死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

25.深夜の報告

深夜の王宮は静寂に包まれていた。長い廊下を蝋燭の揺れる灯りがぼんやりと照らし、壁に掛けられた豪奢な絵画や装飾が薄暗い中で浮かび上がる。その奥に位置する玉座の間では、一本の蝋燭が頼りなげに揺れ、その光が王の顔に陰影を与えていた。玉座に腰掛ける王は腕を組み、溜息を一つついていた。

「ふぅ…。」

その溜息は、深夜にこうして独りで考え込むことの多さを物語っていた。玉座の下には誰もおらず、広々とした空間にただ王の気配だけが漂っている。

しばらくして、重厚な扉が静かに開き、一人の騎士が姿を現した。騎士は丁寧に扉を閉めると、無駄のない動きで玉座の前に進み、片膝をついて頭を垂れた。その鋭い目つきには忠誠心が宿り、彼の動作には洗練された騎士の訓練がうかがえた。

「陛下、ご命令通り報告に参りました。」

王は顎を軽く上げ、蝋燭の灯りの中で半ば影に沈んだ表情をわずかに動かした。その目には、どこか冷たい光が宿っている。

「報告を。」

その一言に、騎士は息を整えながら口を開いた。

「はい。私の見解では、レッドナイト公爵の妻であるメイシール公爵夫人は、政略結婚による道具として扱われている可能性が高いと見ています。」

騎士の言葉に、王は眉を少しだけ動かしたが、それ以上の反応を示さなかった。

「続けろ。」

「レッドナイト公爵は、身ごもった若い妻を毎日のように抱き潰しており、相手の気持ちを全く考えているようには見えません。ですが、表向きはそれを悟られぬよう、優しい夫を演じているようです。」

騎士は、かつて目撃したユリドレの普段とは異なるニコニコとした笑顔や、片時も離れないかのような彼の姿、さらにはメイドから聞いた「毎日メイシールを抱いている」という話を思い返していた。そして彼が任務の途中で「全部演技だ。鬱陶しい。」と語った言葉を思い起こし、そう報告した。

王はその言葉を聞くと、軽く目を細め、皮肉めいた笑みを浮かべた。

「演技か。あれは下手くそな演技だな。」

王自身もまた、ユリドレが公爵夫人を連れて挨拶に訪れた際のことを思い返していた。いつもの仏頂面を崩さず、まるで台本を棒読みしているかのような彼の言葉が頭をよぎる。

「はい、誰が見ても嘘だと分かります。」

騎士の返答に、王は再び溜息をつきながら背もたれに体を預けた。その動きはゆっくりとしながらも、苛立ちを含んでいるようだった。

「そうか。公爵の弱点になるかと期待したのだがな。」

王は玉座の横に置かれたワインのグラスを手に取り、赤い液体を軽く揺らした。その中で反射する灯りが、不吉な輝きを放つ。

「使い捨ての道具に過ぎないかと。」

「ふむ…跡継ぎだけ産ませて切り捨てるつもりか。なるほどな。」

王はグラスを静かに玉座の脇に戻し、蝋燭の炎をじっと見つめた。その炎が揺れるたびに、彼の心にも新たな計画が浮かび上がる。

「子を孕んでおらんかったら、二人を引き離し、アジャールの嫁にしてやりたかったな。」

王の声にはわずかな悔しさが滲んでいる。彼は、メイシールと対面した際のことを思い返していた。あの時、メイシールを見て赤面し、目を輝かせたアジャール王子の姿を思い出す。その光景が、王の胸に密かな野心を芽生えさせていた。

「毒でも盛りましょうか。」

騎士が冷静に提案すると、王は眉をひそめ、軽く首を横に振った。

「いや、あやつの家系はすぐに毒を見抜く。使い捨てといえども、発覚すれば面倒なことになる。」

王は再び蝋燭の炎に視線を向けた。メイシールの若さを思い出しながら、彼女がまだ精神的にも未熟であることを計算に入れる。

「夫人はアジャールと同じ18歳の若造だ。ストレスをかければ自然とおりるだろう。」

王はふと閃いたように顔を上げ、手を軽く振って命じる。

「上位貴族らにパーティーを頻繁に開かせるのだ。」

「畏まりました。そのように手配致します。」

騎士は深々と頭を下げる。その目には、次こそ失敗しないという強い決意が宿っていた。彼はすでにユリドレを任務で失敗に追い込む計画を頓挫させており、次はどんな犠牲を払ってでも成功させる覚悟を決めていた。

騎士が静かに退室すると、王は再び蝋燭の炎を見つめながら、独り言のように呟いた。

「まだまだ動かせる駒が足りん。さて、どう出るか見せてもらおうか、レッドナイト公爵。」

その声には、計画が進行する興奮と、何かを確信している冷酷さが入り混じっていた。薄暗い部屋の中、蝋燭の炎がまた一つ揺れ、静寂だけがその場を支配していた。

―――――
その更に深夜
―――――


深夜の静寂がレッドナイト公爵家を包み込んでいた。月の光が薄いカーテン越しに差し込み、広々とした寝室を優しく照らしている。部屋の左側に置かれた大きな天蓋付きベッドでは、メイシールが穏やかな寝息を立てながら眠っていた。その表情は無垢そのもので、柔らかな毛布に包まれた体が小さく上下している。

その隣には、ユリドレが寄り添うように腰を下ろしていた。彼はメイシールの髪をそっと撫で、その寝顔をじっと見つめていた。冷徹で仏頂面の彼がここで見せる表情は、愛情に満ちた優しいものだった。

「よく眠っているな…。」

低く囁くような声を漏らし、彼はその髪に唇をそっと押し当てた。その瞬間、部屋の奥から物音が聞こえ、黒ずくめの姿の私兵が音も立てずに現れた。彼の動きは無駄がなく、闇に溶け込むように静かだった。

私兵はユリドレのそばに立ち、頭を下げる。

「報告に参りました。」

ユリドレはその声に顔を上げることなく、メイシールの髪を撫で続けていた。だが、その目には明らかに鋭さが宿り、報告の内容を聞き逃さないという意思が読み取れた。

「話せ。」

彼の一言で、私兵はすぐに報告を始めた。

「王側の騎士の何人かがスパイとして、公爵家の騎士に成りすましていることを確認しました。また、彼らが王への報告を行う場面を見張り、その内容を盗み聞きして参りました。」

その言葉に、ユリドレは一瞬だけ手を止めた。だが、次の瞬間には再びメイシールの髪を撫で始める。その仕草には変化がないものの、目元にはわずかな苛立ちが浮かんでいた。

「奴らの報告内容は?」

「はい。王側の騎士たちは、奥様を政略結婚の道具と見なし、旦那様がその役目を果たすために、日々彼女に激しく接していると報告しています。」

その報告を聞いたユリドレの目が一瞬鋭く光った。だが、その感情はすぐに押し隠され、冷静さを取り戻す。

「思惑通りだな。」

ユリドレは小さく笑みを浮かべ、メイシールの頬に触れる。その指先は柔らかく、彼女を傷つけることを恐れるかのようだった。

「この調子では当分気が抜けないな。子供が生まれるまでの間に、何度服を新調させるつもりだ?愚王め。」

彼の声には皮肉と冷静な分析が混ざっており、その背後には深い愛情が隠されているのがわかった。

私兵はそれを見て、一瞬だけ口を噤んだ後、再び口を開いた。

「今を耐えるしかありません。奥様は大丈夫でしょうか。」

その言葉に、ユリドレの目がわずかに柔らかくなる。

「大丈夫…と言いたいところだが、あいつらが何をしてくるかわからない以上は言い切れない。」

彼は深い溜息をつき、メイシールの寝顔を見つめる。

「メイシールは、どうして俺に選ばれてしまったのだろうな。俺にはもったいないくらいの奇跡の人だというのに。」

その声には、彼女への深い愛情と同時に、自分自身への苛立ちが感じられた。

私兵は少し考え込んだ後、静かに答えた。

「奥様が選ばれたのではなく…では?」

私兵は、これまでの出来事を知る彼の視点から見れば、メイシールが若さを利用して地位を築こうとしているようにも見えていたのだ。

「さぁ、どっちが先だったろうかな。」

ユリドレは静かに首を振り、視線を窓の外に向けた。

「それより、ミレーヌの調子はどうだ?」

「彼女は真面目に訓練に取り組んでいます。身辺調査や心理テストの方も問題ありませんでした。ただし、訓練を始めた時期が他の者と比べて遅れているため、時間が必要かと。」

その言葉に、ユリドレは小さく頷く。

「メイが大切にしている侍女だ。気を使ってやってくれ。そうだな…トリントあたりが独身だったな。仮面を外してミレーヌの護衛と相性が良ければ、恋仲になっても構わないと伝えておけ。」

彼の言葉には、ミレーヌの未来を気にかける優しさと同時に、彼女がしっかりとメイシールを守れる存在になることへの期待が込められていた。

「承知しました。」

私兵が一礼すると、ユリドレはメイシールの頭を撫でながら再び静かに呟く。

「――メイが生まれたその時から、計画は既に始まっていたなんて知ったら驚くだろうな。」

その声には微かな憂いが混じっており、彼の瞳は遠い過去を見つめているかのようだった。薄暗い蝋燭の明かりが揺れ、彼の横顔を浮かび上がらせていた。
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