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第二章 お出かけ
6話
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外に出ると、太陽は既に真上までのぼっていた。石鹸を買い取ってもらうだけのつもりが、思ったより、時間が過ぎてしまったらしい。
くぅぅと小さな音がして、慌てて自分のお腹を抑える。違うんだって、これは朝から歩き通しだったから……。聞かれてもいない言い訳を口にして、先にご飯を食べようかと提案すれば、ヴィラは何も言わずに頷いた。
「おじさん! 焼き麺と揚げ鳥、あと野菜饅頭を全部二つずつ!」
「あいよ!」
多くの屋台が軒を連ねるメインストリートは、昼時ということもあって中々の賑わいだ。村の中にはレストランもいくつかあるが、大体値が張るし、この時間だとかなり待たなければ入れない。そのため、村に来た時はもっぱら屋台で済ませることが多かった。
「はいお待ち!」
「ありがとう。おいでヴィラ、あっちで食べよう」
代金を払ってヴィラに料理を受け取ってもらう。
軒先に置かれた使い捨てのフォークを2つ取って、戸惑う腕を掴みながら人並みを抜けた。着いた先はメインストリートから少し離れた場所にある小さな広場。村人の大半は家に持ち帰って食べるか、もう一つの大きな公園に行くことが多いから、ここは穴場スポットなのだ。
ちょうど木陰になっているベンチを選んで、ぽんぽんと隣を叩く。大人しく座ったはいいものの、ヴィラは手に持った料理をどうしていいか分からないようだった。
二人の間にハンカチを敷いて、その上に包まれた野菜饅頭と揚げ鳥を置いておく。紙袋から容器を二つ取り出すと、一つは自分に、もう一つはフォークと一緒にヴィラに押し付けた。
蓋を開くと、なんとも言えない食欲をそそる匂いが漂ってくる。大ぶりに切られた肉と野菜が、濃いめに味付けされた麺に絡んで最高に美味い。自分では作らないけど、町に来た時は必ずと言っていいほど食べてしまう料理である。
何も考えずに食べ進め、数口咀嚼したところでハッと気づく。やばい、ヴィラのこと忘れてた………。
「んぐ……ごめん。先に食べちゃった。フォークもう一つ貰ってくれば良かったな」
ヴィラは警戒心がとても強く、初めて見るものには特に敏感だ。最近は僕の手料理を毒見無しで食べてくれるようになっていたから油断していた。
「口つけちゃったけど、このフォーク使ってもいい?」
真っ赤になって俯いた顔が、小さく縦に揺らされる。これは許可されたと思っていいんだろうか。
手を伸ばし、ヴィラの器から一口分だけ取って口に運ぶ。目線で大丈夫だと伝えれば、慣れない料理に戸惑いながらも食べ始めた。眉間に皺が寄ってるけど、食べる手は止まってない。それは一体どういう感情なの?
「美味しい?」
「まあまあ」
「あはは、ヴィラは正直だよね!」
紙のコップに入った揚げ鳥を、フォークで突き刺して齧り付く。ジュワッと肉汁があふれて、口の周りがギトギトになったけど、僕の真似をしたヴィラも同じように油塗れになっていた。あからさまに不快そうな様子に、また声をあげて笑ってしまう。
ヴィラが一番気に入ったのは野菜饅頭だったようで、一口食べて目を丸くしていた。ふかふかの生地の中にはたっぷりの野菜とジューシーな肉だねが詰まっている。黒胡椒の効いたパンチのある味だけど、野菜のおかげで重すぎない。
お腹がいっぱいになってしまったので、僕の野菜饅頭も半分食べてもらったのだが、ヴィラはぺろっと完食していた。流石は食べ盛りである。
▽
お腹が満たされたことで、温かい木陰に座っていると気持ちの良い眠気に襲われた。……駄目だ。このままだと、確実に寝る。
なんとか眠気を振り払って立ち上がり、路地裏を抜けて右に左に、地図が示した十字架のマークを頼りに進んで行くと、水色と白で塗られた可愛らしい建物見えてくる。この村唯一の医者であるセイラ先生の自宅兼診療所だ。
「ごめんくださーい」
「はーい……ってセラシェルじゃないか!」
「へへ、久しぶり……」
気のない返事をして振り向いた男が、セラシェルを見た途端、ピタリと動きを止めて赤色の目を見開いた。彼の名前はカリア。セイラ先生の一人息子であり、今は医者になるために勉強中の身だ。
小さい頃、薬師だったお爺さんはセラシェルを連れてよくこの診療所に納品に来ていた。その時に出会い、今では一番長い付き合いである。この村に同年代の青年はカリアしかいないから、ある意味で幼馴染のような存在だ。
「お前なぁ、もっと頻繁に顔見せにこいよ。今回ばかりは死んだのかと思ったぞ」
「医者の息子が物騒なこと言っちゃダメでしょ。でも心配かけたのは素直に謝るよ、ごめんね」
「おう、分かればいいんだ。で、後ろにいるのは知り合いか?」
「うん、ヴィラって言うんだ。ヴィラ、こっちは僕の友達のカリアだよ」
「よろしくな」
爽やかな笑みと共に差し出された手を、ヴィラは案の定握らず、よろしくとだけ言って小さく頭を下げた。よろしくと言っただけ、初対面の時と比べたらかなり成長しているとは思う。
「ごめんな、ヴィラは人見知りでさ」
「そっか、こっちこそいきなり悪かった。今日は薬を納品にきたのか?」
「うん。何種類か持ってきたから説明するね。これが火傷用で、こっちが切り傷用、これは打撲用の塗り薬」
「相変わらずスゲーな」
「へへ、飲み薬は熱覚ましと、胃痛薬、頭痛薬、それに酔い止め。あと頼まれてた薬草も。これで全部だよ」
「お前の薬はよく効くからみんな喜ぶよ。じゃあこれお代」
小さな容器に入った塗り薬と、特殊な紙で包んだ飲み薬、森で採取して乾燥させた薬草を説明を交えながら机に並べる。一つ一つ確認したカリアは満足そうに頷いて代金を支払った。
行きよりもかなり重くなった皮袋を再び鞄に仕舞って、別れを惜しみながら店を出る。本当はもう少し話していたいけど、買わなければいけないものが沢山あるから、また次の機会ということにしておいた。
くぅぅと小さな音がして、慌てて自分のお腹を抑える。違うんだって、これは朝から歩き通しだったから……。聞かれてもいない言い訳を口にして、先にご飯を食べようかと提案すれば、ヴィラは何も言わずに頷いた。
「おじさん! 焼き麺と揚げ鳥、あと野菜饅頭を全部二つずつ!」
「あいよ!」
多くの屋台が軒を連ねるメインストリートは、昼時ということもあって中々の賑わいだ。村の中にはレストランもいくつかあるが、大体値が張るし、この時間だとかなり待たなければ入れない。そのため、村に来た時はもっぱら屋台で済ませることが多かった。
「はいお待ち!」
「ありがとう。おいでヴィラ、あっちで食べよう」
代金を払ってヴィラに料理を受け取ってもらう。
軒先に置かれた使い捨てのフォークを2つ取って、戸惑う腕を掴みながら人並みを抜けた。着いた先はメインストリートから少し離れた場所にある小さな広場。村人の大半は家に持ち帰って食べるか、もう一つの大きな公園に行くことが多いから、ここは穴場スポットなのだ。
ちょうど木陰になっているベンチを選んで、ぽんぽんと隣を叩く。大人しく座ったはいいものの、ヴィラは手に持った料理をどうしていいか分からないようだった。
二人の間にハンカチを敷いて、その上に包まれた野菜饅頭と揚げ鳥を置いておく。紙袋から容器を二つ取り出すと、一つは自分に、もう一つはフォークと一緒にヴィラに押し付けた。
蓋を開くと、なんとも言えない食欲をそそる匂いが漂ってくる。大ぶりに切られた肉と野菜が、濃いめに味付けされた麺に絡んで最高に美味い。自分では作らないけど、町に来た時は必ずと言っていいほど食べてしまう料理である。
何も考えずに食べ進め、数口咀嚼したところでハッと気づく。やばい、ヴィラのこと忘れてた………。
「んぐ……ごめん。先に食べちゃった。フォークもう一つ貰ってくれば良かったな」
ヴィラは警戒心がとても強く、初めて見るものには特に敏感だ。最近は僕の手料理を毒見無しで食べてくれるようになっていたから油断していた。
「口つけちゃったけど、このフォーク使ってもいい?」
真っ赤になって俯いた顔が、小さく縦に揺らされる。これは許可されたと思っていいんだろうか。
手を伸ばし、ヴィラの器から一口分だけ取って口に運ぶ。目線で大丈夫だと伝えれば、慣れない料理に戸惑いながらも食べ始めた。眉間に皺が寄ってるけど、食べる手は止まってない。それは一体どういう感情なの?
「美味しい?」
「まあまあ」
「あはは、ヴィラは正直だよね!」
紙のコップに入った揚げ鳥を、フォークで突き刺して齧り付く。ジュワッと肉汁があふれて、口の周りがギトギトになったけど、僕の真似をしたヴィラも同じように油塗れになっていた。あからさまに不快そうな様子に、また声をあげて笑ってしまう。
ヴィラが一番気に入ったのは野菜饅頭だったようで、一口食べて目を丸くしていた。ふかふかの生地の中にはたっぷりの野菜とジューシーな肉だねが詰まっている。黒胡椒の効いたパンチのある味だけど、野菜のおかげで重すぎない。
お腹がいっぱいになってしまったので、僕の野菜饅頭も半分食べてもらったのだが、ヴィラはぺろっと完食していた。流石は食べ盛りである。
▽
お腹が満たされたことで、温かい木陰に座っていると気持ちの良い眠気に襲われた。……駄目だ。このままだと、確実に寝る。
なんとか眠気を振り払って立ち上がり、路地裏を抜けて右に左に、地図が示した十字架のマークを頼りに進んで行くと、水色と白で塗られた可愛らしい建物見えてくる。この村唯一の医者であるセイラ先生の自宅兼診療所だ。
「ごめんくださーい」
「はーい……ってセラシェルじゃないか!」
「へへ、久しぶり……」
気のない返事をして振り向いた男が、セラシェルを見た途端、ピタリと動きを止めて赤色の目を見開いた。彼の名前はカリア。セイラ先生の一人息子であり、今は医者になるために勉強中の身だ。
小さい頃、薬師だったお爺さんはセラシェルを連れてよくこの診療所に納品に来ていた。その時に出会い、今では一番長い付き合いである。この村に同年代の青年はカリアしかいないから、ある意味で幼馴染のような存在だ。
「お前なぁ、もっと頻繁に顔見せにこいよ。今回ばかりは死んだのかと思ったぞ」
「医者の息子が物騒なこと言っちゃダメでしょ。でも心配かけたのは素直に謝るよ、ごめんね」
「おう、分かればいいんだ。で、後ろにいるのは知り合いか?」
「うん、ヴィラって言うんだ。ヴィラ、こっちは僕の友達のカリアだよ」
「よろしくな」
爽やかな笑みと共に差し出された手を、ヴィラは案の定握らず、よろしくとだけ言って小さく頭を下げた。よろしくと言っただけ、初対面の時と比べたらかなり成長しているとは思う。
「ごめんな、ヴィラは人見知りでさ」
「そっか、こっちこそいきなり悪かった。今日は薬を納品にきたのか?」
「うん。何種類か持ってきたから説明するね。これが火傷用で、こっちが切り傷用、これは打撲用の塗り薬」
「相変わらずスゲーな」
「へへ、飲み薬は熱覚ましと、胃痛薬、頭痛薬、それに酔い止め。あと頼まれてた薬草も。これで全部だよ」
「お前の薬はよく効くからみんな喜ぶよ。じゃあこれお代」
小さな容器に入った塗り薬と、特殊な紙で包んだ飲み薬、森で採取して乾燥させた薬草を説明を交えながら机に並べる。一つ一つ確認したカリアは満足そうに頷いて代金を支払った。
行きよりもかなり重くなった皮袋を再び鞄に仕舞って、別れを惜しみながら店を出る。本当はもう少し話していたいけど、買わなければいけないものが沢山あるから、また次の機会ということにしておいた。
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