死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

文字の大きさ
27 / 128
シーズン1

27.甘い罠に溺れる夕暮れ

「メイ…メイ…。」

その声はとても優しく、暖かな響きを帯びていた。耳元で響くその声に、メイシールは瞼をゆっくりと開けた。目の前には、柔らかい微笑みを浮かべたユリドレが座っていた。その鋭い目つきが今は驚くほど優しく、彼女をじっと見つめている。

「ユリ…?」

メイシールはぼんやりとした頭を起こしながら呟いた。どうやら、パーティーの招待状を整理している最中に、ソファーで眠ってしまったらしい。テーブルの上には封筒の山が無造作に置かれている。その一部が散らばっているのを見ると、自分が寝返りを打った拍子に落としたのだろう。

「少しうなされていたようですね。」

ユリドレはそう言いながら、メイシールの頬に触れた。その指先は驚くほど温かく、彼の心配そうな視線が彼女を包み込むようだった。

「ごめんなさい…ちょっと変な夢を見てしまって。」

メイシールは苦笑いを浮かべながら、記憶に鮮明に残る夢の内容を思い出す。アジャール王子との出会い、短い幸福、そしてそれが儚く崩れ去るまでの一連の出来事…。夢であると分かっていても、その記憶が心に暗い影を落としていた。

「ここまで悩むのなら、全て燃やしてしまいましょう。」

ユリドレがそう言って、テーブルの上にある招待状の山に手を伸ばした。その手のひらに、彼の得意とする火の力がじんわりと灯る。赤々と揺れる炎が、彼の指先に小さく現れた。

「ちょ、ユリ!」

メイシールは慌てて立ち上がり、ユリドレの腕にしがみついた。彼が笑顔を浮かべたまま、封筒の山を消し炭にしようとしているのを全力で止める。

「お返事を書かないと失礼になるでしょう?だから燃やすなんてやめて!」

メイシールの切実な声に、ユリドレは手を止めた。その目が彼女を覗き込むようにして、わざとらしく不満げな表情を浮かべる。

「でも、メイがこんなに疲れているのを見るのは、俺には耐えられないんです。」

ユリドレの声には心からの思いが込められており、その響きがメイシールの心を揺さぶった。彼の手の中の炎がふっと消える。

「分かってるわ。でも…全てを燃やしてしまうのは極端すぎるのよ。」

メイシールは深く息をつきながら、ユリドレの腕をそっと撫でる。その仕草に、彼は少しだけ肩をすくめ、表情を柔らかくした。

「それなら、全部従者に任せてしまいましょう。」

ユリドレはメイシールをソファーに座らせると、彼女の肩を優しく押して背もたれに寄りかからせた。そしてテーブルに散らばる招待状をまとめて手に取り、部屋の隅に控えていた従者に視線を向ける。

「これらを整理し、返事を準備しろ。」

従者がすぐに一礼し、招待状の束を受け取る。その手際の良さに、メイシールはほっと安堵の表情を浮かべた。

「ほら、これで解決です。」

ユリドレは再びメイシールの隣に座り、そっと肩に腕を回した。その動きには、彼女を安心させるための優しさが滲んでいる。

「でも…自分でしないと、失礼じゃないかしら?」

メイシールが不安げに呟くと、ユリドレは首を振って笑った。

「失礼?そんなことはありません。誰が書いたかなど気にする人間はいませんよ。それに、あなたが自ら書いた返事を受け取って満足するような人間がいれば、俺が直々に礼を言っておきます。」

彼の冗談めいた言葉に、メイシールは思わず微笑みを浮かべた。ユリドレの独特の余裕と確信が、彼女の心を少しだけ軽くしてくれた。

ユリドレの冗談めいた言葉に、メイシールは思わず微笑みを浮かべた。彼の独特の余裕と確信が、彼女の心を少しだけ軽くしてくれた。しかし、その余韻もつかの間、ユリドレは真剣な表情に切り替わり、メイシールに向き直った。

「メイ、招待状をすべて検討する必要はありません。必要最低限のパーティーにだけ出席しましょう。」

「でも、それだと失礼になるのでは?」

メイシールが少し眉を寄せると、ユリドレはその表情をじっと見つめ、小さく首を振った。

「失礼どころか、これは安全のためです。アジャール王子が君を気に入っているのは明らかだ。それに、王が頻繁にパーティーを開かせるのは、何かを仕掛けるために違いありません。」

その言葉に、メイシールは思わず目を見開いた。

「そんな…私を狙っているということですか?」

「可能性は高い。」

ユリドレは静かに頷いた。その冷静な声に隠された緊張が、メイシールにも伝わってくる。

二人でどのパーティーに出席するかをじっくりと相談した末、ゴールドキング公爵家が主催するパーティーにのみ出席し、その他は丁重に断るという結論に達した。しかし、メイシールはその決定にどこか釈然としない表情を浮かべていた。

「先程決まった、ゴールドキング公爵家のパーティーにだけ出席して、その他は適当な理由をつけて欠席するという結論に不満があるということですね?」

ユリドレが穏やかに尋ねると、メイシールは一瞬言葉を詰まらせた。

「最悪の場合はそれしかありません。でも、やはり、おとう…いえ、陛下なら、何かと理由をつけて、私とユリを引き離そうとするに違いありません。」

その言葉を口にした瞬間、ユリドレが突然動きを見せた。メイシールをお姫様抱っこのように抱き上げると、そのままベッドに向かって歩き出した。

「ちょ、ちょっとユリ!?どうしたのですか?また監視の目でもつきましたか?」

驚いたメイシールが声を上げるが、ユリドレは何も答えずにベッドに彼女を優しく押し倒した。困惑する彼女をよそに、ユリドレは自分の服のボタンに手をかけ、上半身を露わにする。

夕陽が窓から差し込み、部屋を柔らかな橙色に染める中、彼の身体がその光を受けて浮かび上がった。一見華奢に見えるその体つきには、驚くほどしなやかで力強い筋肉が刻み込まれており、夕陽に照らされた陰影がその輪郭をさらに際立たせていた。


「ユリ、いったい何を…?」
メイシールは、ベッドの上で何が起きているのか理解できず、彼を見つめる。だが、ユリドレの動きは一切ためらいがなかった。彼は静かにズボンのベルトを外し、その革の質感が空気を切るように音を立てる。その瞬間、メイシールの胸が高鳴った。

「ちょ、ちょっと待って!ユリ!」
彼女が声を上げる間もなく、ユリドレはベルトを器用に巻き付け、彼女の手首をベッドの柱に固定した。その動作は柔らかくも確固としていて、彼の意図が冗談ではないことを物語っていた。

「こうして、手首を縛られる経験は初めてですか?」
低く響く声が彼女の耳に触れる。その声には、冷静さの中にどこか熱を帯びた何かが混ざっていた。

メイシールは唖然としたまま、慌てて答えた。
「はい?そ、それはもちろん。初めてです!」

ユリドレの顔に笑みが浮かぶ。それは余裕に満ちた、彼らしい自信たっぷりの表情だった。
「回帰前も?」

その問いに、メイシールの顔がさらに赤くなる。
「もちろんです!こんなおかしなことをするのはユリだけです!」

その答えに、ユリドレは静かに息を吐き、顔をさらに近づける。彼の目は鋭い光を宿し、まるで彼女の心を見透かしているかのようだった。
「すみません、アナタを独占したい気持ちが止められません。」

彼の声が低くなり、さらに深い響きで続ける。
「先程、アナタは陛下をお義父様と言い間違えましたよね。それを聞いて、メイに…メイは俺のものだと分からせたくて…。」

「な、なに言ってるの!?」
メイシールの声は震え、混乱と驚きで顔が真っ赤になる。

ユリドレはそんな彼女の反応を楽しむかのように、悪戯っぽい笑みを浮かべる。その唇がほんの少しだけ開き、彼の息遣いがメイシールの顔に触れた。

「あの…こういった…その…趣味な方だったり?」
彼女が恐る恐る尋ねると、ユリドレの笑みがさらに深まった。その目が微かに細まり、どこか底知れない雰囲気を漂わせる。

「さぁ、どうでしょう?」

彼の返答に、メイシールの胸がざわつく。彼の言葉以上に、声の抑揚や吐息の温かさが、彼女の耳元を痺れさせる。

(その笑い方やめてーーー!!)
心の中で叫ぶものの、声には出せない。その間にも、彼の指がそっと彼女の頬を撫で、まるで冷やかすように彼女の髪を指先で遊ばせる。その動きが緩やかであるほど、彼女の心拍数が早まっていくのを感じる。

部屋には静寂が広がり、その中に僅かに聞こえるのは、ユリドレの深い呼吸音と、時折響くベッドの軋む音だけだった。

ユリドレの視線が、彼女の瞳から頬、そして首筋へと移動する。彼の目は鋭くもあり、どこか慈しみを含んでいる。そのまま彼の唇が彼女の耳元に近づき、囁くように続けた。
「あぁ…メイの困った顔、なかなか魅力的ですね。」
感想 0

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

お兄様はやさしく笑って、逃げ道だけをなくしていく

星乃和花
恋愛
縁談に悩む子爵令嬢リゼットが助けを求めたのは、名門侯爵家の長男アルフレッド。 穏やかでやさしく、理想のお兄様のような彼は、「君のことは僕が見ている」と甘く手を差し伸べてくれる。 送り迎え、花や手紙、完璧なエスコート。 守られているだけのはずが、気づけば周囲には「彼女はもうノースウェル侯爵家のもの」という空気ができあがっていて――。 ふわふわ優しいのに、実はかなり策略家。 やさしく逃げ道をなくしてくるお兄様系ヒーローに、恋愛に疎い令嬢がじわじわ囲い落とされていく、甘くて幸せな溺愛ラブストーリー。 ――「待つよ」と言いながら、外堀はきっちり埋めてくる―― (完結済ー本編10話+後日談2話)