死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

36.隣で支えてくれるだけでいい

私は久しぶりに酷いつわりが和らぎ、ベッドでユリと話をしていた。ユリは王城での出来事を慎重に話してくれたが、その内容を聞いた私は信じがたい気持ちで胸がいっぱいだった。私たちが少しでも前進するよう、敬語をやめる話をしたのに、またユリが落ち込む様子を見て、少しだけ心が苦しくなった。

「ユリ。」
「はい。」

彼は私を見つめる。その瞳の奥には、どこか不安げな色が浮かんでいる。

「焦らず、少しずつ私たちのペースでいきませんか?私も、もっとユリと心の距離を縮められるように努力します。だから、落ち込まないでほしいなって。」

私がそう言うと、ユリは一瞬だけ驚いた表情を見せた後、穏やかに微笑んだ。その笑顔には、私の言葉が彼の心に響いたことがよく分かる優しさがあった。

「分かりました…なんか俺、年齢的には一回り上なのに情けないですね。」

彼の言葉に、私は軽く首を振る。

「そんなことないわ。それくらい私に真剣でいてくれて嬉しい…です。」

その一言が、彼にどれだけの安心感を与えたのか、彼の表情を見れば明らかだった。ユリはほっとしたように笑い、私の手をそっと握りしめた。

「俺の気持ちを分かろうとしてくれて、ありがとうございます。メイは本当に優しいですね。」

彼の言葉に私は照れくさくなり、少しだけ顔を横に向けた。

「それはそうと、しっかり休んでください!ほら、隣に寝て下さい。」

私はユリのためにベッドの端にスペースを作り、ポンポンと布団を叩いて彼を促した。ユリは少し驚いたように目を見開いたが、素直にベッドに横たわった。

「さぁ、目を閉じてください。」

私は彼の頭をそっと撫でた。すると、彼は疲れが溜まっていたのか、目を閉じた瞬間、深い眠りに落ちていった。その穏やかな寝顔を見て、私は思わず微笑む。彼の穏やかな表情が、私の心をも落ち着かせてくれる。

「おやすみ…ユリ。」

私は彼の寝顔を眺めながら、自分の頭の中を整理した。

ユリの穏やかな寝息を聞きながら、私はふとアジャール王子の事故について考えた。
―――本当に不慮の事故だったのかしら。

私の胸には、一つの仮説が浮かんでいた。ユリの能力なら、あの事故を意図的に引き起こすことも可能なのではないか。

もしそれが事実だとしたら、私はどうすればいい? ユリのしてきたことは全て私のためだと理解している。それでも、彼の手が血に染まることを許していいのだろうか。

心の中で、そんな葛藤が渦巻く。それでも答えは一つしかなかった。

――――ユリの悪事は全て私のためだ。なら、彼が道を外し過ぎないように私がしっかりすればいいだけ。どうせ死に戻っても、もう彼としか歩めないのだから…。

私の心に浮かぶのは、過去の人生での辛い経験だ。アジャールとの結婚生活は愛とは程遠く、私を追い詰めるものだった。彼との日々を振り返ると、少しだけ「ざまぁみろ」と思ってしまう自分がいる。それでも、そんな感情がまた私を苦しめる。

今の私は違う。ユリは私を愛し、どこまでも尽くしてくれる。彼が選んだ道が正しいかどうかは私次第。私はもう二度と孤独に泣きたくない。そして彼もまた、孤独にさせたくない。

――――これが私たちの運命なら…私が選ぶべき答えはこれしかない。

そう心に誓いながら、私はユリの寝顔にそっと手を伸ばし、彼の髪を撫でた。彼の穏やかな寝顔が、私に静かな決意を与えてくれたのだった。

季節は巡り、私のお腹は少しずつ膨らみ始めた。初めは「本当に赤ちゃんがいるの?」と不思議に思っていたけれど、徐々に動きを感じるようになり、命が宿っているという実感が湧いてきた。

ユリは日々私を支え、つわりが治まった後も細やかな気遣いを欠かさなかった。医師の指導に従い、毎日の食事には栄養価の高い食材がふんだんに使われ、散歩や軽い運動も取り入れられた。私が歩くたびに、ユリが心配そうに後ろから付き添ってくれる姿には少し笑ってしまうこともあった。

「メイ、疲れていませんか?ここで少し休みましょう。」
「大丈夫よ、ユリ。妊娠は病気じゃないもの。」
「それでも無理をさせたくないんです。メイが倒れたりしたら、俺はどうしたらいいのか…。」

そんな風に真剣な表情で心配されると、私はユリに逆らう気力をなくしてしまう。仕方なくベンチに座り、彼の用意してくれた温かいミルクを飲む時間が増えた。

妊娠中期に入ると、赤ちゃんの動きがさらに活発になった。夜中にふいにお腹を蹴られ、目が覚めることもあったが、そんな時ユリは私以上に嬉しそうにしていた。

「今動きましたね!触ってもいいですか?」
「うん、いいわよ。」

ユリの大きな手が私のお腹に触れると、赤ちゃんがまた元気よく動いた。それに驚いて目を丸くする彼を見て、私は思わず笑みを浮かべた。

「すごい…俺たちの子がこんなに元気なんて…。メイ、本当にありがとう。」
「ありがとうって、何を言ってるの?私たち二人の赤ちゃんなんだから、当然でしょ。」

ユリの瞳に浮かぶ愛情の深さは、この世の誰にも負けないものだった。私たちがこれからどんな未来を歩むのか、その不安は消え去り、幸福だけが心を満たしていた。

妊娠後期になると、お腹はさらに大きくなり、動くのがだんだんと大変になってきた。体も重く感じ、些細な動作で息切れすることも増えたが、ユリは私を抱き上げるようにして助けてくれた。

「メイ、無理しないでください。俺が全部やりますから。」
「そんなこと言って、全部抱え込むつもり?」
「当たり前じゃないですか。あなたは俺にとって何より大切なんです。」

その言葉が、どれほど私を安心させたことか。ユリがそばにいてくれる限り、どんな苦難も乗り越えられる気がした。

出産予定日が近づくとともに、緊張感が部屋中に漂っていた。医師や侍女たちは頻繁に出入りし、準備を整える音や小声でのやりとりが途切れることはなかった。私はそのすべてをぼんやりと聞きながら、深い息をついて陣痛の波が来るたびに体を丸めて耐えていた。

「メイ、大丈夫ですか?」

ユリがそばで手を握りしめ、心配そうに私を見つめている。その目には不安と、私を助けたいという気持ちが溢れていた。

「痛いけど…まだ大丈夫…。ユリ、そんな顔しないで。」

そう言ったものの、次の陣痛が訪れると、体が思わず震え、息が詰まりそうになる。ユリがさらに手を強く握り返し、私の額に冷たいタオルをそっと当てた。

「メイ、俺は…何もできないのが悔しい。でも、そばにいますから。絶対に。」

彼の声は震えていた。普段はどんな状況でも冷静で頼りがいのある彼が、こんなに動揺しているのを見ると、私もつい泣きそうになる。

「ユリ、そばにいてくれるだけでいいのよ。」

私はそう言いながらも、次々と押し寄せる痛みに顔をしかめ、言葉を続けることができなかった。

部屋には侍女たちが準備を進める気配があったが、私の視界にはユリしか映らなかった。彼は私の手を握りしめながら、口をきつく結び、何かを必死に堪えるように見えた。

「もう少しですよ、奥様。」

医師が声をかけてくれるが、その「もう少し」がどれほどの時間なのか、私には見当もつかない。次の痛みが来るたびに、体が壊れてしまいそうな気がして、不安と恐怖が胸を締め付ける。

「メイ…もう一息です。」

ユリが私の耳元でささやいた。その声は優しくも力強く、私に頑張れと言っているようだった。彼の存在が私を支えているのだと実感しながら、私は全身の力を振り絞った。

「ユリ、怖い…。でも、頑張る。」
私は涙を浮かべながらそう言った。ユリは私の手をさらに強く握り返し、微笑みを浮かべた。

「大丈夫、メイ。俺がいる。」

その一言が、どれほど私の心を軽くしただろうか。痛みはまだ続くが、彼の言葉とその手の温もりが、私に最後の一押しを与えてくれた。

部屋の中には、命が生まれる直前の緊張感が充満していた。もうすぐ、もうすぐ…。そう自分に言い聞かせながら、私は次の波に備えた。
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