人生最高到達点

深海めだか

文字の大きさ
6 / 10
過去の精算

※五話

しおりを挟む
「──……う、は、……っぁ"……!」
「お腹キツい? 汗かいてるね」

 グルグルと体の中で音が鳴る。
 痛い、腹が痛い。風呂場に吊り下げられた状態ではつま先で全体重を支えるしか術がなく、けれど時間が経てば経つほど、下腹部の痛みは勢いを増した。汗で張り付いた前髪をひとつひとつ、指が丁寧にはがしていく。

「あと三分、我慢できそう? …………そっかぁ」

 無理だ、そんなもの。力なく首を横にふり、気の抜けた返事に怒る気力さえ湧き上がらない。この苦しみを何とかしてくれるなら、もう誰だって、何だってよかった。

「仕方ない。ここで体力使っちゃうと後がもたないし」

 何やら独りごちて呟いたあと、頭上のチェーンが外される。体重を支える力など当然残ってはいないから、重力のままに崩れ落ちた体は燕ノ宮の腕におさまった。

「も、ねが……はやく……!」
「大丈夫だよ。そのまま掴まってて」

 中の液体が漏れ出ないようにと埋められていたプラグのおかげで何とか間に合いはしたものの、再び風呂場に連れ込まれ、何度も何度もシャワーで中を洗われる。

 精神と体力が同時にゴリゴリと削ぎ落とされていく感覚を味わったことがあるだろうか。路地裏で受けた暴力すら、まだ生ぬるかったのだと感じる。こんなもの殴られた方がずっとマシだ。

「っ、ぐす……ひ、……っ、」
「桜木くん泣かないで」

 元通りベッドの上、手首すらも同じく拘束された状態で、ずびずびと顔をシーツに擦り付ける。
 芋虫みたいで惨めだろうが懇願も悲鳴も謝罪も効かない男に対して他に対抗できる策が見当たらなかった。

「泣かれたら乱暴にしたくなっちゃうから、だから泣かないで」

 伺うように頭を撫でていた手が両頬を挟んで力任せに引き上げる。
 鼻筋が触れ合いそうなほどの距離に、どろりと灰色の欲が滲んだ。上擦った声、上気した頬、それらはとても目の前で泣いている人間に対して向けられていいものではない。
 優しくしたいのだと男は言った。つい数時間前、自らが作った傷口──唇の端を、愛おしげになぞりながら。

「……イカれてる」
「やだなぁ今さら気づいたの」

 涙はもう出なかった。



「ん、……っ、は、……ぁ"ッ」
「だいぶ柔らかくなってきたね。ほらここ、二本入ってるのがわかる?」

 くち、粘着質な音を立て二本の指が開かれる。粘膜の間を割って入り込む空気に身を震わせ、けれど逃げることなどできないから、せめてもの抵抗に唇を強く噛み締めた。

「し、るか、っ」
「素直じゃないな」
「ひ……~~っ、!」

 蹴り上げようにも体に力が入らない。無機質なプラグとは違う、節くれだった長い指がてんでばらばらに動き出し、嫌でも存在を主張した。
 気持ち悪い。圧迫感と不快感が、じわじわ別のものに変えられていく。気持ち悪い。何よりも口に出せないような場所を弄られて妙な感覚を感じ始めている自分自身が。

「三本目入れるよ」
「……ぅ"、ぁ」
「流石にキツいか。ちょっと待ってね、──……」

 こちらの返答など待たず、ゆるく立ち上がりかけていた性器に生温かい感触が這った。慌てて引き剥がそうにも両腕が縛られたままでは動けない。

「お前なにして」
「ちゅ、……っん、萎えかけてるから久しぶりに舐めてあげようかなって」
「そんなこと、~っァ、頼んで、な……っ、!」
「枕しまくってるって聞いたけど……相変わらずの弱々ちんこで安心した。これで女の子ちゃんと満足してくれたの?」

 ふっと先端に息を吹きかけられ、条件反射で体が震える。唾液をたっぷりと含ませて搾り取るように舐め上げてくる舌使い──快楽に弱くなったのは誰のせいだと思ってる。
 あの頃、重苦しいウィッグを被り、金を払ってまで俺のものをしゃぶりたいというコイツを、ずっとずっと、見下していたはずなのに。

「らひていいよ」
「…………~~~~っ!」

 ひときわ強く吸い上げられると同時に、内側を暴れ回っていた指がある一点をぐぅっと押した。途端、体が勝手に飛び跳ねて、未知の感覚が処理できず何度も瞬きを繰り返す。

「あ、……? ァ、ぁ、ひ、や……~~っ、!」
「んっ、やっぱりここが前立腺か。はは、痙攣すご」
「まって、まっへ、いま~~──ッ、や、っぁ、あ"!」
「感覚忘れないうちにもう一回だけ」

 くにゅ、くちくちくちっ
 絶頂に押し上げられたばかりの体で、それでも燕ノ宮は手を止めず、あの場所ばかりを狙って小刻みな動きを繰り返す。
 足が勝手に動くのを止められない。逃げもできない。許されているのは、ただバチバチと焼かれるような感覚に身を任せ、絶頂を迎えることだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

処理中です...