死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

106.舞台裏の出来事

――――――
時間は少し遡り…
――――――

人生が三度目ともなると、少しのことでは驚かなくなる――はずだった。けれど、この幼い体と三歳児という立場には、今でも驚かされる瞬間がある。たった三歳の僕が、こんなにも多くのことを知り、計画を進めているなんて、誰が想像するだろう?

人生三週目の三歳児、僕、メアルーシュは窓から父さんと母さんが夜会へ向かう姿を見送った。その背中が見えなくなった瞬間、僕は意識を集中させ、一気に瞬間移動でレッドナイト公爵邸の門前に姿を現した。夜の静寂が広がる中、肌を撫でるような冷たい風が吹き抜ける。月明かりに照らされた門の前に、一人の女性が立っていた。

「お待ちしておりました、メアルーシュ様。」
メイド服を纏ったミレーヌが、いつもの柔らかな微笑みを浮かべて僕を見つめている。その表情は優しいが、どこか緊張感を滲ませているようにも見えた。

彼女は迷うことなく僕を抱き上げる。その動作は手慣れていて、どこか母性的ですらあった。
「え、ちょっと……。」
僕は突然のことに驚いて抗議しようとしたが、ミレーヌは微笑みを崩さずに答えた。
「此方の方が移動はスムーズです。」

彼女の腕の中で少しだけ身じろぎする僕をよそに、周囲の気配を確認する彼女の目は鋭く、警戒心を怠らない。その冷静さと緊張感が、これから始まる計画の重要性を物語っていた。

しばらくすると、月光を背にした一人の人影がふらふらとこちらに向かって歩いてくるのが見えた。ゼノだ。彼の顔は青白く、足取りは不安定で、まるで今にも倒れそうだった。
「お待たせいたしました。」
ゼノは息を切らしながら立ち止まり、自分にユリドレの変装を施し始めた。鏡を確認する彼の手は微かに震えていたが、集中力を切らすことなく変装を仕上げる。次第にその姿は、どこからどう見てもユリドレ・レッドナイト公爵そのものに変わっていった。

「準備が整いました……。」

彼は力なく呟くと、その場に倒れ込んだ。その様子はまるで命の危機に瀕しているかのようで、変装は完璧だったが、元のゼノの体力が限界に近いことは一目でわかった。

ミレーヌはその場で血相を変えた演技を始めた。僕をしっかりと抱きかかえながら、彼女は屋敷に向かって走り出す。息を切らし、足音をわざと響かせながら、彼女は叫び声を上げた。

「助けてください! 公爵様が!」

その声に反応して、使用人たちが門の前に駆けつける。彼らの中には戸惑った表情を浮かべる者もいたが、ミレーヌの勢いに圧されるようにしてゼノを屋敷内へと運び込む。

ゼノは医務室に運ばれ、ベッドに横たわった。その表情にはわざとらしい苦しみが浮かび、荒い息遣いが部屋に響く。

「ここは……どこだ……。」
弱々しい声を絞り出すゼノ。その演技は完璧で、周囲の使用人たちを完全に騙していた。

「気がつかれましたか!? ここは公爵邸の医務室です。」

医師が慌てた様子で答える。その表情には安堵ではなく、どこか不自然な緊張感が漂っている。

ゼノはゆっくりと頭を動かしながら、力なく口を開いた。

「皆を……集めてくれ……使用人、全員だ。俺はもう……長くはない。そうだろう?」

その言葉に、医師は一瞬の間を置き、顔に悪意のこもった笑みを浮かべた。

「えぇ……そうですね。」

医師の指示で、使用人たちは次々と医務室に集められた。集まった顔ぶれを見て、僕は冷静に観察を続ける。その場にいる全員が、王宮から送り込まれたスパイや諜報員ばかりだったのだ。

使用人たちは集まった理由を察し、全員が嫌な予感を感じ取っている様子だった。彼らは互いに視線を交わし、やがて一斉に逃げ出そうとした。しかし、それはもう遅かった。

僕は手を掲げ、特殊能力を発動させた。瞬く間に部屋が炎で囲まれる。燃え上がる赤い光が壁や床に揺れる影を作り出し、使用人たちはその光景に絶望したような表情を浮かべた。
「何だこれは!」
「出られない!」
恐怖に駆られた叫び声が部屋中に響き渡る。

僕はそんな彼らを冷静に見守りながら、計画が順調に進んでいることを確認する。炎は彼らの逃げ道を完全に塞ぎ、部屋全体を支配していた。

ゼノは息を整え、再び口を開いた。その声は低く、弱々しさの中にも不気味な力強さが宿っていた。

「皆さん、お集まりいただき感謝します。ここで一つ、お知らせがあります。」

使用人たちは混乱しながらもゼノに注目した。彼の変装は見事であり、誰もが本物のユリドレ公爵だと信じ込んでいた。

「我々の中に裏切り者がいる。」

ゼノが弱々しくも冷たい声で告げると、使用人たちの間にざわめきが広がった。その言葉の意味を理解するまで、彼らはほんの数秒の間凍りついていた。

「誰が裏切り者だというのですか……?」

一人の使用人が恐る恐る声を上げた。彼の額には汗が滲み、その声には恐怖が明らかに含まれていた。

ゼノはゆっくりと彼らを見渡しながら、口元に冷たい笑みを浮かべる。その目は薄暗い部屋の中でも鋭く光り、緊張を一層高めた。

「その答えは、ここにいる全員だ。」

その瞬間、使用人たち全員の顔色が一気に青ざめた。沈黙が部屋を包み、誰も次の行動を起こすことができなかった。その間にも、俺の炎は激しさを増し、赤々と燃え上がる火が壁を照らし、床に揺れる影を映し出していた。

「これで、全てが終わる。」

俺は心の中でそう呟きながら、冷静に状況を見つめた。計画は順調だ。この場で敵の勢力を一掃する――それが僕たちの目標であり、この計画の核心だった。

混乱と恐怖に包まれる使用人たちを冷ややかに見下ろしていたその時、ミレーヌが一歩前に出た。彼女の瞳には冷静な決意が宿っており、その存在感が場の空気を一変させた。

「皆、覚悟しなさい。」

その一言が放たれた瞬間、ミレーヌは手をかざし、その指先から眩い雷のエネルギーがほとばしった。部屋全体が強烈な閃光に包まれ、次の瞬間、雷の轟音が響き渡る。使用人たちは一瞬にしてその場に崩れ落ち、意識を失った。焦げた布の匂いが立ち込める中、ミレーヌは静かに手を下ろした。

「さすがです、ミレーヌ。」

ゼノが感嘆の声を漏らしながら立ち上がった。まだ青ざめた顔色は元に戻らないが、その表情には安堵が浮かんでいる。

しかしその時、俺たちを取り囲む炎がさらに広がり、熱気が部屋全体に充満した。焦げる木材の匂いが一層濃くなり、空気が重くなる。燃え上がる屋敷はもう長くはもたないだろう。

ゼノが俺の小さな手を握りしめ、真剣な表情で頼み込んだ。

「メアルーシュ様、お願いします。」

その声には切実な願いが込められていた。

僕は深く息を吸い込み、目を閉じて集中した。頭の中に鮮明なイメージを描く。向かう先は、予め予約されていた豪華なホテルの前の景色。温かいランプの光に包まれたエントランスと、冷たい夜風の感覚を思い浮かべる。

次の瞬間、景色が一変した。僕たちはホテルのエントランスに立っていた。冷たい夜風が顔を撫で、燃え盛る屋敷の熱気が遠い過去のように感じられた。

「終わりましたね。」

ゼノは深呼吸をし、息を整えながら呟いた。その言葉には安堵の色が含まれていたが、まだ彼の顔色には疲労が滲んでいる。

ミレーヌも周囲を見回し、無事に炎から脱出できたことに胸を撫で下ろしたようだった。

「無事に移動できたようですね。これで一安心です。」

その声にはいつもの冷静さが戻っていたが、微かに緊張が残っているのが分かった。

ゼノはまだ僕の小さな手を握ったまま、深く頭を下げた。感謝の気持ちが、その仕草からひしひしと伝わってくる。

「坊ちゃん、お疲れ様でした。」

「でも、屋敷を燃やす必要あったのかな?」

僕は疑問を口にした。燃え上がる屋敷の光景が頭から離れない。

ゼノは少し困ったような表情を浮かべたが、すぐに淡々と答えた。

「主はその必要があると仰っておりましたが……。私の推測ですが、またしても王に悲劇のヒロインを見せつけたかったのかもしれませんね。」

ミレーヌは冷静に頷きながら付け加えた。

「今頃、王の元へは偽の医師に変装したこちら側の人間が潜入しているはずです。彼らがこれから、しっかりと次の手を打ってくれるでしょう。」

僕たちはお互いに視線を交わし、確信を得たように頷いた。この一連の計画がどれほど綿密に練られていたのか、改めて実感する瞬間だった。
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