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シーズン1
18.冷徹な仮面の裏で
王の隣に立っていたアジャール王子が、澄んだ声で「お待ちください」と二人を引き留めた。
その瞬間、私の体はピクリと硬直した。胸の奥で不安が膨らむ。王子の視線が私に向けられたとき、過去の記憶が頭をよぎる――回帰前の世界で、アジャール王子と初めて出会ったのは18歳のお茶会の席だった。そして、彼は私に一目惚れし、その後、王太子妃として迎え入れられた…。再び彼の目に止まり、同じ運命を辿るのではないかという恐れが、一瞬私を支配した。
「美しいお方、お名前をお聞かせいただけますか?」
アジャール王子の澄んだ声が、広間の静寂を破る。その瞳には若々しい自信と好奇心が宿り、落ち着いた大人の振る舞いの中に、まだ拭いきれない純粋さが見え隠れする。だが、それが以前の世界で目にした彼の「初めての興味」の瞬間と重なり、不安がさらに胸の内に広がっていく。
内心冷や汗を流しながらも、私は微笑みを浮かべ、しっかりとした声で答えた。
「アジャール王子殿下、私はメイシール・レッドナイトと申します。このような場でお目にかかれますこと、大変光栄に存じます。」
王子はその言葉を聞くと、少し考え込むように眉を寄せ、繰り返すように呟いた。
「レッド…ナイト…。」
その途端、ユリドレの抱く腕にわずかな力が加わるのを感じた。彼の顔は冷静そのものだが、目元にはわずかな緊張が浮かんでいる。ユリドレも私と同じく、この状況を快く思っていないのだとすぐに分かった。
王がその様子を見て、軽く咳払いをして口を開いた。
「何を言っておるのだ、アジャール。先程の挨拶を聞いておらなんだのか?お前に剣術を教えておるユリドレ・レッドナイト公爵が最も誇るもの、それが彼の心に深く刻まれた最愛の奥方、メイシール・レッドナイト夫人だ。」
王の穏やかな声にはどこか楽しげな響きがあった。その言葉を聞いて、アジャール王子は驚いたように目を丸くする。そして、視線を再びユリドレと私の間に行き来させた。
ユリドレの表情には、わずかな笑みが浮かんでいるが、その目は鋭く冷ややかだった。その瞳には「この話をこれ以上広げるな」と言わんばかりの警告が滲み出ている。
王はその視線を見逃さなかったのか、軽く手を振りながら言葉を続けた。
「もう下がって良いぞ、レッドナイト公爵。夫人とともに、この祝宴を楽しんでくれ。」
ユリドレは静かに一礼すると、王子に視線を向けた。
「アジャール王子殿下、また剣術の場でお会いしましょう。」
その声にはどこか余裕が感じられるが、裏には「これ以上の接触は許さない」という意思が込められている。王子はその言葉に少し戸惑った様子を見せたが、すぐに頷いて笑みを浮かべた。
「はい、ユリドレ公爵。またお稽古をお願いします。」
その言葉を最後に、私たちは丁重に礼をしてその場を離れた。
会場を歩き出すと、ユリドレの腕が私の腰をさらにしっかりと支えた。その動作には、王子に対する牽制と、私を守る意思がはっきりと表れている。その腕の確かな力に、思わず安堵の息をついた。
「ユリ…。」と呟くと、彼は小さく頷き、低い声で言った。
「大丈夫です、メイ。俺の腕があなたを支えている限り、誰にも触れさせません。」
その言葉に、胸の奥が温かくなると同時に、ユリドレの冷静さの裏に潜む嫉妬と警戒心が感じ取れた。この場で彼に迷惑をかけないよう、私も堂々と振る舞おうと決意した。
広間の華やかな装飾と優雅な音楽に包まれた中、ユリドレは私の腰にしっかりと腕を添え、堂々と会場内を歩き回っていた。その表情は鉄のように硬く、目元には冷徹さをたたえている。外から見れば、彼は誰も近づけない威圧感そのものであり、無表情の仏頂面が周囲に影響を及ぼしていた。
私は彼の腕に支えられることで安心感を覚える一方で、彼がどれほど神経を張り詰めているかを感じ取っていた。まるで、彼が私を包み込む鎧であり、誰一人私に触れさせない盾そのものだった。
「ユリ、大丈夫ですか?」
小声で尋ねると、彼はわずかに眉を動かし、低く短い声で返した。
「心配いりません。俺は平気です。」
だが、その言葉の裏には、「お前が無事である限り、俺は平気だ」と言うような、鋼の意志が感じられた。
広間ではユリドレと私が目立つ存在となっていた。彼が私の腰に腕を回し、エスコートする姿に、周囲の貴族たちが視線を送ってくる。中には好奇の目もあれば、批判的な視線もあった。
「あれがレッドナイト公爵だって?あんなに若い夫人を選ぶとは…。」
ひそひそと囁かれる声が耳に届いた瞬間、ユリドレの視線がその方向に向けられた。その目は鋭く、まるで氷の刃のように冷たい。視線を交えた者たちは言葉を飲み込み、そそくさとその場を離れていく。
一方で、ユリドレはまるで何事もなかったかのように、私を支える腕をしっかりと保ちながら進んでいく。だが、その腕に込められた力はわずかに強くなり、私を守りたいという思いが伝わってきた。
貴族たちが話しかけてくることもあったが、ユリドレは冷徹な態度を崩さず、短い言葉で受け答えをしていた。そのたびに、会話はすぐに途切れ、相手は居心地の悪さを感じて退散していった。
しかし、それでも私たちを品定めするような視線は続き、噂話は絶えなかった。
「公爵夫人がまだ18歳だなんて…。レッドナイト公爵は、若い女性にしか興味がないのでは?」
再び飛び交う悪意の囁き。その声を耳にしたユリドレは、一瞬立ち止まり、私の腰に回した腕をほんの少し引き寄せた。その後、音も立てずに囁いた方向を振り向き、その目で相手を射抜くように見つめる。
その鋭い視線は口を開いた者たちを一瞬で沈黙させ、彼らは互いに顔を見合わせ、そそくさとその場を離れた。
「彼らは…。」
私が何か言おうとすると、ユリドレはわずかに首を振り、低く囁いた。
「言わせておけばいい。だが、これ以上の無礼は許さない。」
会場の隅に差し掛かると、ユリドレは立ち止まり、ふと私の顔を覗き込んだ。その瞳には冷たさの奥に深い優しさが宿っている。
「疲れていませんか?」
彼の気遣いに胸がじんと熱くなる。微笑みながら小さく頷くと、ユリドレの顔にわずかな安堵の色が浮かんだ。
彼が外の冷徹な仏頂面の演技を貫きながらも、私を守るために全力を尽くしているのが伝わり、改めて彼の存在の大きさを感じる瞬間だった。
王宮での華やかなパーティーを終え、ユリドレと私は公爵家への帰路に就いていた。夜の静寂に包まれた馬車の中、揺れる灯りが二人の影を優しく揺らしている。
馬車が走り始めた瞬間、ユリドレの肩が小さく上下し、彼の顔がふっと緩んだ。その冷徹で硬かった仮面が溶け、普段の柔らかな表情に戻る。その顔には、どこか子供のような無邪気さがあった。
「メイ…」
彼が私をじっと見つめたかと思うと、突然頬を寄せてきて、私の頬にすりすりと甘えるように顔をこすりつけてきた。
「ちょ、ユリ!?」
驚きながら声を上げるが、彼は気にする様子もなく、さらに頬を寄せてくる。その目には完全に緊張感が抜け、デレデレとした幸福感が溢れていた。
「可愛い、可愛いメイ…。本当に良く頑張りましたね。俺の誇りです。」
耳元で囁くその声には、王宮で見せていた冷たい態度が嘘のような温かさが込められている。彼の瞳はとろけるように優しく、まるでこの瞬間を永遠に楽しみたいとでも言いたげだ。
「もう、そんなに甘えないでください。疲れてるんじゃないんですか?」
軽く肩を押そうとするものの、ユリドレの腕はしっかりと私を抱え込んで離さない。彼の腕の力が優しいけれど絶対に逃さないという意志を感じさせる。
「疲れているのはメイの方でしょう?俺は平気です。それより…帰ったらすぐにご飯にしましょう。何か食べたいものはありますか?」
彼の声はどこか上機嫌で、まるで王宮での出来事がすべて吹き飛んだかのようだった。
「えっと…軽いものでいいです。」
「そんなこと言わずに、しっかり食べてくださいね。栄養を取らないと、俺が許しませんよ。」
ユリは笑いながら私の頬を撫で、満足そうに再び頬を寄せてくる。その動作があまりにも自然で、私は小さくため息をついた。
(やれやれ…。でも、こうして甘えてくれるのは嫌じゃないかも。)
その瞬間、私の体はピクリと硬直した。胸の奥で不安が膨らむ。王子の視線が私に向けられたとき、過去の記憶が頭をよぎる――回帰前の世界で、アジャール王子と初めて出会ったのは18歳のお茶会の席だった。そして、彼は私に一目惚れし、その後、王太子妃として迎え入れられた…。再び彼の目に止まり、同じ運命を辿るのではないかという恐れが、一瞬私を支配した。
「美しいお方、お名前をお聞かせいただけますか?」
アジャール王子の澄んだ声が、広間の静寂を破る。その瞳には若々しい自信と好奇心が宿り、落ち着いた大人の振る舞いの中に、まだ拭いきれない純粋さが見え隠れする。だが、それが以前の世界で目にした彼の「初めての興味」の瞬間と重なり、不安がさらに胸の内に広がっていく。
内心冷や汗を流しながらも、私は微笑みを浮かべ、しっかりとした声で答えた。
「アジャール王子殿下、私はメイシール・レッドナイトと申します。このような場でお目にかかれますこと、大変光栄に存じます。」
王子はその言葉を聞くと、少し考え込むように眉を寄せ、繰り返すように呟いた。
「レッド…ナイト…。」
その途端、ユリドレの抱く腕にわずかな力が加わるのを感じた。彼の顔は冷静そのものだが、目元にはわずかな緊張が浮かんでいる。ユリドレも私と同じく、この状況を快く思っていないのだとすぐに分かった。
王がその様子を見て、軽く咳払いをして口を開いた。
「何を言っておるのだ、アジャール。先程の挨拶を聞いておらなんだのか?お前に剣術を教えておるユリドレ・レッドナイト公爵が最も誇るもの、それが彼の心に深く刻まれた最愛の奥方、メイシール・レッドナイト夫人だ。」
王の穏やかな声にはどこか楽しげな響きがあった。その言葉を聞いて、アジャール王子は驚いたように目を丸くする。そして、視線を再びユリドレと私の間に行き来させた。
ユリドレの表情には、わずかな笑みが浮かんでいるが、その目は鋭く冷ややかだった。その瞳には「この話をこれ以上広げるな」と言わんばかりの警告が滲み出ている。
王はその視線を見逃さなかったのか、軽く手を振りながら言葉を続けた。
「もう下がって良いぞ、レッドナイト公爵。夫人とともに、この祝宴を楽しんでくれ。」
ユリドレは静かに一礼すると、王子に視線を向けた。
「アジャール王子殿下、また剣術の場でお会いしましょう。」
その声にはどこか余裕が感じられるが、裏には「これ以上の接触は許さない」という意思が込められている。王子はその言葉に少し戸惑った様子を見せたが、すぐに頷いて笑みを浮かべた。
「はい、ユリドレ公爵。またお稽古をお願いします。」
その言葉を最後に、私たちは丁重に礼をしてその場を離れた。
会場を歩き出すと、ユリドレの腕が私の腰をさらにしっかりと支えた。その動作には、王子に対する牽制と、私を守る意思がはっきりと表れている。その腕の確かな力に、思わず安堵の息をついた。
「ユリ…。」と呟くと、彼は小さく頷き、低い声で言った。
「大丈夫です、メイ。俺の腕があなたを支えている限り、誰にも触れさせません。」
その言葉に、胸の奥が温かくなると同時に、ユリドレの冷静さの裏に潜む嫉妬と警戒心が感じ取れた。この場で彼に迷惑をかけないよう、私も堂々と振る舞おうと決意した。
広間の華やかな装飾と優雅な音楽に包まれた中、ユリドレは私の腰にしっかりと腕を添え、堂々と会場内を歩き回っていた。その表情は鉄のように硬く、目元には冷徹さをたたえている。外から見れば、彼は誰も近づけない威圧感そのものであり、無表情の仏頂面が周囲に影響を及ぼしていた。
私は彼の腕に支えられることで安心感を覚える一方で、彼がどれほど神経を張り詰めているかを感じ取っていた。まるで、彼が私を包み込む鎧であり、誰一人私に触れさせない盾そのものだった。
「ユリ、大丈夫ですか?」
小声で尋ねると、彼はわずかに眉を動かし、低く短い声で返した。
「心配いりません。俺は平気です。」
だが、その言葉の裏には、「お前が無事である限り、俺は平気だ」と言うような、鋼の意志が感じられた。
広間ではユリドレと私が目立つ存在となっていた。彼が私の腰に腕を回し、エスコートする姿に、周囲の貴族たちが視線を送ってくる。中には好奇の目もあれば、批判的な視線もあった。
「あれがレッドナイト公爵だって?あんなに若い夫人を選ぶとは…。」
ひそひそと囁かれる声が耳に届いた瞬間、ユリドレの視線がその方向に向けられた。その目は鋭く、まるで氷の刃のように冷たい。視線を交えた者たちは言葉を飲み込み、そそくさとその場を離れていく。
一方で、ユリドレはまるで何事もなかったかのように、私を支える腕をしっかりと保ちながら進んでいく。だが、その腕に込められた力はわずかに強くなり、私を守りたいという思いが伝わってきた。
貴族たちが話しかけてくることもあったが、ユリドレは冷徹な態度を崩さず、短い言葉で受け答えをしていた。そのたびに、会話はすぐに途切れ、相手は居心地の悪さを感じて退散していった。
しかし、それでも私たちを品定めするような視線は続き、噂話は絶えなかった。
「公爵夫人がまだ18歳だなんて…。レッドナイト公爵は、若い女性にしか興味がないのでは?」
再び飛び交う悪意の囁き。その声を耳にしたユリドレは、一瞬立ち止まり、私の腰に回した腕をほんの少し引き寄せた。その後、音も立てずに囁いた方向を振り向き、その目で相手を射抜くように見つめる。
その鋭い視線は口を開いた者たちを一瞬で沈黙させ、彼らは互いに顔を見合わせ、そそくさとその場を離れた。
「彼らは…。」
私が何か言おうとすると、ユリドレはわずかに首を振り、低く囁いた。
「言わせておけばいい。だが、これ以上の無礼は許さない。」
会場の隅に差し掛かると、ユリドレは立ち止まり、ふと私の顔を覗き込んだ。その瞳には冷たさの奥に深い優しさが宿っている。
「疲れていませんか?」
彼の気遣いに胸がじんと熱くなる。微笑みながら小さく頷くと、ユリドレの顔にわずかな安堵の色が浮かんだ。
彼が外の冷徹な仏頂面の演技を貫きながらも、私を守るために全力を尽くしているのが伝わり、改めて彼の存在の大きさを感じる瞬間だった。
王宮での華やかなパーティーを終え、ユリドレと私は公爵家への帰路に就いていた。夜の静寂に包まれた馬車の中、揺れる灯りが二人の影を優しく揺らしている。
馬車が走り始めた瞬間、ユリドレの肩が小さく上下し、彼の顔がふっと緩んだ。その冷徹で硬かった仮面が溶け、普段の柔らかな表情に戻る。その顔には、どこか子供のような無邪気さがあった。
「メイ…」
彼が私をじっと見つめたかと思うと、突然頬を寄せてきて、私の頬にすりすりと甘えるように顔をこすりつけてきた。
「ちょ、ユリ!?」
驚きながら声を上げるが、彼は気にする様子もなく、さらに頬を寄せてくる。その目には完全に緊張感が抜け、デレデレとした幸福感が溢れていた。
「可愛い、可愛いメイ…。本当に良く頑張りましたね。俺の誇りです。」
耳元で囁くその声には、王宮で見せていた冷たい態度が嘘のような温かさが込められている。彼の瞳はとろけるように優しく、まるでこの瞬間を永遠に楽しみたいとでも言いたげだ。
「もう、そんなに甘えないでください。疲れてるんじゃないんですか?」
軽く肩を押そうとするものの、ユリドレの腕はしっかりと私を抱え込んで離さない。彼の腕の力が優しいけれど絶対に逃さないという意志を感じさせる。
「疲れているのはメイの方でしょう?俺は平気です。それより…帰ったらすぐにご飯にしましょう。何か食べたいものはありますか?」
彼の声はどこか上機嫌で、まるで王宮での出来事がすべて吹き飛んだかのようだった。
「えっと…軽いものでいいです。」
「そんなこと言わずに、しっかり食べてくださいね。栄養を取らないと、俺が許しませんよ。」
ユリは笑いながら私の頬を撫で、満足そうに再び頬を寄せてくる。その動作があまりにも自然で、私は小さくため息をついた。
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