死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

80.修練島にて

ふと目が覚めると、刺すような陽射しが視界を覆った。眩しさに目を細めながら周囲を見渡すと、自分が砂浜に横たわっていることに気づいた。肌にはひんやりとした砂の感触があり、波の音がかすかに聞こえてくる。

ゆっくりと体を起こし、隣を見るとゼノがぐったりと倒れていた。

「ゼノ!」

息を飲み、すぐに彼の側へ駆け寄る。彼の顔色は青白く、呼吸も浅かったが、胸の上下が微かに動いているのを見て、わずかに安堵した。

「よかった、まだ生きてる…」

ほっと息をつきながら、震える手で彼の体を調べた。大きな傷はないものの、疲労と魔力の消耗が極限に達しているのが明らかだった。

「ゼノ、しっかりして!」

彼の頬を軽く叩きながら呼びかけると、ゼノの眉がわずかに動き、薄く目を開いた。

「奥…様…」

彼のかすれた声が耳に届いた瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

「ゼノ、よかった!目を覚ましたのね。」

私は思わず涙をこらえながら微笑むと、ゼノは辛そうに上半身を起こした。

「ここは…シルバークイーン領にある修練島のようですね。」
ゼノは周囲を見渡しながら言った。

「修練島?そんな場所があったなんて知らなかったわ。」
私は驚きながら彼に尋ねた。

「ここは、水の特殊能力を持つ者が修練を積むための島です。能力の発現と共に、この島へ送り込まれるのです。」
彼の言葉に、思わず息を呑んだ。

「そうだったの…ゼノがそこまで詳しいなんて。」

「シルバークイーン領は、私の故郷ですから。」

ゼノが冷静に答えるのを聞き、彼の言葉の背景にある重さを感じた。

「そうよね、あなたの銀髪もその証だものね…。でも、ルーとユリは無事かしら…。」

胸の奥に湧き上がる不安を隠せずに呟くと、ゼノは静かに頷いた。

「旦那様と坊ちゃまの安否は気になりますね。急いで状況を確認しないといけません。」

彼はふらつきながらも自力で立ち上がり、周囲を警戒するように見回した。

その時、ゼノは濡れたシャツを脱ぎ、水気を絞った。だが、彼の体に刻まれた無数の古傷と謎の紋様を見た瞬間、私は息を呑み、思わず声を漏らしてしまった。

「ゼノ…その体…」

「これは過去の修練の痕です。気にしないでください。」

ゼノは淡々と答え、濡れたシャツを再び着直した。その冷静な態度とは裏腹に、彼の体には過酷な人生の軌跡が刻まれていた。

(これは修練の痕なんかじゃない。お義母様にどれだけ酷い仕打ちを受けたのか…。ゼノがどれだけの覚悟でユリの側にいてくれたのか。)

心が締め付けられるような思いでゼノを見つめた。

彼は一瞬だけ私を見つめ、静かに口を開いた。

「奥様、ご不安にさせるかもしれませんが、かなり妙な状況です。」

「妙って、どういうこと?」

緊張を感じながら問い返すと、ゼノの視線が鋭くなった。

「まず、奥様のブルービショップ家のタトゥーを確認してもよろしいでしょうか?」

彼の問いに戸惑いながらも頷き、ドレスの裾をそっとめくり、足首に刻まれたタトゥーを見せた。


「……とりあえず、魔力は安定しているようですね。奥様の体に異常はなさそうです。そして、主は無事なようです。」
ゼノは足首のタトゥーに目を落としながら、冷静に告げた。その声に、少しだけ安心が広がる。

「え!?それがわかるの?」
私は驚いて問い返した。

「まぁ、いろいろと分かります。この魔力の光り具合で、魔力の流れを読み取ることが可能です。ただ…主がこの時間になっても奥様を探し出せていないことが妙です。生きているのは間違いありませんが、何かアクシデントが発生しているのは確かでしょう。」

ゼノは眉間にしわを寄せながら、鋭い目でタトゥーを見つめている。その様子から、彼もまた内心で大きな不安を抱えているのが伝わってきた。

「魔力が回復し次第、空を飛んで島から脱出しましょう。」

「空!?ゼノ、あなた飛べるの?」

「お任せください。そのために全身にタトゥーが施されています。私の体は、ありとあらゆる特殊能力を扱うために作り替えられていますから。」
彼は静かに肩をすくめ、控えめな自嘲がその声に混じる。

「あぁ、そうね。一応、ユリから聞いてるわ。でも…やっぱりすごいわね。」
私は少し圧倒されながらも、彼に感嘆の言葉をかけた。ゼノは小さく頷くと、視線を遠くに向けた。

「ありがとうございます。今はまず、少しでも魔力を回復させるために休息を取るのが先決です。」

砂浜の端に目をやると、木陰が少しだけ広がる場所があった。ゼノがその場所を指差し、私を促す。

「ここでお休みください、奥様。」

私たちは木陰に移動し、少しでも風を避けられるよう体勢を整えた。ゼノは足を組んで地面に座ると、静かに瞳を閉じて瞑想を始めた。その表情は真剣で、全身が緊張感に包まれているのが伝わる。

私は彼の姿をしばらく見つめていたが、喉の渇きに気づいてしまった。
「でも…少し暑いわね。喉が乾いちゃった。」
ぼんやりと口を開くと、ゼノが瞳を開き、すぐに言葉を被せてきた。

「なりません。」

「えっ!?あ…薪を集めて火を起こせないかと思って言ったのだけど…ダメなのね。」
少し怯む私に、ゼノは肩をすくめて答えた。

「火ですか。それなら可能ですよ。」

「なんだと思ったのよ。」

「水かと。」

「水?あぁ、ゼノってシルバークイーン家の人だものね。生成できるのね。でもどうしてダメなの?」

ゼノの顔がわずかに曇る。言いにくそうに視線を外してから、静かに口を開いた。

「私が生成する水を1滴でも口にすると、その方は必ず私に陶酔してしまうのです。」

「えっ…それは…」

私は絶句した。その言葉の意味するところを考えると、思わず額に手を当ててしまう。

(惚れ薬みたいな水を作っちゃうってこと!?)

「はい、非常に厄介な能力です。過去に何度か試しましたが、全て同じ結果でした。それゆえ、飲み水は他の方法で調達する必要があります。」

「試した…ってことは、ゼノに惚れちゃった人が…何人かいるってこと?」

私は恐る恐る聞いたが、ゼノは表情を変えずに首を縦に振った。

「はい。そのため、私はそれ以来、生成する水を誰にも提供しておりません。」

「そ、そう…。じゃあ、火を起こしてどうにかしましょう。」

私は話題を切り替えようと無理やり明るい声を出し、近くに散らばっている乾いた枝や葉を拾い始めた。ゼノも私に倣い、効率よく薪を集めてくれる。

やがて、ゼノが魔力を使って火を起こし、私たちは砂浜に焚き火を囲むように腰を下ろした。その光と熱が、少しだけ心の不安を和らげてくれる気がした。

「ゼノ、見て。あそこに鍋が打ち上げられてるわ!」

波打ち際で小さな鍋を発見し、私は喜びながら拾い上げた。これを使って淡水を煮沸することで飲み水を作ることができると考えた。

「奥様の知識には驚かされますね。」

ゼノは焚き火に鍋をかけながら、感心したように言った。

「いえいえ、誰でも思いつくことよ。それより、この水が海水じゃなくてよかったわ。」

焚き火の光がゼノの顔を照らし、その瞳には微かな思索の色が浮かんでいた。

「奥様の能力は何なのでしょうか。主が私にも秘密にしているくらいですから、大きなものだとは思いますが。」

その問いに、一瞬言葉を詰まらせた。彼がどこまで知っているのかが読めなかったからだ。

「えぇ、ブルービショップの力ね…。」

私は視線を泳がせながら答えた。

ゼノはじっと私を見つめてきた。

「私の推測では、未来視といったところでしょうか。」

「未来が見通せてたら、こんな状況になってないわよ。ただ、少し直観力が鋭いだけ。」

苦笑いを浮かべながら返すと、ゼノは少し眉をひそめ、わずかに首を傾げた。

「そう…ですか。」

その言葉はどこか腑に落ちていないように感じられた。焚き火の揺れる炎が、二人の間に微かな緊張感を漂わせていた。
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