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59p【セーレ】

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「す、すみません!!ソロモンの宴で!!そのっ、春風のタクトは今諸事情で使えなくって。」
僕は頭を
「正直、驚きました。クエスト中でも使えるとは。ますますうちのギルドはチートだ。」
蜘蛛が千翠さんに襲い掛かってきたが、千翠さんはそれを素手で切り裂いた。正確には爪に武器がついてるんだと思う。
「このような雑魚相手なら、そのタクトで殴るだけで倒せますよ。」
「え、そんなに弱いんですか?」
「はい。13階までは、ですが。」
ちゃんと千翠さんを見ると千翠さんの背後にホログラム画面で時計みたいなものが表示されていた。
「あの、その後ろの数字はなんでしょう?」
千翠さんは振り返って確認した。
「時間制限ですね。これは。ふむ。残り14分まずいですね。先を急ぐとしましょう。」
あれは制限時間を表示してたのか!確かに徐々に時間減ってきてる。
千翠さんのおかげで、あっという間に10階に到達し、不思議な事に10階では敵が僕らを回復してくれた。
「この階の敵はどうして回復してくれるんですか?」
「ブエルですか。男性には回復を、女性には死をもたらす。そんな悪魔です。」
「うわ、男で良かったです。」
「そうです…ねっ!」と千翠さんはまたもや手を払うだけで倒してしまった。
「うわぁ!せっかく回復してくれたのに!!」と思わず声を上げてしまう。
「倒さなければ次の階へ進めませんが?」
「あ、はい。そうですね。」

千翠さんと一緒に塔を登って行き、問題の13階に到達する。
耳を塞ぎたくなるようなトランペットの音が鳴り響いて、怒り狂った二足歩行の猫が現れた。
それを千翠さんはいとも簡単に倒してしまう。
早すぎて見えなかったが、千翠さんの手には、はやたんさんが持っていた素早さが上がるムチを装備していた。
「早いですね。いつもこんな感じなんですか?」
「いえ、いつもはもっと瞬殺です。敵の顔くらい見て置いたほうがよろしいかと思いまして。」
「は、はぁ…。なるほど。お気遣いありがとうございます。」

千翠さんは、色んな武器を使いこなせるという事が判明した。ただ、扇子や魔導書関連のスキルにポイントを大きく振っているそうで、後は武器そのものの性能で倒していたらしい。
「おっと、惜しかったですね。」
「え?」
「時間切れです。」
千翠は目の前から消えてしまった。
「えぇ!?そんなぁっ!!」
(不味い、そうだ。もう一回唱えてみよう!)

「サモンゲート!」と叫ぶとホログラム画面がでてきて[1回のクエストにつき1回まで。]という警告が表示された。
(まじかぁ。ここまでか。まぁ、次のモンスターの顔くらい拝んでおこうかな。)
トボトボと次の階への階段を上る。

70階に到達すれば、目の前には美男子が立っていた。漫画の世界かというくらいにキラキラした美男子。
僕の3倍はカッコイイ。そして儚げだ。本当にこれが敵なのか?と疑ってしまう。こういうキャラは強いに決まってる。そう覚悟して前進する。
「お待ちしておりました。リキさん。」と言って微笑む敵。
「えっ!?なんで僕の名前を知ってるんだ?」
「あ、僕、ただのNPCではなく心あるAIみたいなものですから、色々見れますし喋れますし意思だってあるんですよ。」
「そうなんですね。油断させて攻撃してきたり…とか…。」
「安心してください。ありません。70階までお疲れ様です。癒して差し上げましょうか?」とニコニコ笑顔で手を揉む。
「いえ、それはいいです。」
「では、クリアさせてあげましょうか?僕はどんな願いも叶えて差し上げますよ。」
(どうなってるんだ?何かの罠か?でも、僕には今武器がない。どの道もう進む事ができない。)
いや、そもそも、どんな願いも叶えてくれるっておかしくないかな?もう攻撃されてたりして。だけど、願いか。どうせ負けなら、何か願おうかな。)
「あの、どんな願いもって言ってましたけど。例えばですけど、僕のAIになってって言ったらなってくれるんですか?」
僕がそう言えば大きく目を見開いて驚いた様子をみせる敵。
「可能ですよ。」と言って再び笑顔をみせる。
(可能なのか。試しに他も聞いてみよう。)
「これも例えばなんですけど最強武器をくれっていったらくれるんですか?」
「それも可能です。」
(なんだって??)
「例えばなんですけど、GMを呼べっていったら呼べますか?」
「ふむ。それはできませんね。なるほど、僕にできる限りをつけるべきでしたか。」と顎を持ち、少し俯いて考える敵。
「すみません、変なとこついてしまって。えっと、クリアするまで一緒に戦ってくれませんか?僕武器忘れちゃって。」
「は?一瞬でクリア可能なのに一緒にちまちま戦えと?」と、またもや驚いた顔をみせる敵。
「はい、お願いします!!」と目をギュッと瞑って頭を下げる。
「なるほど。あっはは。良いですよ。リキさんは面白ですね。どうして戦いたいんですか?それに武器を忘れてくるなんて。ここまでどうやって登ってきたんです?」
「あー、えーっと、ゲートスキルにいっぱい振って取得した、サモンゲートを使ったんです。」と言うとホログラム画面がでてきて警告が再び現れた。
「なるほど、まさかゲートにふるなんて。」
「あの、詳しいんですね。ずっとここにいるんじゃないんですか?」
「普段はいないですよ。初心者村の住民NPCとして意識は稼働しています。誰かが挑戦すると招集がかかって、ここに入る。別の誰かが同時チャレンジしてる場合、誰かが70階の魔物セーレとして戦っている事でしょう。まぁ、大体の方は私を倒してしまうか、クリアを選んで70階で外に出されるかですけどね。あぁ、一人持ちかえりされた方がいましたけどね。」
「持ちかえりって、どんな感じなんですか?」

ゴゴゴゴと床が上に上がり、70階クリア報酬画面がでてきた。
すぐにクリアを選んでたら、僕ここで終わってたのか。
「持ちかえりは、先程も言いましたが僕らは普段、初心者の町の住民として稼働しています。ですので、待ち合わせをして、後にその使用しているNPCで接触し、AIの器に入るというだけですね。」
「器に?えっ、待ってください。AIってもう既に意識というか中は決まってるんじゃないんですか?」

「僕らセーレは入れ替わる事が可能です。だから君も、僕をAIにしたい場合はまずタマゴを用意するか出来上がったAIを買ってくるかしないといけませんね。」
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