ありがとうございます!!!大事に…一生大事にします!!」
チップを受け取れば涙がジーンと溢れてきそうだった。たった数時間の出来事でも、一ヶ月半くらいはあっちで過ごして、咲の為にと危険な橋をいくつも渡ってきたからだ。
「ちょっとここで待ってな。」
おばさんは二階に繋がる階段をあがって「ようこー!」と叫ぶ。
僕は携帯の電源を入れて、【リアル】を起動させてチップを携帯に差し込んで読み込ませる。
すぐにダウンロードが完了して、リアルが起動されて、名前をつけて下さいという画面に切り替わった。
ルナさんの言ってた通りだ!僕は早速【咲】と入力した。完了しましたと表示がでて電源を切ろうとすれば、おばさんが「待たせたねぇ。」と言って、やってきて、次に花屋の扉がカランカランと音を立てて開いた。

瞬きをすると、僕は【リアル】の中にいた。

広大なフィールド、【初心者村・闘技場】と視界に表示が入って、バトル開始のカウントダウンが大きく表示されていた。
(うそだろ?僕はバトルを申し込まれたのか?)
観客はほとんどいなかった。
真っ先にAIのフリガナを入力してくださいという画面が現れて、サキと入力した。
隣に咲が現れた。その瞬間、なんとも言えない熱い気持ちが込み上げてきた。
AI咲から「おはようございます。」と声がかかった。
「どうやら情報通り、使えないAIを手にしたようだな!!好都合だ!」と僕の正面に、黒い服を着た男性が強そうな男性AIを連れて立っていた。
黒い服には金色の刺繍が入っていて、すぐにドルガバ関係者だと理解した。
「どうして…だ?どうして僕のリアルを知ってるんですか!?」
「ヒルコ様の手にかかれば、そんな事。僕はヒルコ様に選ばれた期待の新人なんだ!!お前をここで潰す!!!」
僕はタクトを構えた。
「おっと?お前ひとりでそのお荷物AIを抱えて戦えると思ってるのか?俺のAIは!!ヒルコ様のAIだ!!」
「くっ。」
(どういう事だ?ヒルコのAIだって?)
僕は恐怖で足が震えてしまった。すると、タクトから小人達がでてきてくれて、小人達は僕の足の震えを止めようと抱きついてくれた。
「え…?」
「マスター!スゥ達が頑張るのですぅ。」とスゥが悲しそうな顔をして此方を見た。
「絶対にマスターを守ってみせる。」とウォール。
「マスターらしくないぜ。」とフゥ。
「ほら、マスター、もう寒くないでしょ?」とハルが周囲を温かくした。
「……頑張る。」とハナビ。
「信じろ。」とハク。
「リキさん。最初の目標はどうやら無事突破できたようですね。勝負はここからじゃないですか。」とエイボンが言ってくれた。

「よそ見とは良い度胸だな!!!あの木偶の棒は狙う必要はない!!本体を攻めるぞ!!」
僕の隣で棒立ちしているAIは戦力外とみなされて、敵は僕だけを集中狙いしてくるようだった。
カウントダウンが始まった。
「みんな!!!」と僕は小人達に声をかけた。
「バトルに集中します。」とエイボンが本を開いた。
皆で敵を睨んだ。
敵のAIが僕に光線のようなものをうってきて、間に合わない!!と思った瞬間、ウォールが前に立って守ってくれた。
「ウォール!」
「まかせろ!!マスターには指一本触れさせない!!」
ハナビが詠唱に入った。
ハクが敵の方を斬りつけにいった。
敵は「ヒィッ!!あつい!!」と声を上げていた。どうやらハクが目にも留まらぬ速さで敵を斬りつけて、呪いの炎を浴びせているのだろうという事がわかった。
でも、敵のAIは大きな剣で僕を斬ろうとする。
ウォールがガードしてくれているが、ウォールが顔を歪めているのがわかった。このままじゃダメだ。何かしないと!!そう思っているとウォールが敵のAIを押し返した。
「もう絶対に!!!主を失うわけにはいかない!!!」とウォールは声を張り上げた。
「守りましょう!」とエイボンが言う。
AIの攻撃は激しさを増し、ハクも攻撃を跳ね返す為に僕の守りについた。
ハナビも攻撃をしてくれてるけれど、敵のAIは魔法無効をつけてるようで、全然効かずだった。
その間に敵の本体は課金の高い回復薬を飲んで体力を満タンにしていた。
敵の攻撃を受け止める度に「うっ!!」とウォールが苦しそうな声をあげた。

ダメだ…どうしよう…。
ダメだ…ダメだ…。

相手が課金ポーションを飲んで全回復する度に焦りが心を支配する。僕の焦りが伝わっているせいか、小人達にも緊張感が走っていた。
敵のAIが再び大きな大剣で僕を斬りつけようとしてきた。そして敵本体もヒルコの武器らしきものを使って、光の光線を僕目掛けてうち、ハクとハナビが身を挺して盾となった。
それでも、ウォールが弾き飛ばされそうになって、とうとうやられてしまうと僕はぎゅっと目を瞑った。

ピンッと音が凝縮され高速になったような変な音が鳴り響いた。
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