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シーズン1
77.シルバークイーン侯爵
ユリが私の手を引いてエレガントに歩く姿は、周囲の目を引くほど堂々としていた。その背筋の伸びた姿勢と威厳に満ちた雰囲気に、私も自然と背筋を正したくなる。私たちが近づくと、侯爵は目元に優雅な笑みを浮かべ、品のある動きで私たちを迎えた。
「レッドナイト公爵、レッドナイト夫人、お越しいただきありがとうございます。」
マーメルド・シルバークイーン侯爵は、銀色の髪を持つ威厳ある男性だった。光を受けて輝くその髪は、彼がシルバークイーン家の当主であることを示すかのようだ。彼の淡い水色の瞳は、湖のような静けさを湛えつつも知性を感じさせ、まるでこちらの内心を見透かしているようだった。彼の衣装は、シルバーと虹色を織り交ぜた豪華な生地で作られ、動くたびに光を反射してオーロラのような幻想的な輝きを放っている。その姿は、まさに領地の繁栄と誇りを象徴する存在そのものだった。
「お招きいただき光栄です、シルバークイーン侯爵。」
ユリは深々と頭を下げ、礼儀正しく返礼した。その声にはいつもの冷たさが混じっているが、どこか特別な敬意も感じられる。
「この素晴らしいパーティーを楽しませていただいております。」
彼の言葉に、侯爵の目元が少し和らいだ。
「それは何よりです。どうぞ、お二人ともリラックスして楽しんでください。」
侯爵は穏やかな微笑みを浮かべながら、視線を私に向けた。
「お招きありがとうございます、侯爵様。」
私は微笑みを返しながら答えた。「お船の装飾や景色が本当に美しいですね。特にこの広大な淡水の湖が素晴らしいです。」
侯爵の瞳に誇りが宿り、満足げに頷いた。「ありがとうございます、メイシール夫人。この湖は我が領地の誇りです。淡水でありながらも、海のような広がりを持つこの景色を、多くの方に楽しんでいただけるのは私の喜びです。」
私たちの会話の間、ユリは冷静に侯爵を見つめていたが、侯爵の発言に少しだけ眉を動かしたのが分かった。そんな二人のやり取りが面白くて、私は内心くすっと笑いそうになった。
「息子のメアルーシュもここを楽しんでいるようで、特にこの広い水面を見て興奮していました。」
私がそう言うと、侯爵は目を細めて笑った。
「ほぅ、それは嬉しいことです。お子様も楽しんでいただけるよう、色々と工夫を凝らしております。」
そして、侯爵はユリの方に視線を向け、何かを思い出すように微笑んだ。
「ユリドレ、君がそんな顔を見せるなんて珍しいな…。」
その瞬間、私は驚いてユリの顔を見た。(わっ!ユリったら顔が普通になっちゃってる!!)
ユリはすぐに咳払いをして、いつもの仏頂面に戻った。その表情の変化に気付いた侯爵は、さらに楽しそうに微笑んだ。
「おや?そう隠さなくても良いではないか。僕と君の仲じゃないか。」
「おい。マーメルド。俺とお前は赤の他人だ。友人になった覚えはない。」
ユリはいつもの冷たい口調で返したが、その微妙な仕草には照れ臭さが見え隠れしていた。
「って、彼は言うんだけど、最初は僕と喋りたそうにソワソワしていたんだよね。だから、誰の目にもつかない場所でだけ話すようになったってわけさ。」
侯爵は愉快そうに笑いながら話を続けた。「おかげで僕とユリは男色だと回りに誤解されたこともあったよね。」
「おい、妻に変な情報を与えるな。」
ユリは眉をひそめ、少し不機嫌そうに侯爵を睨んだ。
「まぁまぁ。君の母君も隠居されたことだし、そろそろ僕たちは普通に接しても良いのではないかな?」
ユリは一瞬考え込むように視線を落としたが、すぐにそっぽを向きながら答えた。「…挨拶したそうにしている客がいる。俺たちはそろそろ失礼するぞ。まぁ…なんだ。その、互いの家でくらいなら話を聞いてやらんこともないがな。」
その言葉に、侯爵は勝ち誇ったように笑みを浮かべたが、それ以上何も言わなかった。
ユリが私の手を引いてその場を離れた時、私は彼の新たな一面を知ることができた気がして、少しだけ胸が温かくなった。
ユリとシルバークイーン侯爵とのやり取りが終わった後、私たちは船上パーティーの他の招待客たちと交流するため、優雅に歩き回った。広い船上の広場はまるで宮殿の一部のように装飾され、煌びやかなシャンデリアや繊細な花のアレンジメントが目を引いた。耳には優雅な音楽が流れ、貴族たちの笑い声や会話があちこちから聞こえてきた。
「レッドナイト夫人、素晴らしいお召し物ですね。どちらで仕立てられたのですか?」
ふと、銀髪の貴婦人が私に微笑みかけながら話しかけてきた。
その優雅な佇まいと、やわらかな物腰にすぐ気付く。この方はシルバークイーン家の人だわ。花のお茶会の時もそうだったけれど、彼らは一貫して親切で丁寧。ユリと親交があるせいか、特に私に対しても友好的だ。
「ありがとうございます。このドレスはレッドナイト公爵領で特別に仕立ててもらったもので、実は私の夫が選んでくれたんです。」
私は微笑みながら答えた。
「まあ、それは素敵ですわ。公爵様は本当にお優しいのですね。」
彼女は感心したように目を輝かせて言った。その言葉に少し照れくさくなりつつも、ユリが選んでくれた特別なドレスを自慢できるのは、私にとっても誇らしかった。
ユリは私の隣で冷静な表情を崩さず、周囲を観察するように目を光らせていた。時折、話しかけてくる貴族たちと短い会話を交わすが、その態度はぶっきらぼうで、彼の冷たい美貌と相まってますます威圧感を与えている。そんな彼の存在感は自然と人々の注目を集めていた。
「レッドナイト公爵、久しぶりです。お元気でしたか?」
一人の中年の紳士が近づき、にこやかに挨拶をしてきた。
「お久しぶりです。お陰様で元気に過ごしております。今日は素晴らしいパーティーですね。」
ユリは言葉だけ礼儀正しく返したが、声色は棒読みで心の底から感謝しているようには全く聞こえなかった。その冷たさに紳士は一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐに笑顔を取り繕って立ち去っていった。
私はその様子を見ながら、心の中で少し苦笑する。ユリがわざと不愛想に振る舞っているのは明らかだ。彼なりに私を守るための振る舞いなのだろうけれど、シルバークイーン侯爵が「もう普通にしても良い」と言っていたことを思い出すと、少しだけもったいない気もする。
「ユリ、もう少し普通に接してもいいんじゃない?」
私は囁くように言ってみた。
ユリは私をちらりと見て、小さくため息をついた。「ここは普通の場ではない。何かあった時、俺が甘く見られるわけにはいかない。」
その冷静な声に、私はそれ以上言い返せなかった。彼の目に宿る鋭い光と仏頂面は、まさにレッドナイト公爵としての威厳そのもの。そんなユリの横顔を見て、私はやっぱり彼の強さに少しだけ胸が熱くなるのを感じた。
ユリの仏頂面が場を支配する中、私は少しでも雰囲気を和らげようと、隣に立ちながらも積極的に話しかけてくれる貴婦人たちと会話を続けていた。
「レッドナイト夫人、このアクセサリーも旦那様のご選定ですか?」
「ええ、そうなんです。細部まで気にしてくれるんですよ。」
私は自然な微笑みを浮かべながら答えた。
「まぁ、それは素晴らしいわね!それにしても、お二人は本当にお似合いですわ。」
その声に、他の貴婦人たちも同調するように頷いてくれる。
そんな中、ユリが冷たい声でぽつりと付け加えた。
「俺にメイシール以上の相手は存在しない。選ぶ余地などなかった。」
一瞬の静寂の後、周囲の貴婦人たちは微笑みながらも、どこか圧倒された様子で視線を交わし始めた。
私は少し慌ててフォローしようとしたものの、その場の空気に独特の緊張感が漂ってしまったのを感じる。ユリはそれさえも意図的に利用しているように見えた。その計算高さに、呆れつつも内心頼もしさを感じる自分がいた。
「レッドナイト公爵、レッドナイト夫人、お越しいただきありがとうございます。」
マーメルド・シルバークイーン侯爵は、銀色の髪を持つ威厳ある男性だった。光を受けて輝くその髪は、彼がシルバークイーン家の当主であることを示すかのようだ。彼の淡い水色の瞳は、湖のような静けさを湛えつつも知性を感じさせ、まるでこちらの内心を見透かしているようだった。彼の衣装は、シルバーと虹色を織り交ぜた豪華な生地で作られ、動くたびに光を反射してオーロラのような幻想的な輝きを放っている。その姿は、まさに領地の繁栄と誇りを象徴する存在そのものだった。
「お招きいただき光栄です、シルバークイーン侯爵。」
ユリは深々と頭を下げ、礼儀正しく返礼した。その声にはいつもの冷たさが混じっているが、どこか特別な敬意も感じられる。
「この素晴らしいパーティーを楽しませていただいております。」
彼の言葉に、侯爵の目元が少し和らいだ。
「それは何よりです。どうぞ、お二人ともリラックスして楽しんでください。」
侯爵は穏やかな微笑みを浮かべながら、視線を私に向けた。
「お招きありがとうございます、侯爵様。」
私は微笑みを返しながら答えた。「お船の装飾や景色が本当に美しいですね。特にこの広大な淡水の湖が素晴らしいです。」
侯爵の瞳に誇りが宿り、満足げに頷いた。「ありがとうございます、メイシール夫人。この湖は我が領地の誇りです。淡水でありながらも、海のような広がりを持つこの景色を、多くの方に楽しんでいただけるのは私の喜びです。」
私たちの会話の間、ユリは冷静に侯爵を見つめていたが、侯爵の発言に少しだけ眉を動かしたのが分かった。そんな二人のやり取りが面白くて、私は内心くすっと笑いそうになった。
「息子のメアルーシュもここを楽しんでいるようで、特にこの広い水面を見て興奮していました。」
私がそう言うと、侯爵は目を細めて笑った。
「ほぅ、それは嬉しいことです。お子様も楽しんでいただけるよう、色々と工夫を凝らしております。」
そして、侯爵はユリの方に視線を向け、何かを思い出すように微笑んだ。
「ユリドレ、君がそんな顔を見せるなんて珍しいな…。」
その瞬間、私は驚いてユリの顔を見た。(わっ!ユリったら顔が普通になっちゃってる!!)
ユリはすぐに咳払いをして、いつもの仏頂面に戻った。その表情の変化に気付いた侯爵は、さらに楽しそうに微笑んだ。
「おや?そう隠さなくても良いではないか。僕と君の仲じゃないか。」
「おい。マーメルド。俺とお前は赤の他人だ。友人になった覚えはない。」
ユリはいつもの冷たい口調で返したが、その微妙な仕草には照れ臭さが見え隠れしていた。
「って、彼は言うんだけど、最初は僕と喋りたそうにソワソワしていたんだよね。だから、誰の目にもつかない場所でだけ話すようになったってわけさ。」
侯爵は愉快そうに笑いながら話を続けた。「おかげで僕とユリは男色だと回りに誤解されたこともあったよね。」
「おい、妻に変な情報を与えるな。」
ユリは眉をひそめ、少し不機嫌そうに侯爵を睨んだ。
「まぁまぁ。君の母君も隠居されたことだし、そろそろ僕たちは普通に接しても良いのではないかな?」
ユリは一瞬考え込むように視線を落としたが、すぐにそっぽを向きながら答えた。「…挨拶したそうにしている客がいる。俺たちはそろそろ失礼するぞ。まぁ…なんだ。その、互いの家でくらいなら話を聞いてやらんこともないがな。」
その言葉に、侯爵は勝ち誇ったように笑みを浮かべたが、それ以上何も言わなかった。
ユリが私の手を引いてその場を離れた時、私は彼の新たな一面を知ることができた気がして、少しだけ胸が温かくなった。
ユリとシルバークイーン侯爵とのやり取りが終わった後、私たちは船上パーティーの他の招待客たちと交流するため、優雅に歩き回った。広い船上の広場はまるで宮殿の一部のように装飾され、煌びやかなシャンデリアや繊細な花のアレンジメントが目を引いた。耳には優雅な音楽が流れ、貴族たちの笑い声や会話があちこちから聞こえてきた。
「レッドナイト夫人、素晴らしいお召し物ですね。どちらで仕立てられたのですか?」
ふと、銀髪の貴婦人が私に微笑みかけながら話しかけてきた。
その優雅な佇まいと、やわらかな物腰にすぐ気付く。この方はシルバークイーン家の人だわ。花のお茶会の時もそうだったけれど、彼らは一貫して親切で丁寧。ユリと親交があるせいか、特に私に対しても友好的だ。
「ありがとうございます。このドレスはレッドナイト公爵領で特別に仕立ててもらったもので、実は私の夫が選んでくれたんです。」
私は微笑みながら答えた。
「まあ、それは素敵ですわ。公爵様は本当にお優しいのですね。」
彼女は感心したように目を輝かせて言った。その言葉に少し照れくさくなりつつも、ユリが選んでくれた特別なドレスを自慢できるのは、私にとっても誇らしかった。
ユリは私の隣で冷静な表情を崩さず、周囲を観察するように目を光らせていた。時折、話しかけてくる貴族たちと短い会話を交わすが、その態度はぶっきらぼうで、彼の冷たい美貌と相まってますます威圧感を与えている。そんな彼の存在感は自然と人々の注目を集めていた。
「レッドナイト公爵、久しぶりです。お元気でしたか?」
一人の中年の紳士が近づき、にこやかに挨拶をしてきた。
「お久しぶりです。お陰様で元気に過ごしております。今日は素晴らしいパーティーですね。」
ユリは言葉だけ礼儀正しく返したが、声色は棒読みで心の底から感謝しているようには全く聞こえなかった。その冷たさに紳士は一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐに笑顔を取り繕って立ち去っていった。
私はその様子を見ながら、心の中で少し苦笑する。ユリがわざと不愛想に振る舞っているのは明らかだ。彼なりに私を守るための振る舞いなのだろうけれど、シルバークイーン侯爵が「もう普通にしても良い」と言っていたことを思い出すと、少しだけもったいない気もする。
「ユリ、もう少し普通に接してもいいんじゃない?」
私は囁くように言ってみた。
ユリは私をちらりと見て、小さくため息をついた。「ここは普通の場ではない。何かあった時、俺が甘く見られるわけにはいかない。」
その冷静な声に、私はそれ以上言い返せなかった。彼の目に宿る鋭い光と仏頂面は、まさにレッドナイト公爵としての威厳そのもの。そんなユリの横顔を見て、私はやっぱり彼の強さに少しだけ胸が熱くなるのを感じた。
ユリの仏頂面が場を支配する中、私は少しでも雰囲気を和らげようと、隣に立ちながらも積極的に話しかけてくれる貴婦人たちと会話を続けていた。
「レッドナイト夫人、このアクセサリーも旦那様のご選定ですか?」
「ええ、そうなんです。細部まで気にしてくれるんですよ。」
私は自然な微笑みを浮かべながら答えた。
「まぁ、それは素晴らしいわね!それにしても、お二人は本当にお似合いですわ。」
その声に、他の貴婦人たちも同調するように頷いてくれる。
そんな中、ユリが冷たい声でぽつりと付け加えた。
「俺にメイシール以上の相手は存在しない。選ぶ余地などなかった。」
一瞬の静寂の後、周囲の貴婦人たちは微笑みながらも、どこか圧倒された様子で視線を交わし始めた。
私は少し慌ててフォローしようとしたものの、その場の空気に独特の緊張感が漂ってしまったのを感じる。ユリはそれさえも意図的に利用しているように見えた。その計算高さに、呆れつつも内心頼もしさを感じる自分がいた。
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