人生最高到達点

深海めだか

文字の大きさ
10 / 10
僕の最高到達点

九話

しおりを挟む
「あっれ、連れてこなかったのかよ。手に入ったって聞いたから楽しみにしてたのになァ。お前のヒーロー」

 扉を開け、一歩足を踏み入れたところに嘲るような声が届く。声の出どころである男は退屈そうに椅子に腰掛け、煙草の煙を燻らせていた。

「知ってたなら多少は遠慮してくれないかな。よりにもよって初夜の翌日に呼び出すなんて悪趣味だ」
「だ~って気になるんだもんよ。冷血で堅物、なんの楽しみもなさそうなお前が執着してる相手だぜ。……てか初夜って相変わらず気持ち悪ぃ」

 男はゲェと舌を出し、イラついたように目線を手元の画面に落とした。おおかた渦中の人物を連れてくるか、連れてこないかで賭けごとでもしていたのだろう。

「そんなに興味があるなんて知らなかった。お望みならもう一回全部聞かせてあげようか?」
「電車でゲロしそうなところを助けてもらったストーカーの話なら百回以上聞いたね。耳から逆流しそうなくらい」

 ケラケラと笑う声に神経を逆撫でされる。
 今こうしている間にも起きて寂しがっているのではないかと心配なのに──カメラと盗聴器で起きたらすぐに分かるようにはしているが──彼とようやく恋人同士になれた今、こいつに付き合っているほど暇ではない。

「ま、その助けてくれたヒーロー様を自分で撃ち落としてちゃ世話ねぇけどなァ」
「話はそれだけ? 帰る」
「待て待て怒んなって──……ったくつまんねぇヤツだな。本題はこっち」

 机の上、投げ出された分厚い書類の束に目を通し、そう簡単には帰れないようだと息を吐く。
 彼にはもう少し寂しい思いをさせてしまうかもしれないが、念のため遠隔操作ができるおもちゃを仕込んでおいてきてよかった。これでいつでも僕のことを身近に感じられるだろう。仕方なく向かいのソファへと腰掛ける。

 視線は書類に落としたまま、ポケットへとゆるく手を伸ばす。カチッと軽い音が鳴り、それがなんだか彼との繋がりを決定づけているようで、思わず頬がゆるんでしまう。

 きっと今が僕の人生最高到達点だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

処理中です...