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シーズン1
123.不安要素
翌朝、ユリの腕の中で目を覚ました私は、彼の寝顔をじっと見つめた。普段は冷静沈着で誰よりも鋭い眼光を持つこの男が、今はまるで子供のように穏やかで、どこか無防備な表情を浮かべている。その静かな寝息が心地よく、私はしばらくその姿を眺めていた。
けれど、ふと昨夜の出来事を思い出し、私は思わず口元を抑えて微笑んでしまう。ユリが目を覚ましたら、果たしてどんな顔をするのだろう。きっと昨夜の激しさを思い出して慌てふためくに違いない。そんな姿を想像すると、なんだか少しいたずらしたくなった。
ユリの呼吸が変わり、まぶたがゆっくりと動く。目が覚める瞬間を見逃すまいと、私はそっと彼の顔に近づいた。そして、耳元で囁く。
「おはよう、ユリ。」
その瞬間、ユリの瞳がぱっと開いた。ほんの一秒ほどの沈黙の後、彼の表情が凍りつき、それから羞恥と混乱が同時に押し寄せてくるのが見て取れた。昨夜の出来事が脳裏に鮮明に蘇ったのだろう。彼の顔は一気に赤く染まり、視線が泳ぎ始める。
「メ、メイ……」
戸惑いながら何か言おうとするが、言葉にならない。まるで昨夜の己の行動を振り返って後悔しているかのようだった。
私はその様子を見て、意地悪く微笑んだ。
「どうしたの?昨日は素敵だったわよ?」
その言葉にユリの顔はさらに紅潮し、今度は両手で顔を覆った。
「あ、あれは…その…」
明らかに動揺し、言い訳を探している。
「もう、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。」
私はそっと彼の手を外し、頬に手を添えて優しく撫でた。
「私も同じ気持ちだったわ。」
ユリは深く息をつき、少し自嘲するように笑った。
「あぁ…ルーにあれほど『母さんの生誕パーティーがあるから気をつけろ』って言われていたのに…。」
私はくすりと笑いながら肩をすくめる。
「私もユリを煽ったし、お互い様でいいじゃない?」
ユリは目を伏せ、静かに言った。
「俺は…自分勝手な生き物です。一度は難産という形でメイの人生を一つ奪ってしまったのに、凝りもせずまた繰り返しています。しかも、ユフィが誕生して1年も経過していないのに…。」
彼の自責の念が痛いほど伝わる。私はそっとユリの手を握り、真っ直ぐに見つめた。
「もういいのよ、ユリ。そんな風に思わないで。」
彼は私の手を握り返し、しばらく沈黙した後、小さく微笑んだ。
「…ありがとう、メイ。」
しかし、すぐに表情を引き締めると、深く息をついて話を切り替えた。
「さて…ディッケル王子をどうにかしないといけませんね。」
「そうね。まずは彼を安全な場所に隠さないと。」
「レッドナイト公爵領にある俺の別邸が最適でしょう。そこは外部からの侵入が難しく、信頼できる者たちが守っています。」
「そんなところがあるの?」私は驚いた。
「はい。実は情報ギルドの本部であり、特殊訓練場でもあります。」
私はユリの手腕に改めて感心した。さすが、何もかも計算済みの男。
「それなら安心ね。」
「ルーの瞬間移動能力で移動させましょう。彼の能力ならば誰にも気付かれることなく移動できますからね。」
「ルーが知ったら、また小言を言われるかもしれないわね。」
私が冗談めかして言うと、ユリは苦笑しながら「それは間違いないですね」と頷いた。
私はテレパシーでルーを呼び出した。しばらくすると、彼が部屋に入ってきた。表情は真剣そのものだが、その奥にほんのわずかな緊張が見え隠れしていた。彼はすでにディッケルをどう守るか考えていたのだろう。
「父さん、どうすればいい?」
ルーはまっすぐユリを見た。
ユリはゆっくりと頷きながら指示を出した。
「ルー、ディッケル王子…いや、ディッケルをレッドナイト公爵領の別邸に移動させてほしい。情報ギルドの拠点のひとつだ。場所はわかるか?」
ルーは少し考えるように眉をひそめ、すぐに小さく笑った。
「わかるよ。回帰前、僕の本拠地みたいなところだったから…。」
ユリは「それなら話が早いな」と頷くと、ディッケルも部屋に呼び寄せた。
4歳児のディッケルは、まだ状況を完全に理解していないのか、無邪気な笑顔を浮かべながらルーの袖をぎゅっと掴んだ。
「ルーが助けてくれるんだね?」
彼の瞳には純粋な信頼が込められていた。
「そうだよ、ディッケル。僕たちが君を守るから。」
ルーは優しく答え、小さな彼の手をしっかりと握った。
「それじゃあ、行こうか。」
ルーが瞬間移動の準備を始めると、光が一瞬輝き、次の瞬間には二人の姿はすでに消えていた。
「これでひとまず安心ですね。後は…また練り直しですね。」
ユリはそう言うと、深く息を吐き、私の指を優しく絡めてきた。
「ごめんね。我儘聞いてもらっちゃって。」
私は申し訳なさそうに言ったが、ユリは微笑みながら首を振った。
「メイの我儘ってわけではありませんから。」
そのまま私をベッドに引き込み、珍しく不安そうな表情を見せた。
普段はどんな状況でも冷静な彼が、こうして不安を表に出すことはめったにない。
未来が見えないことが相当不安なのね…。
「ユリ、不安よね。」
私はそっと彼の頬に触れながら尋ねた。
ユリはベッドの端に座り、私を向かい合わせになるように膝の上に座らせた。
「はい。これから週5で王宮出勤しないといけないので、アナタとこうして甘い時間を過ごす回数が減ってしまうなと思うと、憂鬱でなりません。」
「そっち!?」
私は思わずずっこけそうになった。
「それ以外に何か?」
ユリは本気で聞いている。
「未来の不安でも感じてるのかと思った。」
ユリは少し考え込んだ。
「未来の不安ですか?……そうですね。不安要素は先に潰しておくので、あまりないですね。」
「そう?ディッケルの件もあるのに?」
「はい。ルーが裏切らない限りバレることはないでしょう。もし、アイツが裏切れば俺はもう全てを諦めて異国へメイと逃げます。」
「……え?」
あまりにさらっと言うので、一瞬思考が停止した。
「ですが、ユフィも産まれたことですし、もうその心配もないと思っています。ルーの溺愛っぷりを見れば、もう大丈夫と思えてしまうんです。」
「確かに…ルーはユフィにべったりだものね。」
「それから、可能な限り兄弟を増やしてやりましょう。」
「……え?」
「そうすれば公爵家の後継者争いにルーが巻き込まれることもなくなるでしょう。アイツは別に後継者になりたいわけではなさそうですし。」
さらっと言ったけど、今すごいこと言わなかった?
「今さらっと可能な限り兄弟増やすって言ったわね…。まぁいいけど。」
「他に心配なことは?嘘ついても隠してもダメだからね。私ちゃんとユリのこと見てるんだから。」
私は真剣に問いかけた。
ユリは少し考え込むように視線を落とし、深く息をついた。
「そうですね……これは心配…なのでしょうか。グリーンルーク辺境伯家のご令嬢が気になります。」
「浮気?」
ユリはくるりと私の体を回してベッドに組み敷き、私は押し倒される形となった。
「疑いますか?」
ユリの目には真剣さと少しの苛立ちが見えた。
「ううん。ごめんなさい。」
私はすぐに謝った。ユリがそんなことをするわけがない。
彼は私の髪を優しく撫で、「よろしい。」と呟くと、私の横に寝転がった。
「グリーンルーク辺境伯家のご令嬢について心配なのは…?」
私は彼の瞳を見つめて問いかけた。
ユリは静かに目を閉じ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「メイの兄君への報復というか…昔のことが影響しているんです。」
「昔のこと?」
「彼女とは幼い頃から学友として共に過ごしていましたが、ある日突然、兄君は彼女に冷たく接するようになり、その結果、彼女は酷く病んでしまった。」
「病んでしまった…?」
「はい。そして今、メイの兄君はレッドナイト領で俺の妹と仲良くしている。」
それは私も知っている。でも、それがどうグリーンルークの令嬢と関係するの?
「だから、誰かに危害が及ぶ可能性がゼロではないと感じています。」
「まさか、彼女が兄を恨んでるとか?」
「その可能性は十分あります。」
ユリは真剣な目で続けた。
「正直、グリーンルーク領へ行くことがあると、少し気が重いんです。」
ユリの言葉に、私は思わず息をのんだ。彼がここまで細かく、私たちの未来の障害を考えていたことに驚くと同時に、胸が締めつけられるような気持ちになった。
「ユリ…そんなに悩んでいたのね。」
私がそう呟くと、ユリは少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「すみません。アナタには余計な心配をさせたくなかったんです。」
私はそっと彼の手を取り、優しく握りしめた。
「私もユリと一緒に考えたいの。だって私は、ただ愛されるだけの存在じゃなくて、ユリの支えになりたいから。」
ユリの瞳がわずかに揺れ、次の瞬間、彼は私の手のひらにそっと口づけた。
「…本当に、アナタは…。どうしてこんなにも…愛おしいんですか?」
その言葉と共に、ユリは私をしっかりと抱きしめた。彼の温もりが心の奥まで染み渡り、私はただ静かに、その愛情を受け止めた。
けれど、ふと昨夜の出来事を思い出し、私は思わず口元を抑えて微笑んでしまう。ユリが目を覚ましたら、果たしてどんな顔をするのだろう。きっと昨夜の激しさを思い出して慌てふためくに違いない。そんな姿を想像すると、なんだか少しいたずらしたくなった。
ユリの呼吸が変わり、まぶたがゆっくりと動く。目が覚める瞬間を見逃すまいと、私はそっと彼の顔に近づいた。そして、耳元で囁く。
「おはよう、ユリ。」
その瞬間、ユリの瞳がぱっと開いた。ほんの一秒ほどの沈黙の後、彼の表情が凍りつき、それから羞恥と混乱が同時に押し寄せてくるのが見て取れた。昨夜の出来事が脳裏に鮮明に蘇ったのだろう。彼の顔は一気に赤く染まり、視線が泳ぎ始める。
「メ、メイ……」
戸惑いながら何か言おうとするが、言葉にならない。まるで昨夜の己の行動を振り返って後悔しているかのようだった。
私はその様子を見て、意地悪く微笑んだ。
「どうしたの?昨日は素敵だったわよ?」
その言葉にユリの顔はさらに紅潮し、今度は両手で顔を覆った。
「あ、あれは…その…」
明らかに動揺し、言い訳を探している。
「もう、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。」
私はそっと彼の手を外し、頬に手を添えて優しく撫でた。
「私も同じ気持ちだったわ。」
ユリは深く息をつき、少し自嘲するように笑った。
「あぁ…ルーにあれほど『母さんの生誕パーティーがあるから気をつけろ』って言われていたのに…。」
私はくすりと笑いながら肩をすくめる。
「私もユリを煽ったし、お互い様でいいじゃない?」
ユリは目を伏せ、静かに言った。
「俺は…自分勝手な生き物です。一度は難産という形でメイの人生を一つ奪ってしまったのに、凝りもせずまた繰り返しています。しかも、ユフィが誕生して1年も経過していないのに…。」
彼の自責の念が痛いほど伝わる。私はそっとユリの手を握り、真っ直ぐに見つめた。
「もういいのよ、ユリ。そんな風に思わないで。」
彼は私の手を握り返し、しばらく沈黙した後、小さく微笑んだ。
「…ありがとう、メイ。」
しかし、すぐに表情を引き締めると、深く息をついて話を切り替えた。
「さて…ディッケル王子をどうにかしないといけませんね。」
「そうね。まずは彼を安全な場所に隠さないと。」
「レッドナイト公爵領にある俺の別邸が最適でしょう。そこは外部からの侵入が難しく、信頼できる者たちが守っています。」
「そんなところがあるの?」私は驚いた。
「はい。実は情報ギルドの本部であり、特殊訓練場でもあります。」
私はユリの手腕に改めて感心した。さすが、何もかも計算済みの男。
「それなら安心ね。」
「ルーの瞬間移動能力で移動させましょう。彼の能力ならば誰にも気付かれることなく移動できますからね。」
「ルーが知ったら、また小言を言われるかもしれないわね。」
私が冗談めかして言うと、ユリは苦笑しながら「それは間違いないですね」と頷いた。
私はテレパシーでルーを呼び出した。しばらくすると、彼が部屋に入ってきた。表情は真剣そのものだが、その奥にほんのわずかな緊張が見え隠れしていた。彼はすでにディッケルをどう守るか考えていたのだろう。
「父さん、どうすればいい?」
ルーはまっすぐユリを見た。
ユリはゆっくりと頷きながら指示を出した。
「ルー、ディッケル王子…いや、ディッケルをレッドナイト公爵領の別邸に移動させてほしい。情報ギルドの拠点のひとつだ。場所はわかるか?」
ルーは少し考えるように眉をひそめ、すぐに小さく笑った。
「わかるよ。回帰前、僕の本拠地みたいなところだったから…。」
ユリは「それなら話が早いな」と頷くと、ディッケルも部屋に呼び寄せた。
4歳児のディッケルは、まだ状況を完全に理解していないのか、無邪気な笑顔を浮かべながらルーの袖をぎゅっと掴んだ。
「ルーが助けてくれるんだね?」
彼の瞳には純粋な信頼が込められていた。
「そうだよ、ディッケル。僕たちが君を守るから。」
ルーは優しく答え、小さな彼の手をしっかりと握った。
「それじゃあ、行こうか。」
ルーが瞬間移動の準備を始めると、光が一瞬輝き、次の瞬間には二人の姿はすでに消えていた。
「これでひとまず安心ですね。後は…また練り直しですね。」
ユリはそう言うと、深く息を吐き、私の指を優しく絡めてきた。
「ごめんね。我儘聞いてもらっちゃって。」
私は申し訳なさそうに言ったが、ユリは微笑みながら首を振った。
「メイの我儘ってわけではありませんから。」
そのまま私をベッドに引き込み、珍しく不安そうな表情を見せた。
普段はどんな状況でも冷静な彼が、こうして不安を表に出すことはめったにない。
未来が見えないことが相当不安なのね…。
「ユリ、不安よね。」
私はそっと彼の頬に触れながら尋ねた。
ユリはベッドの端に座り、私を向かい合わせになるように膝の上に座らせた。
「はい。これから週5で王宮出勤しないといけないので、アナタとこうして甘い時間を過ごす回数が減ってしまうなと思うと、憂鬱でなりません。」
「そっち!?」
私は思わずずっこけそうになった。
「それ以外に何か?」
ユリは本気で聞いている。
「未来の不安でも感じてるのかと思った。」
ユリは少し考え込んだ。
「未来の不安ですか?……そうですね。不安要素は先に潰しておくので、あまりないですね。」
「そう?ディッケルの件もあるのに?」
「はい。ルーが裏切らない限りバレることはないでしょう。もし、アイツが裏切れば俺はもう全てを諦めて異国へメイと逃げます。」
「……え?」
あまりにさらっと言うので、一瞬思考が停止した。
「ですが、ユフィも産まれたことですし、もうその心配もないと思っています。ルーの溺愛っぷりを見れば、もう大丈夫と思えてしまうんです。」
「確かに…ルーはユフィにべったりだものね。」
「それから、可能な限り兄弟を増やしてやりましょう。」
「……え?」
「そうすれば公爵家の後継者争いにルーが巻き込まれることもなくなるでしょう。アイツは別に後継者になりたいわけではなさそうですし。」
さらっと言ったけど、今すごいこと言わなかった?
「今さらっと可能な限り兄弟増やすって言ったわね…。まぁいいけど。」
「他に心配なことは?嘘ついても隠してもダメだからね。私ちゃんとユリのこと見てるんだから。」
私は真剣に問いかけた。
ユリは少し考え込むように視線を落とし、深く息をついた。
「そうですね……これは心配…なのでしょうか。グリーンルーク辺境伯家のご令嬢が気になります。」
「浮気?」
ユリはくるりと私の体を回してベッドに組み敷き、私は押し倒される形となった。
「疑いますか?」
ユリの目には真剣さと少しの苛立ちが見えた。
「ううん。ごめんなさい。」
私はすぐに謝った。ユリがそんなことをするわけがない。
彼は私の髪を優しく撫で、「よろしい。」と呟くと、私の横に寝転がった。
「グリーンルーク辺境伯家のご令嬢について心配なのは…?」
私は彼の瞳を見つめて問いかけた。
ユリは静かに目を閉じ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「メイの兄君への報復というか…昔のことが影響しているんです。」
「昔のこと?」
「彼女とは幼い頃から学友として共に過ごしていましたが、ある日突然、兄君は彼女に冷たく接するようになり、その結果、彼女は酷く病んでしまった。」
「病んでしまった…?」
「はい。そして今、メイの兄君はレッドナイト領で俺の妹と仲良くしている。」
それは私も知っている。でも、それがどうグリーンルークの令嬢と関係するの?
「だから、誰かに危害が及ぶ可能性がゼロではないと感じています。」
「まさか、彼女が兄を恨んでるとか?」
「その可能性は十分あります。」
ユリは真剣な目で続けた。
「正直、グリーンルーク領へ行くことがあると、少し気が重いんです。」
ユリの言葉に、私は思わず息をのんだ。彼がここまで細かく、私たちの未来の障害を考えていたことに驚くと同時に、胸が締めつけられるような気持ちになった。
「ユリ…そんなに悩んでいたのね。」
私がそう呟くと、ユリは少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「すみません。アナタには余計な心配をさせたくなかったんです。」
私はそっと彼の手を取り、優しく握りしめた。
「私もユリと一緒に考えたいの。だって私は、ただ愛されるだけの存在じゃなくて、ユリの支えになりたいから。」
ユリの瞳がわずかに揺れ、次の瞬間、彼は私の手のひらにそっと口づけた。
「…本当に、アナタは…。どうしてこんなにも…愛おしいんですか?」
その言葉と共に、ユリは私をしっかりと抱きしめた。彼の温もりが心の奥まで染み渡り、私はただ静かに、その愛情を受け止めた。
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