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過去の精算
※八話
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「……──だよ。ん、ありがと────……で、ようやくね。────はぁ? それ今じゃないと駄目なの」
ぼそぼそと聞こえてくる声にふっと意識が浮上する。薄目を開けた先、最初に視界に入ってきたのはぼんやりとした後ろ姿。どうやら電話をしていたらしい。
「ああもうわかった。三十分後に車回しといて」
心底面倒ですといった感情を隠そうともしない声。向こう側から何やら叫び声のようなものが聞こえたが、強制的に切られたせいかすぐに無音となってしまった。人影が動く気配に反射的に瞼を閉じる。
「桜木くん」
寝てる、寝てる、俺は寝てる。なんなら死んでる。そのはずだ。
「聞こえてたよね? あと三十分しか時間がないから早くお出かけの準備しちゃおう」
「…………」
「はぁ~~──」
なんだこれ、下手なホラーゲームより怖い。無理やり呼吸を整えて、けれど心臓だけは自由に制御する術もなくドッドッドッと馬鹿みたいに派手な心音が止められない。軋む音すらなく、マットレスがゆるく沈んだ。
「今すぐ起きるかお仕置きされるかどっちがいい? …………じゅーう、きゅーう、はーち」
突如として始まった謎のカウントにまた心音が跳ね上がっていく。落ち着け、どうせかまをかけているだけだ。でも……本当に?
ここで起きたらどちらにせよ狸寝入りしていたことがバレてしまう。どうする、どっちを選ぶのが正しいんだ。寝起きで覚束ない頭はグルグル同じエラーばかりを吐き出して、てんで使い物になりやしない。
「にー、いーち……はい、時間切れ」
どこか楽しさが滲んだ声に全身からドッと汗が吹き出した。まだ開いていない瞼の裏、コイツが今どんな表情をしているのかなんて嫌でも想像できてしまう。
自首することもできないまま狸寝入りを続けていれば、人の気配が離れていき、その少しあとにゴソゴソと何かを探しているような音が聞こえた。
出かける準備でもしているのだろうか。ゆとりをもってあるものの、鎖のせいで少しのみじろぎすら出来ないのがもどかしい。
「寝たフリしてたいならそれでもいいけど続けられるように頑張って」
「……──っ、ひぁ!」
布団を剥がされ、スウェットを下ろされるところまでは我慢できた。けれど亀頭に触れるひんやりとぬめついた感覚に、反射で声を上げてしまう。
見開いた視界の先、足の間に陣取る燕ノ宮は片手で俺のちんこを掴み、もう片方の手で何かを亀頭にあてていた。
「おはよう。早かったね」
「ぁ、……っ、ぅ、何だよ、それ」
「知らない? ローションガーゼ」
その言葉を聞いた途端、顔から血の気が引いていく。長いこと夜の世界で生きているのだ。やったことはなくとも単語くらいは知っている。
昔Sっ気のある客にやってみたいとせがまれたこともあったが、調べてみると気持ち良すぎて漏らすだとか、今後の生活に支障が出るだとか恐ろしいことが書いてあったから断固として断った。それを今、なんの手加減も知らないコイツが?
「ま、っ、──~~あ、ぁ"!、?」
「死ぬほど気持ちよくしてあげる」
「っぉ"、ぁ、むり"! これ、むりだって、~ッひ、ぃ"──ッ!!」
「うんうん、ぬるぬる気持ちいいね。窪みのところもちゃんと擦ってあげるから」
ひたひたに濡らされたガーゼがひとたび亀頭を擦った途端、目の前に火花が飛んで喉の奥から悲鳴が漏れる。
なんだこれ、こんなの知らない。休む間もなくズリュ、ズリュと満遍なく擦られて、強烈な──それこそ痛いほどの感覚に悲鳴を上げる。
腰がガクガクと動くのを止められない。なんとか逃げを打とうとも、足の間に陣取られているせいで大した抵抗になりはせず、体を動かせばその分ガーゼが擦れて辛くなるだけだった。
「も、いぐっ、でる、でちゃ──~~っ、……ぁっ、? ゃ、なんで、ぇ、……なんで、いけない"、っ!」
湧き上がってくる欲はあるのに、なぜか精液だけが吐き出せない。明らかにいつもと違う腹の奥でぐずぐずと溜まるような感覚が恐ろしく、動かせもしない両腕をガチャガチャと必死に鳴らすことしかできなかった。
「なんでだろうねぇ。とりあえず潮吹けるまでは頑張ろうか」
「~~おぁ"っ、はっ、ァっ、ん゛ん゛……ひぎっ、~~~っ、もぉ、やら……っ、ねが、ぎもぢいぃの、も、やだ──~~っ、!!」
どれほどの時間が経ったのか。ひとつだけ確かなのは最初にコイツが言っていた"三十分"とやらにまだ到達していないということだけ。
許容範囲をとっくに超えた快感のせいで、目はぐるんと上を向き、涙やら鼻水やら涎やらで大変なことになっていた。泣き喚いて懇願しても微笑みしか返されず、よくわからない『頑張ろう』という言葉で流される。何故こんなことになったのだろう。
「残念、そろそろ時間だ」
「ぁ"、っ?!」
動かないよう固定するためだけに、ちんこに添えられていた左手が明確な意思をもって動き出す。ただでさえ敏感になっているところを根本から搾り取るように擦られて、到底我慢できるはずもなかった。
「我慢しないで全部出していいんだよ。ほら」
「ゃ、ひ……っ、ぃ"、ァ──~~~~っ!!」
半ば無理やり押し出された精液たちがびゅくびゅくとあたりに飛び散っていく。息も絶え絶えになんとか呼吸を繰り返し、体は全くと言っていいほど力が入らず役に立たない。こぷ、と先端から追い討ちのように白濁が漏れた。
「ひぁ"……! まって、ァ、ゃ、なんで……ッ」
「あと少しでイケそうなんだけどなぁ。ほーら真っ赤になって敏感なとこすりすりって気持ちいいね」
「むり"ッ! も、ぁ"、はっ、い"っだ、~~っ、なぁ"! いっだのに~~……ッ!!」
「ははっ、死にたくなるくらい気持ちいいでしょ」
「ぃ"、ァ~~~~っっ!!」
ぐるんと世界が、視界が回る。プシャっと勢いよく音を立てて水っぽい何かが飛び散った。
漏らした、と思いはしても体に力なんて全く入らず、役に立たない足がガクガクとひとりで痙攣を繰り返す。落ちていくまぶたの裏、最後に見えたのは満足そうに濡れた手に舌を這わせる燕ノ宮の姿だった。
ぼそぼそと聞こえてくる声にふっと意識が浮上する。薄目を開けた先、最初に視界に入ってきたのはぼんやりとした後ろ姿。どうやら電話をしていたらしい。
「ああもうわかった。三十分後に車回しといて」
心底面倒ですといった感情を隠そうともしない声。向こう側から何やら叫び声のようなものが聞こえたが、強制的に切られたせいかすぐに無音となってしまった。人影が動く気配に反射的に瞼を閉じる。
「桜木くん」
寝てる、寝てる、俺は寝てる。なんなら死んでる。そのはずだ。
「聞こえてたよね? あと三十分しか時間がないから早くお出かけの準備しちゃおう」
「…………」
「はぁ~~──」
なんだこれ、下手なホラーゲームより怖い。無理やり呼吸を整えて、けれど心臓だけは自由に制御する術もなくドッドッドッと馬鹿みたいに派手な心音が止められない。軋む音すらなく、マットレスがゆるく沈んだ。
「今すぐ起きるかお仕置きされるかどっちがいい? …………じゅーう、きゅーう、はーち」
突如として始まった謎のカウントにまた心音が跳ね上がっていく。落ち着け、どうせかまをかけているだけだ。でも……本当に?
ここで起きたらどちらにせよ狸寝入りしていたことがバレてしまう。どうする、どっちを選ぶのが正しいんだ。寝起きで覚束ない頭はグルグル同じエラーばかりを吐き出して、てんで使い物になりやしない。
「にー、いーち……はい、時間切れ」
どこか楽しさが滲んだ声に全身からドッと汗が吹き出した。まだ開いていない瞼の裏、コイツが今どんな表情をしているのかなんて嫌でも想像できてしまう。
自首することもできないまま狸寝入りを続けていれば、人の気配が離れていき、その少しあとにゴソゴソと何かを探しているような音が聞こえた。
出かける準備でもしているのだろうか。ゆとりをもってあるものの、鎖のせいで少しのみじろぎすら出来ないのがもどかしい。
「寝たフリしてたいならそれでもいいけど続けられるように頑張って」
「……──っ、ひぁ!」
布団を剥がされ、スウェットを下ろされるところまでは我慢できた。けれど亀頭に触れるひんやりとぬめついた感覚に、反射で声を上げてしまう。
見開いた視界の先、足の間に陣取る燕ノ宮は片手で俺のちんこを掴み、もう片方の手で何かを亀頭にあてていた。
「おはよう。早かったね」
「ぁ、……っ、ぅ、何だよ、それ」
「知らない? ローションガーゼ」
その言葉を聞いた途端、顔から血の気が引いていく。長いこと夜の世界で生きているのだ。やったことはなくとも単語くらいは知っている。
昔Sっ気のある客にやってみたいとせがまれたこともあったが、調べてみると気持ち良すぎて漏らすだとか、今後の生活に支障が出るだとか恐ろしいことが書いてあったから断固として断った。それを今、なんの手加減も知らないコイツが?
「ま、っ、──~~あ、ぁ"!、?」
「死ぬほど気持ちよくしてあげる」
「っぉ"、ぁ、むり"! これ、むりだって、~ッひ、ぃ"──ッ!!」
「うんうん、ぬるぬる気持ちいいね。窪みのところもちゃんと擦ってあげるから」
ひたひたに濡らされたガーゼがひとたび亀頭を擦った途端、目の前に火花が飛んで喉の奥から悲鳴が漏れる。
なんだこれ、こんなの知らない。休む間もなくズリュ、ズリュと満遍なく擦られて、強烈な──それこそ痛いほどの感覚に悲鳴を上げる。
腰がガクガクと動くのを止められない。なんとか逃げを打とうとも、足の間に陣取られているせいで大した抵抗になりはせず、体を動かせばその分ガーゼが擦れて辛くなるだけだった。
「も、いぐっ、でる、でちゃ──~~っ、……ぁっ、? ゃ、なんで、ぇ、……なんで、いけない"、っ!」
湧き上がってくる欲はあるのに、なぜか精液だけが吐き出せない。明らかにいつもと違う腹の奥でぐずぐずと溜まるような感覚が恐ろしく、動かせもしない両腕をガチャガチャと必死に鳴らすことしかできなかった。
「なんでだろうねぇ。とりあえず潮吹けるまでは頑張ろうか」
「~~おぁ"っ、はっ、ァっ、ん゛ん゛……ひぎっ、~~~っ、もぉ、やら……っ、ねが、ぎもぢいぃの、も、やだ──~~っ、!!」
どれほどの時間が経ったのか。ひとつだけ確かなのは最初にコイツが言っていた"三十分"とやらにまだ到達していないということだけ。
許容範囲をとっくに超えた快感のせいで、目はぐるんと上を向き、涙やら鼻水やら涎やらで大変なことになっていた。泣き喚いて懇願しても微笑みしか返されず、よくわからない『頑張ろう』という言葉で流される。何故こんなことになったのだろう。
「残念、そろそろ時間だ」
「ぁ"、っ?!」
動かないよう固定するためだけに、ちんこに添えられていた左手が明確な意思をもって動き出す。ただでさえ敏感になっているところを根本から搾り取るように擦られて、到底我慢できるはずもなかった。
「我慢しないで全部出していいんだよ。ほら」
「ゃ、ひ……っ、ぃ"、ァ──~~~~っ!!」
半ば無理やり押し出された精液たちがびゅくびゅくとあたりに飛び散っていく。息も絶え絶えになんとか呼吸を繰り返し、体は全くと言っていいほど力が入らず役に立たない。こぷ、と先端から追い討ちのように白濁が漏れた。
「ひぁ"……! まって、ァ、ゃ、なんで……ッ」
「あと少しでイケそうなんだけどなぁ。ほーら真っ赤になって敏感なとこすりすりって気持ちいいね」
「むり"ッ! も、ぁ"、はっ、い"っだ、~~っ、なぁ"! いっだのに~~……ッ!!」
「ははっ、死にたくなるくらい気持ちいいでしょ」
「ぃ"、ァ~~~~っっ!!」
ぐるんと世界が、視界が回る。プシャっと勢いよく音を立てて水っぽい何かが飛び散った。
漏らした、と思いはしても体に力なんて全く入らず、役に立たない足がガクガクとひとりで痙攣を繰り返す。落ちていくまぶたの裏、最後に見えたのは満足そうに濡れた手に舌を這わせる燕ノ宮の姿だった。
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