死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

8.指先から流れる、愛の旋律

その夜、メイドたちにお風呂に入れてもらい、ふわふわのバスタオルで体を拭かれた後、とてもセクシーなネグリジェを着せられた。正直、自分には似合わないと思ったけれど、反対する余裕もなく、そのまま寝室と一体化した部屋へ戻された。

部屋に入ると、バスローブ姿のユリドレが備え付けのバスルームから出てくるところだった。その整った顔立ちに水滴が輝いていて、思わず目をそらしたくなったが、逃げる場所もなく、正面から視線がぶつかってしまった。

「…まさかですが、初夜の、房事をなさる予定なんですか?」

勇気を振り絞って尋ねると、彼は穏やかに微笑んで答えた。

「もちろんです。無理のない範囲で、丁寧に努めます。」

その言葉に息が詰まりそうになった。

「えっ…でも…私は…妊娠してて。」

視線をそらしながらそう返すと、ユリドレは真剣な表情で私を見つめた。

「そのことを理解しています。だからこそ、最新の注意を払います。どうか、受け入れてもらえませんか?」

彼の真摯な言葉に、言い返すこともできず、ただ小さく頷くだけだった。部屋の静けさがやけに耳に響き、心臓の音が自分にも聞こえるほどだった。

夜の帳が降りた静かな部屋。薄暗い照明が壁に柔らかな陰影を作り、天蓋付きのベッドのレースがふわりと揺れていた。そこには、緊張した空気と微かな甘い香りが漂っていた。

メイシールはそっとシーツを握りしめ、自分の心臓が速く鼓動する音が耳に響いていた。妊娠中ということもあり、不安が完全に消えることはなかった。けれど、目の前にいるユリドレの真剣な表情が、彼の誠実さを物語っているようで、その緊張感は少しずつ和らいでいった。

ユリドレはベッドの縁に腰を下ろし、そっとメイシールの髪に手を伸ばした。その手は震えもなく、とても優しい動きで彼女の髪を撫でる。その指先からは、彼がいかに気遣っているかが伝わるようだった。

「メイ、大丈夫ですよ。少しでも不安があれば、すぐに言ってください。」

低く穏やかな声が部屋に響き、彼の誠実な気持ちを強く感じさせた。

外から微かに聞こえる風の音が、室内の静寂をさらに引き立てる中、ユリドレはそっと彼女の手を取り、自分の胸の上に置いた。その鼓動は意外なほど穏やかで、メイシールに安心感を与えるものだった。

天井のランプが微かに揺れ、影が壁に映し出される。二人の姿がその影絵の中で溶け合い、互いに近づいていく。その影には、ユリドレの細心の注意が感じられるような、ゆっくりとした動きがあった。

彼女の体調を気遣うユリドレの配慮は、行動のひとつひとつに表れていた。決して急がず、彼女の表情や息遣いを丁寧に観察しながら動くその姿勢に、彼の真摯さが感じられた。

メイシールは瞳を閉じ、彼の手が自分に触れるたびに心が揺れるのを感じた。その手は決して強引ではなく、彼女が受け入れやすいように、優しさと温かさが込められていた。

そして、部屋に響くのは、衣擦れの音や互いの息遣いだけ。風が窓を揺らす音が、その静けさを際立たせていた。月明かりがカーテン越しに差し込み、二人の姿をぼんやりと照らしている。

ユリドレはそっと耳元で囁いた。「メイ、ただ、君が幸せだと感じてくれれば、それだけで十分です。」その言葉に、メイシールは小さく頷き、唇をかみしめた。

どれだけ注意深く進めても、メイシールの中に残る不安は完全には拭えなかった。それでも、彼の行動の一つ一つが、それを少しずつ癒していくようだった。


――これが、幸福というものなのかしら。彼の指が触れるたびに、優しさや温かな愛が流れ込んでくるような気がする。こんな感覚を抱くなんて、いつ以来だろう。私は彼に怯えてばかりいたのに…。彼が本当に私を愛してくれているのなら、私もその想いを信じてもいいのだろうか。

目を閉じると、まぶたの向こう側に影が揺れる。天井のランプが揺らめくたびに、二人の影が壁に映し出され、絡み合うように形を変える。影が一つに溶け合うその様子は、まるで二人の心が少しずつ近づいていくことを象徴しているかのようだった。

――痛みなんてどこにもない。あるのは、心を溶かしていくような甘さと、胸が締め付けられるほどの愛だけ。私は、本当にこの人を信じてもいいのかしら。

彼の囁きが耳元で響き、その声が直接心に触れるような感覚を覚える。「メイ、夕方にも言いましたが、君が望むなら、殺さぬ誓いを立てよう。もう君を一人にしないと約束する。」

その言葉に、胸が熱くなった。彼の手のひらから伝わる温もりと、体中を包み込むような安心感。それらが私の不安を少しずつ溶かしていく。

――どうして、私はこんなにも彼を疑っていたのだろう。彼の手から伝わるこの愛を、最初から信じていればよかったのに。

影が再び揺れ動く。柔らかな光が二人の輪郭をぼやけさせ、部屋全体が夢の中のような静けさに包まれていく。彼の目が私を見つめている。そこには確かに、底知れぬ優しさと強い決意があった。

――あぁ、こんなにも愛される日が来るなんて…。私の命は、もう彼に預けてもいいのかもしれない。

息遣いが荒くなっているのが伝わる。それでも彼は、私を気遣うことを決して忘れない。その姿勢には、並々ならぬ理性と忍耐が必要なはずなのに、彼の優しさは終始一貫していた。

一度目の人生を思い返す。あのとき、アジャールとは何度も房事を重ねたけれど、こんな風に私を大切にしてくれることは一度もなかった。彼はいつだって自分本位で、自分の欲望を満たすことしか考えていなかった。

では、二度目の人生のレオルはどうだったのか。最初は確かに優しかった。けれど、その優しさはすぐに薄れ、彼もまた自分の欲望に飲み込まれていった。私はいつしか、「男性とはそういうもの」だと諦めるようになっていた。

だが、今目の前にいる彼は、これまでの誰とも違った。比べることすら失礼に思えるほど、圧倒的な愛と誠実さがそこにあった。

彼の目は赤く充血し、強い感情を抑え込むようにしているのがわかる。それでも彼の行動には、私への愛と、このお腹の中で育つ命への深い思いやりが溢れていた。彼の動きのひとつひとつが慎重で、私に無理をさせないようにとの配慮が感じられる。

――こんなにも私を想ってくれる人がいるなんて。私のためにここまでしてくれる人がいるなんて。

その事実が胸にじんわりと染み渡る。彼の行動すべてが、愛そのものを体現しているように思えた。

「もう…イってしまいそうです。」

思わず漏れたその言葉に、自分でも顔が熱くなるのを感じた。すると、ユリドレは少し動きを緩めながら、優しく唇に触れてきた。その仕草には余裕がありながらも、深い愛情とどこか焦るような切実さが込められている。

「この愛らしい唇に、そんな不埒な言葉を教え込んだのは誰でしょうね?」

囁く声は低く、耳元で響くようで、まるで彼自身もその感情を抑えきれずにいるようだった。そして、一瞬間を置いて、少しだけ苦笑を浮かべた彼が静かに続ける。

「とても…妬いてしまいますよ。」

その言葉とは裏腹に、彼の動きはどこまでも優しく、繊細だった。しかし、その表情には我慢を強いられていることがはっきりと表れていた。額から滴り落ちる汗が、彼がどれほど自分を抑えているのかを雄弁に物語っている。

――こんなにも私を大切に思ってくれているのに、私は何も返せていないのではないか。そんな申し訳なさと、彼への愛おしさが胸の中で交錯していく。

「ユリ、大丈夫ですか…?」

そう問いかけると、彼は少し息を整えながら、にこりと微笑んだ。その笑顔はどこか余裕を見せようとしているものの、目には薄く宿る焦りと情熱が隠せていなかった。

「メイ、君のことを大切にしたい。その気持ちが強すぎて、少しばかり自分を追い込んでいるだけです。」

そう言って、再び彼の唇が優しく触れた。彼の愛が、言葉や行動のひとつひとつから伝わってくるようだった。

「ハァ…ハァ…イキましょう…一緒に。」

彼の低い声が耳元で囁かれる。その声には、焦燥と愛情が混じり合い、私の心臓をさらに早く打たせた。

「もぅ…イクッ!!」

自分でも驚くほど率直な言葉が口をついて出た瞬間、彼の動きが一瞬止まり、彼の身体がわずかに震えたのを感じた。

彼はすぐに深い呼吸を整え、丁寧に引き抜いた。そのとき、シーツに小さく落ちる白濁が「ポタ、ポタ」と微かに音を立てた。その音は、部屋の静寂の中に溶け込みながらも、私の胸に穏やかな幸福感を広げていく。

――それは、二人の愛が形になった瞬間を刻むような、幸せの音だった。

彼の肩越しに見えた月明かりが、揺れるカーテン越しに部屋を柔らかく照らし、影が壁に映る。影の中の彼のシルエットは、静かに肩で息をするように見えて、彼もまたこの一瞬に浸っているのだと感じた。

「メイ、大丈夫ですか?」

彼は、まだ荒い息遣いの中で私を気遣う。その優しい声に、私は小さく頷き、心の中に湧き上がる満たされた感覚に浸っていた。

――これはきっと、信じてもいいという神様からの答え。そんな気がした。

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