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シーズン1
75.レッドナイト家の秘密
執務室の窓から柔らかな陽光が差し込み、外では穏やかな風が庭の木々を揺らしていた。そんな平和な光景を横目に、ユリと並んで書類を処理している時間は、私にとっては何よりも幸せなひとときだった。
「ユリに軟禁されるのも悪くないわね…。」
内心でそう呟きながら、私はちらりと彼の横顔を盗み見た。
実は私、仏頂面をして、目だけで人を射殺しそうなユリの表情が一番好きだったりする。あの時の冷たい目つきには、何故か胸がキュンとするのよね。きっとギャップ萌えというやつに違いない。
書類をめくっていると、静かなノックの音とともに、ゼノが入ってきた。彼の足音は驚くほど軽く、部屋に漂う空気を一瞬で変える。
ゼノはユリに何かを低い声で報告し始めた。
「…それで、お前は着いてこれるのか?」
「問題ありません。見つからぬように動きます。」
「そうか。」
二人の会話は必要最小限だが、その内容はどこか不穏で、私は思わず耳を傾けてしまった。ゼノは報告を終えると、一瞬のうちに姿を消した。まるで、そこにいたことすら幻だったかのように。
「やっぱりゼノって不思議…。」
私は心の中で呟く。
その時、突然、目の前が真っ暗になった。驚いていると、ユリの大きな手が私の目を覆っていたのだ。
「どうしたの?」
思わず声を漏らすと、耳元でユリが囁いた。
「ゼノが気になりますか?」
その低い声と吐息が耳にかかり、思わず身体がピクリと反応する。
「えっ…何で分かったの?」
驚きながら問い返すと、ユリは少し得意げに答えた。
「横目で見ているのが分かりました。」
「ちょっと、不思議な存在だなって思っただけよ。」
と誤魔化す私に、ユリはさらに耳元で「本当に?」と囁き、さらにくすぐったい吐息がかかる。
「だって、瞬きした瞬間に消えるんだもん!」
少し声を張り上げる私に、ユリは満足そうに目隠しを外しながら頷いた。
「ゼノは幼少期に俺の母上に色々と人体実験を施されて、透明化や他の特殊能力を自在に扱えるようになりました。」
彼の言葉に、私は思わず目を見開く。
「えっ…そんなことが…。」
ユリはどこか淡々と話を続けた。
「今、姿を現しているのはゼノだけですが、他の俺直属の部下たちも同じように実験を受けた者たちです。平民である彼らは、母の手で特殊能力を得る代わりに、二度と表舞台には立てなくなりました。」
彼の言葉には、どこか深い哀しみが感じられた。
「俺自身も、メイが現れるまでは、そんな彼らと同じ運命を辿るところでした。だからこそ…」
彼は私をじっと見つめる。
「どうか俺を捨てないでくださいね、メイ。」
彼の真剣な瞳に、胸がギュッと締め付けられる。
「ん?結局、ゼノを見ていた私に嫉妬したのね?」
私は少し茶化すように微笑んで言うと、ユリは困ったように小さく肩をすくめた。
「おや、察しがよろしいですね。他の男のことを考えているメイなんて見たくないと思ってしまいました。」
その素直すぎる告白に、私は思わず吹き出しそうになる。
「ある程度は知っておかないといけないでしょ?私はレッドナイト公爵夫人なんだから。」
「なるほど。それは一理ありますね。」
ユリは少し考え込むように頷いた後、決意したように口を開いた。
「なら、資料を用意しておきます。本一冊分にはなりそうですが。」
「うっ…それはちょっと…。」
彼の優しさと厳しさに挟まれる形で、私は軽くため息をついた。
「ユリって、本当に優しいような厳しいような…。」
そう呟くと、彼は私の手をそっと握り締め、微笑みを浮かべた。
「どちらでもいい。俺が守るのは変わりませんから。」
ユリが机の上に積まれた招待状の山から一枚を手に取り、封を開けた。中に目を通した彼の表情が一瞬だけ険しくなる。
「今度はシルバークイーン侯爵の領地で船上パーティーですか。」
ユリは溜息交じりに呟きながら、私に招待状を見せた。「これはまた、面倒ですね。」
「そうなのよ。それでね、あそこの領地って広大な海があるでしょ?ルーを連れて行きたいなぁって思ってるの。」
私は楽しげに提案する。ルーに広い海を見せてあげたいと思ったのだ。
しかし、ユリは軽く首を振りながら、冷静に返した。「海…ですか。メイ、残念ながら、シルバークイーン領の水は全て淡水です。」
「えぇ!?あれ全部淡水だったの!?」
驚いて身を乗り出す私に、ユリは真面目な顔で頷く。
「はい。彼らの領地にあるのは淡水の湖や川です。本物の海は、レッドナイト公爵領の奥地にしか存在しません。」
「そうなの!?」
さらに驚き、声を上げる私に、ユリは軽く肩をすくめた後、少し申し訳なさそうに付け加えた。
「メイにはまだ早いと思って伏せておりました。塩田の管理や、それに関する書類も、あなたには見せないようにとゼノに命じていました。」
その言葉を聞いた瞬間、私は内心で混乱した。待って、塩って異国から輸入していると思ってたのに!?もしかして、レッドナイト公爵領からのものだったの?
「レッドナイト公爵領が豊かなのは、火の魔石や情報ギルドの稼ぎだけではありません。」
ユリは淡々と話を続けた。「塩田はもちろん、魚介類やその他の資源もすべて私たちの領地から産出されています。ただ、それを表に出せば、他領地からの反発を受けるのが目に見えています。ですから、全てが他国からの輸入だということにしてあるのです。」
私は彼の説明を聞きながら、目の前が広がるような感覚を覚えた。「…ますます凄いわね。レッドナイト公爵家って。」
そう呟いた私に、ユリは少し誇らしげな微笑みを浮かべながら答えた。「メイが知るべきタイミングで、すべてお話ししようと思っていましたよ。」
「知らないことだらけだわ…。あなたが何を隠しているのか気になって仕方ない。」
私は腕を組みながら彼を睨むふりをするが、ユリは軽く笑ってその視線をかわした。
「すべてはメイを守るための判断ですから。」
彼のその一言が、なんとも悔しいくらいに説得力があり、何も言い返せなかった。
ユリは一瞬だけ眉を上げてから、淡々と答えた。「ですが、表向きシルバークイーン領には海水がある地域があると古くから信じられています。理由は簡単です。シルバークイーン領の市場には毎日、新鮮な海の幸や海産物が豊富に並んでいますからね。」
私はその話を聞いて、思わず身を乗り出した。「まさか、うちからシルバークイーンに送ってるの?」
「はい。」ユリはあっさりと頷く。「シルバークイーン家とは、そういう契約を結んでいます。表向き、彼らが自国の市場を潤わせるためのものだとしていますが、実際は我々が裏で全て供給しているのです。」
その言葉に、私は驚きつつも納得してしまった。「それってすごい話だけど、何だか複雑な気分ね。」
ユリは微笑みながら頷いた。「シルバークイーン家が市場での地位を保つために、長年続けてきた協力関係です。他領地とのバランスを取る上でも必要なことです。」
私は少し首を傾げながら、シルバークイーン家の立場を思い返してみた。「でも、私の記憶ではシルバークイーン家って、ゴールドキング家と仲が良いと思ってたわ。あそこってよく政略結婚してるじゃない。」
ユリは小さく笑い、軽く肩をすくめた。「表向きの話ですね。確かに政略結婚は多いですが、裏では利益を最優先に動いています。彼らにとって、ゴールドキング家との婚姻関係は戦略の一環に過ぎません。」
「じゃあ、シルバークイーン家の市場が成り立っているのは、実際には私たちのおかげってことね?」
「ええ。そのことを彼らが公にすることはありませんが。」
私はその答えに、思わず含み笑いを漏らしながら言った。
「つまり、裏ではうちの傘下みたいなものじゃない。シルバークイーン家も意外と可愛いところがあるわね。」
ユリはその言葉に微笑みながら、首を軽く傾けた。
「そうとも言えますが、彼らも我々に依存していると悟られないよう、表向きは気丈に振る舞っています。プライドの高い家柄ですから。」
「ふふ、それであんなに強がってるのね。でも、本当のところを知ったら彼らの反応が見ものね。」
「表に出す必要はありません。知らぬままが平和ということもありますから。」
ユリの穏やかな笑顔の奥にある冷静な判断に、私は軽く肩をすくめた。
「そうね、必要以上に波風を立てるのは得策じゃないわ。ただ、この状況を利用して、私たちの立場をさらに強くする方法を考えてみる価値はありそう。」
「そのためにこそ、シルバークイーン家のパーティーに参加するのです。メイの存在がどれだけ影響力を持つのか、彼らにじっくりと教えてあげましょう。」
「ユリに軟禁されるのも悪くないわね…。」
内心でそう呟きながら、私はちらりと彼の横顔を盗み見た。
実は私、仏頂面をして、目だけで人を射殺しそうなユリの表情が一番好きだったりする。あの時の冷たい目つきには、何故か胸がキュンとするのよね。きっとギャップ萌えというやつに違いない。
書類をめくっていると、静かなノックの音とともに、ゼノが入ってきた。彼の足音は驚くほど軽く、部屋に漂う空気を一瞬で変える。
ゼノはユリに何かを低い声で報告し始めた。
「…それで、お前は着いてこれるのか?」
「問題ありません。見つからぬように動きます。」
「そうか。」
二人の会話は必要最小限だが、その内容はどこか不穏で、私は思わず耳を傾けてしまった。ゼノは報告を終えると、一瞬のうちに姿を消した。まるで、そこにいたことすら幻だったかのように。
「やっぱりゼノって不思議…。」
私は心の中で呟く。
その時、突然、目の前が真っ暗になった。驚いていると、ユリの大きな手が私の目を覆っていたのだ。
「どうしたの?」
思わず声を漏らすと、耳元でユリが囁いた。
「ゼノが気になりますか?」
その低い声と吐息が耳にかかり、思わず身体がピクリと反応する。
「えっ…何で分かったの?」
驚きながら問い返すと、ユリは少し得意げに答えた。
「横目で見ているのが分かりました。」
「ちょっと、不思議な存在だなって思っただけよ。」
と誤魔化す私に、ユリはさらに耳元で「本当に?」と囁き、さらにくすぐったい吐息がかかる。
「だって、瞬きした瞬間に消えるんだもん!」
少し声を張り上げる私に、ユリは満足そうに目隠しを外しながら頷いた。
「ゼノは幼少期に俺の母上に色々と人体実験を施されて、透明化や他の特殊能力を自在に扱えるようになりました。」
彼の言葉に、私は思わず目を見開く。
「えっ…そんなことが…。」
ユリはどこか淡々と話を続けた。
「今、姿を現しているのはゼノだけですが、他の俺直属の部下たちも同じように実験を受けた者たちです。平民である彼らは、母の手で特殊能力を得る代わりに、二度と表舞台には立てなくなりました。」
彼の言葉には、どこか深い哀しみが感じられた。
「俺自身も、メイが現れるまでは、そんな彼らと同じ運命を辿るところでした。だからこそ…」
彼は私をじっと見つめる。
「どうか俺を捨てないでくださいね、メイ。」
彼の真剣な瞳に、胸がギュッと締め付けられる。
「ん?結局、ゼノを見ていた私に嫉妬したのね?」
私は少し茶化すように微笑んで言うと、ユリは困ったように小さく肩をすくめた。
「おや、察しがよろしいですね。他の男のことを考えているメイなんて見たくないと思ってしまいました。」
その素直すぎる告白に、私は思わず吹き出しそうになる。
「ある程度は知っておかないといけないでしょ?私はレッドナイト公爵夫人なんだから。」
「なるほど。それは一理ありますね。」
ユリは少し考え込むように頷いた後、決意したように口を開いた。
「なら、資料を用意しておきます。本一冊分にはなりそうですが。」
「うっ…それはちょっと…。」
彼の優しさと厳しさに挟まれる形で、私は軽くため息をついた。
「ユリって、本当に優しいような厳しいような…。」
そう呟くと、彼は私の手をそっと握り締め、微笑みを浮かべた。
「どちらでもいい。俺が守るのは変わりませんから。」
ユリが机の上に積まれた招待状の山から一枚を手に取り、封を開けた。中に目を通した彼の表情が一瞬だけ険しくなる。
「今度はシルバークイーン侯爵の領地で船上パーティーですか。」
ユリは溜息交じりに呟きながら、私に招待状を見せた。「これはまた、面倒ですね。」
「そうなのよ。それでね、あそこの領地って広大な海があるでしょ?ルーを連れて行きたいなぁって思ってるの。」
私は楽しげに提案する。ルーに広い海を見せてあげたいと思ったのだ。
しかし、ユリは軽く首を振りながら、冷静に返した。「海…ですか。メイ、残念ながら、シルバークイーン領の水は全て淡水です。」
「えぇ!?あれ全部淡水だったの!?」
驚いて身を乗り出す私に、ユリは真面目な顔で頷く。
「はい。彼らの領地にあるのは淡水の湖や川です。本物の海は、レッドナイト公爵領の奥地にしか存在しません。」
「そうなの!?」
さらに驚き、声を上げる私に、ユリは軽く肩をすくめた後、少し申し訳なさそうに付け加えた。
「メイにはまだ早いと思って伏せておりました。塩田の管理や、それに関する書類も、あなたには見せないようにとゼノに命じていました。」
その言葉を聞いた瞬間、私は内心で混乱した。待って、塩って異国から輸入していると思ってたのに!?もしかして、レッドナイト公爵領からのものだったの?
「レッドナイト公爵領が豊かなのは、火の魔石や情報ギルドの稼ぎだけではありません。」
ユリは淡々と話を続けた。「塩田はもちろん、魚介類やその他の資源もすべて私たちの領地から産出されています。ただ、それを表に出せば、他領地からの反発を受けるのが目に見えています。ですから、全てが他国からの輸入だということにしてあるのです。」
私は彼の説明を聞きながら、目の前が広がるような感覚を覚えた。「…ますます凄いわね。レッドナイト公爵家って。」
そう呟いた私に、ユリは少し誇らしげな微笑みを浮かべながら答えた。「メイが知るべきタイミングで、すべてお話ししようと思っていましたよ。」
「知らないことだらけだわ…。あなたが何を隠しているのか気になって仕方ない。」
私は腕を組みながら彼を睨むふりをするが、ユリは軽く笑ってその視線をかわした。
「すべてはメイを守るための判断ですから。」
彼のその一言が、なんとも悔しいくらいに説得力があり、何も言い返せなかった。
ユリは一瞬だけ眉を上げてから、淡々と答えた。「ですが、表向きシルバークイーン領には海水がある地域があると古くから信じられています。理由は簡単です。シルバークイーン領の市場には毎日、新鮮な海の幸や海産物が豊富に並んでいますからね。」
私はその話を聞いて、思わず身を乗り出した。「まさか、うちからシルバークイーンに送ってるの?」
「はい。」ユリはあっさりと頷く。「シルバークイーン家とは、そういう契約を結んでいます。表向き、彼らが自国の市場を潤わせるためのものだとしていますが、実際は我々が裏で全て供給しているのです。」
その言葉に、私は驚きつつも納得してしまった。「それってすごい話だけど、何だか複雑な気分ね。」
ユリは微笑みながら頷いた。「シルバークイーン家が市場での地位を保つために、長年続けてきた協力関係です。他領地とのバランスを取る上でも必要なことです。」
私は少し首を傾げながら、シルバークイーン家の立場を思い返してみた。「でも、私の記憶ではシルバークイーン家って、ゴールドキング家と仲が良いと思ってたわ。あそこってよく政略結婚してるじゃない。」
ユリは小さく笑い、軽く肩をすくめた。「表向きの話ですね。確かに政略結婚は多いですが、裏では利益を最優先に動いています。彼らにとって、ゴールドキング家との婚姻関係は戦略の一環に過ぎません。」
「じゃあ、シルバークイーン家の市場が成り立っているのは、実際には私たちのおかげってことね?」
「ええ。そのことを彼らが公にすることはありませんが。」
私はその答えに、思わず含み笑いを漏らしながら言った。
「つまり、裏ではうちの傘下みたいなものじゃない。シルバークイーン家も意外と可愛いところがあるわね。」
ユリはその言葉に微笑みながら、首を軽く傾けた。
「そうとも言えますが、彼らも我々に依存していると悟られないよう、表向きは気丈に振る舞っています。プライドの高い家柄ですから。」
「ふふ、それであんなに強がってるのね。でも、本当のところを知ったら彼らの反応が見ものね。」
「表に出す必要はありません。知らぬままが平和ということもありますから。」
ユリの穏やかな笑顔の奥にある冷静な判断に、私は軽く肩をすくめた。
「そうね、必要以上に波風を立てるのは得策じゃないわ。ただ、この状況を利用して、私たちの立場をさらに強くする方法を考えてみる価値はありそう。」
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