死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

102.全てが戻るユリドレ。

「そろそろ時間かしら。」  

私はドレスの裾を整えながら立ち上がった。鏡に映る自分を見て、少しだけ深呼吸をする。夜会への出席は重要だけど、ユリが記憶を失ってからというもの、色んな不安が頭を巡っていた。  

ルーがそばで静かに私を見つめている。その表情には、どこか迷いと不安が浮かんでいたが、やがて決意を固めたように口を開いた。  

「ごめん、母さん。」  

「え?」  

「僕はいつでも母さんの味方だし、母さんの力になりたいと思ってる。でも、もう少しだけ待って。」  

ルーの言葉に戸惑いが浮かぶ私をよそに、彼はゆっくりと扉の方を振り返った。その瞬間、扉が静かに開いた。  

そこには――  

私とお揃いのデザインの衣装に身を包んだユリが立っていた。彼は一歩前に進むと、どこか恍惚とした微笑を浮かべていた。その瞳には強い意志と感情が込められている。  

――この顔…記憶が戻ったのね。  

ユリは無言でゆっくりと私に歩み寄り、優しく手を差し出した。その動作には、彼らしい品の良さと確信が感じられた。  

「…ユリ。どうしてここに…。」  

私は驚きと喜びが入り混じった声を漏らし、ユリの手を見つめた。躊躇いながらも、その温かそうな手に自分の手を重ねた瞬間、胸の奥で強い鼓動が響いた。  

「メイ、今日の夜会には夫である俺がエスコートさせていただきます。」  

その言葉はユリ特有の穏やかさを帯びていたが、どこか狂気にも似た高揚感が含まれているように感じられた。  

私は息を呑んだ。ユリが記憶を取り戻していることが分かると同時に、その様子に少し不安も覚えた。  

「ユリ、本当に大丈夫なの?」  

「もちろんです。お待たせしましたね、愛しい俺のメイ。」  

ユリは優しく微笑むが、その瞳には燃えるような決意が宿っている。その表情を見ていると、私は安堵と緊張の入り混じった複雑な感情を抱いた。  

「でも、いったい何が…。」  

言葉を続ける間もなく、ユリは私を抱き上げた。両腕でしっかりと背中と膝裏を支え、まるで宝物のように丁寧に扱う彼の仕草に、少しだけ顔が熱くなるのを感じた。  

「さあ、行きましょう。ゼノ、頼みますよ。」  

ユリが後ろに立つゼノに言葉をかけると、ゼノは無言で頷き、静かに指を動かした。その瞬間、部屋の空気が一変した。  

周囲の空気が揺らぎ、風が私たちの周りを巻き上げた。足元がふわりと浮き上がる感覚に驚きながらも、私はユリの肩にしっかりとつかまった。  

「安心してください、メイ。俺が全て守ります。」  

ユリの低く穏やかな声が耳元で響き、その言葉に胸が温かくなった。  

空を切るような風の音を耳にしながら、私たちは窓から、夜の闇を突き進んでいった。月明かりに照らされたユリの横顔は、どこか懐かしく、同時に頼もしかった。

「ユリ、これって…」

私は彼の腕にしっかりと掴まりながら、目の前の景色に息を飲んだ。夜の空に浮かぶ私たちを包み込むのは、ゼノの魔法による見えない風だった。まるで羽根が生えたように軽やかで、目の下に広がる街並みが、きらめく宝石箱のようだった。

「驚きましたか?メイ。」

ユリが私の耳元で囁くように言う。その低い声が心に心地よく響いた。

「今日は特別な夜会ですからね。少し派手に行きましょう。」

ユリの声に応える間もなく、私は彼の腕の中で安心感を覚え、自然と微笑みがこぼれた。ゼノの魔力で空を舞うというのは、今でも慣れない感覚だったけれど、ユリの体温が近くにあるだけで、不思議と恐怖心は消えていった。

「ふふ、またゼノが倒れてしまいそうね。」

私はユリに笑いかけた。ゼノの負担がどれだけ大きいかを思うと、つい彼の過労を心配してしまう。

「メイのためなら、どんなことでも可能です。ゼノを過労死させることもね。」

冗談めかして答えるユリの口調に、私は軽くため息をついた。

「ゼノが可哀想よ。帰ったら休暇を与えてあげて。」

少し真剣な声でお願いすると、ユリは苦笑を浮かべた。

「ゼノへの休暇はもっと先になるでしょう。今日のように、メイが無理をしてしまいますから。」
「あっ!でも、ルーは?」

突然ルーのことを思い出し、ユリに問いかけた。

「ルーには特別な任務についてもらっています。今頃、ミレーヌと合流しているはずです。」

その答えに少し安心しつつ、私はもう一度ユリの顔を見上げた。

「メイ、俺のことも気にかけてください。」

ユリの声に驚いて視線を合わせると、彼の顔に見覚えのある表情が浮かんでいた。口角を上げ、瞳に微かないたずらっぽさを宿したその顔は、記憶喪失中の彼が一度も見せなかったものだ。

「え?…顔を見れば記憶が全部戻ってるってわかっちゃったんだもん。」

私は少し戸惑いながらも、彼の表情から確信を得た。ユリの記憶は完全に戻っている。

「フッ、流石、俺の…いえ、俺だけの愛しのメイですね。」

彼の言葉が耳に届くと、胸の奥がじんわりと温かくなる。ユリの優しさと愛情が溢れるように伝わってきた。

夜会の会場が近づくと、地上の景色が徐々に明瞭になり、煌びやかな装飾が目に飛び込んできた。豪華な建物が光に包まれ、その姿はまるで夢の中の宮殿のようだった。

ゼノの魔法が私たちをふわりと地面に下ろし、ユリと私は夜会の入口に立った。風が軽く吹き抜け、ドレスの裾が揺れる。

「ユリ、お帰りなさい。」
私は微笑みながら、彼の目を見つめた。

「ただいま。メイ。そして…ありがとうございます。」
彼は一度深呼吸をし、続けた。
「記憶のない俺を信じて下さって、俺が後で困らないように沢山俺とスキンシップをはかってくれて、感謝します。」

その言葉に、私の胸がじんわりと温まる。良かった…私の行動は間違っていなかったんだ。

「さぁ、行きましょう。」

「待ってください。メイとこうして一緒にいられる喜びで、顔が整いません。」
ユリがそう言って顔を作り直そうとする姿に、私は思わず吹き出しそうになった。必死に冷静な表情を作ろうとする彼の顔は、どこか滑稽で、普段の完璧な彼からは想像もつかないものだった。

「ぷはっ!あははは!!」
笑いが止まらず、肩を震わせる私をユリが少し困ったような顔で見ていた。

「メイ、笑いすぎです。」
彼の声にはわずかに照れた響きがあり、その表情にもどこか可愛らしさが混じっていた。

「だってユリ、変な顔するんだもの。」

二人で笑い合いながら夜会の入口へと向かう。煌めく光に包まれる中で、私たちの笑い声が夜の空気に溶け込んでいく。

すると、ユリの表情がふと変わった。彼の瞳には冷ややかな光が宿り、口元はわずかに引き締まり、その顔つきは一瞬で仏頂面へと変わった。

「ありがとうございます、笑い飛ばされたおかげで顔が整いました。」

その皮肉めいた口調に、私は少しだけ焦る。冗談にしては妙に真剣そうな彼の様子に、思わず首をかしげた。

「な、なんか本当に怒ってない?大丈夫?」

「いえ、まぁ……いえ。」

「どっちよ!?もう、ほんとにおかしーわねぇ。」
つい笑ってしまった私の口元には、自然と柔らかな微笑が浮かんでいた。
「でも、はー……いっぱい笑ったら、つわりのしんどさがなくなったわ。」

その一言で、ユリの顔が一瞬驚いたように緩んだが、すぐに普段の冷静な表情に戻った。

「では、行くとしようか。」

彼は手を差し出し、私がしっかりと掴むのを待ってから、エスコートするように腕を引いた。
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