死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

37.愛の結晶、メアルーシュの誕生

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私は陣痛の波に耐えながら、ユリの手を握りしめていた。痛みで声が漏れるたび、ユリの手はさらに力強く握り返してきた。顔を上げると、彼の目が私をじっと見つめていた。その中には、不安と必死さが入り混じっている。

「メイ、大丈夫です。俺がついています。絶対に大丈夫ですからね。」

その声は震えていたが、ユリは無理にでも落ち着きを装っているように見えた。部屋の中には女性の医師と、治癒能力を持つと聞かされていた治癒師が待機し、忙しく準備を進めている。治癒師が私の額にそっと手をかざし、痛みを和らげようとするが、それでも陣痛の激しさには抗えない。

「国外から連れてきた最高の治癒師です。メイ、絶対に死なせたりしませんから!」

ユリの言葉には必死さが滲んでいた。彼の声を聞きながら、私はその手をさらに握り返した。痛みに耐えきれず、小さな声で彼の名前を呼ぶ。

「ユリ…」

彼は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに笑みを浮かべ、私の髪を優しく撫でた。

「もう少しです。メイ!!頑張ってください!」

陣痛が一際強くなり、体が引き裂かれるような感覚に襲われる。私は思わず声をあげ、呼吸が荒くなる。ユリは私の顔を見つめ続け、その手を決して離さなかった。彼の目はいつも冷静で強さを感じさせるが、今はその奥に隠せない焦りと祈りが見えた。

「呼吸を整えて!大きく吸って、ゆっくり吐いて!」

医師が指示を出す中、ユリは私の肩を優しく支え、声を掛け続けた。彼の声は私にとって唯一の支えだった。

時間がどれほど経ったのか分からない。痛みの中で意識が薄れそうになると、ユリが私の額に手を当て、真剣な目で見つめた。

「メイ、しっかりして。俺がいる。」

その言葉に、私は最後の力を振り絞った。そしてついに、赤ん坊の産声が部屋に響き渡る。その瞬間、全ての痛みが消え去ったかのように感じた。

「えぎゃあ!えぎゃあ!」

医師が笑顔で赤ん坊を抱き上げる。

「おめでとうございます!男の子です!」

部屋の中が歓喜に包まれる中、ユリは私の手を握りしめたまま涙を流していた。その瞳には信じられないほどの喜びが溢れている。

「メイ、見てください…俺たちの子です。本当に、ありがとう…。」

しかし、私の体は限界に近づいていた。視界がぼんやりと滲み、次第に意識が遠のいていく。

「メイ!メイ!?しっかりして!」

ユリの叫ぶ声が遠くで聞こえた。その瞬間、何か温かいものが体中を包み込むような感覚が広がり、再び意識が戻る。

「大丈夫です。ただの貧血です。」

ミレーヌの声に、私は思わず吹き出してしまった。自分が死にそうになっていたと思い込んでいたのが、ただの貧血だと言われたからだ。

「死んだかと思った…。」

ユリが私を抱きしめ、涙を流しながら笑顔を浮かべていた。その姿に、私は静かに安心し、赤ちゃんが運ばれてくるのを待った。

赤ちゃんを抱いた瞬間、その温かさと小さな命の重みが私を包み込む。幸せで胸がいっぱいになる。

「わぁ…生きてて良かった…あなたも、ちゃんと生まれてくれてありがとう。」

ユリは私と赤ちゃんを交互に見つめながら、再び目に涙を浮かべた。

「メイ、本当にありがとう。俺たち、絶対に幸せになります。」

数日後、穏やかな陽射しが差し込む部屋の中、私たちは赤ちゃんを見つめながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。赤ちゃんは小さな手を握ったり開いたりしていて、そのたびに私の心は柔らかな温かさで満たされた。

「ねぇ、名前はどうする?」
私が赤ちゃんの顔を見ながら尋ねると、ユリは少し考え込んだように眉を寄せた。

「どうします?俺はメイにつけて欲しいです。」
「私に?でも、ユリも一緒に考えましょうよ。二人の子なんだから。」
「それはもちろんです。でも…メイがどんな名前をつけるのか興味があります。」

ユリが微笑むと、私は困ったように笑い返した。どんな名前がこの子にふさわしいのか、考えれば考えるほど迷ってしまう。


「何か思いつきましたか?」

ユリが聞いてきたので、私は赤ちゃんの顔をじっと見つめた。不思議なことに、この子の髪の毛は左右で黒と桃色に分かれており、その対照的な色合いが、まるでユリと私を繋ぐ象徴のように思えた。そして、瞳は赤と青のオッドアイ。片方は情熱を宿すように輝き、もう片方は静かな湖面のような落ち着きを湛えている。

「そうね…強くて優しい名前がいいわ。でも、ユリはどんな名前がいいと思う?」
「強くて優しい…ですか 。俺が考えると、どうしても戦士のような名前になりそうです。」
ユリは少し照れくさそうに笑いながら言った。

「たとえば?」
「…シュトラールとか、ゼフィルスとか…いや、なんか違いますね。」

ユリの案に私は思わず笑ってしまった。

「それ、完全に戦場に行きそうな名前ね。」
「ですよね。」

ユリも苦笑しながら、再び赤ちゃんの顔に目を向けた。

少しの沈黙が流れる中、私はふとある名前を思い浮かべた。

「ねぇ、ユリ。『メアルーシュ』ってどうかしら?」
「メアルーシュ…。」
ユリはその名前を口にしながら、しばらく考え込んだ。

「意味は?」
「『純粋な祝福』っていう意味を込めたの。私たち二人がどんなに苦しいことを乗り越えても、この子は祝福そのものだと思うの。」

そう言うと、ユリの表情が柔らかく緩んだ。

「いい名前だと思います。メアルーシュ…俺たちの息子にぴったりだ。」

そう言って赤ちゃんの小さな手をそっと握るユリ。その顔には穏やかで深い愛情がにじみ出ていた。

「ねぇ、ユリはどんな父親になるつもり?」
私が問いかけると、ユリは一瞬言葉に詰まったようだった。

「…あまり言いたくはないのですが、とても甘やかしてしまいそうで怖いです。」
「甘やかすの?」
「ええ…甘やかして育てると、ワガママに育つと聞くので、跡継ぎの件もありますから、厳しい親でありたい気持ちも強くて…。」

ユリの表情がどんどん曇っていく。

「でも、厳しい親ですと、俺のようにひねくれるのではと不安が…。」

青ざめた顔でオロオロし始めたユリの様子に、私は思わず吹き出してしまった。

「ぷっははっ。みんなユリのそんな姿を見たら絶対にびっくりしちゃうわね。」
「…う。」

ユリは少し拗ねたように視線をそらし、赤ちゃんの顔をじっと見つめた。

「でも、あなたなら大丈夫よ。ユリは私をこんなに大事にしてくれるんだもの。きっといいお父さんになるわ。」

そう言うと、ユリはほんのりと顔を赤らめながら、小さく頷いた。

ユリは赤ちゃんの不思議な容姿を見つめながら、微笑みを浮かべた。その瞳には、まるでこの子が持つ可能性の全てを想像しているかのような光が宿っている。

「不思議ですね。髪も瞳も…俺たち二人の全てが、この小さな体に宿っている気がします。」

私は頷き、赤ちゃんの小さな手をそっと握った。その手は柔らかく、まだ力のない感触が、かえって愛おしさを増幅させた。

「ユリ、この子には…どんな未来が待っているのかしらね。」

「きっと素晴らしい未来です。俺たちが全力で守り、導いていくのですから。」

彼の言葉には力強さがあり、同時に深い愛情が込められていた。私はユリの隣に寄り添い、赤ちゃんの顔を見ながら、二人で静かに未来を想像した。その瞬間、この特別な家族の絆がさらに強くなった気がした。
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