死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

48.母を守る幼き声

息子を抱えながら家を出た私、メイシール・レッドナイト。あれから1ヶ月が過ぎようとしていた。平穏ではないが、命の危機を逃れるためのこの生活に、少しずつ慣れ始めていた。

そんなある日、届いた新聞を何気なく開いた瞬間、目に飛び込んできた見出しに全身が凍りついた。

【レッドナイト公爵家の子息とその家族、馬車事故で行方不明!】

一瞬、理解が追いつかない。視界が揺れる。心臓が急速に早まり、手元の新聞が震える。

「な、なによこれ!!?」

声にならない悲鳴が喉から漏れた。この意味不明な報道は何?私たちはここにいる。馬車に乗ることすらしていない。じゃあこれは誰?ユリ?彼は本当に無事なの?もし無事じゃないのなら、誰と一緒だったの?

「ユリ…。ユリの馬鹿…。」

怒り、困惑、悲しみが入り混じり、涙が止めどなく溢れ出す。感情の奔流に飲まれ、新聞をその場でビリビリと破り捨てた。破れた紙片が床に散らばるのを見つめながら、堪えきれず膝をついた。

「奥様、大丈夫ですか?」

ミレーヌがそっと声をかけてきたが、私の耳には届かない。心の中は混乱の嵐だった。泣き声を聞いてしまった息子がぐずり始めるのがわかる。それでも、彼をあやす余裕すら持てなかった。

「きっと何かの間違いです。やはり、旦那様に直接相談しにいかれたほうが良いと私は思うのですが…。」とミレーヌは言う。

「会ってどうするっていうの?…許しを乞うの?…ルーが殺されてしまったら私…、私だけなら殺されてもいいの…。でも…ルーは…ルーだけは…。それに…今は行方不明じゃない…。」

その言葉を言い終えると、私の中で押し込めていたものが一気に溢れ出した。ユリが他の誰かと子供を持ったと考えると、嫉妬が胸を締め付ける。けれど同時に、もし彼が危険にさらされているならと思うと、不安が押し寄せる。

ミレーヌがルーをあやし、泣き声が徐々に治まるのを感じながら、ラズベルが私の肩に手を置いた。

「奥様、すみません。奥様が一番苦しんでいる時に私は浮かれてばかりいて…。」

「ううん、いいの。アナタの仕事は子爵令嬢のラズベルとしてここで幸せに過ごすこと…だからね。」

「ですが…。」

「それ以上何か言ったら、給料を上げちゃうわよ。」

「ひぃっ!?これ以上は受け取れません!!それでなくとも幸せ過ぎて、壊れてしまいそうで心配ですのに…。」

「ラズベルはそれでいいの。」

彼女の笑顔に少しだけ癒される。けれど心の奥底では、まだユリへの気持ちが渦巻いていた。ふと、自分でも気づかなかった思いが頭をよぎる。

――あれ?私…さっきからずっと、ユリを自分のものにしたいと考えてる?

自分でも驚くほどはっきりとした感情が芽生えた。気づけば、涙がまた頬を伝っている。

――あぁ…なんだ。私、ユリのことがこんなにも好きだったんだ。愛していたんだ。あれだけ面倒な人だと思ってたのに…。

涙と共に、胸の中にたまっていた気持ちが溢れ出す。

「ほんとに…面倒な人。」

その言葉に、思わず笑みがこぼれる。それでも、流れる涙が止まらなかった。愛するということは、こんなにも痛いものだっただろうか。こんなにも強く誰かを求める気持ちは、これまでの人生で経験したことがなかった。

その夜、私は枕を濡らしながら、ユリへの気持ちと向き合った。彼を取り戻したい。その思いが、私の胸を熱く締め付けたのだった。

王歴820年。ユリが姿を消してから1年が過ぎようとしていた。この静かな家での日々は、穏やかなはずなのに、私にとっては孤独と不安の連続だった。息子のメアルーシュの成長は喜びそのもので、その笑顔が唯一の救いだった。しかし、それでもユリの姿が見えないという現実が、私の心を締め付け続けていた。

ある日の午後、玄関のベルが鳴った。

今日はミレーヌが私用で外出し、ラズベルも買い出しに出かけている。家には私とルーだけ。誰が来たのかと胸がざわついた。不安が心を覆い、息が浅くなるのを感じながら、私は慌ててスカーフを手に取り、顔が見えないように巻いた。

「誰かが私を見つけたの?まさか…ユリ?」

そんな考えが頭をよぎる中、慎重に玄関へ向かった。手が震えながらドアノブに触れ、ゆっくりと開けると、目の前にはレオルの姿があった。

「不味い!」内心でそう叫んだ。ラズベルのフリをしなければならない。私は即座に彼女の声を思い出し、少し高めのトーンで口を開いた。

「あー…ご機嫌よう。えっと、ラズベル。その恰好はどうしたの?なんか身長縮んでないか?」

レオルが疑いの目を向けてくる。私は背を伸ばして笑いを装った。

「えーっと、寝起きで…。猫背になってるのかしら。」

「ははっ。それは間が悪い時に来てしまったね。」

レオルの柔らかな笑顔に、私は心の中で冷や汗をかきながらも、なんとか自然な返答を心がけた。

「それで、どうかされましたか?」

「明後日に一緒に劇を見に行かないか?どうしても、君と一緒に見たいんだ。」

その申し出に、心臓がドクンと跳ねた。私がラズベルでないと気づかれたらどうなる?緊張で息が詰まりそうになる中、必死に冷静を装った。

「えっと、その…そうだね、一緒に行くのはいいかもしれないね。」

その場しのぎの言葉を紡ぎながら、頭の中では「断るべきか」「でもそれでは怪しまれる」と迷いが渦巻いていた。

「じゃあ、明後日の朝にここに迎えにくるよ。」

レオルの言葉に、私はぎこちなく頷いた。彼はそれ以上何も言わずに立ち去っていった。


彼が完全に立ち去ったのを確認すると、私は思わずその場にへたり込んだ。体中の緊張が一気に抜け、膝が震えているのが自分でも分かった。スカーフを乱暴に外して床に置き、胸を押さえながら荒い息を整えた。

「やった…やりきったわ…!」

口元から小さな笑い声が漏れた。それは、緊張が解けた安堵と、自分が見事に役を演じ切った達成感から生まれたものだった。私は心の中で、さっきの自分に拍手を送りたくなるほどだった。

鏡のように反射する玄関の窓ガラスに映る自分の姿を見て、なんとかラズベルになりきれたことを再確認する。普段と違う声色で話し、自然に背伸びをするという苦肉の策も、どうにか功を奏したようだ。

「ふぅ…」と大きな息を吐き出しながら、玄関の壁に背を預け、天井を見上げた。

「私、うまくやれたのよね…。いや、絶対にやりきったわ。」

だが、笑顔を浮かべたその瞬間、胸の奥に少しだけ冷たい感情が流れ込むのを感じた。それは、達成感と安堵の中に、わずかな後ろめたさが入り混じったものだった。彼を騙し、嘘をつき、ひとまずこの場を切り抜けたことへの罪悪感が、ほんの小さな棘のように心を刺していた。

「ラズベル…。あなたってこんな感じなのかしら?」

彼女の役を演じ切る自分を少し不思議に感じながらも、同時に心のどこかで、彼女の存在に感謝していた。彼女という「役割」があったからこそ、私はこの場を乗り越えることができたのだ。

立ち上がり、玄関に置いたスカーフを拾い上げ、肩にかけた。その手が小さく震えていることに気づき、思わず苦笑いを漏らした。

「次はうまくできるかわからないけど…とりあえず、今日はこれで良しとしましょう。」



何気なくリビングへ戻ると、「父さん殺しちゃダメだ!!」と喋られるわけがない息子が、しっかりとした発音でこちらを向いて叫んでいた。

その驚くべき光景に、私は目を見開いて息子を見つめた。彼の口から出たその言葉は、まるで何かが彼に憑依したかのように思えた。

「え?」
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