死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

71.茶会に向けて

その後、私たちは王都に到着し、慌ただしい日々が幕を開けた。

「メイ、残念ながら王都の公爵邸がまだ使えない状況でして、しばらくはホテル住まいになります。」
ユリが申し訳なさそうに伝えたが、私は特に気にしなかった。王都に着いたばかりの興奮で、その程度のことは些細に思えたからだ。

「そうなの?まぁ、それならそれでいいわ。ホテルも楽しそうだし。」
私が答えると、ユリは少しホッとしたように微笑んだ。

到着してすぐ、ユリは例の黒いボディースーツを着込み、目に冷たい光を宿しながら深夜の街へと消えていった。

――――――――
―――――

その姿はまるで闇に溶け込む影そのものだった。動くたびに音一つ立てることなく、俺は迷うことなく屋敷の塀を飛び越えた。目標は明確だ――茶会の招待状に仕掛けられた罠を暴き、メイを守るための手がかりを掴むこと。それだけのために、俺の全ての感覚は研ぎ澄まされている。

まず向かったのは、招待状を出した主催者、エメロッサ子爵家の屋敷。夜の闇に包まれたその建物は、まるで要塞のように高い塀と厳重な門で守られていたが、そんなものは俺の前では意味を成さない。塀の上に飛び乗り、周囲の警備の動きを一瞬で見極める。巡回ルートの隙をついて、俺は庭園へと飛び降りた。

地面に着地した瞬間、低い唸り声が背後から聞こえた。警備犬だ。俺に気づき、鋭い視線を向けながら近づいてくる。だが、焦る必要はない。俺はポケットに手を入れ、乾燥肉を取り出して犬の前に差し出した。

「ほら、こっちだ。」

警備犬は一瞬警戒したが、すぐにその匂いに釣られて尻尾を振り始めた。大丈夫だ。俺を敵だとは思っていない。そのまま犬の気をそらしながら、俺は静かに屋敷の窓辺に向かった。

窓の前に立ち、小型の工具を取り出す。鍵穴を覗き込みながら器具を回すと、すぐに「カチリ」と軽い音がした。窓が静かに開く。俺は音を立てぬよう体を滑り込ませ、屋敷の中に潜入した。

屋敷の中は静まり返っていた。まるで誰も存在していないかのような静寂。だが、俺は気を緩めなかった。すぐに書斎の位置を見つけ出し、物音を立てないよう細心の注意を払いながら向かう。

扉を開けて中に入ると、机の上に書類が無造作に積み上げられていた。目的のものがここにあるのは間違いない。俺は書類を一つ一つ確認し、招待状の控えを見つけ出した。

「…やはりか。」
目を細めながら招待状を見つめる。そこには、メイに指定されたドレスコードが「ピンク」と明記されていた。これは明らかに混乱を狙った変更だ。こんな些細な策略でメイを困らせるつもりなのか。

俺は書類を元通りに戻し、再び音を立てずに書斎を後にした。屋敷を出るまでの動きも一切の無駄を許さない。全てが計画通りだ。この程度の罠ならば、俺の手で全て粉砕してやる。

「ピンクのドレスか…。メイには世界一似合うものを用意しないとな。」
そんなことを考えながら、俺は夜の闇に再び身を溶かし、屋敷を後にした。

――――――――
―――――

翌朝、ユリは予想以上にご立腹だった。朝食を済ませると、すぐに王族御用達のデザイナーに新しいドレスをオーダーメイドし、さらには高額なアクセサリーも次々と購入していった。その決断力と行動力には、もはや呆れるを通り越して感心するしかなかった。

数日後、デザイナーが私のフィッティングのために訪れた。運ばれてきたピンクのドレスは、思わず息を呑むほど美しかった。華やかながらも上品さを失わないデザインで、袖のフリルや胸元の刺繍には細やかな技巧が施されていた。スカート部分は軽やかで、歩くたびにふわりと揺れる様子がまるで花びらが舞うようだ。アクセサリーも見事で、宝石がキラキラと輝きながら私の姿をさらに引き立ててくれる。

「素晴らしいですね、メイシール様。本当にお似合いです。」
デザイナーが満足げに微笑むと、私は鏡の中の自分を見つめて思わず頬が熱くなった。

その時、部屋の隅で控えていたユリが、突然膝をついて両手を合わせた。
「あぁ、メイは本当に女神ですね!なんて美しいのでしょう!この姿で俺をこれ以上どう誘惑するつもりですか!?これは試練ですか、天罰ですか、それともご褒美ですか!?」

情熱的すぎるその反応に、思わず口を半開きにして固まってしまった私。ドレスの存在が一瞬どこかに吹き飛んでしまう。
「あ、ありがとう、ユリ…。と、とりあえず落ち着いて?」
なんとか言葉を絞り出すと、ユリは熱い涙を流しながら立ち上がり、私の手を取ってその甲にそっとキスをした。

「メイ、あなたのためなら何でもします。あなたが幸せでいてくれることが、俺の人生そのものです。」
その真剣な瞳がまっすぐに私を見つめる。愛情と崇拝に満ちたその視線に、私の心臓は思わず跳ねた。

(あ、愛がおも~~~い!!)
心の中で叫びながらも、その瞳に抗うことなどできるはずもなく、私はただ無言で頷くしかなかった。

「素晴らしい、これで茶会の準備は完璧です。」
そう断言するユリに、私は内心、少し複雑な思いを抱きながらも、やっぱり感謝の気持ちがじんわりと湧き上がってきたのだった。



「エメロッサ子爵が開く花のお茶会…。確か、女性貴族だけが出席を許される特別なお茶会だったわよね。」

私はドレスのフィッティングを終えた後、ふとそんなことを呟いた。花のお茶会は昔から格式高い集まりとして知られており、毎回選ばれた女性貴族たちが招かれる。だが、その一方で、このお茶会には独特の政治的駆け引きが絡む噂もあった。

「そうですね。正式には子爵以上の能力持ち貴族の女性だけが招待されるものです。」
ユリが冷静に答えたが、その声にはどこか鋭い響きが含まれていた。

「でも、能力持ちだけって…。そんなお茶会、何をするのかしら?」

「名目は花の品評会と社交の場。しかし実際には、参加者同士の牽制や情報交換が主な目的でしょうね。そして、メイに指定されたドレスコードの変更も、その牽制の一環かもしれません。」

そんな重要なお茶会に向けて、ユリは本気モードに突入していた。

「メイ、これを見てください。」
ユリがテーブルに広げたのは、まるで試験の参考書のような分厚い資料だった。その表紙には「花のお茶会攻略指南」と大きく書かれている。

「な、何これ…?こんなもの、どこで手に入れたの?」
私は驚きながらその資料を手に取る。中にはお茶会の歴史、過去の参加者の名前、さらに各参加者が持つ特殊能力や噂話まで細かく記載されていた。

「俺が作りました。」
ユリは胸を張って自信満々に言う。

「……ユリ、これって必要なの?」
私は若干引き気味に聞いたが、ユリは真剣そのもの。

「もちろんです!メイ、このお茶会はただのティーパーティーではありません。各家の女性たちが能力や社交術で暗黙の競争を繰り広げる戦場です。あなたが何も知らずに参加したら、間違いなく狙われます!」
ユリの熱意に圧倒されながらも、私は資料をめくり始めた。

「えっと…ここに載ってる情報、全部頭に入れなきゃダメ?」
「そうです。」
即答するユリに、私はげんなりとため息をついた。

「でも、こんなに覚えられないわよ。名前も能力も全部違うし…」
「大丈夫です。俺が特訓を手伝いますから。それに能力は一貫していますから、メイの場合6家門の能力を踏まえて、名前を憶えるだけですよ。」
そう言うと、ユリはどこからか手作りのフラッシュカードを取り出した。

「じゃあ始めましょうか。まずはエメロッサ子爵夫人の能力は?」
「えーっと…子爵だから能力はないわ。」
「正解。では、彼女の趣味は?」
「え、そこまで覚えなきゃいけないの!?」
「趣味を話題にすれば、好印象を与えられますからね。」
私は頭を抱えたが、ユリの指導は止まらない。

「では、次はパープルポーン家の分家エリサ・パープルポーン夫人の特技と弱点をどうぞ。」
「ちょっと待って、弱点まで!?何に使うつもり!?」
「メイが困った時の交渉材料にします。」
「……ユリ、本当に手加減って言葉、知ってる?」

私は半ば呆れながらも、ユリの情熱に巻き込まれ、いつの間にか資料を真剣に読み始めていた。そして気づけば、私もユリの出題に次々と正解を出していくようになった。

「よし、完璧ですね。これでお茶会も安心です。」
「ユリ、これって私のためよね?でも、なんか貴方が一番楽しんでる気がするんだけど…」
「それは気のせいです。」
ユリが涼しい顔で言い切るのを見て、私は肩をすくめながら小さく笑った。

こうして、私は彼の過保護ぶりに振り回されつつも、少しだけ自信をつけていった。
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