死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

116.幸せな白い檻の中

ホワイトホスト王国の神話は至極シンプルなものだ。初代ホワイトホスト王が神の使いとしてこの地に降り立ち、6人の従者を従えて国を築いた――多くの国民はそれを疑いもせず信じている。だが、ユリが私に教えてくれた真実は、それとはまるで異なるものだった。

ユリの書斎で、重厚な本が並ぶ本棚の前に座り、私は彼の静かな声を聞いていた。ユリの指がテーブルに広げられた古い地図をなぞりながら、その真実を語る姿は、どこか悲しげで、それでいて揺るぎない確信に満ちていた。

「実際はこうです。」

ユリは低い声で言い、視線を私に向けた。その目には、歴史に対する深い洞察と苦い思いが滲んでいる。

「ゴールドキング帝国の王の弟が罪を犯し、この地へ逃げてきた。そして、奴隷として従えていたのが、神話でいう初代ホワイトホスト王です。」

私は息を呑み、彼の言葉をじっと聞き続けた。

「その弟、つまり初代ゴールドキング公爵は、奴隷だったホワイトホスト王に王になるよう命じたんです。そして、この地に強力な結界を張らせました。自分たちを追ってくるゴールドキング帝国から身を守るために。」

「結界……。」

私は小さく呟いた。ホワイトホスト王国が外界から隔絶されている理由が、ただの神話ではなく、こうした裏事情に基づいていると知り、胸の中に不安が広がる。

ユリはさらに続けた。

「さらに、科学が発展した別の地から人々を連れてきました。それが俺の先祖、初代レッドナイト公爵です。彼に命じて、便利な人間を作り出すように命じました。つまり、この国だけで全てが完結するような、特殊な人間をです。ですから、レッドナイト公爵領は医療面ではどこよりも発達しています。しかし、それが表へ出ることはありませんけどね。」

その言葉に、私はゾクリと背筋が寒くなった。この国に生きる人々が、ただの偶然で特殊能力を持ったわけではない。全ては計算され、意図されたものだったのだ。

「これが、この国の真実です。」

ユリの声には重みがあった。彼は私の目をじっと見つめ、静かに本を閉じた。

しばらくの間、私は何も言えなかった。書斎の窓から差し込む光が、ユリの横顔を浮かび上がらせている。その顔には、真実を知る者の覚悟と、私にそれを伝えることへの迷いが入り混じっているように見えた。

最近、ユリは私が回帰したとしても大丈夫なように、色々なことを教えてくれる。彼の思い遣りに感謝しつつも、私はどこか胸騒ぎを覚えていた。もしかしたら、ユリ自身が描く未来に行き詰まりを感じているのではないか――そんな不安が頭をよぎる。

ユリはきっと、ギリギリになるまで本当のことを言わないだろう。彼自身が、それが現実にならないよう強く願っているからだ。それは彼の優しさであり、同時に彼の弱さでもあるのだろう。

「もし回帰したら……私はまた、あの18歳の頃に戻ってしまうのかしら。」

ふと、そんな考えが頭をよぎる。机に置いた手が少し震えた。いいえ、それだけではない。もっと前に戻る可能性だってある――そう考えると、胸が苦しくなる。

その時、ユリが私の様子に気付いたのか、優しく手を伸ばして私の肩に触れた。

「メイ、大丈夫です。回帰なんて、起こりませんよ。俺が全て守りますから。」

彼の声には揺るぎない決意が込められていた。その言葉に、私はふっと力を抜き、深く息を吐いた。

「……ありがとう、ユリ。」

それでも不安は完全には消えなかったけれど、彼の手の温もりが、私の心を少しだけ軽くしてくれた。

「メイ……恐ろしいですか?」

ユリはそっと私の肩に手を置き、優しく後ろから抱きしめてくれた。その腕の温かさが、少し乱れていた私の心を落ち着かせてくれる。


「うん……少しだけ。」
私は正直に答えた。心の奥底ではまだ不安が渦巻いている。それでも、ユリの存在が確かな安心感を与えてくれるのを感じた。

ユリは私の首筋にそっとキスを落とし、その柔らかな感触に心が静かに震えた。その瞬間、どこか照れくさそうに、しかし毅然とした表情でルーが近づいてきた。

「あの、二人とも。」

彼は少し喉を鳴らしてから言葉を続ける。

「イチャつくなら部屋に戻ってくださいよ。ユフィは僕が見てますから。」

その台詞に、私は思わずクスッと笑ってしまう。幼い姿ながらもしっかり者を演じようとしているルーの姿が愛おしくてたまらなかった。

「どうする?ユリ。」

私はユリの方を振り向いて尋ねると、彼は少し眉を上げてからかうように微笑んだ。

「部屋に戻ると……ルーの兄弟を増やしてしまいそうですが、どうします?」

「……父さん、いや、父上。」

ルーは少し顔を赤らめながらも真剣な表情で肩をすくめた。

「母上の生誕パーティーまでは我慢されてはいかがですか?」

「ぷふっ。」

思わず吹き出してしまい、私は笑いながら言った。

「もう普通に話したら?」

「いえ、今から癖をつけておかないと、絶対どこかでボロが出ますので、練習します。」

ルーはどこか真剣な声色で応えたが、その姿が妙に滑稽で可愛らしい。

「自分で自分を教育してるのか?」

ユリが興味深そうに問いかけると、さらに続けた。

「そういえば、素のルーは俺と似たような喋り方をするらしいじゃないか。使用人から聞いたぞ。」

「当たり前でしょう。」

ルーは少し得意げに胸を張った。

「これでも父上の背中を見て育ってるんですから。」

「そりゃ、ユリは私がいないとずっとあの仏頂面だもんね。」

私はからかうように言うと、ユリは少し目を細め、苦笑いを浮かべた。

「そろそろ仏頂面も辞めても良いんですけどね。ただ、他の貴族に舐められないか、それだけが心配なんです。」

ルーが冷静な口調でそう言うと、ユリは静かに頷いた。

「まぁ、舐められたら殺るだけです。」

「不穏すぎるわ!!」

私は驚いて思わず叫び、ユリの顔を真剣に見つめた。

ユリは肩を軽くすくめながら、真剣な声で答えた。

「でも、本気ですよ。メイやユフィ、ルーを守るためなら、俺は何でもするつもりです。」

その言葉に、ルーが少し顔をしかめた。

「ちょっと、ユフィの前で『殺る』とか言わないでください。父上。」

その注意に、ユリは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに穏やかな笑顔に戻った。

「ははっ。それもそうだな。」

そう言いながら、ルーの頭を優しく撫でた。その手の動きには、父親としての愛情が込められているのが分かった。

「これからは、もう少し穏やかに生きようね、ユリ。」

私はユリの腕を掴み、微笑みかけた。

「そうですね。」

ユリの穏やかな笑顔が部屋に満ち、家族の間には和やかな空気が漂っていた。しかし、その裏で私は彼の内に秘めた不安を感じ取っていた。結婚してから約4年、彼の微細な仕草や表情から、彼が何かを抱え込んでいることが見て取れるようになっていた。

――この日常がずっと続きますように。

そう心の中で強く願いながらも、ふと胸にざわめきが広がった。

その時だった。突如として頭の中に鋭い痛みが走り、視界が一瞬ぼやける。

ズキッ――

そして、自分の声が頭の中に反響する。

【愛して…愛して…愛して…愛して…愛して…愛して…愛して…】

まるで呪いのようなその言葉に、私は思わず息を呑んだ。

――何これ?今の声、私の?

混乱する中、突然ルーの声が私を現実に引き戻した。

「わっ!?父さん、鼻血出てる!!」

驚いたルーは、すぐにユフィをメイドに預けると、慌ててテーブルの上からフキンを掴んでユリに差し出した。

ユリはぼんやりとした表情で受け取り、鼻に当てる。私は心配そうに彼の元へ駆け寄り、手を貸した。

「ユリ、大丈夫?疲れてるんじゃない?」

不安がこみ上げる中、彼の顔色を確認しながら声をかける。

ユリは少し苦笑しながら答えた。

「はい、そうかもしれません。少し寝不足だったかも……。」

しかし、その言葉にはどこか力がなく、彼の疲れが隠し切れていないのが見て取れた。

ルーはフキンを手渡しながら、不満げに眉をひそめた。

「ルー、これテーブルフキンじゃないですか。」

「あ、ごめん。」

ユリはその言葉に少し目を見開き、フキンを見下ろしてから、さらに苦笑いを深めた。

「父さん、たまには休まないと。僕もいるし、任せてよ。」

ルーは少し大人びた表情で、ユリに向かって毅然とした言葉を放つ。その小さな背中が、頼もしくもあり、切なくも感じられた。

ユリはその言葉に目を細め、ルーの頭を優しく撫でた。

「ありがとう、ルー。でも、これくらいで倒れるほど俺は弱くない。」

「父さんがそんなこと言って、無理するから心配なんだよ。」

ルーはため息をつきながら、ユリに真剣な視線を向けた。

その様子を見守りながら、私は二人のやり取りに微笑みを浮かべた。しかし、心の奥底には、消えない不安が渦巻いている。

――ユリ、本当に大丈夫なの?

彼の隣で感じる温もりを、どうかこの先も失わないようにと、心の中でそっと願った。
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