死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

70.王都へ

王都出発当日、暖かな朝の光がレッドナイト公爵邸を包み込んでいた。シリルお兄様がユリの妹を大切そうに抱っこしながら、見送りに来てくれた。その姿を見て、私の胸の内にじんわりとした暖かさが広がった。彼の顔には穏やかな笑みが浮かんでいて、到着した当初のやつれた表情とは別人のようだった。

「気をつけて。何かあったらすぐに連絡してくれ。」
お兄様の低く落ち着いた声が耳に心地よく響いた。

「ありがとう、シリルお兄様。」

「お義兄様、妹のことは任せますね。」

ユリが深々と頭を下げると、シリルお兄様は頷いて、ユリの妹を抱く腕に力を込めたように見えた。
「もちろんだよ。彼女のことは心配いらない。安全に気をつけて。」

その言葉と共に、彼の微笑みがさらに優しく見えた。

ユリは馬車の扉を開け、私とルーを乗り込ませた。馬車の中は広々としており、柔らかなクッションが敷かれていて快適そのものだった。ルーは興奮した様子で窓の外を見つめている。

「いってきます!」
ルーが元気よく手を振ると、シリルお兄様は小さく手を振り返しながら、優しい笑みを浮かべて見送ってくれた。

馬車が静かに動き始めると、私の胸には新たな生活への期待と少しの不安が入り混じった感情が広がっていった。

「最初にここへ来た時のお兄様はとても病んでいたから心配だったけど、今は少し元気になったみたいで安心したわ。」
私がぽつりと呟くと、ユリは窓の外を眺めながら静かに頷いた。

「兄君はきっと、この家で癒しを見つけるはずです。俺の妹がその力になれると信じています。」

―――――――――――
―――――――

道中、私たちは王都での生活やこれからの計画について話し合い始めた。

「メイ、王都では、まず花のお茶会に参加されるのですよね?」
「えぇ、その予定。ただ、ドレスコードが私だけ別のものを書かれている可能性があるのよね。前の人生では二回ともピンクを指定されたはずなのに、今回はブルーなのよ。」

ユリは一瞬だけ考える素振りを見せた後、きっぱりと答えた。
「王都に着いたら真っ先に俺が調査します。」

「え!?う、うん…。」
その頼もしさに安堵しつつも、少しの過剰さに困惑する自分もいた。

ルーは窓の外を見ながら無邪気に叫んでいた。
「お外、いっぱい!」

その愛らしい声に、私もユリも自然と笑みがこぼれる。
「ルーも王都で楽しいことがたくさん待っているわよ。きっと素敵な友達もできるわ。」
「とおーあちー?」

その言葉にユリが少し真剣な表情を浮かべて答える。
「ルーの社交も俺が側についていないといけませんね。」

私は肩をすくめ、やれやれといった表情を見せた。
「ちょっと、体がいくつあっても足りなくなるわよ?子供のことは、子供に任せましょう。身の安全はミレーヌかゼノにお願いするわ。」

「ですが…。」

ユリは不安そうに視線を落とすが、すぐに言葉を飲み込む。
「なら、私がユリのスケジュール表を見て問題なさそうな時だけ付き添ってもいいわよ。」

「そ、それは…だめそうですね…。我慢します。」
ユリは少し血の気の引いたような顔をして俯いた。その姿に、私は思わず吹き出してしまいそうになった。

正直、お茶会でユリに護衛を頼むこと自体、本当は気が進まない。自分の身くらい自分で守れるようになりたいし、訓練を始めるべきだと思っているのに、毒の危険性がある以上、彼に側についてもらうほかないのが現状だ。

毒への耐性訓練は、いつか始めたいと思っているものの、ユリが、なんというか、暴走気味で、何かにつけて甘えてきたり情熱的になったりするせいで、正直いつ妊娠してもおかしくない状況になっている。そんな状態では、訓練どころか計画自体が成り立たない。

この先、訓練する機会が訪れるのかどうかも怪しい。だから、もうユリに全て任せるしかないと腹をくくるしかないのだ。彼がどんな状況でも全力で私を守ってくれると信じているからこそ、そう思えるのだけれど、内心では自分自身にももっと強くなってほしいという思いがあった。

「んー、嫌だけど、またドレスも新調しに行かないといけないわね。」

ユリが首をかしげながら、少し不思議そうにこちらを見た。

「え?嫌なんですか?」

「嫌というか、出費が嵩むじゃない?」

「金の心配なら全くいりませんよ。湯水のように使っていただいても、底が尽きることはありませんから。」

ユリは満面の笑みを浮かべ、どこか誇らしげに胸を張った。その余裕に少し呆れながらも、私も自然と笑顔がこぼれる。

「ありがとう。」

感謝を込めてそう言いながら、私は内心で別の考えが浮かんでいた。ユリに甘えてばかりじゃいけない。私自身も何かできることを見つけたい。そうだ、ビジネスを始めてみようかしら。そんな考えが頭をよぎった瞬間、ユリが鋭い目をこちらに向けた。

「メイ、もしかして新たにビジネスでも始めようと考えていますか?」

「えっ!?」

その的確すぎる指摘に、思わず声を上げてしまった。ユリは何を考えているのか、私の思考を見透かすかのような微笑みを浮かべている。

「本当にその必要はありませんよ、メイ。ビジネスなんて始められたら、俺との時間が減るじゃないですか。俺はそれだけは許しません。」

優しいけれど、どこか譲らないその言葉に、私は思わず言葉を失った。

「でも、ユリにばかり負担をかけるわけにはいかないわ。」

そう反論すると、ユリの表情が少しだけ曇った。しかし、次の瞬間にはどこか懐かしむような視線で語り始めた。

「俺は幼い頃、母に無理矢理、情報ギルドの長になるよう厳しい訓練を課されました。未来も何もない、ただのギルドの駒。それが俺の全てだったんです。あれが、どれほど嫌だったか…」

その言葉に、私は息をのんだ。彼が今の立場を築くまでにどれほどの苦労をしてきたのか、彼の淡々とした語りの中に、かつての痛みと孤独が滲み出ているのがわかった。

「でも、メイが俺を選んでくれたことで、すべてが変わりました。あれだけ嫌だった組織も、今ではメイを守るための大切な道具です。もう嫌な気持ちはありません。それどころか、これを続けたいとすら思えるんです。だから、俺の負担はもうありません。」

ユリの瞳は優しく、でもしっかりとした決意が込められていた。その眼差しに、私の胸がぎゅっと締め付けられるようだった。

「ユリ…」

言葉が見つからず、ただ彼を見つめ返すことしかできない。

「メイ、アナタがいるから俺は無敵です。だから、何も心配せずに俺に頼ってください。」

ユリのその言葉に、心がじんわりと温かくなった。彼の強さと優しさに触れるたび、私はどれほど彼に支えられているのかを思い知らされる。

「もぅ、そこまで言われると頼るしかないじゃない。わかったわ。私が豪遊しても文句言わないでね。」

そう冗談交じりに答えると、ユリは満足げに頷き、私の額に優しくキスをした。

「それでこそ、俺のメイです。」

彼のその言葉と仕草に、思わず笑みがこぼれた。そして、この幸せな瞬間を大切にしようと心に決めた。
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