死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

113.第二子誕生!

王歴822年のある暖かな日、静かな喜びと緊張感が部屋を包んでいた。控えめな光が差し込む窓辺では、ユリがソファに座り、落ち着かない様子で何度も時計に目をやりながら手を組んでいた。その顔には普段の冷静さは微塵もなく、ただ妻を心配する夫としての姿があった。

「メイ……頑張ってくれ……。」

彼は小さく呟きながら額に手を当て、目を閉じた。胸の奥で高鳴る鼓動が、祈るような気持ちをさらに強くしていた。

奥の部屋からは、かすかな声が聞こえてくる。その声を聞くたびにユリは立ち上がりそうになるが、使用人に制されて再び座り込む。彼の目はじっと扉を見つめ、眉間に深い皺が刻まれていた。

「旦那様、奥様はきっと大丈夫です。」

使用人が優しく声をかけるが、ユリはただ小さく頷くだけだった。目の前の時間が永遠にも感じられるほど、彼の心は緊張に包まれていた。

そして――部屋の中から、甲高い新生児の泣き声が響き渡った。その瞬間、ユリは立ち上がり、扉の方へと駆け寄った。

「おめでとうございます!元気な女の子です!」

助産師が微笑みながらそう告げると、ユリの目が大きく見開かれた。彼は胸に手を当てて深呼吸をし、一瞬足が動かなくなったが、すぐに扉を開けて中へと入った。

そこには、ベッドに横たわるメイがいた。彼女の顔には疲労の色が浮かんでいたが、それ以上に満ち足りた笑顔が輝いていた。その腕の中には、小さな赤ん坊が包まれていた。

「メイ!」

ユリは駆け寄ると、ベッドの隣に膝をつき、メイと赤ん坊の両方を見つめた。その目には、涙が浮かんでいた。

「ユリ……可愛い女の子よ。」

メイが静かに微笑みながら言うと、ユリは震える手でそっと赤ん坊の頬に触れた。その小さな肌の柔らかさと温もりに、彼は思わず目を閉じた。

「……メイ、本当に……本当によく頑張ってくれました。」

彼は声を震わせながら言い、その手をメイの頬にも伸ばした。その目には感謝と感動が溢れていた。

「ふふ……元気な声で泣いてくれるのを聞いたら、頑張った甲斐があったわ。」

メイは柔らかく笑い、赤ん坊をユリにそっと差し出した。ユリは躊躇いながらも、彼女を抱き上げた。その小さな体が自分の腕の中に収まると、彼はまるで壊れ物を扱うように慎重に抱きしめた。

「……小さいな。本当に小さい。でも、この手で……守り抜く。」

ユリはその決意を静かに口にしながら、赤ん坊を見つめ続けた。その瞳には、父親としての強い覚悟が宿っていた。

すると、その時、扉の隙間からそっと覗き込む小さな顔があった。

「母さん、赤ちゃん生まれたの?」

それはルーだった。彼は控えめに部屋の中を覗きながら尋ねた。

「ええ、ルー。妹ができたわよ。」

メイが優しく微笑みながらそう言うと、ルーは驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべた。そして、ユリの横に駆け寄り、赤ん坊を覗き込んだ。

「これが……妹?」

ルーは小さな声でそう呟きながら、赤ん坊の小さな手をじっと見つめた。その目には好奇心と優しさが溢れていた。


「お兄ちゃんになったんだぞ。しっかり守ってやれよ。」

ユリが冗談めかして、わざと軽い口調でルーに言うと、ルーは少し頬を膨らませてムッとした表情を浮かべた。

「わ、わかってるし。」

そう言いながら、赤ん坊の小さな手にそっと触れた。その手は本当に小さく、温かかった。触れるだけで、何とも言えない不思議な感覚が胸に広がったのか、ルーはすぐに赤くなった顔を俯かせた。

ユリはそんなルーの様子を見て、微笑みながら彼の頭を軽く撫でた。

「大丈夫だ、ルーならきっと良い兄になれる。」

「……そう思うなら、もっと頼りにしてよね。」

ルーは小さな声でそう呟いたが、その表情には照れくささと少しの誇らしさが滲んでいた。

「ルーは良いお兄ちゃんになるわよ。」

メイのその一言に、ルーは急に背筋を伸ばし、声を張り上げるように言った。

「もちろんだよ。妹は僕が守るし…。」

その言葉にユリもメイも思わず笑みをこぼした。部屋には新たな家族の誕生を祝う穏やかな空気が広がり、幸せに満ちた時間がゆっくりと流れていった。

「もちろんだよ。妹は僕が守るし……。」

ルーが胸を張ってそう言うと、ユリと私は思わず顔を見合わせ、優しく笑みをこぼした。彼の小さな決意に、私たちの胸が温かさで満たされる。

部屋の中には、新たな家族の誕生を祝う穏やかな空気が広がり、幸せに満ちた時間がゆっくりと流れていた――その時。

「奥様、おめでとうございます。」

柔らかな声が扉の方から響き、ふと顔を向けると、そこにはミレーヌの姿があった。彼女はゆっくりと歩を進めながら、微笑みを浮かべてこちらを見つめていた。

「ミレーヌ!」

私は驚きと嬉しさが入り混じった声を上げた。思わずベッドの上で少し体を起こし、彼女に手を伸ばす。

「ご無理なさらずに、奥様。」

そう言ってミレーヌは小走りで近寄りたい様子だったが、お腹を気にしてゆっくりと歩を進めた。そのお腹は以前会った時よりも大きくなり、彼女が妊娠六ヶ月であることを実感させた。

「ミレーヌ、来てくれたのね……!あなたも無理しちゃダメよ。」

私は彼女の顔を見つめながらそう言った。彼女は少しだけ頬を染めながら、「いえ、大丈夫です。私もこのお祝いにどうしても駆けつけたかったのです」と静かに答えた。

ミレーヌは優しく私の肩に手を置き、もう片方の手で赤ん坊を見つめた。

「まあ……とても可愛らしい女の子ですね。奥様、本当におめでとうございます。」

「ありがとう、ミレーヌ。あなたももうすぐですね。」

私が彼女のふくらんだお腹に目を向けると、ミレーヌは軽くそれを撫でながら、控えめに微笑んだ。

「ええ。ゼノが必要以上に神経質になっていますけど……まあ、それも少しは安心要素でしょうか。」

彼女の言葉に、ユリがくすっと笑いながら口を開いた。

「ゼノが神経質になるのは想像に難くないですね。大事な家族ですから、当然でしょう。」

ユリが穏やかに微笑みながらそう言うと、ミレーヌも柔らかな笑みを浮かべ、静かに頷いた。

「ええ、確かに。ゼノの心配性も悪くないものですわ。ただ、少し過剰なところもありますけどね。」

ミレーヌの声には、どこか彼に対する愛情が滲んでいた。

その穏やかな空気を破るように、部屋の扉が勢いよく開いた。

「ディア!」

ゼノが血相を変えて飛び込んでくる。普段は冷静沈着で無表情の彼が、まるで何か大事件が起きたかのように眉をひそめ、肩で息をしながらミレーヌを見つめていた。

「部屋にいろと言ったじゃないか!」

いつも淡々とした口調とは打って変わり、彼の声にははっきりと焦りと苛立ちが滲んでいる。その顔には「一大事だ!」と言わんばかりの必死さが見て取れた。

「まあ、奥様と旦那様のお祝いをしに来ちゃ悪いかしら?」

ミレーヌは少し首を傾け、余裕たっぷりの微笑みを浮かべながら言った。その姿は、ゼノの心配を全く気にしていないどころか、どこか楽しんでいるようにも見えた。

「悪いに決まっている!」

ゼノは即答しながらも、ミレーヌの顔を見て言葉に詰まった。彼女の微笑みを前にすると、それ以上強く言えないらしい。

「ディア、今のお前は六ヶ月の命を抱えているんだぞ!動き回るのは危険だ!」
「まぁまぁ、ゼノ。私はただ少し歩いてきただけですわ。それに、私の身体は私が一番よく分かっていますから。」

「分かっているなら部屋にいろ!」

ゼノはまるで子どもを叱る親のように声を張り上げた。その必死さに、私は思わずクスクスと笑いを漏らしてしまった。

すると隣でユリが声を出して笑い始めた。

「ははっ、ゼノ、お前がこんなに感情をあらわにするとはな。普段の冷静なお前からは想像もつかないぞ。」

ゼノはそれに気付き、恥ずかしそうに顔を赤らめたが、それでもミレーヌへの心配は収まらない様子だった。

「旦那様、俺がどれだけ心配しているかお分かりですか?ディアは……!」

ゼノがなおも言い募るのを、ユリは手をひらひらと振りながら遮った。

「分かった、分かった。でも、ゼノ。俺への祝いはどうした?」

ユリが茶化すように言うと、ゼノは一瞬固まり、口を開けたまま黙り込んだ。その様子にユリはさらに笑いをこらえきれず、肩を震わせて笑い続ける。

「こ、これは……!」

ゼノが言い訳を考えようとしている間に、ミレーヌが彼の腕を引っ張った。

「まぁ、ゼノったら。」

ミレーヌが肩をすくめながら、わざとらしくため息をついて続けた。

「旦那様と奥様に、しっかりお祝いしなきゃいけないんじゃなくて?これを忘れちゃダメでしょ。」

彼女はまるで子どもを諭すような優しい口調だったが、その瞳にはしっかりとゼノへの信頼と愛情が宿っていた。

その言葉に、ゼノは一瞬ピクリと反応し、少し困ったように目を伏せた。しかし、すぐに背筋を伸ばし、礼儀正しく姿勢を正すと、真剣な表情でユリと私に向き直った。

「……旦那様、奥様。」

ゼノは低く落ち着いた声で口を開き、頭を軽く下げながら言葉を続けた。

「この度は、無事にお子様がお生まれになったこと、心よりお祝い申し上げます。また、奥様にはご出産という大役を果たされたこと、深く敬意を表します。」

その丁寧な挨拶に、私は思わず笑いを堪えきれなくなり、ユリも肩を震わせながら声を漏らした。

「ゼノ……お前、仕事モードすぎだろう。これ、家庭の場だぞ?」

「そ、そうかもしれませんが……!」

ゼノは少しだけ顔を赤くしながら、ミレーヌの視線を受けて困惑した表情を浮かべた。それでも、自分の誠実さを崩すことなく、改めて頭を下げた。

「いえ、それでも、改めてお祝いを述べることが大切かと……。旦那様、奥様、本当におめでとうございます。」

その真剣すぎる挨拶に、今度はミレーヌまでもが小さく笑いを漏らし、彼の袖を引っ張った。

「ゼノ、真面目すぎるわよ。もう少しリラックスしたら?」

「しかし、私には……!」

ゼノが言い返そうとすると、ユリがまた笑いを浮かべながら肩を叩いた。

「ゼノ、分かったから。お前のその堅苦しいお祝い、ありがたく受け取っておくよ。でも、そんな真剣な顔をしてると、赤ん坊が泣いてしまうだろう?」

ユリの冗談に、ゼノは思わず口をつぐみ、視線を彷徨わせた。その耳は真っ赤に染まっており、明らかに動揺しているのが分かった。

その不器用さが愛おしく、私もつい笑顔を浮かべてしまう。ゼノの真面目さと、それを受け止めるミレーヌ、そしてそれを見て楽しむユリ。部屋には、穏やかで温かな空気が満ちていた。
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