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84p【ブショウホウ】

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自室にゲートが開いて、咲が帰ってきた。
「ただいま。」
シンと護が少し怒ったような目で咲を見る。
「えっ?なに…。」
「こら。護。シン。」
「どうしたの?」
「なんでもいいけど、リキを泣かしたら僕本気で怒るから。」
「え?う、うん。」
シンは席を立って部屋を出て行った。

「ごめん、今まであった事シンに言ってたんだ。」
咲は困ったような笑顔で「そっか。仕方ないね。」と言った。
「えっと、そっちはどうなった?」
「色々良い方向に決まって、伯父様とルナにも知らせのメールを出したとこ。」
「そっか。」
「しばらくはバトルして護のスキルポイントとかアビリティポイントを貯めたほうがいいかも。」
「うん。わかった。」
「とりあえず、疲労も空腹もしてるから軽く何か食べてさっさと寝ちゃおう?」
「うん。」
色々気になる事がたくさんある。でも、今は耐えるしかない。未来の為に。
現実世界に戻った時、図書室とか昔の新聞だとか見たけど、確実に世界が歪んでいる気がした。どうしてそう思うのかは自分でもわからない、またいつものお決まりの勘ってやつだ。
【リアル】内のお金が現実世界でも使えるようになって、世界の物価が統一されつつある気がする。
最近気になってるのは全国の70歳以上の人達が一斉に行方不明になった事件。
今もそれは増え続けている。この事件はテレビではニュースになっていなくて都市伝説のようなものになってるけど、実際意識して調べてみると老人ホーム入居者が激減してるみたいだし、近所でおじいちゃんが行方不明だと騒ぐ人もいた。それらはニュースにならないし、掲示板はすぐに消されるしで情報が全く共有されない。
裏にはムーンバミューダ社が関係している事は間違えない。
だから、何が起こっても今は耐える。咲を信じるくらいの事しか俺にはできない。
最初は本当に実感湧かなかったけど、色々調べていくうちに危機を感じはじめた。
解決しないと未来も無くなるかもしれない。警察が落ちてるって事は父さんも巻き込まれてるのかな?
そういえば父さんと最後にあったのいつだっけ。実は俺は衝撃的な事に、姉さんが小さい時や父さんがいた時の記憶を上手く思い出せないでいる。たまに考えすぎると、自分がどこの誰なのかさえわからない時があって不安になる。
でも、この事はそっと胸にしまう。

ヒルコさんとの戦いを終えて現実世界の3日後日曜日の朝。

俺は【リアル】の大図書館に来ていた。ルナさんにシンを探してこいと言われたからだ。
「それにしても、強制召喚使えばいいのに変なの。」と隣を歩く咲が言った。
俺はまだ押した事がないけど、スマホのAIページを開くと強制召喚ボタンがある。
「強制召喚ってサモンゲートみたいな感じ?」
「ちょっ!りきっ!」
「え?あっ。」
俺はうっかりサモンゲートと言ってしまい目の前にゲートが開いて強そうな人が現れた。一応何度かすれ違った事はあるような気がする。
「ん?あぁ!!リキ!?」
「え、あの。すみません。えっと。」
「あぁ、ごめんごめん。あのヒルコを倒して、ヒルデガーデンの副官二人を無事に救出した期待のエースって噂がな。そうか。そうか。」
「だからアナタ誰?」と咲が少しイライラしながら聞く。
「優れた反射神経をもってるAI咲!いやぁ、近くでちゃんと見ると凄い装備だな!」
(同じギル員な事は間違えないけど。なんだろう?この声どっかで、それに…………ってか、現実世界と変わりないせいですっかり忘れてしまいがちだけど、名前表示すればいいや。)
俺はスマホで名前表示ボタンを押した。
「ブショウホウ、フリガナ無しって事は日本人?」
「あぁ!自己紹介すっかり忘れてたな。俺はブショウホウ。日本人。ユナ班の副官だ。副官つっても、今まで安定したログインができてなかったから、昨日正式になったばっかだけどな。昨日って現実世界の昨日な。」
「ミルフィオレって日本人が多いですね。」
俺がそういうと「ぶふっ!!」とブショウホウさんが笑った。
「え?」
やっぱりだ。この喋り方、この感じ。
「もしかして、豊か!?」
「やっと気づいたか。」
「え?どう?え?」
「ハハハッ!いやぁ、俺もお前に気づいたのはお前が金髪にしてからなんだ。それまで幹部にされるのが嫌でログインもあんまししてなかったしな。」
「え?ミルフィオレだったんだ。」
「そ。ミルフィオレってデカいけどそこまで古くなくてなぁ。色んなとこの合併でできたギルドなんだ。俺のギルドも吸収されてここに辿り着いただけっていうな。」
「いやー、びっくりした。まさか豊がいるなんて。しかも同じギルドって。」
「おいおい、豊って呼ぶなよ?ここではブショウホウだ。」
「リキ、この人現実世界の友達?」
「あ、うん。そうなんだ。高校の友達。」
「って、俺なんでここにいるんだっけ。」
「あぁ、ごめん。俺のサモンゲートで…あ。」
「あ…。」と咲がジト目で俺を見る。

目の前に新たなゲートが開いて、またもや見知らぬ人がでてきた。
「あれー…?僕どうしてここに。」
「あぁ、なるほどな。リキ、俺はコイツ連れて帰るから、お前らなんかしてたんだろ?」
「あ、うん。ルナさんのAIを探しに。」
「んじゃ、またな。副官は仕事が山積みなんだ。」と言って、豊と召喚してしまった見知らぬ人は豊がゲートを開いて帰っていった。
「仕事って、今は朝だから完全休みなんじゃなかった?」と咲が言う。
今は日曜日の朝だから、朝の幹部が色んな雑務をするらしい。
「気を利かしてくれたみたいだな。」
「結構時間たってるみたい。急ごう?」
「うん。」
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