死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

92.ユリの失踪

意識を取り戻すと、柔らかいベッドに包まれている感覚が私を安心させた。薄く目を開けると、視界の先に医者が私を覗き込んでいた。

「おめでたです。おめでとうございます。」

その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ねるような驚きが私を襲った。喜びと戸惑いが胸の中で入り混じり、言葉が出ないまま医者を見つめ返していた。その横で、ユリが硬直したように立っているのが視界の端に映った。

「メイ…妊娠しているのですか?」

ユリの声はいつもより低く、微かに震えている。私は彼の顔を見上げ、少し息を整えてから答えた。

「…えぇ、そうみたいね。」

ユリはしばらく沈黙し、その場に立ち尽くした。彼の瞳には驚き、そして深い混乱が映っている。

「俺の子ですか?」

「もちろんよ。」私は微笑みながら彼を見つめ、穏やかに答えた。

ユリは深く息を吸い、瞼を閉じて頭を垂れた。その動作には、彼が気持ちを整理しようとしているのが感じられた。次の瞬間、彼は医者と使用人たちに静かに言った。

「少し、メイと二人きりにしてください。」

医者と使用人たちは気まずそうな表情を浮かべながらも、ユリの指示に従って部屋を出て行った。扉が静かに閉まり、部屋に残されたのは私たち二人だけだった。

ユリはベッド脇にしゃがみ込み、私を見上げた後、頭を抱えるようにして膝をついた。その仕草には強い苦悩が滲んでいた。

「…俺は何をしているんだ…。アナタの妊娠に気付けないなんて…。」

彼の声は震えており、その言葉には深い自己嫌悪が込められていた。彼がこんなに感情を表に出す姿を初めて見た気がする。私はそっと手を伸ばし、彼の背中を優しく撫でた。

「ユリ、そんなこと言わないで。私は大丈夫よ。こういうものじゃない。記憶のあるユリだって…。」

(記憶のあるユリだって気付けないわなんて言葉…ありえない…わね。記憶のあるユリなら秒で気付きそうよ。)

ユリは顔を上げ、私の言葉に愕然としたような表情を浮かべた。

「でも、俺は…。君にこんな負担を背負わせてしまって…。」

その瞳には後悔と自分への苛立ちが混ざり合い、涙が滲んでいるように見えた。私は彼の顔を両手で包み込み、まっすぐに彼の目を見つめた。

「ユリ、自分を責めないで。お願いだから、あと2週間だけ待って。記憶が戻ったら、きっと全てが分かるから。」

その時、ガチャリと扉が開く音がして、小さな足音が近づいてきた。振り返ると、ルーが心配そうな表情で部屋に入ってきた。彼の大きな瞳が私を捉え、不安げに輝いている。

「母さん、大丈夫?」

その声に私は自然と微笑みがこぼれた。手を伸ばして、ルーの小さな手を握る。

「大丈夫よ。心配かけてごめんね。」

ルーは私の手を握り返し、ほんの少し眉を寄せながら優しい笑顔を浮かべた。

「本当?無理しないでね、母さん。」

「ありがとう。大丈夫よ、ルーがそばにいてくれるもの。」

ユリも立ち上がり、ルーの小さな頭を優しく撫でた。その姿を見ていると、どこか心が温かくなる。けれど、ユリの表情にはまだ微かな不安が残っているように感じた。

ルーが私の隣に腰を下ろし、ユリの手を見上げるようにして言った。

「父さん、大丈夫だよ。母さんのこと、僕たちでちゃんと守ればいい。」

その言葉に、ユリの肩が少し緩んだように見えた。彼は息を吐き出し、深く頷く。

「…そうですね。ルー、あなたがいるなら俺も安心です。」

親子の会話を聞きながら、私はまた一歩、家族の絆が深まったように感じた。それでも、ユリの内に抱える不安は完全に消えたわけではない。私は彼の手をそっと握り、温もりを伝えながら言った。

「ユリ、あなたも無理しないで。私たちは家族よ。みんなで支え合いましょう。」

その言葉に、ユリは微笑みを浮かべ、優しく頷いた。


――――――――
――――――

しかし、その翌朝、目を覚ました私は、隣にいるはずのユリがいないことに気づいた。ベッドの片側はひんやりとしていて、彼の不在が胸に不安を呼び起こす。

「ユリ?どこにいるの?」

私は部屋を飛び出し、彼の名前を呼びながら邸内を探し回った。しかし、どの部屋にもユリの姿はなかった。焦りと不安が込み上げる中、書斎に入ると、机の上に一枚の手紙が置かれているのを見つけた。

手紙には、簡潔な言葉が綴られていた。

【しばらく家を出ます。心配しないでください。】

ユリの筆跡だ。手紙を握りしめる私の手が微かに震えた。胸の奥にぽっかりと穴が開いたような喪失感が押し寄せてくる。

「ユリ…」

――やっぱり昨日の…かなり気にしてたんだわ。

声が震え、目尻に涙が浮かぶ。その時、背後から小さな声がした。

「母さん、どうしたの?」

振り向くと、ルーが心配そうに私を見上げている。私は手紙を差し出し、無言で渡した。ルーは内容を読むと、表情を引き締め、しっかりと私の手を握った。

「大丈夫、母さん。僕が探してくるよ。」

その小さな手の力強さに、少しだけ心が軽くなった。しかし、不安は完全に消えない。そんな時、突然廊下に響く荒々しいノック音と焦った声が耳に飛び込んできた。


「奥様!緊急です!」

ミレーヌの声だ。その慌ただしさに胸がざわついた。

「どうしたの!?入って!」

ミレーヌが扉を勢いよく開けて駆け込んできた。彼女の顔には緊張と不安が浮かんでいる。

「ゼノさんが門前で倒れていて…。」

「ゼノが!?ユリと何かあったのかしら?今はどこに?」

「医務室です。」

「わかった、行くわ。」

私が動き出そうとした時、ルーがドレスの裾を引っ張った。

「母さん、僕も連れて行って。」

「わかったわ。ルー、しっかりつかまってね。」

私はルーを抱き上げ、その温もりを感じながら廊下を駆け出した。小さな手が私の肩にしっかりとしがみつき、私を支えてくれるようだった。


廊下を走り抜け、階段を駆け下り、医務室の扉が目に入った。ミレーヌが先に扉を開け、私たちはその中へ飛び込む。

ゼノはベッドの上に横たわっていた。顔色は蒼白で、呼吸が浅く苦しそうだった。周囲を見渡すと、医師や使用人たちは誰もおらず、部屋は静まり返っている。

「ゼノ…」

私は彼のそばに駆け寄り、その手を握りしめた。ゼノの瞼がゆっくりと開き、辛そうに私を見上げる。

「奥様…申し訳ありません…魔力を…少し…分けていただけませんか…。」

彼の声は弱々しく、途切れ途切れだった。どうやら魔力の枯渇が原因で人払いをしたのだろうとすぐに理解した。

「分かったわ。ゼノ、ユリはどこにいるかわかる?」

「すみません…口止めを…されています…。」

ゼノは申し訳なさそうに苦しげな表情を浮かべながら答えた。私は短く息を吐き、彼の手を握り直す。

「わかったわ。無事ならいいの。ゆっくり休んで。」

すると、ルーが一歩前に出て、小さな手を挙げた。

「待って、母さん。僕が魔力を分けるよ。」

「え、いいの?大丈夫?」

「うん。父さんと母さんの子供だから、魔力量には自信があるんだ。まだ3歳だけど。」

その言葉に私は少し笑みを漏らしながら、ルーの頼もしさに驚いた。彼は小さな手をゼノの額に当て、真剣な表情で目を閉じた。

ルーの瞳が一瞬青白く光り、彼の小さな手からゼノへと暖かな光が流れ込んでいく。その光がゼノの体を包み込むと、彼の顔色が徐々に戻り、呼吸も安定していった。

「ルー…すごいわ。」私は感嘆の声を漏らした。

ゼノは息を整えながら、微笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、坊ちゃま…。助かりました…。」

ルーは少し照れくさそうに笑い、手を引っ込める。

「大丈夫だよ、ゼノ。これくらいなんでもないよ。」

ゼノの目には感謝の色が浮かび、彼は再び目を閉じて安静にするように身を沈めた。私はルーの手を握り、彼の頼もしさに心から感謝した。
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