人生最高到達点

深海めだか

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僕の最高到達点

九話

「あっれ、連れてこなかったのかよ。手に入ったって聞いたから楽しみにしてたのになァ。お前のヒーロー」

 扉を開け、一歩足を踏み入れたところに嘲るような声が届く。声の出どころである男は退屈そうに椅子に腰掛け、煙草の煙を燻らせていた。

「知ってたなら多少は遠慮してくれないかな。よりにもよって初夜の翌日に呼び出すなんて悪趣味だ」
「だ~って気になるんだもんよ。冷血で堅物、なんの楽しみもなさそうなお前が執着してる相手だぜ。……てか初夜って相変わらず気持ち悪ぃ」

 男はゲェと舌を出し、イラついたように目線を手元の画面に落とした。おおかた渦中の人物を連れてくるか、連れてこないかで賭けごとでもしていたのだろう。

「そんなに興味があるなんて知らなかった。お望みならもう一回全部聞かせてあげようか?」
「電車でゲロしそうなところを助けてもらったストーカーの話なら百回以上聞いたね。耳から逆流しそうなくらい」

 ケラケラと笑う声に神経を逆撫でされる。
 今こうしている間にも起きて寂しがっているのではないかと心配なのに──カメラと盗聴器で起きたらすぐに分かるようにはしているが──彼とようやく恋人同士になれた今、こいつに付き合っているほど暇ではない。

「ま、その助けてくれたヒーロー様を自分で撃ち落としてちゃ世話ねぇけどなァ」
「話はそれだけ? 帰る」
「待て待て怒んなって──……ったくつまんねぇヤツだな。本題はこっち」

 机の上、投げ出された分厚い書類の束に目を通し、そう簡単には帰れないようだと息を吐く。
 彼にはもう少し寂しい思いをさせてしまうかもしれないが、念のため遠隔操作ができるおもちゃを仕込んでおいてきてよかった。これでいつでも僕のことを身近に感じられるだろう。仕方なく向かいのソファへと腰掛ける。

 視線は書類に落としたまま、ポケットへとゆるく手を伸ばす。カチッと軽い音が鳴り、それがなんだか彼との繋がりを決定づけているようで、思わず頬がゆるんでしまう。

 きっと今が僕の人生最高到達点だ。
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