死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

26.初恋が残した傷跡

それは夢だとわかっていた。それでも、胸がきゅっと締め付けられるほど鮮明で、どうしようもなく懐かしい夢だった。

18歳になったばかりのメイシールは、遅すぎる社交デビューを果たそうとしていた。青空の下、シルバークイーン家の広大な庭園で開かれたティーパーティー。きらめく陽射しが幾重にも張られた薄絹の天蓋を通り抜け、青々とした芝生の上に柔らかな光を落としている。

庭の中央には大理石の噴水があり、清らかな水が陽光を反射してキラキラと輝いていた。噴水を囲むように並べられた白いテーブルと椅子には、美しいドレスに身を包んだ貴婦人たちが所狭しと座っている。華やかな会話と笑い声が絶えず、メイシールはその場にいること自体が不慣れで、どこか浮いているような気がしていた。

ピンク色の長い髪を軽く結い上げ、薄い水色のドレスに身を包んだメイシールは、噴水のそばに置かれた椅子に腰掛けていた。青い瞳がまっすぐ噴水を見つめ、足元でふわりと揺れるドレスの裾を何度も直している。その仕草には緊張がにじみ出ていた。

(こんな場所に来るんじゃなかったかも…。)

彼女はテーブルの上に置かれたカップに手を伸ばし、少しだけ紅茶を啜る。だが、飲み口が手元を滑り、少しだけ紅茶がカップの外にこぼれた。慌ててハンカチで拭き取る彼女の耳に、遠くから聞こえてきたのは鋭い蹄の音だった。鋭い音とともに、庭の入口に一際目を引く白馬が現れる。

白銀の甲冑をまとった騎士たちが先導する中、ひときわ目立つ存在がいた。短く整えられた白髪が光を受けて輝き、鋭い瞳と堂々たる立ち振る舞いでその場の視線を一身に集めている。ホワイトホスト王国の第一王子、アジャールだった。

彼が馬から降りると、周囲にいる貴婦人たちの声がどっと高まり、ざわめきが広がる。その中で、メイシールは息を飲んでいた。彼女が初めて見る王子の姿は、噂以上に威厳と美しさを兼ね備えていたからだ。

(あの人が、アジャール王子…?)

彼女が目を見張り、胸が高鳴るのを感じていると、王子の視線が突然こちらに向けられた。軽く眉を上げ、興味深げに目を細める彼。その鋭い瞳がメイシールの青い瞳と交差した瞬間、彼の足が一歩こちらへと進んだ。

周囲のざわめきはいつの間にか静まり、王子が歩み寄る音だけが聞こえていた。まるで世界がその一瞬だけ切り取られたように、メイシールは息をするのも忘れていた。

「君の名前を聞かせてくれないか。」

目の前に立ったアジャールが、柔らかな笑みを浮かべて声をかけた。その声は低く穏やかで、どこか温かさを含んでいる。彼の真っ直ぐな瞳に射抜かれたメイシールは、慌てて立ち上がり、ぎこちなく礼を取る。

「あ…ブルービショップ伯爵家のメイシールと申します。」

彼女の声は少し震えていたが、それでも必死に礼儀を保とうとしていた。アジャールはその様子を面白がるように見つめながら、軽く笑みを深めた。

「メイシール…。その名前もまた美しい。」

その一言が胸に突き刺さるようで、メイシールの頬が赤く染まる。彼の視線はじっと彼女を捉えたまま離さず、まるで彼女のすべてを見透かしているようだった。

「ティーパーティーには不慣れか?」

彼の問いに、メイシールは小さく頷いた。

「はい…。このような場に出るのは、ほとんど初めてで…。」

その答えに、アジャールは片眉を上げ、何かを思案するように彼女を見つめた後、小さく頷いた。

「そうか、だが不思議だな。君のような美しい人が、今まで人目に触れなかったとは。」

メイシールの胸が熱くなる。その言葉が嘘ではなく、彼の真心から出ているものだと感じられたからだ。彼女の目が彼の目と再び交わると、彼が手を差し出した。

「少し散歩でもしようか。初めての場なら、少しでも気を楽にしたいだろう?」

迷う間もなく、メイシールは彼の手を取った。その手の温もりが、彼女の心にじんわりと染み渡っていく。彼女が手を握り返すと、彼は満足そうに微笑み、彼女を庭園の奥へと導いた。

(あの時、私は…心が震えるほど嬉しかった。)

その感情はまだ鮮明に残っている。だが、それと同時に、胸の奥に重く沈む感情が甦る。夢であることを理解しながらも、彼女の心は過去の幸福と苦しみの狭間で揺れ動いていた。

翌日、アジャール王子がブルービショップ家に正式な使者を送り、メイシールに求婚したとき、彼女の胸は歓喜に震えた。その知らせを耳にした瞬間、彼女の体は驚きと感激で動けなくなり、母の助けを借りて椅子に腰掛けたほどだった。

(本当に…私が、王子の妻に…?)

夢の中で再び訪れたその瞬間、メイシールの心は溢れる幸福感に包まれていた。王族の一員として迎えられるだけでなく、あの優雅で美しいアジャールが自分を選んだという事実が、すべての疑念を消し去った。彼が婚約式で見せた誓いの言葉、一生をかけて愛すると約束したその声は、今でも胸に深く刻まれている。

しかし、その幸福がどれほど儚いものだったか――メイシールはその後の現実を夢の中で再び見せつけられる。

結婚から数年が経ち、ホワイトホスト王国の王妃となったメイシールだったが、子供を授かることはなかった。最初のうちは気丈に振る舞っていたものの、周囲からの視線や囁きが彼女の心を徐々に蝕んでいった。

「まだ子の知らせはないのか?」
「王妃としての役目を果たせていないとは…。」

そのような言葉が、親切な顔をした貴族たちの間で交わされるのを、メイシールは耳にしてしまった。そして、夫であるアジャールもまた、徐々に変わっていった。王や王妃からのプレッシャーが彼の肩にのしかかり、いつしかその苛立ちはメイシールにも向けられるようになっていった。

「どうして君は…。」

短く放たれるその言葉の裏にある責任の重さを感じ取り、メイシールは何も言えなかった。彼女は自らを奮い立たせ、アジャールを助けようと執務の手伝いを始めた。それは最初は小さな書類整理から始まったが、次第に国の重要案件の処理にまで及んでいった。

いつしか、アジャールの代わりにほとんどの王国の執務を取り仕切るようになったメイシール。しかし、その間、アジャールがほとんど執務室に顔を出さなくなり、夜遅くに帰るようになったのを知るのに時間はかからなかった。

(私がこんなにも頑張っているのに…。どうして…?)

ある夜、従者の会話を偶然耳にしたことで、彼女の疑念は確信へと変わった。

「陛下、また例の御令嬢とご一緒だったそうです。」
「それも、最近では毎晩のように…。」

その言葉に、メイシールの体から力が抜け落ちた。

月日が経つにつれ、アジャールの愛情は完全に彼女から離れていった。表向きは優しげな笑みを浮かべるものの、その瞳の奥には冷淡さしか宿っていなかった。そして、彼はついに冷たい言葉を告げた。


―――――――――
――――――

「お願いです! 離婚だけは…。考え直していただけませんか…。」

薄暗い室内に佇むメイシール・ホワイトホスト。かつてはブルービショップ伯爵家の令嬢として知られ、今やこの国の王妃としての地位にある。だが、王であり夫であるアジャールの前に跪くその姿は、かつての輝きを失っていた。

アジャール王は短く刈り揃えた白髪を光に輝かせながら冷たく彼女を見下ろしている。その瞳には、かつての優しさも愛情も残っていなかった。

「メイシールよ、君は私の心を理解してくれない。その愛らしい笑顔も、美しい言葉も、私の心を満たすことができない。彼女が私に与えるものは、君には分からない。」

その言葉がメイシールの胸に突き刺さる。

「私たちの道は別れるべきだ。この国にも、私たちにも、より良い未来が待っている。それに、彼女は貴族の令嬢だ。私の後ろ盾にもなってくれるだろう。」

アジャールは冷たく言い放ち、背を向ける。その背中が遠ざかるにつれ、メイシールの心は冷たく硬い現実に締め付けられるようだった。

(お願い、これ以上奪わないで…。)

その願いも虚しく、彼女の努力は報われることなく、暗殺者の刃が彼女の命を奪うのはそう遠くない未来のことだった。


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