死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

13.傷跡より深い愛の証明

朝陽がカーテン越しに差し込み、部屋の中が柔らかい光で満たされる。私はふと机の上に積まれた書類の山に目をやった。それは見るからに時間がかかりそうな分量だったが、内容を確認してみると、意外にも私が処理できそうなものばかりだった。

「よし…やるしかないわね。」

そう呟いて気を引き締め、ペンを取った。久々に一人で取り組む仕事は新鮮で、集中しているうちに時間があっという間に過ぎていった。

朝食も久しぶりに自分のペースで楽しむことができた。普段はユリが過保護なほどに手伝ってくれるため、少し戸惑いを感じながらも、静かなひとときを楽しむ。自分でスプーンを動かすことすら新鮮に感じてしまう自分が、少しおかしく思えた。

「帰ってきたら、ちゃんと伝えなきゃ。過保護もほどほどにって!」

心の中で意気込みを新たにしていると、昼食前になってようやくユリが帰ってきた。しかし、その姿を見た瞬間、息を呑んだ。彼の服には傷や汚れがつき、ところどころ破れている。明らかに何か困難な状況を乗り越えてきたことがうかがえる。

「大丈夫ですか!?」

駆け寄ろうとする私に、ユリが片手を挙げて制する。

「少し近づかないでください。服が汚れていますから。」

「でも…ユリ、怪我をしてるんじゃ…!」

「メイを汚したくないんです。すみませんが、これを机に置いてもらえますか?」

ユリが差し出したのは、焦げ跡のある書類だった。それを受け取って机の上に置くと、ユリは一礼して言った。

「ありがとうございます。この部屋以外に、これほど厳重で安全な場所はありませんから。今から汚れを落としてきます。その後で、ランチを一緒にしましょう。」

そう言い残してユリは部屋を出ていったが、その歩き方はどこかぎこちなく、片足を引きずっているように見えた。

(本当に大丈夫なの…?)

心配の念が胸を締め付けるが、彼の言葉を信じて待つしかなかった。

しばらくして、ユリが清潔な服に着替えて部屋へ戻ってきた。その姿を見て、私は息を呑む。シャツの襟元は少し乱れ、袖口にわずかな擦り傷が残っている。顔色はどこか疲れがにじみ、歩くたびに右足をわずかに引きずっているのが目に見えて分かった。それでも、彼はいつものように余裕のある笑みを浮かべ、私の方へと歩み寄ってきた。

「メイ、お待たせしました。」

そう言うと、ユリは何事もなかったかのように抱きしめようと、そっと手を差し伸べてきた。

「ダメです!お怪我をされているのに、そんな…。」

慌てて一歩下がる私に、ユリは少し困ったように眉を寄せながらも、どこか拗ねたような微笑みを浮かべた。

「いいえ、ダメです。俺は苦労をして帰ってきました。それくらいさせてもらわないと、腹の虫が収まりません。」

その声にはわずかな疲労感が滲んでいるものの、どこか本気で言っているようにも聞こえる。

(怒ってるの!?しかもその怒りの解消法が私を抱きしめることなの!?)

心の中で動揺しながらも、ユリが私のことを本当に大切に思っているのが伝わってきて、何とかして彼を安心させたいと思った。そして、ふとある提案が口をついて出た。

「あ、でしたら…今日は私がユリに食べさせます!」

その瞬間、自分が何を言ったのか理解し、顔が一気に熱くなる。そんな私の表情を見て、ユリは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

「良いでしょう。その提案に乗ります。」

彼の了承の言葉に安堵しつつも、いざ実行しようとする。

私の顔は赤く染まり、羞恥心が募り、手が震えてしまう。

「あーん…。」

小さく呟いた私の声に、ユリが楽しそうに笑いながら返事をした。

「ふふふ。あーん。」

彼の目には、どこかいたずらっぽい輝きが宿っている。その視線にますます緊張し、顔を真っ赤に染めたまま、スプーンを手にしてユリの口元に運んだ。

「…あーん。」

精一杯の言葉を絞り出すと、ユリは一瞬だけ目を細めて笑みを浮かべた。その笑顔には疲労を感じさせない温かさがあり、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

「ありがとう、メイ。」

静かにスプーンを口に運ぶユリの仕草はいつもと変わらない優雅さだったが、どこか普段よりもリラックスしているように見えた。スプーンが彼の口元を離れるたびに、私の手が震える。側にいたミレーヌの顔には気まずそうな表情が浮かんでいた。

食事が進むにつれて少しずつ緊張が和らぎ、やっと落ち着きを取り戻したころ、私はふと顔を上げてユリを見た。彼の目は疲れているはずなのに、まっすぐ私を見つめ、どこか満足げな光を宿していた。

「メイ、ありがとう。本当に嬉しいですよ。」

その言葉に、今度は私がユリを安心させたいと思った。彼のために何かできたという達成感がじんわりと胸に広がり、自然と笑みがこぼれた。

食事が終わると、ユリは部屋にいた使用人や護衛をすべて部屋から退室させた。その静かな威圧感に逆らう者はいない。ドアが閉まると、部屋にはユリと私だけが残され、急に空気が変わったような気がした。そんな中、ユリが私を軽々と抱き上げ、ふわりとベッドの上に横たえた。

「ユリ…無理はしないでくださいね。」

「心配ありません。メイのそばにいるだけで、十分に癒されていますから。」

疲れ切った表情を浮かべながらも、彼の目には確かな優しさが宿っていた。

「ここへ来てから、ベッドの上で過ごす時間の方が多い気がします…。」

私が少し戸惑いながらそう呟くと、ユリはわずかに目を細めながら、唇に柔らかな笑みを浮かべた。その笑顔はどこか妖艶で、まるで獲物を見定めるような視線だった。

「メイが可愛すぎるのがいけないと思いませんか?こんなにも俺を惹きつけて…一体どうなさるおつもりですか。」

その低く甘い声が耳元で響き、思わず息を呑む。ユリの瞳には深い情熱が宿り、私の心を見透かすような光を放っていた。その視線に耐えきれず、私は顔をそらす。

「せ、責任くらいは…しっかりとるつもりです。」

覚束ない言葉を絞り出すと、ユリは満足そうに笑い、顔をさらに近づけてきた。その距離感に心臓が高鳴る。

「ほぅ?書類もあんなに処理されて、俺はやることがなくなってしまったので、こうしてメイに触れるしかありませんね。」

彼の顔はどこか余裕を漂わせながらも、瞳の奥には抑えきれない情熱が渦巻いているように見えた。その表情に、思わず言葉を詰まらせてしまう。

「うっ。しない方が良かったですか?」

消え入りそうな声でそう尋ねると、ユリは優しい笑顔を浮かべて、首を横に振った。

「いえ、助かりました。この時間を確保できない事のほうが、俺にとってもメイにとっても致命的ですからね。」

その言葉とともに、ユリが顔を近づけ、そっと私の首筋に唇を押し当てる。冷たい感触が一瞬走ったあと、彼の唇がゆっくりと首筋を這い、やがて柔らかく吸い付いた。

「んっ…。」

思わず声が漏れると、ユリは目を細めながら嬉しそうに微笑む。その微笑みにはどこか満足げな色があり、それが私の顔をさらに赤く染めた。

「たくさん、痕をつけますね。」

耳元で囁くその声は甘く、どこか挑発的だった。

「1つで良くありませんか?」

必死に抵抗するように言い返すが、ユリは真剣な表情で首を振る。その瞳には固い決意が宿っていた。

「俺の気がおさまりません。」

その言葉とともに、ユリの唇が再び首筋に落ちる。吸い付くたびに少しずつ痕が刻まれ、その感触に私は観念したように力を抜いた。

「…わかりました。好きにしてください…。」

そう呟いた瞬間、ユリの表情がわずかに柔らかくなった。そして、唇だけでなく、指先がそっと私の髪を撫で、肩を包み込むように触れる。その動き一つひとつが優しく、まるで壊れ物を扱うようだった。

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