死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

52.過労死させる気ですか?

ゼノの言葉には長期間蓄積された苛立ちが込められていた。その冷静さの中に潜む怒りの気配に、私もユリも言葉を失ってしまう。部屋の中の空気が一層重くなり、書類の山がさらに私たちを圧迫してくるように感じられた。

しばらくの沈黙の後、私は小さな声でぽつりとつぶやいた。

「ゼノ…本当に大変だったのね…。あの黒い髪の毛が銀色に変わってしまうなんて…。」

冗談交じりの言葉で少しでも場を和らげようと思ったつもりだった。しかし、その一言にゼノが目を大きく見開き、振り返った。

「これは地毛です!決して白髪ではありません。」

ゼノの声には、自尊心を守ろうとする強い意志が込められていて、私の軽口は見事に打ち砕かれた。彼のまっすぐな視線に、私はすぐに顔を赤らめ、慌てて謝罪した。

「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかったの。つい…。」

ゼノは静かに溜息をつき、眼鏡を押し上げながら冷静さを取り戻したようだったが、その目にはどこか怒りがまだ残っているように見えた。

すると、横に立っていたミレーヌがふいに眉間にしわを寄せ、少し驚いたような表情を浮かべた。

「地毛ですって?」

その一言に、部屋の中の雰囲気が一瞬変わる。ゼノは彼女に軽く視線を向けただけで特に反応を示さなかったが、ミレーヌの顔には疑念が浮かんでいた。

「どうしたの?ミレーヌ。」

私は彼女の表情が気になり、思わず尋ねた。彼女は一瞬戸惑ったように目を伏せた後、表情を整え、少し硬い声で答えた。

「いえ、それではメアルーシュ様をお部屋にお連れいたしますね。」

彼女はそう言うと、丁寧にお辞儀をしてからメアルーシュを抱き上げた。彼女の手は少し震えているようにも見えたが、その理由がわからず、私は彼女をじっと見つめることしかできなかった。

ミレーヌが部屋を出て行った後、私は胸の中に小さな不安が生まれるのを感じた。彼女の反応は普段の彼女らしくない。ミレーヌはいつも冷静で、どんな場面でも感情を表に出さない女性だ。それが、あの「地毛」という言葉に何かを感じ取ったように見えた。

ゼノは特に気にした様子もなく、再び散乱する書類を見て静かに呟いた。

「とにかく、これを片付けなければ…。主、手伝っていただけますね?」

その一言に、ユリが少し苦笑しながら頷いた。

「わかった。俺も責任を果たそう。」

私はそんな二人を見つめながら、ミレーヌの先ほどの態度に心が引っかかりつつも、ひとまず目の前の書類整理に加わることにした。

ユリが眉をひそめながら口を開いた。

「ゼノ、父上にこの仕事を回せなかったのか?」

その問いかけに、ゼノは一瞬だけ手を止め、深いため息をついた。そして、冷静だがどこか皮肉を含んだ口調で答えた。

「主様、主様のお父上にこの量の仕事を回すくらいなら、ここに放置しておくほうがマシです。」

彼の言葉には、淡々とした口調ながらも明らかな拒絶と冷徹さが滲んでいた。周囲の空気が一瞬ピリつく。ユリはその答えに軽く眉を上げ、思わず笑いそうになったのを堪える。

私が慎重に書類を避けながら進み、ベッドに積まれた書類の山に手を伸ばした。予想通り、それらは領地運営や屋敷管理に関する重要な書類ばかりだった。さすがゼノ、彼が最優先で片付けてほしいと考えていたものがここにあるはずだと思っていたが、やはり間違いなかった。

書類を数枚手に取り、机の上に整然と並べると、私はすぐに判子とサインを始めた。

「まさか…、これを片付けるつもりですか?」

ユリの驚いた声が背後から聞こえた。その問いに振り返らずに答えながら、手を止めることなく作業を続けた。

「もちろん。それが貴族の務めでしょ?」

「ゼノめ…。」

ユリの呟きにクスリと笑いながら、私は振り向いて彼を見た。

「ゼノは悪くないでしょう?むしろ、彼がここまで完璧に整えてくれたおかげで、私たちはサインするだけで済むのよ。感謝して、休暇と追加の報酬をあげるべきだわ。」

ユリは一瞬ゼノを睨むように見た後、私に向かって微笑んだ。その表情には悔しさとどこか納得したような気配が混ざっていた。

「確かに、ゼノは素晴らしい仕事をしてくれていますね。休暇と追加の報酬を与えるのは良いアイデアだ。」

「それでいいわ。さ、ユリも手を動かして。」

「もちろんです!!」

ユリは書類の束を手に取り、手早く目を通し始めた。彼が少しでも早く片付けて、私との時間を取り戻したいと考えているのは明らかだった。その気持ちを知りつつも、私は手を動かし続けた。

彼の手さばきは慣れたもので、書類を丁寧に整理し、必要な箇所にすばやくサインをしていく。真剣な表情で作業に没頭する彼を見ていると、不思議と微笑みがこぼれてきた。

彼の集中した横顔、力強い筆運び、そして時折見せる小さなため息までもが、今の私には愛おしく感じられる。こんな風に仕事に向き合う姿が、私の心をじんわりと温かくする。

思わず、自分の胸の内を見つめ直す。私はいつの間に、こんなにも彼のことを好きになっていたのだろう。アジャールやレオルを好きだった頃とは比べ物にならないほど、大きくて深い気持ち。それに気付いた瞬間、少し恥ずかしさが込み上げてきた。

「何かおかしいですか?」

ユリが不思議そうに顔を上げ、私の笑みを見て尋ねる。

「ううん、ただ…ちょっとね、ユリが真剣に働いてる姿が素敵だなって思っただけよ。」

その言葉にユリは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに口元を緩めて微笑んだ。

「それは光栄です。では、もっと素敵に見えるように、手を抜かずに頑張ります。」

その返答に、私も微笑みながら頷いた。私たちがこうして一緒に仕事を進めているこの時間が、とても愛おしく、幸せなものに思えた。

部屋に差し込む朝の光が眩しく、私はベッドの上で目を細めながら軽く伸びをした。その瞬間、隣で同じように寝そべっていたユリがふと動きを止め、私をじっと見つめていた。

「んーー!!もう朝だー。まぶしー。」
私は半分眠気が残ったまま、天井を見つめながらぼやいた。すると、ユリが不意に私の上に覆いかぶさってきた。

「ユリ…?」
驚きと戸惑いの混ざった声が自然と漏れた。彼の目には何か熱いものが宿っていて、普段の冷静な表情とは全く違う、情熱的な気配を放っていた。

「ユリ…私たち徹夜明けだよ…ね?」
その状況の異様さを感じ取りながらも、私は落ち着いた声で彼をなだめようとした。部屋には私とユリの二人きり。どうやらまた彼が部下たちを下げさせたらしい。

「私途中で寝ちゃうかもしれないよ?」
冗談めかしてそう言ったが、彼は微塵も動じず、さらに近づいてきた。

「もう…我慢してる余裕が…ありません。」
彼の低い声には覚悟と切迫感がにじみ出ていて、私の心臓がドクンと跳ねた。額にうっすらとかいた汗が、彼がどれほど感情を抑え込んでいたのかを物語っている。

彼の熱い視線に耐えきれず、私は視線をそらしながら、心の中で葛藤していた。―これ以上彼を煽るようなことを言ってはいけないとわかっているのに―。

「ユリ…戻ったら言おうと思ってたことがあるの。」
彼の顔がさらに近づくのを感じながら、ついに言葉を絞り出した。

「なんです?」
彼の声は抑えた興奮を隠しきれないようだった。

一瞬の静寂が流れた。胸が高鳴り、彼の息遣いさえも聞こえるほどだった。私は大きく息を吸い込み、覚悟を決めてその言葉を口にした。

「ユリ…愛してる…。」
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