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シーズン1
98.隔離された世界で
―ブルービショップ邸にて―
私は、ルーの言葉通り、部屋から出ることなく過ごしていた。初めは壁の形や家具の配置が以前と違うことに戸惑ったけれど、時間が経つにつれて慣れてきた。この部屋はどこか安心感があり、保存食や果物、水のストックも豊富だった。最低限の生活をする分には問題なさそうだったが、それでも息苦しさを感じる。
「それにしても、ずっとこんな部屋に閉じこもっているなんて退屈だわ…」
窓の外を見れば、広大な庭園が広がっている。太陽の光を受けて輝く草花や穏やかに流れる小川を見ると、この場所がどれほど静かで美しいかを実感する。だが、その静寂さが私の胸にかすかな不安を呼び起こした。
ふと、頭をよぎったのはユリのことだった。
――今、どこにいるの?無事なの?
「ユリ…」
つい口から漏れたその名前。私の胸の中で、彼の存在がどれほど大きいかを再確認させられる。
そんな時、ベッドの上で眠っていたルーが小さなあくびをしながら起き上がった。
「母さん…」
その小さな声に振り向き、私は優しく彼の頭を撫でた。
「おはよう、ルー。身体は大丈夫?」
ルーは目をこすりながら、小さく頷いた。
「うん。母さんこそ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。」
私はルーの額にそっとキスをした。彼の頬が少し赤くなり、照れたように笑う。その表情があまりにも愛おしくて、胸が温かくなるのを感じた。
すると、ルーは部屋をぐるりと見回し、小さな眉をひそめた。
「この部屋…なんか未来と少し違う気がするんだよね。なんだろう…」
ルーの言葉に、私は窓の外の景色を見ながら答えた。
「お父さんが改装したんじゃないかしら?」
「お父さんって…父さんのこと?それとも、じーちゃん?」
「ユリの方よ。あなたと私がここに来ることを、分かってたみたいね。」
ルーは目を丸くし、小さく感心したように頷いた。
「流石、父さんだね。」
その言い方が少し大人びていて、どこか呆れたようにも聞こえた。それが面白くて、私は思わず吹き出しそうになった。
「そうね。父さんはいつも先を見越して動くもの。」
「うん、そういう人だよね。大袈裟に言うと、父さんが未来のこと全部分かって動いてるように見える時がある。」
ルーは真剣にそう言ったが、少し目を細めた表情はあどけなさを残していた。その姿に思わず微笑んでしまった。
――ユリのことを信じるしかない。彼はいつも、私たちのために最善を尽くしてくれる人だから。
「ところでルー、私にも瞬間移動みたいなの使えないの?」
ルーは少し困ったように眉をひそめながら、言葉を選んで答えた。
「う、うん。あれは父さんと母さんの血が混じったからこそ使える特殊能力なんだ。母さんにはその能力は難しいんじゃないかな。でも、テレパシーならできるよ。ただ、制御をしないと、いろんな人に声が届いちゃうから練習が必要だね。」
その言葉に、私は一瞬戸惑ったが、すぐに納得した。
「そうね、テレパシーは便利だけど、コントロールが難しいわね。」
ルーは私をじっと見つめ、優しい笑みを浮かべた。
「じゃあ、テレパシーの練習から始めようか。まず、心を落ち着けて、意識を集中させてみて。」
私は目を閉じ、深呼吸をして心を落ち着けた。ルーの指導に従い、意識を集中させていると、頭の中に彼の声が響いた。
《母さん、聞こえる?》
《ええ、聞こえるわ。》
《うん、いい感じ!次はその声を僕だけに向けてみて。他の人に届かないように。》
私はさらに意識を集中し、ルーだけに声が届くよう努力をした。
《どう?ちゃんとできてる?》
《完璧だよ、母さん!》
ルーの声に、私はほっと胸をなでおろした。少しずつだが、自信がついてくるのを感じた。
「ありがとう、ルー。これで少しは上手くできるようになった気がするわ。」
「うん。でも、まだ練習は必要だよ。」
「えぇ、任せて。」
こうして数日間、私はルーの指導のもとテレパシーの訓練を続けた。その努力が実を結び、ようやくテレパシーをほぼ完璧に使いこなせるようになった。
その朝、テレパシーの練習を終えた私は、ルーと一緒に朝食を取っていた。穏やかな時間が流れる中で、何気ない会話を交わしていたその時、突然思い出してしまった。
「あー!!忘れてたわ。どうしよう…。」
ルーがスプーンを置いて、不思議そうに私を見つめた。
「どうしたの?」
「王宮の夜会のことよ!出席の返事を随分前に出してたのに、もうすぐ開かれるわ。流石に欠席したら不味いわよね…。」
ルーは少し考え込んだ後、あきれたような声で答えた。
「いや、それは父さんがなんとかしてくれてるんじゃないの?あの父さんだしさ。」
「でもユリは記憶喪失じゃない。しかも、私をここに閉じ込めてる理由があるのよね。ルー、お願い!外に出してくれない?」
ルーは困惑しつつも、私の目をじっと見つめた。
「母さん、それは危ないよ。父さんがこうして閉じ込めてるのは、何か重大な理由があるはずだよ。」
その言葉に私は一瞬息をのんだ。確かにユリが何も考えずに私をここに閉じ込めるわけがない。それに、ルーが言うように危険があるのだとしたら、軽率な行動を取るのは避けるべきだ。
「でも、もし私が夜会に出席しないことで何か問題が起きたら、それもまた危険よね…。」
ルーは真剣な表情で考え込み、小さく頷いた。
「うん、母さんの言う通りかもしれない。分かったよ。でも、僕も一緒に行くから、何かあったらすぐに対処できるようにしよう。でも絶対、無理はしないで。」
その言葉に、私は安心すると同時に少し胸が痛んだ。こんな小さなルーにまで頼らなければならない自分が、どこか情けなかった。
「ありがとう、ルー。一緒に行ってくれると心強いわ。」
私たちは王宮の夜会に出席するための準備を始めた。私たちが無事に外へ出られるよう慎重に計画を立てると同時に、どんな事態にも対応できるよう心構えを固めていった。
窓の外を見つめながら、私は胸の中でユリの名を呟いた。
――ユリ、どうか無事でいて。そして、早く私たちの元に帰ってきて。
私は、ルーの言葉通り、部屋から出ることなく過ごしていた。初めは壁の形や家具の配置が以前と違うことに戸惑ったけれど、時間が経つにつれて慣れてきた。この部屋はどこか安心感があり、保存食や果物、水のストックも豊富だった。最低限の生活をする分には問題なさそうだったが、それでも息苦しさを感じる。
「それにしても、ずっとこんな部屋に閉じこもっているなんて退屈だわ…」
窓の外を見れば、広大な庭園が広がっている。太陽の光を受けて輝く草花や穏やかに流れる小川を見ると、この場所がどれほど静かで美しいかを実感する。だが、その静寂さが私の胸にかすかな不安を呼び起こした。
ふと、頭をよぎったのはユリのことだった。
――今、どこにいるの?無事なの?
「ユリ…」
つい口から漏れたその名前。私の胸の中で、彼の存在がどれほど大きいかを再確認させられる。
そんな時、ベッドの上で眠っていたルーが小さなあくびをしながら起き上がった。
「母さん…」
その小さな声に振り向き、私は優しく彼の頭を撫でた。
「おはよう、ルー。身体は大丈夫?」
ルーは目をこすりながら、小さく頷いた。
「うん。母さんこそ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。」
私はルーの額にそっとキスをした。彼の頬が少し赤くなり、照れたように笑う。その表情があまりにも愛おしくて、胸が温かくなるのを感じた。
すると、ルーは部屋をぐるりと見回し、小さな眉をひそめた。
「この部屋…なんか未来と少し違う気がするんだよね。なんだろう…」
ルーの言葉に、私は窓の外の景色を見ながら答えた。
「お父さんが改装したんじゃないかしら?」
「お父さんって…父さんのこと?それとも、じーちゃん?」
「ユリの方よ。あなたと私がここに来ることを、分かってたみたいね。」
ルーは目を丸くし、小さく感心したように頷いた。
「流石、父さんだね。」
その言い方が少し大人びていて、どこか呆れたようにも聞こえた。それが面白くて、私は思わず吹き出しそうになった。
「そうね。父さんはいつも先を見越して動くもの。」
「うん、そういう人だよね。大袈裟に言うと、父さんが未来のこと全部分かって動いてるように見える時がある。」
ルーは真剣にそう言ったが、少し目を細めた表情はあどけなさを残していた。その姿に思わず微笑んでしまった。
――ユリのことを信じるしかない。彼はいつも、私たちのために最善を尽くしてくれる人だから。
「ところでルー、私にも瞬間移動みたいなの使えないの?」
ルーは少し困ったように眉をひそめながら、言葉を選んで答えた。
「う、うん。あれは父さんと母さんの血が混じったからこそ使える特殊能力なんだ。母さんにはその能力は難しいんじゃないかな。でも、テレパシーならできるよ。ただ、制御をしないと、いろんな人に声が届いちゃうから練習が必要だね。」
その言葉に、私は一瞬戸惑ったが、すぐに納得した。
「そうね、テレパシーは便利だけど、コントロールが難しいわね。」
ルーは私をじっと見つめ、優しい笑みを浮かべた。
「じゃあ、テレパシーの練習から始めようか。まず、心を落ち着けて、意識を集中させてみて。」
私は目を閉じ、深呼吸をして心を落ち着けた。ルーの指導に従い、意識を集中させていると、頭の中に彼の声が響いた。
《母さん、聞こえる?》
《ええ、聞こえるわ。》
《うん、いい感じ!次はその声を僕だけに向けてみて。他の人に届かないように。》
私はさらに意識を集中し、ルーだけに声が届くよう努力をした。
《どう?ちゃんとできてる?》
《完璧だよ、母さん!》
ルーの声に、私はほっと胸をなでおろした。少しずつだが、自信がついてくるのを感じた。
「ありがとう、ルー。これで少しは上手くできるようになった気がするわ。」
「うん。でも、まだ練習は必要だよ。」
「えぇ、任せて。」
こうして数日間、私はルーの指導のもとテレパシーの訓練を続けた。その努力が実を結び、ようやくテレパシーをほぼ完璧に使いこなせるようになった。
その朝、テレパシーの練習を終えた私は、ルーと一緒に朝食を取っていた。穏やかな時間が流れる中で、何気ない会話を交わしていたその時、突然思い出してしまった。
「あー!!忘れてたわ。どうしよう…。」
ルーがスプーンを置いて、不思議そうに私を見つめた。
「どうしたの?」
「王宮の夜会のことよ!出席の返事を随分前に出してたのに、もうすぐ開かれるわ。流石に欠席したら不味いわよね…。」
ルーは少し考え込んだ後、あきれたような声で答えた。
「いや、それは父さんがなんとかしてくれてるんじゃないの?あの父さんだしさ。」
「でもユリは記憶喪失じゃない。しかも、私をここに閉じ込めてる理由があるのよね。ルー、お願い!外に出してくれない?」
ルーは困惑しつつも、私の目をじっと見つめた。
「母さん、それは危ないよ。父さんがこうして閉じ込めてるのは、何か重大な理由があるはずだよ。」
その言葉に私は一瞬息をのんだ。確かにユリが何も考えずに私をここに閉じ込めるわけがない。それに、ルーが言うように危険があるのだとしたら、軽率な行動を取るのは避けるべきだ。
「でも、もし私が夜会に出席しないことで何か問題が起きたら、それもまた危険よね…。」
ルーは真剣な表情で考え込み、小さく頷いた。
「うん、母さんの言う通りかもしれない。分かったよ。でも、僕も一緒に行くから、何かあったらすぐに対処できるようにしよう。でも絶対、無理はしないで。」
その言葉に、私は安心すると同時に少し胸が痛んだ。こんな小さなルーにまで頼らなければならない自分が、どこか情けなかった。
「ありがとう、ルー。一緒に行ってくれると心強いわ。」
私たちは王宮の夜会に出席するための準備を始めた。私たちが無事に外へ出られるよう慎重に計画を立てると同時に、どんな事態にも対応できるよう心構えを固めていった。
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