死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

47.切望と苦悩

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数日が過ぎた頃、息子の小さな声が俺の胸を打つ瞬間が何度も訪れた。透明化した俺を見て、ルーが「パパ!」と無邪気に呼びかける。その純粋な響きに、俺は思わず笑顔を浮かべ、そっと手を振った。だが、その場にいるメイは不思議そうに周囲を見回し、俺の存在を疑っているようだった。

彼女が俺を探そうと歩き回るたび、俺は息を殺し、物陰に身を隠した。メイの視線が鋭く動くのを見ていると、心がざわめく。俺は彼女に触れることも、声をかけることもできない。ただ、こうして影の中から見守ることしか許されないのかもしれない。

ある夜、ルーが床に座り、遊びに夢中になっているのを見ていた。だが、突然、彼の小さな手から火が上がった。その光景に俺の心臓は跳ね上がり、咄嗟に駆け寄った。メイの驚きの表情を横目に、俺は魔力を息子の手に流し込み、その火を静かに消した。

「えっ!?」とメイが声をあげた、俺の目を真っ直ぐに見つめた。その疑念に満ちた瞳は俺の胸を締め付けた。メイは何かに気づき始めている。だが、今はそれに答えるべきではない。

発火の問題を解決するため、俺はすぐに行動を起こした。部下を呼びつけ、レッドナイト家の幼少期の必需品である発火能力を封じるアンクレットを取り寄せさせた。到着したアンクレットはシンプルで、だがその魔力封印の効果は確かなものだった。

アンクレットをミレーヌに託し、彼女にメイの元へ戻るよう命じた。ミレーヌの忠実さは計り知れない。彼女がメイの側にいることで、メイの警戒心が少しでも和らぐことを期待した。

ミレーヌがメイのもとへ戻ると、メイの生活は少しずつ落ち着きを取り戻したようだった。彼女はルーを風呂に入れ、洗い終わるとミレーヌに預け、一人で静かに湯浴みを楽しむようになった。

そのおかげで、俺は透明な姿のまま、息子と静かな時間を過ごせるようになった。小さな体を腕に抱きしめ、愛おしさが込み上げてくる。この子は奇跡そのものだ。俺とメイの愛の結晶。彼の存在を目にするだけで、胸の奥が熱くなる。

「パパ!」とルーが笑顔を向けるたび、俺はそっと彼の髪を撫で、声にならない想いを込めた。

夜が更け、メイとルーが静かに眠りについた後、俺は部屋の片隅で息を潜めながら心に誓った。

――――必ず解決する。そして、3人でまたあの家に帰る。

俺の計画がどれほど狂ったとしても、メイとルーとの未来を諦めるわけにはいかない。どれほどの時間がかかっても、どれほどの障害があろうとも、この家族を取り戻す。それが俺のすべてだ。

俺の目の前には豪華な衣装を身に纏ったラズベルが立っていた。その姿を見た瞬間、心の中で小さな棘のような違和感が刺さる。

「あら、ラズベル。オシャレしてどうしたの?」

その声に意識が引き戻され、俺は彼女を観察した。煌びやかな衣装、そして彼女の仕草はどこか自信に満ちていた。いや、メイの姿がふと重なり、心の奥底から抑えきれない欲望が顔を出す。

「奥様、お得意様が最近顔を出さないと心配しておりまして、今朝、手紙が届いたのです。少しだけ顔を見せにいってきますね。」

「えぇ。お願いね。」

メイの何気ない返事。それを耳にした俺は、胸の中で嵐が渦巻くのを感じた。触れたい。壊してしまいたいほどに触れたい。しかし、その言葉を口に出すことはできない。

「…いいなぁ…。私も…着飾って会いにいきたい。」

その言葉が俺の耳に届いた瞬間、俺の中で疑念が膨らんだ。誰にだ?俺ではない誰かにか?もし本当にそうならば、どうする?父上のように記憶を封印するのか?いや、そんなことはしたくない。だが、俺の胸に渦巻く欲望は抑えられない。

俺は窓の近くへと足を運び、外にいる部下にサインを送る。それは新聞社にフェイクニュースを流す指示だった。その内容は、俺たち3人が馬車で崖から転落し、行方不明になったというもの。この情報を広めれば、長期間屋敷を離れても怪しまれることはないだろう。

翌朝、新聞には俺が流したフェイクニュースが掲載された。記事を読んだメイは目を見開き、その手に持った新聞をビリビリと破り捨てた。

「な、なによこれ!!?」

彼女の怒りの声が部屋中に響き渡る。その瞬間、俺は彼女の怒りに対して戸惑いを覚えた。何故だ?何故そこで怒る?その理由がわからない。だが、彼女の言葉は俺の胸を鋭く抉った。

「ユリ…。ユリの馬鹿…。」

メイの声が震え、彼女の目から涙がこぼれ落ちる。ミレーヌが彼女の肩に手を置き、なだめるように語りかける。

「きっと何かの間違いです。やはり、旦那様に直接相談しにいかれたほうが良いと私は思うのですが…。」

「会ってどうするっていうの?…許しを乞うの?…ルーが殺されてしまったら私…、私だけなら殺されてもいいの…。でも…ルーは…ルーだけは…。」

その言葉を聞いた俺の心は鋭いナイフで切り裂かれるように痛んだ。何故俺がルーを殺す?ありえないだろう。俺の中でそんな未来は存在しない。

メイの涙を見て泣き出した息子を慰めるため、俺は透明化したままそっと彼のそばへ近づいた。彼の小さな背中を優しく撫で、その温かさを感じる。小さな体が震えるたびに、俺の胸も締め付けられるようだった。

「ルー…。」

俺の心には愛と苦悩が渦巻いていた。息子を愛し、メイを愛する気持ち。それが全てを駆り立てる。それでも俺は静かに彼を慰め続けた。

――――全てを知ったら、君は怒るだろうな。いや、俺を軽蔑するだろう。でも、知られなければいい。神は俺を選んだんだ。もう後戻りはできない。

俺は自分にそう言い聞かせながら、心の奥底から切実に願った。

――――メイ…お願いだから、俺だけを見てくれ…。

この言葉が、俺の心の中で繰り返し響く。触れられない距離、近づくことの許されない現実。それでも、俺は彼女を守り、彼女と共に生きる未来を掴み取るため、全てを犠牲にする覚悟だった。

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