死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

76.船上パーティー

新居に移り落ち着く間もなく、次の大舞台、シルバークイーン侯爵家主催の船上パーティーの日がやってきた。澄んだ朝の空気の中、私たちは早朝から馬車で出発し、美しい風景を楽しみながら船へと向かった。

船着場に到着すると、目の前に広がるのは果てしない淡水湖。その水面は陽光を浴びてキラキラと輝き、まるで本物の海のような壮大さを誇っている。停泊する船は、その湖の美しさに負けないほど豪華で、外観からして侯爵家の財力とセンスが窺える。船体に施された金細工や装飾は、まるで一流の宮殿を浮かべたかのようだった。

「これが全部淡水なんて信じられないわね。」  
驚きとともに呟いた私に、ユリは冷静に答える。  
「そうですね。ですが、視覚効果だけなら、これでも十分に海のように見えるでしょう。」

今回は特別な機会ということで、ルーも一緒に連れてきた。まだ幼いルーにとっても、これほどの豪華な船に乗るのはきっと初めての経験だ。ルーはミレーヌに手を引かれながら、船の大きさに目を輝かせていた。私自身も今日のために特別なドレスを着ている。淡いブルーのドレスは、水に濡れてもすぐ乾くという不思議な素材で作られていて、ユリが特別に用意してくれたものだ。動くたびに光を反射して、まるで水面のきらめきを纏っているようだった。

ルーもまた、小さなスーツを身にまとい、キラキラした笑顔であちこちを指さしてはしゃいでいる。  
「ルー、水がたくさんあって危ないから、絶対にミレーヌの側を離れちゃダメよ?」  
「はーい!ママがしんぱいするからはなれないよ!」  
彼のはっきりした返事に、思わず笑みがこぼれる。成長して言葉も随分としっかりしてきたわね。まるでユリの聡明さをそのまま受け継いだかのような姿に、胸がじんわりと温かくなる。

ユリが私に歩み寄り、仏頂面をしたまま低い声で言った。
「メイ、今回のパーティーでは絶対に俺から離れないでください。」
その瞳にはいつも通りの鋭さが宿っている。まるで、彼がその場にいるだけで周囲に緊張が走るような、特有の威圧感だ。  
「えぇ、分かってるわ。」私は彼の手を取り、軽く握り返して返事をした。  
「ゼノが見当たらないけど、大丈夫?」  
「安心してください。ゼノは透明化して側にいます。メイの回りには護衛が常に配置されていますから。」

透明なゼノがすぐ近くにいると知りながらも、その姿が見えないのはやはり不思議な感覚だ。ユリの部下たちについての資料を必死に読み込んだことで、彼らがどれだけの訓練を受け、どれほどの忠誠を誓っているかを知ったが、それでも彼らの能力の高さには驚かされるばかりだ。

「メイシール様、坊ちゃまをお預かりします。」  
ミレーヌが落ち着いた声で言い、ルーをそっと手に取る。  
「えぇ、お願いね。」私は笑顔で頷き、ルーの頭を軽く撫でた。

ユリは再び私に手を差し出し、仏頂面のまま低い声で促した。「さて、広場へ行きましょうか。」  
「えぇ。」私も彼の手を取り、優雅にエスコートされながら船上広場へと向かった。

船上に広がる広場は、まるで大理石の舞踏会場のような壮麗さだった。豪華なシャンデリアが揺れ、色とりどりの花が飾られたテーブルが並んでいる。周囲には既に多くの貴族たちが集まっており、談笑する声や笑い声が交じり合っている。その華やかな空気の中でも、ユリは仏頂面を崩さず、私の手を引いて堂々と歩いていた。その姿だけで、周囲の視線が彼に集中しているのを感じる。

「メイ、今日は俺がいるから、何があっても心配しないでください。」  
ユリの低く静かな声が、私の耳元で響く。その言葉に、自然と緊張が和らいでいった。
「ありがとう、ユリ。あなたがいると、本当に安心できるわ。」  
彼は微かに口元を緩めたが、すぐにいつもの鋭い表情に戻る。そして、私たちはゆっくりと広場の中心へと歩みを進めた。


船上の広場では、多くの貴族たちが優雅に談笑し、音楽に合わせて舞うように歩く姿が見られた。空は澄み渡り、湖面の輝きが反射してまるで一幅の絵のような光景だった。私はユリにエスコートされながら広場の中央へと向かっていたが、周囲の視線をひしひしと感じていた。

ユリはいつもの仏頂面を崩さず、まるでこの場を支配しているかのような威圧感を漂わせていた。その冷たい表情と鋭い眼差しは周囲を圧倒し、誰も彼に軽々しく声をかけられない雰囲気を醸し出している。そんな彼の隣を歩く私は、内心では少し緊張していた。

広場の隅から、低い囁き声が聞こえてきた。

「まぁ…あのレッドナイト公爵様、恐ろしい顔をしているけれど、あの美貌はやはり際立つわね。隣の夫人はどうかしら?派手な髪色が目立ちすぎるわ。」

「そうよね。まるで異国の子供みたいな色合いじゃない?品が感じられないわ。」

「それに、18歳で公爵家へ結婚なんて早すぎるわよ。花のお茶会で恋愛結婚だと強調していたけれど、どうせ…。」

「きっと、あの夫人は公爵様を陥れたに違いないわね。」

そんな言葉が断片的に耳に入ってきたが、表向きには何事もないように振る舞った。だが、ユリはその囁き声を確実に聞いていたのだろう。彼の眼差しが一瞬で冷たさを増し、視線を向けられた貴婦人たちが一斉に息を呑む音が聞こえた。

「ユリ、これ以上はやめて。騒ぎになるわ。」

私は彼の腕を軽く引っ張りながら、小声で諭す。

「……あぁ、すまない。我慢の限界というものがある。」

彼はぶっきらぼうに答えたが、その声には鋭さが滲んでいた。

そして突然、ユリは私の頤に手を当て、親指の腹でゆっくりと下唇をなぞった。驚きで固まる私の顔を覗き込むと、顔を近づけ、見せつけるように唇を重ねた。そのキスはわざとらしいほどに濃厚で、広場にいた全員が凍りついたように感じた。

(何やってるの!?ここで!?)  
頭の中で悲鳴を上げながらも、ユリの行動を止める余裕などなかった。

「ぷはっ……ユ、ユリ……?」  
ようやく彼が顔を離すと、私は息を整えながら問いかけた。

「悪く言われるのであれば、俺だけで十分だ。」  
冷たくぶっきらぼうな口調でそう言い放つ彼は、まだ怒りが収まらないようだった。

私は自分の唇を触ってみる。口紅が完全に乱れている。ちらりとユリを見れば、案の定、彼の唇が私の口紅で赤く染まっている。

「ユリ……化粧直しが必要ね。」  
ため息交じりにそう言うと、ユリは冷静な表情のまま短く「ベティ、ゼノ」と呟いた。

すると次の瞬間、見えない手が私の唇に触れ、あっという間に乱れた口紅を綺麗に直していった。ユリの唇も同様に直され、元の整った姿に戻っている。これがユリの直属の部下たちの能力だということを改めて実感する。

「これで問題ない。」  
何事もなかったかのように言う彼に、私は呆れた顔を向けた。

「全く……。」  
(仕方ない人ね……。)

心の中でそう呟きながらも、彼の突飛な行動に笑みを浮かべずにはいられなかった。ユリの不器用な愛情表現は、やはりどこか愛おしいのだ。

その後、私たちは船上パーティーの主催者であるシルバークイーン侯爵に挨拶するため、ゆっくりと船のデッキへと向かった。船内から外に出ると、広がる湖の景色が一層鮮やかに目に飛び込んできた。風は心地よく肌を撫で、水面は太陽の光を反射してキラキラと輝いている。まるで本物の海に浮かんでいるかのような錯覚を覚えるほどの広大な湖と、それを背景にした豪華な船のデッキは、壮麗さに満ちていた。

デッキにはすでに多くの貴族たちが集まっており、煌びやかな衣装を纏った彼らが談笑しながらグラスを片手に湖の景色を楽しんでいた。その中を、ユリが堂々とした足取りで私をエスコートしながら歩いていく。仏頂面の彼の表情は周囲を寄せ付けないほどの威圧感を放っていたが、エスコートされる私にはその冷たさすら頼もしさに感じられた。

遠くの方で優雅に振る舞うシルバークイーン侯爵の姿が見え、彼を取り巻く貴族たちの輪がいかにも華やかな雰囲気を醸し出していた。その様子を見た瞬間、私は少し緊張してしまったが、ユリの手の温もりがそれを和らげてくれる。彼の冷静な態度が、まるで「何も心配することはない」と語りかけているように感じられた。
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