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過去の精算
※五話
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「──……う、は、……っぁ"……!」
「お腹キツい? 汗かいてるね」
グルグルと体の中で音が鳴る。
痛い、腹が痛い。風呂場に吊り下げられた状態ではつま先で全体重を支えるしか術がなく、けれど時間が経てば経つほど、下腹部の痛みは勢いを増した。汗で張り付いた前髪をひとつひとつ、指が丁寧にはがしていく。
「あと三分、我慢できそう? …………そっかぁ」
無理だ、そんなもの。力なく首を横にふり、気の抜けた返事に怒る気力さえ湧き上がらない。この苦しみを何とかしてくれるなら、もう誰だって、何だってよかった。
「仕方ない。ここで体力使っちゃうと後がもたないし」
何やら独りごちて呟いたあと、頭上のチェーンが外される。体重を支える力など当然残ってはいないから、重力のままに崩れ落ちた体は燕ノ宮の腕におさまった。
「も、ねが……はやく……!」
「大丈夫だよ。そのまま掴まってて」
中の液体が漏れ出ないようにと埋められていたプラグのおかげで何とか間に合いはしたものの、再び風呂場に連れ込まれ、何度も何度もシャワーで中を洗われる。
精神と体力が同時にゴリゴリと削ぎ落とされていく感覚を味わったことがあるだろうか。路地裏で受けた暴力すら、まだ生ぬるかったのだと感じる。こんなもの殴られた方がずっとマシだ。
「っ、ぐす……ひ、……っ、」
「桜木くん泣かないで」
元通りベッドの上、手首すらも同じく拘束された状態で、ずびずびと顔をシーツに擦り付ける。
芋虫みたいで惨めだろうが懇願も悲鳴も謝罪も効かない男に対して他に対抗できる策が見当たらなかった。
「泣かれたら乱暴にしたくなっちゃうから、だから泣かないで」
伺うように頭を撫でていた手が両頬を挟んで力任せに引き上げる。
鼻筋が触れ合いそうなほどの距離に、どろりと灰色の欲が滲んだ。上擦った声、上気した頬、それらはとても目の前で泣いている人間に対して向けられていいものではない。
優しくしたいのだと男は言った。つい数時間前、自らが作った傷口──唇の端を、愛おしげになぞりながら。
「……イカれてる」
「やだなぁ今さら気づいたの」
涙はもう出なかった。
*
「ん、……っ、は、……ぁ"ッ」
「だいぶ柔らかくなってきたね。ほらここ、二本入ってるのがわかる?」
くち、粘着質な音を立て二本の指が開かれる。粘膜の間を割って入り込む空気に身を震わせ、けれど逃げることなどできないから、せめてもの抵抗に唇を強く噛み締めた。
「し、るか、っ」
「素直じゃないな」
「ひ……~~っ、!」
蹴り上げようにも体に力が入らない。無機質なプラグとは違う、節くれだった長い指がてんでばらばらに動き出し、嫌でも存在を主張した。
気持ち悪い。圧迫感と不快感が、じわじわ別のものに変えられていく。気持ち悪い。何よりも口に出せないような場所を弄られて妙な感覚を感じ始めている自分自身が。
「三本目入れるよ」
「……ぅ"、ぁ」
「流石にキツいか。ちょっと待ってね、──……」
こちらの返答など待たず、ゆるく立ち上がりかけていた性器に生温かい感触が這った。慌てて引き剥がそうにも両腕が縛られたままでは動けない。
「お前なにして」
「ちゅ、……っん、萎えかけてるから久しぶりに舐めてあげようかなって」
「そんなこと、~っァ、頼んで、な……っ、!」
「枕しまくってるって聞いたけど……相変わらずの弱々ちんこで安心した。これで女の子ちゃんと満足してくれたの?」
ふっと先端に息を吹きかけられ、条件反射で体が震える。唾液をたっぷりと含ませて搾り取るように舐め上げてくる舌使い──快楽に弱くなったのは誰のせいだと思ってる。
あの頃、重苦しいウィッグを被り、金を払ってまで俺のものをしゃぶりたいというコイツを、ずっとずっと、見下していたはずなのに。
「らひていいよ」
「…………~~~~っ!」
ひときわ強く吸い上げられると同時に、内側を暴れ回っていた指がある一点をぐぅっと押した。途端、体が勝手に飛び跳ねて、未知の感覚が処理できず何度も瞬きを繰り返す。
「あ、……? ァ、ぁ、ひ、や……~~っ、!」
「んっ、やっぱりここが前立腺か。はは、痙攣すご」
「まって、まっへ、いま~~──ッ、や、っぁ、あ"!」
「感覚忘れないうちにもう一回だけ」
くにゅ、くちくちくちっ
絶頂に押し上げられたばかりの体で、それでも燕ノ宮は手を止めず、あの場所ばかりを狙って小刻みな動きを繰り返す。
足が勝手に動くのを止められない。逃げもできない。許されているのは、ただバチバチと焼かれるような感覚に身を任せ、絶頂を迎えることだけだった。
「お腹キツい? 汗かいてるね」
グルグルと体の中で音が鳴る。
痛い、腹が痛い。風呂場に吊り下げられた状態ではつま先で全体重を支えるしか術がなく、けれど時間が経てば経つほど、下腹部の痛みは勢いを増した。汗で張り付いた前髪をひとつひとつ、指が丁寧にはがしていく。
「あと三分、我慢できそう? …………そっかぁ」
無理だ、そんなもの。力なく首を横にふり、気の抜けた返事に怒る気力さえ湧き上がらない。この苦しみを何とかしてくれるなら、もう誰だって、何だってよかった。
「仕方ない。ここで体力使っちゃうと後がもたないし」
何やら独りごちて呟いたあと、頭上のチェーンが外される。体重を支える力など当然残ってはいないから、重力のままに崩れ落ちた体は燕ノ宮の腕におさまった。
「も、ねが……はやく……!」
「大丈夫だよ。そのまま掴まってて」
中の液体が漏れ出ないようにと埋められていたプラグのおかげで何とか間に合いはしたものの、再び風呂場に連れ込まれ、何度も何度もシャワーで中を洗われる。
精神と体力が同時にゴリゴリと削ぎ落とされていく感覚を味わったことがあるだろうか。路地裏で受けた暴力すら、まだ生ぬるかったのだと感じる。こんなもの殴られた方がずっとマシだ。
「っ、ぐす……ひ、……っ、」
「桜木くん泣かないで」
元通りベッドの上、手首すらも同じく拘束された状態で、ずびずびと顔をシーツに擦り付ける。
芋虫みたいで惨めだろうが懇願も悲鳴も謝罪も効かない男に対して他に対抗できる策が見当たらなかった。
「泣かれたら乱暴にしたくなっちゃうから、だから泣かないで」
伺うように頭を撫でていた手が両頬を挟んで力任せに引き上げる。
鼻筋が触れ合いそうなほどの距離に、どろりと灰色の欲が滲んだ。上擦った声、上気した頬、それらはとても目の前で泣いている人間に対して向けられていいものではない。
優しくしたいのだと男は言った。つい数時間前、自らが作った傷口──唇の端を、愛おしげになぞりながら。
「……イカれてる」
「やだなぁ今さら気づいたの」
涙はもう出なかった。
*
「ん、……っ、は、……ぁ"ッ」
「だいぶ柔らかくなってきたね。ほらここ、二本入ってるのがわかる?」
くち、粘着質な音を立て二本の指が開かれる。粘膜の間を割って入り込む空気に身を震わせ、けれど逃げることなどできないから、せめてもの抵抗に唇を強く噛み締めた。
「し、るか、っ」
「素直じゃないな」
「ひ……~~っ、!」
蹴り上げようにも体に力が入らない。無機質なプラグとは違う、節くれだった長い指がてんでばらばらに動き出し、嫌でも存在を主張した。
気持ち悪い。圧迫感と不快感が、じわじわ別のものに変えられていく。気持ち悪い。何よりも口に出せないような場所を弄られて妙な感覚を感じ始めている自分自身が。
「三本目入れるよ」
「……ぅ"、ぁ」
「流石にキツいか。ちょっと待ってね、──……」
こちらの返答など待たず、ゆるく立ち上がりかけていた性器に生温かい感触が這った。慌てて引き剥がそうにも両腕が縛られたままでは動けない。
「お前なにして」
「ちゅ、……っん、萎えかけてるから久しぶりに舐めてあげようかなって」
「そんなこと、~っァ、頼んで、な……っ、!」
「枕しまくってるって聞いたけど……相変わらずの弱々ちんこで安心した。これで女の子ちゃんと満足してくれたの?」
ふっと先端に息を吹きかけられ、条件反射で体が震える。唾液をたっぷりと含ませて搾り取るように舐め上げてくる舌使い──快楽に弱くなったのは誰のせいだと思ってる。
あの頃、重苦しいウィッグを被り、金を払ってまで俺のものをしゃぶりたいというコイツを、ずっとずっと、見下していたはずなのに。
「らひていいよ」
「…………~~~~っ!」
ひときわ強く吸い上げられると同時に、内側を暴れ回っていた指がある一点をぐぅっと押した。途端、体が勝手に飛び跳ねて、未知の感覚が処理できず何度も瞬きを繰り返す。
「あ、……? ァ、ぁ、ひ、や……~~っ、!」
「んっ、やっぱりここが前立腺か。はは、痙攣すご」
「まって、まっへ、いま~~──ッ、や、っぁ、あ"!」
「感覚忘れないうちにもう一回だけ」
くにゅ、くちくちくちっ
絶頂に押し上げられたばかりの体で、それでも燕ノ宮は手を止めず、あの場所ばかりを狙って小刻みな動きを繰り返す。
足が勝手に動くのを止められない。逃げもできない。許されているのは、ただバチバチと焼かれるような感覚に身を任せ、絶頂を迎えることだけだった。
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