死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

86.ユリドレは元からおかしかった。

「そんな…」
  
ユリが記憶を失ったという事実を、私は簡単には受け入れられなかった。彼が深刻な表情で続けるのを、ただ黙って見つめるしかなかった。

ユリは深く息をつき、少し申し訳なさそうな顔で言葉を継いだ。  

「俺もこの状態が何なのか、正直理解できていません…メイ、本当にすみません。でも、アナタを完全に忘れたわけではありません。声だけは、なぜかずっと覚えています。ただ、記憶にあるアナタの声より、今の方が遥かに元気そうで安心しました。」  

彼の言葉にショックを受けながらも、彼が私を完全に忘れたわけではないという小さな救いに、ほんの少しだけ安堵した。それでも、22歳のユリが私の声を覚えているというのはどういうことなのだろう。  
――ブルービショップ家に来たことがある?体質が合う女性を調べていたとか言ってたけど、それにしても「声」だけを覚えているなんて…。

ユリはさらに申し訳なさそうな顔で続けた。  

「メイ、俺の記憶は一ヶ月もすれば戻ると医者が言っていました。その間だけ、どうか我慢していただけませんか…いや、アナタに我慢なんてさせるわけにはいきませんね。」  

「ん?ユリ、それくらいなら我慢できるから…」  

私が言い終える前に、ユリは力強く首を横に振った。  

「ダメです!これ以上アナタに負担をかけるなんて、俺には耐えられません。」 
 
彼の真剣な表情に、私は言葉を詰まらせた。   

「ルー、ユリは本当に記憶喪失なのよね?」  
  
「元からおかしいみたいだよ。」  

ルーの言葉に、私は目を丸くして彼を見つめた。
その無邪気な一言に、私は思わず吹き出してしまった。緊張感のあった空気が、一気に和らいだ。

「もぅ、なんだか安心したわ。さぁ、部屋に行きましょう。ユリもゆっくり休まなくちゃ。」
  
ユリは少し戸惑いながらも微笑み、私の手を取って歩き出した。彼の手の温もりが、私を少しだけ安心させてくれる。廊下を進む中、ユリはちらちらと私の顔を盗み見るような視線を送っていた。

部屋に入ると、ルーは「疲れたから自分の部屋に行く」と言い、隣の部屋へ姿を消した。ユリと二人きりになると、彼は何も言わずに私をそっと抱きしめてきた。その腕に包まれながら、私は彼の呼吸のリズムを感じた。だが、ふと考えてしまう――今の彼は22歳の青年の心を持っているのだ。

「ユリ、その…無理にこういうことしなくてもいいのよ?ほら、ユリにとって私は他人みたいなものじゃない?」  
私は少し距離を取るように体を引いた。

ユリは驚いたように目を見開き、真剣な表情で言った。
  
「そんなことありません。俺はメイの全てを愛しています。アナタの全てが欲しいと…心から思っています。」  

彼の熱っぽい瞳に、私は戸惑いながらも視線を逸らせなかった。記憶喪失のはずなのに、どうしてそんな感情を抱くのか理解できない。

「ユリ、本当に記憶を失ってるの?私たちって、どこで初めて会ったの?」  

私はその真意を確かめたくて尋ねた。

ユリは少し微笑みを浮かべ、言葉を選ぶようにゆっくりと言った。  

「メイ、アナタは知らなくていいんです。俺だけが知っていれば、それで十分です。」  

その言葉に、私はますます混乱した。もしかして、私が何か大事なことを忘れているのかもしれない。  

「ユリ、私、本当に何も知らないのよ…。」  

彼はそっと私の手を握り直し、柔らかく微笑んだ。
  
「メイ、俺の愛を信じてください。それだけで十分です。」  

彼の言葉に、私は少しだけ心を揺さぶられた。彼の真剣な表情を見る限り、嘘をついているとは思えない。それに今ここで疑ってしまえば、記憶が戻った後のユリに面倒をかけてしまいそうな気もする。

「わかったわ。信じる。でも、無理はしないでね。」  
そう言うと、ユリは安堵したように笑みを浮かべた。 


「ありがとうございます、メイ。俺はアナタと一緒にいるだけで、十分幸せです。」  

彼の言葉を聞いてほっとしたものの、まだ多くの謎が残っている。とりあえず、一ヶ月の間どう過ごすか、そして他の問題をどう解決していくか、考えを巡らせる必要がありそうだ。

ユリが隣で静かに微笑んでいるのを見て、私は心の中でこれからの計画を立て始めた。けれど、ふとその柔らかな微笑みが目に入ると、少しだけ肩の力が抜ける。どんな状況であれ、ユリは私に安心感を与えてくれる存在だ。

「メイ、もう夜も遅いのでそろそろ眠りましょう。」
  
彼の穏やかな声に、私は小さく頷いた。

「え?あぁ、そうね。でも私は湯浴みをしてから眠るわ。だから、先に休んでて…んっ!?」 
 
突然、ユリに軽く唇が触れられて、驚いて目を見開いた。顔が熱くなるのを感じる。

「俺の愛は足りてますか?」  

彼は真剣な目で私を見つめてきた。その視線に、言葉が詰まりそうになる。

「足りてる、足りてるから!!ユリ、私ほら、今日はずっと外にいて、お風呂に入れてないの。だから離れようとしてるわけじゃないから、大丈夫よ!すぐに入ってからベッドに入るわ!」
  
慌てて言葉を紡ぐ私を、ユリはじっと見つめた後、小さく微笑む。

「なら、一緒に入ります。俺も外から帰って風呂に入ってないみたいなので。」 
 
唐突な申し出に、私は一瞬言葉を失った。

「ん!?んー…まぁいいわ。そうしましょう。」  

結局、彼の申し出を拒否する理由もなく、私はそう答えた。するとユリはどこか子供のように喜びの表情を浮かべた。

浴室に入ると、湯気が立ち込める中、ユリはぎこちなく服を脱ぎ、浴槽に向かった。彼の顔は真っ赤で、どこを見ていいのか分からない様子だった。

「ユリ、さっさと入って、さっさと出ましょうね!」  

私は笑いを堪えながら言う。ユリは恥ずかしそうに目をそらし、頷いた。

「はい…。」  

声は小さく、それでも湯船に浸かると少し肩の力が抜けたように見えた。

私は湯船の端に座り、ユリの隣でそっと手を取り、湯に浸からせる。彼の手が微かに震えているのが伝わり、その様子がどこか愛おしく思えた。  

「リラックスして、ユリ。」  

そう言いながら彼の背中を撫でると、彼はようやく私の肩に頭を預けてきた。

「メイ…ありがとう。」  

その一言に、私は胸がじんわりと温かくなった。

お風呂から上がり、体を拭いて寝室に向かうと、ユリのぎこちなさはまだ残っていた。彼の疲れが表情に滲み出ているのを見て、私は少し申し訳なく思った。

「ユリ、今日はもうゆっくり休みましょうね。」  
私がそう言うと、彼は頷き、ベッドに腰掛けた。

「メイ、手を握ってもいいですか?」
  
彼の問いに、私は少し微笑んで答えた。  

「えぇ。」  

ユリの手を優しく握ると、その手がほんのり汗ばんでいるのが分かった。顔を赤らめながらも必死に冷静を装っている彼の姿は、どこか可愛らしくて微笑ましい。

ベッドに横になり、私は隣のユリを見つめた。彼が目を閉じて穏やかな呼吸をする様子は、私にとって何よりも安心できる光景だった。  

「ユリ、おやすみなさい。」  

そう囁きながら、私も目を閉じた。疲れが一気に押し寄せ、意識はすぐに眠りへと引き込まれていった。
 
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