死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

127.身内の裏切り

あっという間に、グリーンルーク辺境伯夫人主催のお茶会当日になってしまった。

朝早くから準備を済ませ、私たちはユリドレと共に馬車に乗り込み、グリーンルーク領へと向かった。

緊張と不安が胸に広がる中、ユリドレとゼノは黒いボディースーツを身にまとい、透明化の能力を使って私の護衛に徹する。彼らがいるとはいえ、やはりこの状況を完全に安心することはできなかった。

馬車の中で、私は手を握りしめ、心を落ち着けようとする。

「ユリ、大丈夫よね?」

不安を隠しきれないまま、震える声で尋ねると、ユリは私を優しく抱き上げ、膝の上に乗せた。そのまま、そっとお腹に手を添える。

「メイ、今は俺の温もりだけ感じてください……。お腹の子にも触れます。」

彼の手のひらから伝わる温もりが、ほんの少しだけ私の不安を和らげていく。
私は彼の胸に顔を埋め、心を落ち着けるように深呼吸をした。

今は、ユリの温もりだけを感じよう……。

ルーとユフィは王都の公爵邸ではなく、シリルお兄様が滞在するレッドナイト公爵領へ避難させた。
そこなら要塞のように守りが固く、一番安全だから。

馬車がグリーンルーク領へ到着すると、美しく整えられた庭園と壮麗な邸宅が出迎えた。
しかし、その美しさの裏には、どこか陰のようなものが見え隠れしている気がしてならなかった。

迎え入れたのは、グリーンルーク家の当主と夫人。

「ようこそ、レッドナイト公爵夫人。お越しいただき光栄です。」

辺境伯夫人は上品な微笑みを浮かべている。

「招待ありがとうございます。こちらこそ、お招きいただき光栄です。」

私も礼儀正しく微笑みを返しながら、心の中で警戒心を強める。

案内された庭園の一角では、すでにテーブルが用意されていた。
しかし、そこに座る顔ぶれは――見慣れない者ばかりだった。

分家の人々、そしてあまり見かけない顔……。
何かがおかしい。

その瞬間――

《母さん!!こっちにグリーンルーク家らしき人達が攻めてきた!!母さん気を付けて!!!》

ルーのテレパシーが頭に響く。

《ルー!? でも、今、目の前に令嬢はいるわ!!》

《父さんにもテレパシーで伝えるね!》

私は息を飲んだ。目の前の令嬢が偽物?
そんなことが可能なの?

ユリの声が耳元に響く。

「メイ、あっちで能力を使ったということは、目の前のご令嬢は偽物の可能性が高いです。」

《でも、そんなことって可能なの? 異国の技術がないと無理じゃない?》

「俺もこれは予想外です……。」

私は何食わぬ顔で目の前の令嬢を見る。
彼女は優雅にティーカップを持ち、微笑んでいるが――
その瞳には、どこか冷たい光が宿っていた。

「レッドナイト公爵夫人、今日はお越しいただきありがとうございます。」

穏やかに話しかけるその声音に、不気味な違和感を覚える。
この違和感の正体は何? 彼女は何者?

「こちらこそ、招待していただき光栄です。」

私は礼儀正しく返しながらも、心の中では警戒の灯をさらに強くする。

お茶会が進むにつれ、表面上は和やかな雰囲気が保たれていた。
だが、それはまるで、表面だけを飾った美しい仮面のように思えた。

ユリの声が再び耳元に響く。

「夫人は何も知らないようです。ルーは今のところ撃退に成功しています。」

良かった……でも、じゃあ、この令嬢は?

私は目の前の女性に注意を向ける。
相変わらず柔らかな微笑みを浮かべているが、目が笑っていない。
むしろ、静かに何かを見極めようとしているような冷たい観察者の目だ。

「夫人、最近のご様子はいかがですか?」

辺境伯夫人が話を振る。

「おかげさまで順調です。」

一見普通の会話だが、私はその裏を探るように辺境伯夫人の表情を観察する。

「それは何よりです。先日のパーティーはとても素敵でしたね。」

「ありがとうございます。皆さんに楽しんでいただけて嬉しいです。」

会話は形式的なもので、特に突っ込んだ内容はない。
だが、その流れでふと、グリーンルーク令嬢の視線が絡んだ。

微笑んではいるが――
その笑みの奥に潜む感情は、敵意なのか、あるいは何かを試すような興味なのか。

「夫人、先日のパーティーで感じたのですが、お子様方もとても素晴らしいですね。」

「ありがとうございます。彼らは私たちの誇りです。」

「特に、メアルーシュ様は非常に才能があるとお聞きしました。どのように育てられたのでしょうか?」

私は少し警戒しながらも、柔らかい笑顔を作る。

「ルーは自分の力で成長しました。私たちは彼を支えるだけです。」

その瞬間――

ユリの低い声が響いた。

「メイ、令嬢が何かを企んでいるかもしれない。注意して。」

私は表情を崩さずに、ほんの少しだけ頷いた。

このお茶会は、ただの社交の場ではない。
何かが仕組まれている――間違いなく。

「それは素晴らしいことですね。ところで、ご主人様もお元気でいらっしゃいますか?」

「ええ、ユリドレも元気にしております。」

お茶会の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。辺境伯夫人が微笑みを浮かべながら、ゆったりとした口調で言う。

「今日はお越しいただき、本当にありがとうございました。またお会いできることを楽しみにしております。」

「こちらこそ、招待していただきありがとうございました。」

私は形式的な礼を述べながらも、内心では一刻も早くこの場を離れたいと願っていた。
このお茶会は、穏やかで優雅な空間を演出していたが、裏には何か別の意図があるとしか思えなかった。

ユリの護衛がついているとはいえ、この場がいつ牙を剥くかわからない。慎重に振る舞いながらも、心の中で警戒を強めた。


邸宅の前で馬車に乗り込む。

「メイ、すぐに出発します。周囲に不審な動きはありませんが、念のため警戒を続けます。」

ユリの低く落ち着いた声に、私は小さく頷いた。

その時だった。

突然、鋭い金属音が響き渡った。

ギィンッ!!

まるで剣が交わるような音。何かがぶつかり合った音が、重苦しい空気を切り裂く。

「!?」

驚いて振り返ったが、そこには何もない。

「奥様、奇襲を受けています!!」

ゼノの声が響く。
その一言で、私の心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥った。

「ここで!? どうして!?」

私の声は震えていた。
グリーンルーク邸を出た直後――まさか、ここで襲撃されるとは想定していなかった。

「私にも敵の姿は見えません!ですが、何かが確実にいます…!」

ゼノの声も緊張で張り詰めていた。
風を操る彼ですら、その正体を掴めていない――。

「ゼノ!!風で逃げろ!!」

ユリが叫ぶ。
ゼノはすぐに私を横抱きにし、風の力を使って退避しようとする。

しかし――その瞬間、背後から何かに叩きつけられた。

ゼノが膝をつく。

「ゼノ!!」

私は思わず叫び、彼の肩を支えた。
ゼノの顔は苦痛に歪んでいる。

「奥様、何とか…逃げ…ないと…!」

ゼノは息を切らしながらも、必死に言葉を絞り出す。

バサッ――

何かが目の前に現れる。

ユリが即座に透明化を解除し、私たちの前に立った。
彼の顔には怒りと緊張が浮かんでいる。

「メイ!! …クソッ!!」

目の前に立っていたのは――

長い白髪に、黒いボディースーツ。
冷たく鋭い視線を向けてくる女。

ユリの母だった。

「まさか、想像していなかったでしょう?」

彼女は薄く微笑む。

「できるはずもないわよねぇ?まさか……この私が関与しているなんてねぇ? ユリドレ。」

嘲笑に満ちた声が響く。

「お義母様!? そんなっ!!」

私は信じられず、彼女を見つめた。

ユリは深く息を吐き、眉を寄せる。

「記憶を取り戻されたのですね…。」

「そうよ。 よくもやってくれたわね、ユリドレ。」

その瞳には、怒りと復讐心が燃え盛っていた。

「俺がやったわけではありません。父上がやったことです。」

ユリが冷静に答える。

しかし、彼女の表情は微動だにしなかった。

「言い訳は聞きたくないわ。ユリドレ、あなたも共犯者よ。」

その声には、確固たる冷たい決意が宿っている。

「母上、話し合いましょう。今ここで戦うのは得策ではありません。」

ユリは抑えた声で説得を試みるが――

「人避けはしてあるわ。」

彼女は静かに告げた。

「ユリドレ、随分幸せそうじゃない……。」

その声には、酷く歪んだ愛と憎しみが入り混じっていた。

「ふふふ……母さんがあなたの大切なものを壊してあげる。」

彼女はゆっくりと手を上げ、攻撃の準備を始めた。

「あなただけ幸せになるだなんて、許されるはずがないでしょう?」
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