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シーズン1
39.揺れる心と決死の逃避行
メアルーシュが生まれてから、あっという間に一年が過ぎた。今日は彼の1歳の誕生日。部屋の中では家族だけのささやかなパーティーを開く準備が進んでいた。
「ミレーヌ、この飾りつけ、どう思う?」
私はリビングルームの天井から吊るした色とりどりのガーランドを指さした。ガーランドには、彼の名前「メアルーシュ」が金色の文字で丁寧に描かれている。
「とても素敵です、奥様。まるでお城の中のような華やかさですよ。」
「そうかしら?もう少し何か足したほうがいい気がするんだけど…。」
私は部屋をぐるりと見回しながら、赤や青の風船が並ぶ壁際に目を向けた。風船には小さな星や月の模様が描かれており、部屋全体が夜空のような雰囲気に包まれている。
「奥様、これ以上は十分かと…。お客様もいらっしゃらないですし、過度に飾る必要はないかと思います。」
「そうね。今日は家族だけだものね。」
テーブルの上には、小さなケーキスタンドが置かれていた。ケーキは赤ちゃん用に特別に作られたもので、砂糖を控えめにしたふわふわのスポンジに、カラフルな果物がきれいに飾られている。その横には、私たち大人用の華やかなケーキも用意されていた。クリームの上に、金箔で描かれた「1」という数字がキラリと光る。
「このケーキ、素晴らしいわ。ユリにも早く見せたい…。」
ミレーヌが飾りつけを手伝いながら、部屋を整えてくれている間、私は小さなメアルーシュの服を選び始めた。赤と白のかわいらしいスーツに、ゴールドのリボンがついたネクタイ。彼に着せるのが楽しみで、つい笑みがこぼれる。
「ルー、今日は君の特別な日よ。」
赤ん坊用のクレードルで遊んでいるメアルーシュを見つめながら、私はその小さな姿に心からの愛情を感じていた。
「奥様、このリボンを追加してみてはいかがでしょう?」
ミレーヌが持ってきたのは、小さな星型の飾り付きリボンだった。
「それ、いいわね!ルーの衣装にぴったりだわ。」
準備が整い、部屋中に温かい光が満ちる頃、私はふと時計に目をやった。ユリがまだ戻ってきていない。
「ミレーヌ、ちょっとルーを見ててくれる?ユリがお義父様とお義父様の住む別館から帰ってこないの。様子を見てこようと思って。」
「よろしいですが、お一人で大丈夫ですか?」
「平気、平気。ユリのところへ行くんだもん。何があっても守ってくれるわ。」
ミレーヌは少し心配そうだったが、私の意志を尊重して頷いた。
「畏まりました。ではメアルーシュ様は私がしっかりと見ておりますね。」
「えぇ。お願いね。」
準備が終わり、すっかり賑やかになった部屋を後にして、私は別館へと足を向けた。
―――ユリ、何をしているのかしら。今日は大切な日なのに…。
ドアを開けて一歩廊下に足を踏み出すと、ひんやりとした空気が頬を撫でた。別館への道のりは短いが、ユリがいない部屋を出ると、何とも言えない心細さを感じる。
廊下を進みながら、私は少しだけメアルーシュのことを思い返していた。彼の一歳の誕生日を祝う準備を整えながらも、心のどこかで不安がよぎる。この幸せな時間が、ずっと続けばいいのに…。
ふと足を止めて、胸の前で手を組む。
(きっと何事もないわよね。ユリはきっとお義父様に何か重要な話をしているだけ…そうに違いない。)
自分自身にそう言い聞かせながら、私は再び足を進めた。
別館への道を進む途中、私はかつてここを訪れた時のことを思い出していた。メアルーシュが生まれた後に一度だけ訪れた別館。あの時、お義父様には挨拶できたものの、お義母様とは会えなかった。お義母様はとある部屋に閉じこもり、面会が禁じられていたのだ。
(あの人は私を殺そうとした…気を付けなきゃ。でもユリに似て美人で、妖艶な雰囲気だったことをよく覚えている。メアルーシュもユリに似て、きっと綺麗な顔立ちに育つんだろうな。)
そう考えながら歩みを進め、別館に到着すると、思いもよらない光景が目に飛び込んできた。
ユリが赤ちゃんを抱き、柔らかな笑顔を浮かべている。そして彼のそばには白髪の女性。彼女はユリを背後から抱きしめ、その腕には確かに親愛の情が宿っていた。
一瞬、現実を受け入れることができず、目の前の光景が夢なのではないかと疑った。だが、赤ちゃんの髪が明らかに黒色であることに気付き、私はその現実を認めざるを得なかった。
「嘘…でしょ…。」
声にならない声を漏らし、胸の奥で何かが砕け散るような感覚に襲われた。
(まずい、まずいまずいまずい…メアルーシュ!)
心の中で叫びながら、私は振り返り、急いで本館へ戻った。足音が廊下に響くたびに、過去の苦い記憶が蘇る。
部屋に戻ると、ミレーヌが驚いた顔で私を迎えた。
「メイシール様、どうされたのですか?」
「ミレーヌ、ごめんなさい。今すぐ用事でメアルーシュを連れてここを出ないといけないの…。」
慌てた口調に、ミレーヌの表情が曇る。
「もしや、それは…家出でございますか?」
「時間がないの!今すぐでなきゃ…。」
メアルーシュの小さな体を抱きしめながら、私はミレーヌの反応を気にする余裕もなく、急いでドアへ向かった。しかし、その瞬間、ミレーヌの手が私の腕をそっと掴んだ。
「お待ちください!メイシール様!」
彼女の手は冷たく、それが逆に私の焦りと混乱を少しだけ和らげた。
「ごめんなさい、理由はいつか話すから…。」
「そうではなく、私を連れて行ってください。」
「え?…でも…。」
ミレーヌの目には真剣な光が宿っていた。その目が、彼女の言葉に嘘がないことを物語っている。
「私の主人はお嬢様です。この身は生涯お嬢様にだけ捧げると誓ってここにおります。私を信じてください。ユリドレ様には言いません。」
彼女の力強い言葉が、私の心に深く響いた。
一瞬の迷いの後、私は頷いた。
「分かったわ。ついてきて。」
私の言葉を聞いたミレーヌは、一瞬安堵の表情を浮かべ、すぐに荷物をまとめるために動き始めた。
「私が必要なものをまとめます。メアルーシュ様の着替えと食事の準備も整えますね。」
「お願い、急いで。」
部屋の中は短時間で慌ただしくなった。私はメアルーシュを抱え、彼の寝顔を確認しながら心を落ち着けようとした。
(これでいいのよ。ユリの元を離れなければ、きっとまた過去のような悲劇が繰り返される…。)
ミレーヌは私を支えるようにそっと背中を押し、私たちは静かに屋敷の廊下を進んだ。夜の屋敷はひっそりと静まり返っているものの、時折聞こえる足音やドアの軋む音が、私たちの行動を脅かしているように感じられた。
「この先を曲がれば、厨房を抜けて裏口へ出られます。ただ、夜勤の使用人がいる可能性がありますので、声を出さずに進みましょう。」
ミレーヌは冷静に状況を判断し、私たちを先導してくれる。その頼もしさに感謝しつつ、私はメアルーシュをしっかりと抱き、息を潜めながら進んだ。
厨房の奥へたどり着いたとき、小さな明かりが見えた。扉の向こうには確かに人影がある。
「まずい…見張りです。」
ミレーヌが囁くように言い、私たちは一旦壁の影に身を潜めた。扉の向こうからは、使用人たちの軽い話し声が聞こえてくる。
「今が交代の時間です。少し待てば通れるはず。」
私たちは息を潜め、音に耳を傾けた。しばらくして、話し声が次第に遠ざかる。扉の隙間から確認すると、使用人たちが部屋を出ていくのが見えた。
「今です!」
ミレーヌの合図で、私たちは足音を殺して素早く厨房を通り抜けた。冷たい夜風が感じられる裏口に近づくと、次の難関が待っていた。門の見張りだ。
門番の騎士は二人。どちらも無言で周囲を警戒している。ミレーヌは小さな声で囁いた。
「一瞬の隙を作る必要があります。私が話を引きつけますので、その間に奥様は裏門から出てください。」
「そんな…危険すぎるわ!」
「ご安心を。私の演技力を信じてください。」
ミレーヌは小さな笑みを浮かべると、静かに騎士たちへ歩み寄った。
「ミレーヌ、この飾りつけ、どう思う?」
私はリビングルームの天井から吊るした色とりどりのガーランドを指さした。ガーランドには、彼の名前「メアルーシュ」が金色の文字で丁寧に描かれている。
「とても素敵です、奥様。まるでお城の中のような華やかさですよ。」
「そうかしら?もう少し何か足したほうがいい気がするんだけど…。」
私は部屋をぐるりと見回しながら、赤や青の風船が並ぶ壁際に目を向けた。風船には小さな星や月の模様が描かれており、部屋全体が夜空のような雰囲気に包まれている。
「奥様、これ以上は十分かと…。お客様もいらっしゃらないですし、過度に飾る必要はないかと思います。」
「そうね。今日は家族だけだものね。」
テーブルの上には、小さなケーキスタンドが置かれていた。ケーキは赤ちゃん用に特別に作られたもので、砂糖を控えめにしたふわふわのスポンジに、カラフルな果物がきれいに飾られている。その横には、私たち大人用の華やかなケーキも用意されていた。クリームの上に、金箔で描かれた「1」という数字がキラリと光る。
「このケーキ、素晴らしいわ。ユリにも早く見せたい…。」
ミレーヌが飾りつけを手伝いながら、部屋を整えてくれている間、私は小さなメアルーシュの服を選び始めた。赤と白のかわいらしいスーツに、ゴールドのリボンがついたネクタイ。彼に着せるのが楽しみで、つい笑みがこぼれる。
「ルー、今日は君の特別な日よ。」
赤ん坊用のクレードルで遊んでいるメアルーシュを見つめながら、私はその小さな姿に心からの愛情を感じていた。
「奥様、このリボンを追加してみてはいかがでしょう?」
ミレーヌが持ってきたのは、小さな星型の飾り付きリボンだった。
「それ、いいわね!ルーの衣装にぴったりだわ。」
準備が整い、部屋中に温かい光が満ちる頃、私はふと時計に目をやった。ユリがまだ戻ってきていない。
「ミレーヌ、ちょっとルーを見ててくれる?ユリがお義父様とお義父様の住む別館から帰ってこないの。様子を見てこようと思って。」
「よろしいですが、お一人で大丈夫ですか?」
「平気、平気。ユリのところへ行くんだもん。何があっても守ってくれるわ。」
ミレーヌは少し心配そうだったが、私の意志を尊重して頷いた。
「畏まりました。ではメアルーシュ様は私がしっかりと見ておりますね。」
「えぇ。お願いね。」
準備が終わり、すっかり賑やかになった部屋を後にして、私は別館へと足を向けた。
―――ユリ、何をしているのかしら。今日は大切な日なのに…。
ドアを開けて一歩廊下に足を踏み出すと、ひんやりとした空気が頬を撫でた。別館への道のりは短いが、ユリがいない部屋を出ると、何とも言えない心細さを感じる。
廊下を進みながら、私は少しだけメアルーシュのことを思い返していた。彼の一歳の誕生日を祝う準備を整えながらも、心のどこかで不安がよぎる。この幸せな時間が、ずっと続けばいいのに…。
ふと足を止めて、胸の前で手を組む。
(きっと何事もないわよね。ユリはきっとお義父様に何か重要な話をしているだけ…そうに違いない。)
自分自身にそう言い聞かせながら、私は再び足を進めた。
別館への道を進む途中、私はかつてここを訪れた時のことを思い出していた。メアルーシュが生まれた後に一度だけ訪れた別館。あの時、お義父様には挨拶できたものの、お義母様とは会えなかった。お義母様はとある部屋に閉じこもり、面会が禁じられていたのだ。
(あの人は私を殺そうとした…気を付けなきゃ。でもユリに似て美人で、妖艶な雰囲気だったことをよく覚えている。メアルーシュもユリに似て、きっと綺麗な顔立ちに育つんだろうな。)
そう考えながら歩みを進め、別館に到着すると、思いもよらない光景が目に飛び込んできた。
ユリが赤ちゃんを抱き、柔らかな笑顔を浮かべている。そして彼のそばには白髪の女性。彼女はユリを背後から抱きしめ、その腕には確かに親愛の情が宿っていた。
一瞬、現実を受け入れることができず、目の前の光景が夢なのではないかと疑った。だが、赤ちゃんの髪が明らかに黒色であることに気付き、私はその現実を認めざるを得なかった。
「嘘…でしょ…。」
声にならない声を漏らし、胸の奥で何かが砕け散るような感覚に襲われた。
(まずい、まずいまずいまずい…メアルーシュ!)
心の中で叫びながら、私は振り返り、急いで本館へ戻った。足音が廊下に響くたびに、過去の苦い記憶が蘇る。
部屋に戻ると、ミレーヌが驚いた顔で私を迎えた。
「メイシール様、どうされたのですか?」
「ミレーヌ、ごめんなさい。今すぐ用事でメアルーシュを連れてここを出ないといけないの…。」
慌てた口調に、ミレーヌの表情が曇る。
「もしや、それは…家出でございますか?」
「時間がないの!今すぐでなきゃ…。」
メアルーシュの小さな体を抱きしめながら、私はミレーヌの反応を気にする余裕もなく、急いでドアへ向かった。しかし、その瞬間、ミレーヌの手が私の腕をそっと掴んだ。
「お待ちください!メイシール様!」
彼女の手は冷たく、それが逆に私の焦りと混乱を少しだけ和らげた。
「ごめんなさい、理由はいつか話すから…。」
「そうではなく、私を連れて行ってください。」
「え?…でも…。」
ミレーヌの目には真剣な光が宿っていた。その目が、彼女の言葉に嘘がないことを物語っている。
「私の主人はお嬢様です。この身は生涯お嬢様にだけ捧げると誓ってここにおります。私を信じてください。ユリドレ様には言いません。」
彼女の力強い言葉が、私の心に深く響いた。
一瞬の迷いの後、私は頷いた。
「分かったわ。ついてきて。」
私の言葉を聞いたミレーヌは、一瞬安堵の表情を浮かべ、すぐに荷物をまとめるために動き始めた。
「私が必要なものをまとめます。メアルーシュ様の着替えと食事の準備も整えますね。」
「お願い、急いで。」
部屋の中は短時間で慌ただしくなった。私はメアルーシュを抱え、彼の寝顔を確認しながら心を落ち着けようとした。
(これでいいのよ。ユリの元を離れなければ、きっとまた過去のような悲劇が繰り返される…。)
ミレーヌは私を支えるようにそっと背中を押し、私たちは静かに屋敷の廊下を進んだ。夜の屋敷はひっそりと静まり返っているものの、時折聞こえる足音やドアの軋む音が、私たちの行動を脅かしているように感じられた。
「この先を曲がれば、厨房を抜けて裏口へ出られます。ただ、夜勤の使用人がいる可能性がありますので、声を出さずに進みましょう。」
ミレーヌは冷静に状況を判断し、私たちを先導してくれる。その頼もしさに感謝しつつ、私はメアルーシュをしっかりと抱き、息を潜めながら進んだ。
厨房の奥へたどり着いたとき、小さな明かりが見えた。扉の向こうには確かに人影がある。
「まずい…見張りです。」
ミレーヌが囁くように言い、私たちは一旦壁の影に身を潜めた。扉の向こうからは、使用人たちの軽い話し声が聞こえてくる。
「今が交代の時間です。少し待てば通れるはず。」
私たちは息を潜め、音に耳を傾けた。しばらくして、話し声が次第に遠ざかる。扉の隙間から確認すると、使用人たちが部屋を出ていくのが見えた。
「今です!」
ミレーヌの合図で、私たちは足音を殺して素早く厨房を通り抜けた。冷たい夜風が感じられる裏口に近づくと、次の難関が待っていた。門の見張りだ。
門番の騎士は二人。どちらも無言で周囲を警戒している。ミレーヌは小さな声で囁いた。
「一瞬の隙を作る必要があります。私が話を引きつけますので、その間に奥様は裏門から出てください。」
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