死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

119.変わり身

ルーは一息つき、真剣な眼差しで私を見つめてきた。その表情にただならぬものを感じ、私は自然と身を乗り出した。

「母さん、実は…母さんと父さんが家を離れてすぐにこの屋敷は奇襲を受けたんだ。」

「なんですって!?」

思わず声を上げると、胸がざわめき、不安が体中を駆け巡った。

「ユフィは!?ユフィは無事なの?」

私は恐る恐る問いかけると、ルーは冷静な声で答えた。

「今は領地にいるシリル叔父さんが面倒を見てくれてる。安心していいよ。あそこが一番安全だから。」

ルーの言葉に少しだけ胸を撫で下ろしたが、彼の僅かに浮かぶ眉間のシワが、彼自身も不安を抱えていることを物語っていた。

「そう……良かった……シリルお兄様が見ててくれるなら安心ね…。」

私は深呼吸をして、心を落ち着けようと努めた。

「それで……私ってどうなってたの?」

「アジャール王子の住まいに運ばれてた。」

「……じゃあ、アジャールが私を攫った黒幕なの?」

ルーは一瞬考えるように沈黙した後、首を横に振った。

「それが、違ったんだ。むしろ……アジャール王子が僕たちを助けてくれた。」

「え?」

信じられないという感情が表情に出てしまったのが分かった。あのアジャールが私を助ける?私の中にある彼のイメージとはかけ離れた行動だった。

「僕がアジャール王子の住まいに潜入した途端、見つかってしまったんだ。でも、そこでアジャール王子が背後から側近を……殺したんだ。」

「殺した……?」

言葉を失う私に、ルーはさらに続けた。

「それで、『もうメイシールに用はない。連れて帰ってくれ。それと、しばらくは姿を現さない方がいい』って……そう言って、僕たちを逃してくれたんだ。」

「どうして……どうしてそんなことを……」

私の脳内でアジャールのこれまでの印象が一気に揺らぎ始めた。あの傲慢で自分勝手だった彼が、そんな優しい行動を取る理由が全く見当たらなかった。

その時、部屋の扉が静かに開き、ゼノが現れた。彼は冷静な表情を浮かべながら静かに近づき、軽く頭を下げた後、穏やかな声で言った。

「現在、アジャール王子には愛すべき人がいらっしゃるからですよ。」

「ゼノ……どういうこと?」

驚きと混乱でいっぱいの私に、ゼノは柔らかく微笑みながら説明を始めた。

「アジャール王子は最近、ある女性と出会い、その女性の影響で大きく変わられたようです。彼は彼女を本当に愛しており、その愛情が彼自身の行動を変えたのだと考えられます。」

「そんな……本当に?」

ゼノの話に信じられない思いで問い返す私に、彼は頷いて言葉を続けた。

「彼女は旦那様が見つけ出し、特別な訓練を施した女性です。」

「特別な訓練……?」

ゼノは真剣な表情を浮かべながら答えた。

「その女性は生活に困窮していたところを主に救われました。そして、その後、アジャール王子に接近するための言動や振る舞いを徹底的に学び、彼の信頼を得る訓練を受けました。」

「……そんなことをユリが……?」

私は困惑し、胸の中に複雑な感情が渦巻いた。ユリがそんな遠大な計画を立てていたとは思いもしなかった。

「彼女はただの策略の一部ではありません。主は彼女が本当に幸せになる未来を願っていました。そして、その結果、アジャール王子も変わったのです。」

ゼノの言葉に、私は頭を抱えるようにして椅子にもたれかかった。信じられない気持ちと共に、ユリの思惑の深さに改めて驚かされた。

「……でも、私はまだ信じられない。」

私は深く息をつき、両手で頭を抱え込んだ。胸の中には得体の知れない不安が広がり、思考を整理することすら難しかった。

そんな私に気づいたゼノが、そっと肩に手を置いてきた。その手は温かく、冷静さを取り戻させてくれる不思議な力があった。

「奥様、時間が必要です。微量とはいえ雷を体に受けていますし、心も疲れています。どうか、今はゆっくりお休みください。」

ゼノの穏やかな声が耳に届き、私は少しだけ気が楽になった。彼の言葉には強制の色はなく、ただ私を労わりたいという優しさが滲んでいた。私は小さく頷き、「ありがとう」とだけ呟いた。

ルーがゼノの隣に立ち、真剣な表情で私を見つめているのが視界に入る。その幼い顔には、彼の年齢にそぐわないほどの責任感が表れていて、胸が締め付けられた。

「母さん、僕、ユフィのところに行ってくるよ。領地の安全を確かめて、何かあればすぐに戻るから。」

「えぇ……お願いね。」

ルーの瞳には一瞬の迷いがあったが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべてみせた。それがどれほど私を安心させたことか。ルーはゆっくりと部屋の扉へ向かい、最後に小さく手を振ると、静かに出て行った。

再びゼノと二人きりになり、彼は一歩私に近づいてきた。

「奥様、休息が必要なのは間違いありません。ご自身を責めるのはやめてください。私たちがしっかりとお守りします。」

ゼノの瞳は真剣そのもので、彼の言葉にどれほどの真実が込められているのかが分かった。私はもう一度、深く頷き、言葉を紡ぐこともできずにベッドに横たわった。

柔らかなシーツが体を包み込む感触に、ようやく少しだけ力が抜けた気がした。けれど、心の中は嵐のように揺れていた。

(どうして……私の幸せにはこんなにも多くの犠牲が必要なの?)

そう考えると、胸がぎゅっと締め付けられるように痛む。これまでの回帰のたびに、どれだけの命や運命が私のために動かされてきたのだろう。それを毎回繰り返してきた自分が、今になって少し怖くなっていた。

(……早くユリに会いたい。)

思わず彼の名前を心の中で呟いた。ユリと過ごしたこの4年間の記憶が次々と蘇り、そのたびに彼がどれほど私を支え、守ってきてくれたかを思い出す。

最初は私だけの幸せを追い求めていたはずなのに、いつの間にかユリという存在に深く取り込まれてしまっていた。そして今、息子も娘もいる。この家庭を作り上げたのは確かに私だが、それ以上に、ユリの力が大きい。

けれど、ユリがいなかったら?……そんな仮定をするだけで恐怖が押し寄せてくる。

(私は……ユリ以外の人と子を成すことができない。誰と結婚しても、きっと幸せにはなれなかった……)

頭の中を巡るのは、シリルお兄様のこと。ユリが「妹」として用意したあの赤ちゃんの存在が、嫌でも思い浮かぶ。

(お兄様が誰とも結婚してもうまくいかなかったのは、そういうこと……?それでユリが妹を用意したの?もしそうなら……説明がついてしまう。)

思考はぐるぐると巡り、過去の行動や決断を一つ一つ再確認し始めた。胸の中に広がる罪悪感と納得感。どちらが勝るのか分からない。

(でも……私だって、ラズベルを使ってレオルにあてがったわね。何を今更……)

そんな自分への嫌悪と諦めの間で揺れる感情を抱えながら、私はベッドの中で小さく身を丸めた。

「生きてていいのかしら……」

声に出すことすら憚られる思いが心に宿った。もう後戻りはできない。そんなことは分かりきっているのに、どうしても考えてしまう。

だけど、ユリがいる。ルーがいる。ユフィがいる。そう思うと、どこかでまた前を向かなければならないという気持ちが湧き上がった。

体の疲れは思った以上に重く、まぶたが徐々に閉じていく。頭の中にはまだ多くの不安が残っていたけれど、体がそれ以上の考えを許してくれなかった。私は静かに目を閉じ、微かな不安と共に意識を手放していった。

(明日は、少しでも明るい一日になるといいわね……)

薄れゆく意識の中で、私はそう願った。
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