死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

63.深夜の襲撃

「チッ。警備はどうなっている。」

低く鋭い声で言い放つと、部屋の一角からまるで闇から現れたかのように黒ずくめの人影がスッと現れた。その動きの無音さに、私は少し息を呑む。

「それが…外で矢を放っているのは、奥様の兄君、シリル様で…。我々もどのように対処すべきか判断できませんでした。」

ユリは眉間に深い皺を寄せ、短く息を吐く。その様子を見て、私の心にじわじわと不安が広がる。

「え!?お兄様が?こんな時間に?」

驚いて問い返すと、黒ずくめの影が僅かに頭を下げながら答えた。

「はい。お二人が夕食を召し上がり終わった後、すぐにご到着されました。賓客室にご案内し、お寛ぎになっていたはずなのですが…湯浴みのお時間があまりにも長く、お痺れを切らされたご様子で…。」

その説明に、私は思わず顔が熱くなる。湯浴みが長すぎた――確かに、思い返せばそうだったかもしれない。

ユリは肩を落としながら、深々とため息をついた。

「分かった。すぐにメイの兄君に会いに行く。メイ、一緒に行きますか?」

彼が私に向けた視線は穏やかだったが、その瞳の奥には微かに疲労と苛立ちが垣間見えた。私は迷いながらも小さく頷いた。

「えぇ…行くわ。」

ユリは頷き、スムーズな動作で部屋を出る準備を整える。私は彼の後を追い、少し緊張しながら廊下へと足を踏み出した。

廊下を歩きながら、私はユリに一歩遅れてついていった。彼の背中はいつも以上に頼もしく見えたが、その歩みに微かな焦燥がにじんでいるようにも見える。

「シリル兄様…一体何があったのかしら。」
小さな声で呟くと、ユリはちらりとこちらを振り返り、柔らかい笑みを浮かべた。

「大丈夫です。俺が何とかしますから。」
その言葉に、私の心の中に広がっていた不安が少しだけ和らぐ。 賓客室の扉の前でユリが立ち止まり、軽く息を整える。彼は私を一瞥し、「行きますよ」と短く告げて扉を開けた。

彼の姿が目に入った瞬間、私は思わず息を呑んだ。久しぶりに見る兄の顔は、驚くほどやつれていて、目の下には深いクマが刻まれている。これほど疲れ切った様子の兄を見るのは初めてだった。

「夜分遅くに失礼します。どうしても急ぎ、確認したいことがありまして。」

彼の低い声には、疲労だけでなく、何かを焦るような切迫感が滲んでいた。兄が私たちの前に立ち、鋭い目でユリを見据える。

「確認したいことというのは、俺に妹がいるかどうかですか?」

ユリの言葉に、部屋の空気が一瞬凍りついた。私は目を丸くし、シリル兄様は目を見開いて驚きを隠せない。

「…っ!? 何故それを…。」

兄の反応に、私は混乱するばかりだった。ユリは冷静に、まるで予想通りだとでも言わんばかりの表情を浮かべている。何が起きているの?どうしてこんな話題になっているの?

「えっ!?どういうこと?お兄様。」

私の声が少し震えているのを感じた。兄が妹の存在を気にする理由が全く分からない。それに、ユリがなぜそんな情報を知っているのかも謎だ。

「メイ、兄君は回帰してるんだよ。」

ユリが淡々とした声でそう告げた瞬間、兄の表情が険しくなり、次の瞬間にはユリの胸倉を掴み、立ち上がらせていた。突然の行動に私は息を呑む。

「どうしてお前が知っている!!メイシール!!お前がコイツに言ったのか!?」

兄の怒鳴り声が部屋中に響く。私は慌てて席を立ち、二人の間に入ろうとする。

「お兄様、手を放して!それに…私は…。」

ユリは兄に掴まれたままでも動じることなく、冷静な視線を兄に向けた。まるでこの展開を予測していたかのようだ。

「公爵家の裏の顔…ご存知じゃないわけではないでしょう?あまりうちの情報網を舐めないで頂きたい。ですが、ご安心ください。これを知るのは俺だけです。悪用など一切しておりませんから。」

その言葉に、兄は一瞬戸惑いを見せると、しぶしぶ手を離した。ユリは軽く胸元を整えながら、何事もなかったかのようにソファへ座り直す。

「他で知ってしまったのなら、仕方がないな。すまない。無礼をした。」

兄が一礼し、少しばかり申し訳なさそうに言葉を続けると、ユリは穏やかに微笑んで首を振った。

「いえいえ、お気持ちお察し致します。」

兄の態度が少し和らいだのを見て、私はホッと胸を撫で下ろした。しかし、疑問はまだ解決していない。

「お兄様…どういうことなの?学校は?」

私が問いかけると、兄の表情が僅かに曇る。その目にはかつての自信に満ちた光がなく、代わりに深い疲労感が漂っている。

「学校?あんな子供遊び場にもう用はない。飛び級試験を受けて今日卒業してきた。」

彼の言葉に、驚きがさらに深まる。

「今日!?待って、えっと…お兄様は何度目の人なの?」

私が戸惑いを隠せずにそう尋ねると、兄は少しの間黙り込んだ後、深く息を吐いた。その目には何かを覚悟したような光が宿っていた。


シリルお兄様はズボンの裾をゆっくりとめくり、右足を私たちに見せた。

そこに現れたのは、青白く輝くブルービショップ家の紋章と、それに絡む幾重もの鎖だった。その鎖は膝の上まで伸びており、まるで彼の過去の苦悩や罪を刻みつけるかのように彼の肌に絡みついていた。その光景を目にした瞬間、私は全身が凍りつくような感覚を覚えた。

「お兄様… これは…。」

震える声で問いかけると、シリルお兄様は深くため息をつき、疲れ果てた表情で答えた。

「俺は愛する人を何度も傷つけて、その度にここへ戻って来た。」

彼の静かな言葉には、底知れない重みがあった。その言葉が胸に突き刺さり、私は息をするのも忘れてしまうほどだった。お兄様が何度も回帰を繰り返してきたこと、その度に苦しみと向き合い続けてきたことを思うと、胸が締め付けられた。

「愛する人って…もしかして!?」

思わず口にした私の言葉に、兄の目が一瞬揺らぐ。その視線を追いながら、私は以前ユリが話してくれた異国の血が混ざることによる体質の変化について思い出した。兄も私も母の異国の血を受け継いでいる。そのため、私たちはこの国の人々と体質が合わず、結婚しても子供を持つことが難しい。兄はその現実に絶望し、愛する人との関係が拗れてしまったのだろう。

「子供、子供って…なんなんだよ。」

突然、兄は声を荒げた。その声には怒りと絶望が滲み、私の心に痛みを与えた。

「そんなに跡継ぎが必要か?ブルービショップなんて滅びれば良いじゃないか。メイシール、回帰したお前なら分かるだろう?」

その問いかけは鋭く、私の胸に突き刺さるようだった。兄の痛みが手に取るようにわかる。かつての私なら、彼の考えに賛同していたかもしれない。回帰の記憶が私に苦しみを与えていた頃、同じようにブルービショップ家を憎んでいたからだ。

だが、今の私は違う。

「お兄様…確かに、ユリと出会うまでの私はお兄様に賛同できたかもしれません。でも今は…。」

ユリとルーと出会い、彼らと過ごす時間が私を変えてくれた。今ではブルービショップ家に生まれたことすらも誇らしく感じる。彼らが私に与えてくれた幸せは、過去の苦しみを覆してしまうほどのものだった。

「お義兄様、戻られたばかりでお辛いと思いますが、我が家で療養されてはいかがでしょうか?」

ユリが穏やかな声で提案する。その言葉には、シリル兄様を思いやる真心が込められていた。

「ご実家では落ち着かないでしょう?」

兄は一瞬だけ目を伏せたが、すぐに顔を上げてユリを睨みつけた。その目には苛立ちと苦しみが混ざり合っていた。

「はっ。ブルービショップの能力者でもない癖に、どうしてお前はいつも先を見通しているんだ。」

兄の声は低く、怒りを押し殺したようだった。

「お前は何を話しても俺の話を理解する…。」

そう呟く兄の声が、次第にかすれていく。その姿を見ていると、私は胸の奥から涙が込み上げてきた。彼の苦しみが手に取るようにわかる。孤独と葛藤の中で、何度も同じ道を歩んできた兄。彼が背負ってきた重みを思うと、胸が張り裂けそうだった。


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