死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

65.回帰者からの助言

シリルお兄様が療養のため滞在し始めてから三日目のこと。朝の穏やかな空気を切り裂くように、コンコンとドアをノックする音が響いた。私はペンを置き、顔を上げると、ゼノが静かにドアを開けた。そこに立っていたのは、シリルお兄様だった。

「シリルお兄様!」

立ち上がりながら思わず声をあげると、彼はやつれた顔に微かな微笑みを浮かべた。その顔にはまだ疲労の色が残っている。

「お体は大丈夫ですか?」

心配そうに問いかけると、兄は少しだけ肩をすくめて答えた。

「ああ、だいぶ落ち着いたよ。それにしても、すまない。俺、メイシールにずいぶんきつく当たったよな。」

その言葉には後悔が滲んでいて、私は慌てて首を横に振った。

「ううん、そんなことありません。私も回帰の経験がありますから、お兄様がどれだけ辛かったか、少しだけ察しがつきます。」

兄の瞳にわずかな陰りが宿り、彼はため息をついた。そして、ゆっくりとズボンの裾をまくり上げた。

そこに現れたのは、ブルービショップ家の紋章。その鎖が幾重にも絡み合い、青白く光を放っていた。その光景に、私は息を飲む。

「お兄様…これは…。」

震える声で尋ねると、シリルお兄様は重苦しい沈黙を破るように口を開いた。

「俺は愛する人を何度も傷つけて、そのたびにここに戻ってきた。」

その告白は、胸に刺さるような重みを持っていた。彼の右足首に絡まる鎖は、兄がどれだけの回帰を経験し、どれほどの苦悩を抱えてきたかを雄弁に物語っていた。

「愛する人って…もしかして…」

私の問いに、兄は答えないまま視線を落とした。その沈黙が、かえって答えを語っているようだった。

兄の表情に漂う悲壮感と諦めを見つめながら、私は無意識のうちに自分の手を握りしめていた。もし、兄が私と同じように愛する人との関係を拗らせてしまったのだとしたら――その原因が、ブルービショップ家にあるとしたら…。

「子供、子供って…なんなんだよ。」

兄は突然声を荒げた。その言葉には怒りと虚しさが混じり合っていた。

「そんなに跡継ぎが必要か?ブルービショップなんて滅びればいいじゃないか。メイシール、回帰したお前なら分かるだろう?」

私は息を詰めた。確かに、ユリに出会うまでは兄のその言葉に同意していただろう。しかし今は――。

「お兄様…確かに、ユリと出会うまではそう思っていました。でも今は違います。」

私の言葉に、兄の瞳がわずかに揺れた。

「ブルービショップ家に生まれてよかったと思えるんです。ユリやルーの存在が、私のすべてを覆してくれたから。」

兄は深い息を吐き、私の頭に手を置いた。

「…そうか。それならそれでいい。お前が幸せなら、俺はそれでいいんだ。」

その言葉は温かかったが、どこか遠い響きもあった。

兄との会話を終えた後、私は胸に引っかかるものを抱えながらユリの元へと足を向けた。ユリは新しく用意された子供部屋でルーと遊んでいた。彼らの楽しそうな笑い声が廊下まで響いてくる。

「ユリ、シリルお兄様から話があって…」

私が部屋に入るなり声をかけると、ユリはルーを抱き上げながら私に目を向けた。

「何かあったのですか?」

その穏やかな問いかけに、私は少し気持ちを落ち着けて答えた。

「ええ。お父様には気を付けるようにって言われたの。」

ユリの表情が一瞬険しくなったが、すぐに穏やかさを取り戻した。

「なるほど、お義父様は野心家ですか。また策を練っておきます。お義兄様の忠告も大切にしつつ、冷静に対処しましょう。」

私はユリの頼もしさに改めて感謝しながら、彼の手をそっと握った。

「ありがとう、ユリ。ごめんね。また負担をかけてしまって。」

彼は微笑みながら、私の手を優しく包み込んだ。その温もりが、不安を少しずつ溶かしていく。

「いえ、最近は俺の仕事がほとんどなくて紐にでもなった気分だったので、丁度良いくらいですよ。」

その言葉に思わず吹き出しそうになりながらも、私が笑うと、ルーが私たちを真似して「ひも!ひも!」と大声で繰り返した。

「きゃあ!ルー、そんな言葉覚えちゃダメよ!」

ユリと私は顔を見合わせ、大笑いした。家族で過ごすその時間が、何よりも幸せなものに感じられた。

その後、執務室の机に向かい、領地関連の書類の山を前にすると、私は小さく息を吐いた。この瞬間だけは、どれほどの時間がかかるか想像するのが怖くなる。けれど、ユリが私のためにこれまで尽力してくれているのだから、私も精一杯応えたいと思った。

机の上には、領地の財政報告、農地の管理状況、治安報告といった重要な書類がびっしりと並べられていた。それらを一つ一つ手に取り、目を通しながら、必要な指示を書き込んでいく。

「これ、先月の収支報告と一致していないけど…。」
小さな声で呟きながら、隣に座るユリに確認する。

彼は軽く私の手元を覗き込み、鋭い視線で数字を追った。
「ああ、それは先月の祭典の追加経費ですね。ここに別途報告書があります。」
そう言って、書類の束から該当のものをすぐに取り出すその手際の良さに、改めて感心してしまう。

「助かるわ、ありがとう。」
自然と笑みがこぼれると、ユリは口角を少し上げて、返事の代わりに微笑んだ。

作業を進めていると、ユリがふと思い出したように書類の束から一枚を引き抜き、私の目の前にそっと置いた。それは、ゴールドキング公爵家からのパーティーの招待状だった。

「そういえば、先ほどゴールドキング公爵家からパーティーの招待状が届いていました。これは出席しておかないとまずいやつですから、返事を出しておこうと思います。」

彼が淡々と言うと、私は手を止め、招待状に目を落とした。品の良い厚紙に繊細な装飾が施され、煌めく文字で日付と場所が記されている。それを眺めながら、少しだけため息をついた。

「出席必須なんて、堅苦しいわね…。いつなの?」

「一か月後です。」ユリは微笑みながら答えた。その表情には余裕すら感じられる。

「一か月後か…。準備に時間はあるけれど、何を着ていこうかしら。お茶会や小規模な集まりとは違って、ゴールドキング公爵家のパーティーとなると、きっと相当華やかなんでしょう?」

「ええ、そうでしょうね。でも心配いりません。メイにはどんな場でも輝く力がありますから。」

「もう、またそうやって持ち上げて…。でも、ありがとう。」

ユリの言葉に励まされながら、私は招待状をそっとテーブルの隅に置いた。彼の自信に満ちた態度に、自然と心が落ち着くのを感じた。

「でも、ユリ。パーティーが迫ってくると忙しくなるわね。ドレスの選定に、出席者への挨拶、それにルーのこともあるし…。」

私が次々と気になることを口にすると、ユリは穏やかに笑って私を制した。

「安心してください。そのすべてを手配するのが俺の役目です。メイはリラックスして当日を迎えるだけでいいんです。」

「本当に全部、任せていいの?」

「ええ、もちろんです。メイのためなら何だってやりますよ。」

その言葉に、私は胸がじんわりと温かくなるのを感じた。ユリの手際の良さと献身的な態度に、いつも支えられていることを改めて実感した。

「じゃあ、お願いするわね。」

「お任せください。」ユリが頷きながら、手元の書類を整理していく。その横顔は頼もしく、信頼感で満ちている。

再び書類に目を戻しながら、私はふと考えた。一か月後のパーティーに向けて、少しでも準備を進めておこう――ユリが全力で支えてくれるのだから、私もその期待に応えたい。そんな思いが自然と湧き上がってきたのだった。
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