死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

126.怪しい招待状

パーティーが終わって数日後、執事が持ってきた一通の手紙を受け取った瞬間、私の胸には不穏な予感が広がった。
封筒は上品な装飾が施され、筆跡も整っている。だが、このタイミングで届くこと自体が異常だった。

「ユリ、グリーンルーク家からお茶会の招待が来たわ。」

慎重に言葉を選びながら、私はユリに手紙を見せる。

書斎のデスクに座っていたユリは、ペンを止めて静かに顔を上げた。
彼の金色の瞳が手紙に落ち、瞬時に鋭い光を宿す。

「……どういうつもりでしょうか。」

彼の声には、明らかに警戒の色が滲んでいた。

私は封を切り、中の招待状を取り出して内容を読む。
表面上は丁寧な文面だが、文脈のどこかに違和感がある。

「……ここで招待状が届くのは、おかしすぎる。」

ユリは低く呟くと、眉をひそめ、指先で机を軽く叩いた。

「何か仕掛けられている可能性が高いですね。」

私は胸に広がる不安を振り払おうとしたが、どうしても気になってしまう。
ユリの表情を見れば、彼がこれまで以上に慎重になっているのがわかる。

「そうね……」

封筒の端をなぞりながら、私は考えを巡らせる。
普通のお茶会の招待であれば、ここまで警戒する必要はない。
けれど、これは間違いなく普通のお茶会ではない。

「私だけの招待ね……。お兄様の件が絡んでいるかもしれないわね。」

小さく息を吐きながら、封筒を机の上に置く。

ユリは、ゆっくりと指を組みながら深く息を吐いた。
その仕草が珍しく感じられた。普段、冷静沈着な彼がここまで考え込むことは滅多にない。

「正直、行かせたくない。」

低い声でそう言ったユリの瞳には、今まで見たことのないほどの不安が浮かんでいた。

「俺はこの招待が純粋なものとは到底思えません。
何か裏がある。……いや、これは間違いなく罠です。」

ユリの視線はどこか遠くを見ている。
私はそっと彼の手に触れ、その温もりを確かめながら言葉を選んだ。

「でも、もし私が断ったら、それがさらに敵意を煽ることになるかもしれないわ。」

ユリは目を閉じ、こめかみを押さえながら考え込む。

「……そうですね。
しかし、ここまで監視をつけ、内部工作員まで潜り込ませていたのに、彼らが動いた……。
俺の情報網をかいくぐってまで、メイをお茶会に招待するということは、よほど周到に計画されたものだということです。」

「でも、だからこそ行くしかないんじゃないかしら?」

ユリは私をじっと見つめた。
いつもなら即答する彼が、珍しく言葉を飲み込んでいる。
その沈黙が、逆に彼の焦燥を際立たせていた。

私は再び招待状に視線を落とす。
ふと、違和感を覚えた。

「……ユリ、この招待状、主催者が夫人になってるわ。」

「令嬢ではなく……夫人?」

ユリの表情が険しくなる。

「おかしいわよね。普通、貴族の女性の社交界で主催者が母親というのは珍しすぎるわ。」

ユリは腕を組み、目を伏せる。

「……間違いなく、これは罠です。」

彼の声が、酷く低く響いた。

私は彼を見つめ、意を決して尋ねた。

「ユリ……どうするべきだと思う?」

ユリはしばらく黙った後、ふっと深呼吸をして顔を上げた。

「……行くしかありません。」

彼の瞳には、決意の光が宿っていた。

「俺が全力で守ります。
ゼノを護衛につけるべきか悩みますが、ルーにはユフィを守ってもらわなければなりません。
ミレーヌとゼノを分け、それ以外の護衛を全てつけます。」

私は彼の言葉に頷きながらも、彼がまだ何か言いたそうなのを感じた。

「メイ……行かないでほしい。」

突然、彼が低く囁いた。

私は驚き、ユリの瞳を覗き込む。

「……閉じ込めてしまいたい。」

ユリの手が、私の頬を優しく撫でる。
だが、その手はわずかに震えていた。

「……閉じ込められた先の未来は?」

私は、静かに問いかける。

ユリはしばらく私を見つめた後、ぎゅっと目を閉じた。

「……死よりも辛い、闇でしかありません。」

その言葉には、彼の痛みと葛藤が詰まっていた。

私はそっと彼の手を握り、そっと微笑む。

「私は逃げないわ。ユリ、あなたと一緒に戦う。」

ユリは私を抱き寄せ、私の髪にそっと口づけた。

「……わかっています。でも、どうしても怖いんです。
メイ、俺はもう大切な人を失いたくない……。」

彼の腕が、さらに強く私を抱きしめる。

私はユリの計画に頷きながらも、心の奥底に広がっていく不安を拭うことができなかった。
ユリもまた、同じように悩んでいるのだろう。彼は深く溜息をつくと、額に指を当てて小さく呟いた。

「……最悪のことばかり考えなければいけないなんて、情けないですね。」

その声には、自分の無力さを責めるかのような悔しさが滲んでいた。
いつもはどんな状況でも冷静で、すぐに最善策を見つける彼が、ここまで自分を追い詰めている。
それほど、今回の招待状は彼にとっても大きな脅威なのだと、私は改めて実感した。

私はそっとユリの顔を覗き込んだ。
彼の金色の瞳は、憂いを帯びて私を見つめていた。

「ユリ……」

胸が苦しくなる。
彼がこんな表情をするなんて、今まで一度もなかった。

「私…あなたと一緒なら……例え死んでも悔いは……悔いは……」

言葉が詰まり、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
どれだけ強くあろうとしても、恐怖は消えない。

もし私が死んだら、お腹の子はどうなるの?
ユリやルー、ユフィを残してしまったら……?

次々と湧き上がる不安に、涙が止まらなくなった。

ポロポロと頬を伝う涙を、ユリは驚いたように見つめた後、すぐに優しく手を伸ばし、
震える指先でそっと拭ってくれた。

「メイ……」

彼の声は、震えていた。

怖い……。
私は本当に、この道を進んでいいの……?

「ユリ、私……」
声が震え、涙声になってしまう。

「もし私がいなくなったら、あなたや子供たちをどうすればいいのか分からないわ……
お腹の子も……」

ユリは強く私を抱きしめ、その温もりで私を包み込んだ。
彼の体温が、かすかに震えているのを感じる。

「メイ、そんなことは考えなくていいです。」

耳元で囁くその声は、いつもの冷静さを失っていた。

「メイも、子供たちも、俺が必ず守ります。
どんなことがあっても、俺はメイを失うことだけは絶対にしない。」

その言葉に、少しずつ私の心の中の恐怖が薄れていく。
ユリがいる。彼はどんなことをしてでも、私を守ってくれる。

「ユリを信じてるわ……」

私は彼の胸にしがみつきながら、涙を拭い、深呼吸をした。
ユリは私の背中をゆっくりと撫で、その手は微かに震えていた。
彼だって怖いのだ。
それでも、私を守ると誓ってくれる。

ユリは涙を拭った後、私と、そのまま会議室へ向かった。

これからのことを決めるために。

ユリの直属の部下たちが、すでに部屋の中で待機していた。
ゼノ、ベティ、ミレーヌ、そして何人かの護衛隊のメンバー。

全員の顔には緊張と警戒心が滲んでいた。

ユリが静かに扉を閉め、彼らを見渡すと、部屋の空気はさらに引き締まる。

「皆、集まったな。」

低く、落ち着いた声。
だが、その内側には鋭い決意が込められている。

「グリーンルーク家から、お茶会の招待状が届いた。」

その言葉に、一瞬、部屋の空気が凍りついた。

「これは単なる社交の場ではなく、何か裏があると考えている。」

彼の言葉に、全員が無言で頷く。
彼らもまた、ただの茶会で済むとは思っていないのだ。

ユリは深く息を吐き、真剣な目で部下たちを見渡した。

「今回の茶会は非常に危険だ。
メイは必ず参加しなければならない。
だが、俺も能力を使って潜入し、彼女の側にいる。」

ユリの冷静な言葉に、ゼノが静かに頷く。

「では、私は表向きの護衛を担当します。」

「ベティ、お前も頼む。」

「……了解。」

透明化の能力を持つベティは、一言だけ短く返した。

「ミレーヌ、君はルーの側につけ。」

ミレーヌは口を引き結び、頷く。

「ルーにはユフィの護衛を任せる。
彼の瞬間移動能力があれば、何かあったときに即座に対応できる。」

部屋の中に緊張が走る。
全員が、自分に課せられた責務を理解し、覚悟を決めているのが分かる。

ユリはゆっくりと立ち上がり、静かに言った。

「皆、今回の任務は非常に重要だ。
失敗は許されない。俺はメイを失うつもりはない。
お前たちも、それを肝に銘じて動いてくれ。」

「了解!」

全員の声が重なり、部屋に響き渡る。
ユリは一瞬だけ目を閉じ、静かに頷いた。

その後、部下たちはそれぞれの持ち場へと向かっていく。
彼らの背中を見送るユリの目には、いつもの冷静さの裏に、揺るぎない決意が宿っていた。
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