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シーズン1
84.執念と執着
「ミレーヌ。僕を自室のベッドへ案内してくれないか。」
僕の頼みに、ミレーヌは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに頭を下げた。
「畏まりました。」
彼女は僕を抱きかかえ、軽々と持ち上げると、迷いなく廊下を進んだ。周囲は静まり返り、昨日の嵐が嘘のような平穏が広がっている。その静けさが逆に、僕の中でくすぶる不安を際立たせた。
(父さんも母さんも無事だと言えど、まだ完全に安心はできない…。)
「ありがとう、ミレーヌ。少し休むよ。」
ベッドに横たわりながら言うと、彼女は微笑みを浮かべて、静かに部屋を出ていった。その後ろ姿を見送ると、僕は大きく息を吐き出した。
(僕も3歳の体だ。限界を越えて頑張るのは、さすがに無理がある…。)
瞼を閉じると、すぐに疲労が全身を包み込み、深い眠りに落ちた。夢を見る間もなく、真っ暗な意識の中へ沈んでいった。
目が覚めると、窓から柔らかな朝日が射し込んでいた。部屋全体がオレンジ色の光に染まり、静けさの中に一日の始まりを感じさせる空気が漂っている。
(昨日の疲れはだいぶ取れたな…魔力も回復してる。これなら母さんにテレパシーを送れるはずだ。)
僕はベッドの上に座り直し、深呼吸をして意識を集中させた。目を閉じ、心の中で母さんの姿を思い浮かべる。母さんの顔、声、そして強いけど優しい存在感をしっかりとイメージした。
《母さん…。》
心の中で呼びかけると、微かに反応が返ってきた気がした。僕はもう一度強く念じる。
《母さん、無事?》
《母さん、生きてたら、心の中で僕を思い浮かべて強く何かを念じてみて。》
僕はさらに念じるように伝えた。
(母さんならきっとすぐにやれるはずだ…。)
少し間が空いたが、やがて母さんの声が響いた。
《無事…》
少し戸惑いながらも、母さんの声がはっきりと届いた瞬間、胸に込み上げる安堵感を抑えられなかった。
《やっと繋がった。無事みたいだね。そっちの状況を伝えられる?》
更に問いかけると、母さんが必死に情報を送ってくれる。
《島………ゼノ……一緒……魔力………枯渇………》
母さんのとぎれとぎれの言葉が返ってきた。完全ではないが、それでも繋がっていると実感できるだけで、僕の心は少し軽くなった。
(島?ゼノと一緒で、しかも魔力枯渇…ゼノの魔力が尽きているのか。それにしても、島とは…。)
母さんの情報を受け取りながら、僕は頭を整理した。そして、最善の方法を母さんに伝える。
《なるほど、母さん、ゼノの手を握って魔力を分けてあげるといいよ。その練習をしたほうが回復を待つより早いと思う。母さんは御婆様から魔法使いの血を受け継いでるでしょ。僕にもできるから、母さんなら、きっとできるよ。それと、僕も父さんも無事。だから安心して帰ってきて。》
テレパシーを終えると、僕は大きく息を吐き、目を開けた。体はまだ少し疲れているが、母さんが無事だとわかり、肩の力が抜けた。
(よし。次は父さんにこのことを伝えなきゃな。)
僕はベッドから降りてストレッチをすると、ゆっくりと廊下へ出た。新しい朝の光の中で、少しだけ前向きな気持ちを取り戻していた。
僕は廊下を急ぎ足で進み、父さんの部屋に入った。中では父さんがまだベッドに横たわり、混乱した様子で頭を抱えていた。ミレーヌが彼の側で心配そうに見守っている。
「父さん、少しは落ち着いた?」
僕が声をかけると、ミレーヌがすぐに振り返り、ほっとした表情を浮かべた。
「メアルーシュ様!状況はいかがでしたか?」
彼女の焦りが込められた声に、僕は短く頷いた。
「母さんにテレパシーを送ったよ。無事みたいだ。ゼノも一緒にいる。」
僕の言葉にミレーヌは驚きつつも安堵の息をついた。
「ゼノと…坊ちゃまの直感通りですね。」
彼女の声が少し震えているのを感じた。
父さんも僕の言葉を聞き、眉を寄せたまま答えた。
「本当にメイシール…は無事なのですか?ゼノがいるなら安心ですが…」
僕は父さんの言葉を遮り、次の提案を切り出した。
「父さん、母さんが戻る前に一度、領地の隠し部屋に行こうよ。あの部屋に行けば、きっと何か役に立つものがあるはずだ。」
「領地へ?ですが、ここから向かうには半日以上はかかります。」
父さんは疑問を抱いたように言うが、僕は小さく笑って言った。
「大丈夫。僕の力なら一瞬で飛べるから。」
父さんは一瞬目を見開いて驚いたものの、すぐにその提案に納得したように頷いた。
「そうですか。それなら…お願いします、メアルーシュ。」
僕は父さんの手を取り、魔力を集中させる。
「準備はいい?ここに立ったままで大丈夫だよ。」
「特に何か準備は必要ないのですか?」
父さんが不思議そうに聞いてくる。
「うん、僕の魔法は簡単だから。信じて、いくよ!」
次の瞬間、空間が歪むような感覚が走り、視界が一変した。
気づけば僕たちは、領地の隠し部屋に立っていた。部屋は暗く、しかし古い書物や整理された棚、机の上に置かれた無数の資料があることが一目でわかった。父さんはその光景をじっと見つめ、少しだけ懐かしそうな表情を浮かべた。
「ここだ…。だが、だいぶ手が加えられているな。」
父さんは呟きながら、部屋の中をゆっくりと歩き始めた。
僕も父さんの後をついていきながら、一つの赤い本に目が留まった。表紙には父さんの字で「緊急用」と書かれている。
「父さん、多分だけど、これを見た方がいいんじゃない?」
僕はその本を父さんに差し出した。
父さんは少し戸惑ったような表情を浮かべたが、やがてそれを受け取り、慎重にページを開き始めた。
「これは…」
本を開いた瞬間、父さんの顔に驚きが走る。
「どうしたの?」
「これは…俺が記憶を失った場合に備えて書いたものだ。つまり、今の俺のために残したものということか。」
父さんは呟きながら、さらにページをめくった。
彼の表情が徐々に真剣になり、眉間に深いシワが刻まれていく。部屋の静けさの中で、ページをめくる音だけが響いていた。
「何億通りもの人生をシミュレーションして…これは…」
父さんは言葉を失ったように黙り込み、ページを読み進める。
僕はその姿を横で見ながら、胸が少しざわつくのを感じた。
(父さん、どうして、ここまで母さんのためにやるんだろう…まるで執念みたいなものを感じる。)
「メアルーシュ。」
父さんがふと顔を上げ、僕を真っ直ぐに見つめた。
「この本には、俺がどんな状態であっても、メイシールを守る方法が記されています。ですが…記憶が戻らないうちにどこまで役に立つか…。」
「父さん、まずはできることから始めようよ。僕も力を貸すから。」
僕は父さんに笑みを向けた。
「…そうですね。頼みます。」
父さんは小さく頷き、再び本に目を落とした。その瞳には、記憶が戻らなくても妻と家族を守ろうとする強い意志が宿っていた。
回帰の記憶を取り戻した今、俺には父さんと母さんに隠している秘密がある。それは、回帰前の人生についてだ。1度目の人生では、父さんが母さんを殺してしまった。あの別荘で母さんは命を落とし、俺は放置された末、陰謀に巻き込まれ命を奪われた。2度目の人生では、俺が母さんの逃げた理由を父さんに説明すると、父さんは母さんの記憶を全て消し去り、軟禁した。それでも幼い頃は幸せだったが、大人になり狂気に気づいた時には既に手遅れで、俺は再びとある陰謀に巻き込まれて命を落とした。
今回、俺は2度目の人生に小さな嘘を混ぜた。父さんに家族を守らせるような気を持たせられるような嘘をついた。そして今のところ、全てが順調に見える。父さんの母さんへの執着は変わらない。ただ、この均衡を崩す父さんへの嘘がバレたら、どうなるか――それだけが不安だ。
僕の頼みに、ミレーヌは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに頭を下げた。
「畏まりました。」
彼女は僕を抱きかかえ、軽々と持ち上げると、迷いなく廊下を進んだ。周囲は静まり返り、昨日の嵐が嘘のような平穏が広がっている。その静けさが逆に、僕の中でくすぶる不安を際立たせた。
(父さんも母さんも無事だと言えど、まだ完全に安心はできない…。)
「ありがとう、ミレーヌ。少し休むよ。」
ベッドに横たわりながら言うと、彼女は微笑みを浮かべて、静かに部屋を出ていった。その後ろ姿を見送ると、僕は大きく息を吐き出した。
(僕も3歳の体だ。限界を越えて頑張るのは、さすがに無理がある…。)
瞼を閉じると、すぐに疲労が全身を包み込み、深い眠りに落ちた。夢を見る間もなく、真っ暗な意識の中へ沈んでいった。
目が覚めると、窓から柔らかな朝日が射し込んでいた。部屋全体がオレンジ色の光に染まり、静けさの中に一日の始まりを感じさせる空気が漂っている。
(昨日の疲れはだいぶ取れたな…魔力も回復してる。これなら母さんにテレパシーを送れるはずだ。)
僕はベッドの上に座り直し、深呼吸をして意識を集中させた。目を閉じ、心の中で母さんの姿を思い浮かべる。母さんの顔、声、そして強いけど優しい存在感をしっかりとイメージした。
《母さん…。》
心の中で呼びかけると、微かに反応が返ってきた気がした。僕はもう一度強く念じる。
《母さん、無事?》
《母さん、生きてたら、心の中で僕を思い浮かべて強く何かを念じてみて。》
僕はさらに念じるように伝えた。
(母さんならきっとすぐにやれるはずだ…。)
少し間が空いたが、やがて母さんの声が響いた。
《無事…》
少し戸惑いながらも、母さんの声がはっきりと届いた瞬間、胸に込み上げる安堵感を抑えられなかった。
《やっと繋がった。無事みたいだね。そっちの状況を伝えられる?》
更に問いかけると、母さんが必死に情報を送ってくれる。
《島………ゼノ……一緒……魔力………枯渇………》
母さんのとぎれとぎれの言葉が返ってきた。完全ではないが、それでも繋がっていると実感できるだけで、僕の心は少し軽くなった。
(島?ゼノと一緒で、しかも魔力枯渇…ゼノの魔力が尽きているのか。それにしても、島とは…。)
母さんの情報を受け取りながら、僕は頭を整理した。そして、最善の方法を母さんに伝える。
《なるほど、母さん、ゼノの手を握って魔力を分けてあげるといいよ。その練習をしたほうが回復を待つより早いと思う。母さんは御婆様から魔法使いの血を受け継いでるでしょ。僕にもできるから、母さんなら、きっとできるよ。それと、僕も父さんも無事。だから安心して帰ってきて。》
テレパシーを終えると、僕は大きく息を吐き、目を開けた。体はまだ少し疲れているが、母さんが無事だとわかり、肩の力が抜けた。
(よし。次は父さんにこのことを伝えなきゃな。)
僕はベッドから降りてストレッチをすると、ゆっくりと廊下へ出た。新しい朝の光の中で、少しだけ前向きな気持ちを取り戻していた。
僕は廊下を急ぎ足で進み、父さんの部屋に入った。中では父さんがまだベッドに横たわり、混乱した様子で頭を抱えていた。ミレーヌが彼の側で心配そうに見守っている。
「父さん、少しは落ち着いた?」
僕が声をかけると、ミレーヌがすぐに振り返り、ほっとした表情を浮かべた。
「メアルーシュ様!状況はいかがでしたか?」
彼女の焦りが込められた声に、僕は短く頷いた。
「母さんにテレパシーを送ったよ。無事みたいだ。ゼノも一緒にいる。」
僕の言葉にミレーヌは驚きつつも安堵の息をついた。
「ゼノと…坊ちゃまの直感通りですね。」
彼女の声が少し震えているのを感じた。
父さんも僕の言葉を聞き、眉を寄せたまま答えた。
「本当にメイシール…は無事なのですか?ゼノがいるなら安心ですが…」
僕は父さんの言葉を遮り、次の提案を切り出した。
「父さん、母さんが戻る前に一度、領地の隠し部屋に行こうよ。あの部屋に行けば、きっと何か役に立つものがあるはずだ。」
「領地へ?ですが、ここから向かうには半日以上はかかります。」
父さんは疑問を抱いたように言うが、僕は小さく笑って言った。
「大丈夫。僕の力なら一瞬で飛べるから。」
父さんは一瞬目を見開いて驚いたものの、すぐにその提案に納得したように頷いた。
「そうですか。それなら…お願いします、メアルーシュ。」
僕は父さんの手を取り、魔力を集中させる。
「準備はいい?ここに立ったままで大丈夫だよ。」
「特に何か準備は必要ないのですか?」
父さんが不思議そうに聞いてくる。
「うん、僕の魔法は簡単だから。信じて、いくよ!」
次の瞬間、空間が歪むような感覚が走り、視界が一変した。
気づけば僕たちは、領地の隠し部屋に立っていた。部屋は暗く、しかし古い書物や整理された棚、机の上に置かれた無数の資料があることが一目でわかった。父さんはその光景をじっと見つめ、少しだけ懐かしそうな表情を浮かべた。
「ここだ…。だが、だいぶ手が加えられているな。」
父さんは呟きながら、部屋の中をゆっくりと歩き始めた。
僕も父さんの後をついていきながら、一つの赤い本に目が留まった。表紙には父さんの字で「緊急用」と書かれている。
「父さん、多分だけど、これを見た方がいいんじゃない?」
僕はその本を父さんに差し出した。
父さんは少し戸惑ったような表情を浮かべたが、やがてそれを受け取り、慎重にページを開き始めた。
「これは…」
本を開いた瞬間、父さんの顔に驚きが走る。
「どうしたの?」
「これは…俺が記憶を失った場合に備えて書いたものだ。つまり、今の俺のために残したものということか。」
父さんは呟きながら、さらにページをめくった。
彼の表情が徐々に真剣になり、眉間に深いシワが刻まれていく。部屋の静けさの中で、ページをめくる音だけが響いていた。
「何億通りもの人生をシミュレーションして…これは…」
父さんは言葉を失ったように黙り込み、ページを読み進める。
僕はその姿を横で見ながら、胸が少しざわつくのを感じた。
(父さん、どうして、ここまで母さんのためにやるんだろう…まるで執念みたいなものを感じる。)
「メアルーシュ。」
父さんがふと顔を上げ、僕を真っ直ぐに見つめた。
「この本には、俺がどんな状態であっても、メイシールを守る方法が記されています。ですが…記憶が戻らないうちにどこまで役に立つか…。」
「父さん、まずはできることから始めようよ。僕も力を貸すから。」
僕は父さんに笑みを向けた。
「…そうですね。頼みます。」
父さんは小さく頷き、再び本に目を落とした。その瞳には、記憶が戻らなくても妻と家族を守ろうとする強い意志が宿っていた。
回帰の記憶を取り戻した今、俺には父さんと母さんに隠している秘密がある。それは、回帰前の人生についてだ。1度目の人生では、父さんが母さんを殺してしまった。あの別荘で母さんは命を落とし、俺は放置された末、陰謀に巻き込まれ命を奪われた。2度目の人生では、俺が母さんの逃げた理由を父さんに説明すると、父さんは母さんの記憶を全て消し去り、軟禁した。それでも幼い頃は幸せだったが、大人になり狂気に気づいた時には既に手遅れで、俺は再びとある陰謀に巻き込まれて命を落とした。
今回、俺は2度目の人生に小さな嘘を混ぜた。父さんに家族を守らせるような気を持たせられるような嘘をついた。そして今のところ、全てが順調に見える。父さんの母さんへの執着は変わらない。ただ、この均衡を崩す父さんへの嘘がバレたら、どうなるか――それだけが不安だ。
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