死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

110.失敗続き

薄暗い王宮の玉座の間では、燭台の揺れる炎が壁に不安定な影を作り出していた。冷たい空気が漂う中、一人のスパイ――レッドナイト公爵家の影武者が王宮のスパイに化けた姿のまま、王の前に跪いていた。彼の声は低く、慎重に言葉を選んでいる。

「はい、確かに……我が騎士のビルタールがレッドナイト公爵邸を放火しました。彼はレッドナイト公爵と影武者の従者を見間違え、彼らが眠っている隙を狙って放火を試みたそうです。」

その報告に、玉座に座る王の顔がみるみるうちに険しくなっていく。額には怒りの汗が滲み、震える手が玉座の肘掛けを叩きつけた。

「ダンッ!!」

王の激しい一撃が、静まり返った空間に響き渡る。その音とともに、部屋の空気は一層張り詰めたものとなった。王の目は燃えるような怒りを湛え、スパイを睨みつける。

「よくも……よくも証拠を残したな!!レッドナイト公爵家は全焼したのだぞ!!なぜだ、どうしてこうもうまくいかない……!」

その言葉には苛立ちだけでなく、計画の失敗への深い失望と焦燥感が込められていた。玉座の後ろに控える側近たちは、王の怒りを鎮めようとする素振りも見せられず、ただ息を殺して立ち尽くしている。

スパイは頭を垂れたまま、言葉を続けた。

「次は、いかがいたしましょう?」

王は荒い息をつきながら、玉座に深くもたれかかった。顔を片手で覆い、数瞬の沈黙の後、低い声で言葉を絞り出した。

「もうよい……家を燃やしてしまったのだ。しばらくは何も動くな。」

その声には、焦りや怒りだけでなく、自分の手が及ばない状況への無力感が漂っていた。彼の心の中では、様々な思惑と計画が交錯している。

アジャール――息子の病に伏した姿が頭をよぎる。
王は眉をひそめ、重い溜息をついた。息子の精神を治せるのはメイシールにあると信じている。アジャールが彼女を手に入れることでまた元気を取り戻すに違いない、と王は考えていた。

「メイシールさえ息子のそばにいれば……。そのためには、あのユリドレをどうにかしなければならなかった。」

王は静かに呟いた。今まで彼は王家に忠誠を誓うユリドレを追い詰め、命を奪おうと幾度となく計画を立てた。しかし、そのすべてが失敗に終わり、今回はついにレッドナイト公爵邸を放火するという手段に出たのだ。

だが、状況はさらに悪化している。王の頭の中には、不安と後悔が渦巻いていた。

「……それなのに。あの放火を誰かに目撃されるとは……。」

玉座に沈み込む王の顔は疲れと焦りに満ちていた。

「……もう奪えまい。家を奪ったのだから。」

その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせるようなものだった。しかし、内心では分かっている。レッドナイト公爵家の知略と力を持ってすれば、王宮の者が放火に関わったことを突き止めるのは時間の問題だ。

「その時の対策を……練らねばならん。」

王が目を閉じ、冷たい沈黙が玉座の間を包み込んだ。その静けさの中、王の表情は疲労に満ちていながらも、まだ何かを画策しているようだった。緊張の糸が張り詰めたまま、王宮側の者になりすましたレッドナイト公爵家の影の者が王に一礼し、静かにその場を後にした。

玉座の間を出ると、彼は廊下を進みながらも周囲に警戒の目を光らせた。石造りの冷たい廊下には、かすかな蝋燭の光だけが揺らめいている。遠くから侍従たちの足音が微かに響くが、この場では完全な孤独が保たれていた。

やがて廊下を抜け、隠された裏口へとたどり着いた。そこには、黒いマントを羽織った数名の人物が待機していた。彼らの中に身を潜めているのは、レッドナイト公爵家の影の者たち――情報収集と諜報活動を担う者たちだ。

影の一人がスパイの姿を認めると、低い声で問いかけた。

「……どうでした?」

声には緊張と期待が混じっている。スパイは周囲を再度確認し、扉を背にして静かに口を開いた。

「報告を終えました。王の心中ではかなり動揺しています。」

スパイは一瞬言葉を切り、影の者たちの反応を伺う。その表情には冷静な判断力が宿っていた。

「王は、ビルタールという騎士が放火を実行したと信じています。そして、放火がレッドナイト公爵と主に似た従者を狙ったものだと思い込んでいました。」

影の一人が微かに口元を歪めた。

「……予想通りだな。」

「はい。うまくいきました。」

スパイは頷きながら続けた。

「しかし、王は結果に激怒していました。『証拠を残したな』と、ビルタールを叱責していました。彼はかなり苛立っています。それどころか……。」

スパイは少し声を潜め、影の者たちに向けてさらに付け加えた。

「王はレッドナイト公爵家が真相に気づき、王宮の者が放火した事実を突き止めることを恐れています。そのため、しばらくは動かず、次の手を考えると明言していました。」

影の者たちは互いに目を見交わし、無言で頷いた。彼らの間には言葉を交わさずとも通じ合う絆が存在している。やがて一人が冷静に指示を下した。

「よくやった。引き続き、王の動きを監視しつつ、この情報を公爵夫妻に伝えろ。次の手を打つのはこちらだ。」

「了解しました。」

スパイはその場で一礼し、再び廊下の闇へと姿を消した。影の者たちもまた、静かにその場を離れ、それぞれの任務へと散っていった。

―――――――――
――――――

ホテルでの暮らしが始まり、数週間が過ぎた頃のことだった。ある日の昼下がり、部屋に響き渡る絶叫が突然私の耳をつんざいた。

「ああああああああああああああああ!!俺としたことがあああああああああ!!」

その声は、ホテル中に響くほど大きなものだった。驚きのあまり、私は思わず立ち上がった。

「どうしたのよ、ユリ。」

慌てて声のする方に駆け寄ると、ユリが頭を抱えて床に座り込んでいた。その様子は、まるで世界が終わったかのような絶望感を漂わせている。

その時、廊下からドタドタと急ぎ足でやってくる音が聞こえた。ドアが勢いよく開き、ルーを抱えたミレーヌが駆け込んできた。

「どうされましたか!?」

息を切らしながら、ミレーヌが鋭い視線をユリに向ける。ルーも彼女の腕の中で「何?何事?」とキョトンとした顔をしている。

「俺としたことが……メイの誕生日をお祝いするどころか……約一ヶ月も忘れて……!!」

ユリは頭を抱えながら呟くように言った。その声には、深い後悔と自己嫌悪が滲み出ている。

「誕生日?」

ルーは首をかしげながら私に視線を向けた。そして、にっこりと笑いながら言った。

「それなら僕がお祝いしたよ?ね、母さん。」

私は微笑みながら頷いた。

「えぇ、そうよ。あの時はユリが記憶を戻したばかりで色々ごちゃごちゃしてて大変だったから、仕方ないじゃない。」

その言葉を聞いたユリは、さらに絶望の表情を浮かべた。

「そ、そんな……メイをとびっきり合法的に甘やかし、夜は……その……あんなことやこんなことも……。」

ユリの声が尻すぼみになりながらも、その顔は完全に落ち込んでいた。彼の肩は重力に負けるように垂れ下がり、まるで魂が抜けてしまったかのように見える。

ミレーヌは呆れたようにため息をつき、ルーは半分笑いを堪えきれないような表情で「父さん、大げさだよ……」と小声で呟いた。

私はそんな彼を見て、少し申し訳ない気持ちになりつつ、明るい声で提案した。

「そうだ!私もバタバタしててユリの誕生日をお祝いできなかったし、二人の誕生日の真ん中の日に一緒にお祝いしない?」

「真ん中に……ですか?」

ユリは顔を上げ、困惑したように私を見つめた。

「そうよ、真ん中バースデー!二人っきりで……ね?」

私は少し悪戯っぽくウインクをしてみせた。その瞬間、ユリの表情が一気に輝きを取り戻した。

「はいっ!はいっ!!俺に挽回のチャンスをください!!」

ユリは勢いよく私の両手を握り締め、その目には希望と決意が溢れていた。

「ふふっ、そんなに必死にならなくてもいいのに。でも……ありがとう、ユリ。」

私はユリの手をそっと握り返し、彼の真っ直ぐな気持ちを感じ取った。

ミレーヌは呆れたように肩をすくめ、ルーは小さな声で「本当に仲いいなぁ」と呟きながら微笑んだ。部屋には、いつものような穏やかで温かい空気が戻ってきた。

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