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シーズン1
31.私の仮説
私はふかふかのソファーに深く腰を沈め、両手で膝を抱え込むようにして座っていた。頭の中を整理しようとしても、何かが引っかかっている感覚が消えない。
目の前には、心を落ち着かせようと用意したハーブティーが湯気を立てているが、その香りすらまともに感じられない。指先でカップの縁をなぞりながら、ぼんやりと考えを巡らせた。
―――何かが引っかかっていた。ここへ来て最初に回帰した日。どうして「ユリ」という言葉を合図にユリは全てを理解することができたのだろう。あの瞬間の彼の反応は、ただ驚いただけではなく、何かを確信したようなものだった。ユリにはまだ、私に隠していることがあるような気がしてならない。
けれど、彼の愛が本物であることもまた、疑いようがないのだ。これまでの人生で、ユリほど私を求めた人はいなかった。難産で死にかけた時、私は彼に「殺して」とお願いした。その後、何の感情もなければ、死体にキスなんかするはずがない。
私は震える指先でカップを持ち上げ、一口だけハーブティーを飲んだ。けれど、その温かさが胸を満たすことはなく、再び考えがぐるぐると巡る。
――どうして3回目の人生では、お父様と一緒にレッドナイト公爵家の人間に殺されたのかしら。ユリの欲しがるものを先取りしていた。けれど、その時点でユリは私のことを知っていたに違いない。鉱山を購入した時点で、私を監視していたと言っていたし…。
そこまで考えた時、ふと手が止まった。息を詰めて、頭の中で仮説を組み立てていく。
――なら、これはひとつの仮説に過ぎないけれど…本当は、ユリは回帰条件を知っていて、わざと回帰させなければいけない状況に…まって、それだと、私は…ユリによって…殺された?
胸が締め付けられるような感覚に襲われる。けれど、彼が私に回帰条件を聞いてきた場面を思い出すと、それが真実だとは思えなかった。どこかに彼の嘘がある。でも、その嘘が何であれ、彼が私を愛しているのは確かで、それを暴く必要があるのかどうか、悩んでしまう。
「ユリ…。あなたは私に何を隠しているの?」
自分自身に問いかけるように呟く声が、静かな部屋の中で溶けていく。けれど、結局答えは出ない。
彼にだって隠したいことはあるだろう。私だってそうだ。王妃だったことや、レオルと結婚していたことの全てをユリに打ち明けたら、彼は間違いなく彼らを殺してしまうに違いない。元王妃だったことはバレているみたいだけど、それでも、その詳細だけは絶対に話すまいと心に決めている。
溜息が漏れたその時、部屋の扉が控えめにノックされる音がした。
「失礼します、奥様。」
ミレーヌが静かに部屋に入ってきた。手には湯気の立つミルクが載ったトレーを持っている。私の前に来ると、机に置かれていたハーブティーのカップに目を留め、小さく微笑んだ。
「奥様、ハーブティーも冷めてしまったようですね。温かいミルクをご用意しました。」
そう言って、ミレーヌはスムーズな手つきでハーブティーのカップをトレーに乗せ、代わりにホットミルクのカップをテーブルに置いた。湯気がほんのりと立ち上り、ミルクの優しい香りが漂ってくる。その細やかな気遣いが胸にじんわりと染み渡った。
「ありがとうございます、ミレーヌ。でも、大丈夫よ。そこまで気を遣わなくても…。」
私が遠慮がちに言うと、ミレーヌは小さく首を振り、控えめに笑った。
「奥様が気を紛らわせられるなら、些細なことでもお手伝いしたいのです。」
その言葉と共に、ミレーヌは一歩下がって穏やかに佇んだ。そして、少し間を置いて、柔らかな声で付け加えた。
「奥様、旦那様がいらっしゃらなくてお寂しいのですね。」
その一言に、私は思わずホットミルクを口に含んだまま、勢いよく噴き出してしまった。ミルクのしずくがテーブルに散り、ミレーヌは慌てずにタオルを手に取りながら、微笑みを浮かべていた。
「ゴホッ!ゴホッ!」
「まあまあ…やはりそうなのですね。ここへ来てから片時も離れず、ユリドレ様の腕の中で過ごしていらっしゃったのですものね。」
ミレーヌは頬に手を当てて困ったような表情を浮かべる。その姿を見て、否定しようと口を開きかけたが、何も言えなかった。どこかに潜んでいるスパイに変な情報を与えてしまうかもしれないという考えが頭をよぎる。
「……まあ、そうかもね。」
曖昧に頷いてみせると、ミレーヌは微笑み、満足げに部屋を後にした。
静けさが戻り、私は改めてソファーに身を預ける。ユリは今、アジャール王子に剣術の稽古をつけるため、王城に出向いている。ゴールドキング公爵家のパーティーまで、しばらく戻らない予定だ。
静かな一日がようやく訪れた。心に少しゆとりが生まれる。ユリの魅力に振り回されず、自分の思考にゆっくり浸れる日は、そうそうないのだから――。
――それにしても、陛下がレッドナイト公爵家を煩わしく思っているなんて…。
最初の人生ではそんな素振り、見たこともなかったのに。ということは、私が嫁ぐころには、すでに何かしらの問題が解決していたということ?
でも、どうして今になってこんなに問題視されるのかしら…。考えれば考えるほど、ユリドレ自身が煩わしい存在だという結論に近づいてしまう。
私は小さく首を振り、無理やりその思考を切り替えようとした。けれど、頭の片隅では、ユリの能力について考えずにはいられない。
――透明人間になれるなんて、本当に恐ろしいわ。
ソファーのクッションを握りしめながら、彼との最初の出会いを思い返す。私が何も知らずに実家の自分の部屋でユリと2年間も過ごしていたなんて…。気配すら感じたことがなかったのだから、彼の能力の凄さには恐怖さえ覚える。
――その時、ユリは私を見てどう思っていたのかしら。
少しずつ浮かび上がる記憶は、彼がどれほど冷静に、そして冷徹に自分を隠しながら私を見守っていたのかを物語っているようだった。彼の視点から見た私の姿がどんなものだったのか想像すると、ぞっとするものがあった。
二度目の人生では、途中までレッドナイト公爵家との縁を持とうと奔走していたことを思い出す。その時もユリはどこかで私を監視していたのだろうか…。
――どういう気持ちで、私がレオルと恋愛していく姿を見ていたの?
胸の奥がじわりと重くなる。考え始めたら止まらない悪い癖だと分かっていながら、思考はさらに深みにはまっていく。
ふと、恐ろしい想像が頭をよぎる。まさか…レオルやアジャールの浮気すら、ユリに仕組まれたものだったのではないかという疑念が沸き上がったのだ。
「そんなわけないわよ…。」
小さな声で自分に言い聞かせる。それでも、その考えを完全に否定しきれない自分がいる。もし本当に全てがユリの手中だったとしたら、私はどうする?その疑問が胸に重くのしかかる。
「駄目、駄目よ!」
両手で頬を軽く叩いて、自分を奮い立たせる。
――私はユリとしか結婚してもうまくいかない体なのよ。考えないようにしましょう。
そう心に言い聞かせながら、深く息を吸い込む。気分を紛らわせようと窓の外に目を向けると、庭の木々が穏やかに揺れていた。その静けさが少しだけ心を落ち着かせてくれる。
「気を紛らわすために、執務をするわ。」
私はそう呟いて、ミルクの入ったコップをそっとテーブルに置いた。そして、立ち上がると書類の積まれた机へと向かう。椅子に腰を下ろし、机の上に山積みになった書類の中から1つを手に取る。
「さあ、始めましょう。」
小さく呟くと、ペンを握りしめ、作業を進め始めた。書類に目を通し、必要な箇所にサインをするたびに、少しずつ心が静まっていく気がした。とはいえ、集中力が切れるとすぐに不安な思考が頭をもたげる。
窓の外に目を向けたり、深呼吸をして気を紛らわしながら、静かに作業を続ける。それでも完全に心を落ち着かせることはできなかった。
「やはり…お寂しいのですね。」
ミレーヌが再び部屋に入ってきた。彼女の穏やかな声が部屋に響くと、私はペンを置いて顔を上げた。
「‥‥。」
何も答えられない。彼女の言葉は何気ないものだったけれど、その通りだと認めるのが怖かった。
「奥様、旦那様がいらっしゃらなくて心細いお気持ちは分かります。しかし、旦那様はすぐに戻っていらっしゃいます。それまでに、ご自身を大切にしてください。」
ミレーヌの優しい声に、胸がじんわりと温かくなる。彼女がそっと部屋を出ていくと、再び部屋は静寂に包まれた。
――ユリがいない間に、私は何をするべきか。
静かな時間は考える余裕を与えてくれる一方で、私の心に不安を投げかけてくるのだった。
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―――何かが引っかかっていた。ここへ来て最初に回帰した日。どうして「ユリ」という言葉を合図にユリは全てを理解することができたのだろう。あの瞬間の彼の反応は、ただ驚いただけではなく、何かを確信したようなものだった。ユリにはまだ、私に隠していることがあるような気がしてならない。
けれど、彼の愛が本物であることもまた、疑いようがないのだ。これまでの人生で、ユリほど私を求めた人はいなかった。難産で死にかけた時、私は彼に「殺して」とお願いした。その後、何の感情もなければ、死体にキスなんかするはずがない。
私は震える指先でカップを持ち上げ、一口だけハーブティーを飲んだ。けれど、その温かさが胸を満たすことはなく、再び考えがぐるぐると巡る。
――どうして3回目の人生では、お父様と一緒にレッドナイト公爵家の人間に殺されたのかしら。ユリの欲しがるものを先取りしていた。けれど、その時点でユリは私のことを知っていたに違いない。鉱山を購入した時点で、私を監視していたと言っていたし…。
そこまで考えた時、ふと手が止まった。息を詰めて、頭の中で仮説を組み立てていく。
――なら、これはひとつの仮説に過ぎないけれど…本当は、ユリは回帰条件を知っていて、わざと回帰させなければいけない状況に…まって、それだと、私は…ユリによって…殺された?
胸が締め付けられるような感覚に襲われる。けれど、彼が私に回帰条件を聞いてきた場面を思い出すと、それが真実だとは思えなかった。どこかに彼の嘘がある。でも、その嘘が何であれ、彼が私を愛しているのは確かで、それを暴く必要があるのかどうか、悩んでしまう。
「ユリ…。あなたは私に何を隠しているの?」
自分自身に問いかけるように呟く声が、静かな部屋の中で溶けていく。けれど、結局答えは出ない。
彼にだって隠したいことはあるだろう。私だってそうだ。王妃だったことや、レオルと結婚していたことの全てをユリに打ち明けたら、彼は間違いなく彼らを殺してしまうに違いない。元王妃だったことはバレているみたいだけど、それでも、その詳細だけは絶対に話すまいと心に決めている。
溜息が漏れたその時、部屋の扉が控えめにノックされる音がした。
「失礼します、奥様。」
ミレーヌが静かに部屋に入ってきた。手には湯気の立つミルクが載ったトレーを持っている。私の前に来ると、机に置かれていたハーブティーのカップに目を留め、小さく微笑んだ。
「奥様、ハーブティーも冷めてしまったようですね。温かいミルクをご用意しました。」
そう言って、ミレーヌはスムーズな手つきでハーブティーのカップをトレーに乗せ、代わりにホットミルクのカップをテーブルに置いた。湯気がほんのりと立ち上り、ミルクの優しい香りが漂ってくる。その細やかな気遣いが胸にじんわりと染み渡った。
「ありがとうございます、ミレーヌ。でも、大丈夫よ。そこまで気を遣わなくても…。」
私が遠慮がちに言うと、ミレーヌは小さく首を振り、控えめに笑った。
「奥様が気を紛らわせられるなら、些細なことでもお手伝いしたいのです。」
その言葉と共に、ミレーヌは一歩下がって穏やかに佇んだ。そして、少し間を置いて、柔らかな声で付け加えた。
「奥様、旦那様がいらっしゃらなくてお寂しいのですね。」
その一言に、私は思わずホットミルクを口に含んだまま、勢いよく噴き出してしまった。ミルクのしずくがテーブルに散り、ミレーヌは慌てずにタオルを手に取りながら、微笑みを浮かべていた。
「ゴホッ!ゴホッ!」
「まあまあ…やはりそうなのですね。ここへ来てから片時も離れず、ユリドレ様の腕の中で過ごしていらっしゃったのですものね。」
ミレーヌは頬に手を当てて困ったような表情を浮かべる。その姿を見て、否定しようと口を開きかけたが、何も言えなかった。どこかに潜んでいるスパイに変な情報を与えてしまうかもしれないという考えが頭をよぎる。
「……まあ、そうかもね。」
曖昧に頷いてみせると、ミレーヌは微笑み、満足げに部屋を後にした。
静けさが戻り、私は改めてソファーに身を預ける。ユリは今、アジャール王子に剣術の稽古をつけるため、王城に出向いている。ゴールドキング公爵家のパーティーまで、しばらく戻らない予定だ。
静かな一日がようやく訪れた。心に少しゆとりが生まれる。ユリの魅力に振り回されず、自分の思考にゆっくり浸れる日は、そうそうないのだから――。
――それにしても、陛下がレッドナイト公爵家を煩わしく思っているなんて…。
最初の人生ではそんな素振り、見たこともなかったのに。ということは、私が嫁ぐころには、すでに何かしらの問題が解決していたということ?
でも、どうして今になってこんなに問題視されるのかしら…。考えれば考えるほど、ユリドレ自身が煩わしい存在だという結論に近づいてしまう。
私は小さく首を振り、無理やりその思考を切り替えようとした。けれど、頭の片隅では、ユリの能力について考えずにはいられない。
――透明人間になれるなんて、本当に恐ろしいわ。
ソファーのクッションを握りしめながら、彼との最初の出会いを思い返す。私が何も知らずに実家の自分の部屋でユリと2年間も過ごしていたなんて…。気配すら感じたことがなかったのだから、彼の能力の凄さには恐怖さえ覚える。
――その時、ユリは私を見てどう思っていたのかしら。
少しずつ浮かび上がる記憶は、彼がどれほど冷静に、そして冷徹に自分を隠しながら私を見守っていたのかを物語っているようだった。彼の視点から見た私の姿がどんなものだったのか想像すると、ぞっとするものがあった。
二度目の人生では、途中までレッドナイト公爵家との縁を持とうと奔走していたことを思い出す。その時もユリはどこかで私を監視していたのだろうか…。
――どういう気持ちで、私がレオルと恋愛していく姿を見ていたの?
胸の奥がじわりと重くなる。考え始めたら止まらない悪い癖だと分かっていながら、思考はさらに深みにはまっていく。
ふと、恐ろしい想像が頭をよぎる。まさか…レオルやアジャールの浮気すら、ユリに仕組まれたものだったのではないかという疑念が沸き上がったのだ。
「そんなわけないわよ…。」
小さな声で自分に言い聞かせる。それでも、その考えを完全に否定しきれない自分がいる。もし本当に全てがユリの手中だったとしたら、私はどうする?その疑問が胸に重くのしかかる。
「駄目、駄目よ!」
両手で頬を軽く叩いて、自分を奮い立たせる。
――私はユリとしか結婚してもうまくいかない体なのよ。考えないようにしましょう。
そう心に言い聞かせながら、深く息を吸い込む。気分を紛らわせようと窓の外に目を向けると、庭の木々が穏やかに揺れていた。その静けさが少しだけ心を落ち着かせてくれる。
「気を紛らわすために、執務をするわ。」
私はそう呟いて、ミルクの入ったコップをそっとテーブルに置いた。そして、立ち上がると書類の積まれた机へと向かう。椅子に腰を下ろし、机の上に山積みになった書類の中から1つを手に取る。
「さあ、始めましょう。」
小さく呟くと、ペンを握りしめ、作業を進め始めた。書類に目を通し、必要な箇所にサインをするたびに、少しずつ心が静まっていく気がした。とはいえ、集中力が切れるとすぐに不安な思考が頭をもたげる。
窓の外に目を向けたり、深呼吸をして気を紛らわしながら、静かに作業を続ける。それでも完全に心を落ち着かせることはできなかった。
「やはり…お寂しいのですね。」
ミレーヌが再び部屋に入ってきた。彼女の穏やかな声が部屋に響くと、私はペンを置いて顔を上げた。
「‥‥。」
何も答えられない。彼女の言葉は何気ないものだったけれど、その通りだと認めるのが怖かった。
「奥様、旦那様がいらっしゃらなくて心細いお気持ちは分かります。しかし、旦那様はすぐに戻っていらっしゃいます。それまでに、ご自身を大切にしてください。」
ミレーヌの優しい声に、胸がじんわりと温かくなる。彼女がそっと部屋を出ていくと、再び部屋は静寂に包まれた。
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