死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

118.ベティの活躍

影――それが私、ベティの居場所だった。
4年前、主である、ユリドレ・レッドナイト公爵に命じられ、私はメイシール様の影となることを選んだ。表舞台には一生立てない体。いや、正確には立つことを許されない存在だ。主の母君によって、人体実験の末に複数の特殊能力を持つ体に作り変えられた私は、その「異質さ」のせいで、レッドナイト公爵家以外の者と会うことを禁じられた運命を背負わされていた。

この国では、複数の能力を持つ者が人々の前に堂々と姿を現すことはタブーとされている。それを許されているのは、主の最側近であり、彼の唯一の親友ともいえるゼノフィリアスただ一人。それ以外の者――つまり私のような存在は、影に徹するしか生きる道はない。

だが、その「影」であることが、私にとって唯一の救いでもあった。透明化能力を持つ私は、誰にも気づかれることなく、メイシール様のそばで彼女を守ることができる。この力は、生きるための呪いでもあり、彼女を守るための武器でもある。

私は常に彼女の傍らにいる。いや、彼女はそれに気づいていないかもしれないけれど、私はずっと彼女の影として、その微笑みを見守り続けてきた。

そんなある日、私の役目が試される時が訪れた。

大広間の空気はいつになく重く、張り詰めていた。私はメイシール様に目を凝らしながら、不穏な空気の原因を探っていた。その瞬間、王の側近が彼女に近づくのを見て、全身に警戒心が走る。

(何かがおかしい――この動きは計算されている)

側近の冷たい笑みが嫌な予感をさらに強めた。彼が手を動かし、次の瞬間、雷のような力がメイシール様を襲った。その衝撃で彼女の体が倒れ込む様子を目の当たりにし、胸に鋭い焦りが駆け巡る。

(まずい……!)

私は心の中で叫びつつも、冷静さを保った。感情に流されてはいけない。メイシール様の無事を確認しつつ、次の一手を考える必要があった。

側近は手際よく麻袋を取り出し、彼女の体を詰め込んだ。その乱暴な動きに怒りが込み上げるが、今は感情を押し殺すしかない。私は透明化したまま、彼の一挙手一投足を監視し続けた。

周囲を警戒しながら、側近は広間を後にし、用意していた馬車へと向かった。私は足音ひとつ立てずにその後を追った。彼が麻袋を馬車に積み込むのを見届け、私も馬車の側面に身を隠しつつ張り付く。耳を澄ますと、麻袋の中から微かな息遣いが聞こえた。それを確認して、私は小さく息を吐く。

(無事だ……まだ間に合う)

馬車は動き出し、王宮を離れて森の奥へと向かっていく。木々が密集し、夜の闇が一層深くなる中、私はその動きに集中し続けた。道が険しくなるたびに揺れる馬車の音が響く。

やがて馬車が止まり、見覚えのある建物が目に入った。ここは――アジャールの住まい。私の記憶の中で埋もれていたその名が、苦い感情と共に蘇る。

(ここに連れてきたのね……)

側近は麻袋を手際よく引きずり出し、建物の中へと運び込む。その様子を見て胸が痛んだが、私には今、冷静でいることが求められていた。私は彼の後を追い、建物の中に静かに滑り込む。

暗い室内を見渡しながら、私は次の行動を考えた。側近の動き、アジャールの思惑、そしてメイシール様の安全――すべてを守るためには、冷静さと機転が必要だ。

(メイシール様……絶対にお守りします)

「今しかない……」

私は心の中で呟き、全身に緊張が走るのを感じた。透明化したまま、私はそっと息を吸い込み、決意を固めた。奥様を助けるには、ここで一刻も早く援軍を呼ばなくてはならない。私一人では手に負えない状況だ。

手を胸の前で構え、そっと呪文を唱える。呼び寄せるは風――私の中で静かに眠っていたもう一つの能力だ。透明化と異なり、この能力は周囲に影響を与えるため、使うたびに注意を払わなければならない。

「……風よ、私の声を聞き届け、急ぎこの危機を伝えて――メアルーシュ様に。」

低く囁くと、指先から柔らかな風が生まれ、瞬く間に勢いを増して周囲に広がっていく。風はまるで私の意志を汲み取ったかのように森を駆け抜け、まっすぐ彼に向かって進んでいった。

少し息が上がった。能力の使用にはやはり体力を消耗する。それでも、風が届けてくれることを信じて、私は奥様がいる建物をじっと見据えた。

その時――周囲の空気が変わったのを感じた。

「ベティ、どうした?」

鋭く低い声が耳に届く。振り向くと、そこにはメアルーシュ坊ちゃまが立っていた。彼の出現は一瞬の出来事だった。さすが瞬間移動の達人。いつ見ても、その能力の精度には目を見張るものがある。

「メアルーシュ様――」

私は思わず透明化を解き、彼の前に姿を現した。自分の焦りが表情に出ているのがわかる。

「奥様が連れ去られました。あの建物の中にいます。おそらく王宮の側近が仕掛けた罠です。」

彼は眉間に皺を寄せ、鋭い目で私の指差す建物を睨んだ。その瞳には冷静さと鋭い判断力が宿っている。

「わかった、急ごう。」

彼の力強い一言に、私の中に湧いていた不安が少しだけ和らいだ。彼がいれば大丈夫だと思えるのは、彼の能力と判断力だけではない。彼がいつも奥様を第一に考え、全力で守ると決めていることを知っているからだ。

メアルーシュ様は周囲の状況を素早く確認すると、次の瞬間には行動に移った。足音も軽やかに、彼は建物に向かって進み出す。私はその後ろを追いながら、もう一度自分に誓った。

(絶対に守る――たとえ私がこの身を捧げることになっても)

建物が目の前に迫る中、緊張感が高まっていく。中に何が待ち受けているのか、予想はつかない。それでも、私たちは迷うことなく進む。


―――――――
―――――
メイシール視点
―――――
―――――――

しばらくして、ぼんやりとしていた意識が徐々に戻り、私はゆっくりと目を開けた。視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井。だが、それを見た瞬間、胸に強い不安が押し寄せた。

(ここは……まさか……)

慌てて体を起こし、ベッドから身を起こすと、自然に手が足首へと伸びていた。そこにあるタトゥー――回帰の鎖を確認するためだ。もし鎖が増えていれば、それは私が死んで回帰してしまった証拠。しかし、数は増えていない。

「よかった……」

私は大きく息を吐き、心の底からほっとした。

その時、声が聞こえた。

「母さん、起きた?」

振り向くと、ルーがベッドの脇に立っていた。彼は心配そうな表情で私を見つめている。彼の落ち着いた目が、いつも以上に頼もしく感じられた。

「起き……たわ。でも、私……確か誘拐されたはずなのに……」

私の混乱した声に、ルーは眉を少し持ち上げて微笑んだ。

「父さんが母さんを一人にするわけがないだろう?ベティさんがずっと側にいてくれたんだよ。おかげで僕がすぐに駆けつけることができた。」

ルーの言葉に、私は胸の中が一気に温かくなるのを感じた。自分の命が危険に晒されても、こんなふうに守られていたのだと思うと、自然と感謝の気持ちが溢れてくる。

「ルー……ありがとう。本当に、ありがとう。」

私は震える手でルーの小さな手を握りしめた。彼は少し照れくさそうに目を逸らしながらも、握り返してくれた。

「母さん、見えないけど、ベティも近くにいるよ。」

ルーがそう言うと、私は周囲を見渡しながら小さく声をかけた。

「ベティ……ありがとう。いつも、側にいてくれて。」

目に見えない存在への言葉だったが、どこかから優しい気配が返ってきた気がして、私はさらに安堵した。

「それと、父さんの指示なんだけどさ、母さんはしばらく攫われたふりをしないといけないって。だから、この部屋から出られないんだ。」

「攫われたふり……ね。」

私は少し眉をひそめたが、ユリの考えを理解した。攫われたことを演じることで、何か大きな計画があるのだろう。それが家族を守るためなら、私に迷う理由はなかった。

「わかったわ。そうする。」

ルーは安心したように頷き、「それとね、父さんはしばらく帰れないから、代わりにミレーヌさんとゼノさんが交代で来るって。」と言った。

「そう……分かったわ。」

私は静かに頷きながら、ユリが私のためにどれほど準備をしてくれたのかを思い、胸がじんと熱くなった。
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