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-後悔と自覚-
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マフラーを出来るだけ綺麗に巻き直し、風で飛んでいく髪はその度手櫛で整えた。……変じゃないかな。
スマホを覗き込んで、もう何度目かもわからない化粧チェックを繰り返す。待ち初めてはや二十分、すでに辺りは真っ暗闇に染まっている。そろそろかと思って緊張していると、ようやく目の前の扉が開いた。
「お待たせ。ごめんね、寒かったでしょ」
「ううん、全然!」
家に招き入れてくれた彼は、ラフな部屋着に身を包んでいた。多分部屋を片付ける為に着替えたのだろうけど、自分だけが知っている特別な姿だと思うとつい嬉しくなってしまう。
「わ~、すっごく素敵なお家だね……」
「そう? 母さんが聞いたら喜ぶよ」
吹き抜けのあるリビングにはお洒落なインテリアが並び、片側の壁一面が本棚になっていた。
その手前にある階段が二階に繋がっているそうで、彼の部屋はその一番奥にあるらしい。期待と緊張でうるさいほど高鳴る心臓を抑えながら、黙って後ろをついていく。私、もしかしたら今日――
「ここだよ。はいどうぞ」
「お、お邪魔します」
「飲み物持ってくるから適当にソファにでも座ってて」
「うん。ありがとう」
案内された部屋は想像以上に広くて綺麗だった。恐る恐る足を踏み入れ、部屋の右側に置いてあった革張りのソファに腰掛ける。二人掛けのそれはよく使い込まれており、見た目以上に柔らかかった。
目の前にはヴィンテージ調のローテーブルとテレビボード、その上には薄型のテレビが設置されている。
部屋の左側には勉強用のデスクと本棚、少し離れたところに電子ピアノ、それに……男の子らしいパイプベッドが置いてあった。
赤く染まった顔を隠すように、両手で頬を包み込む。口には出せないような妄想に思いを馳せていると、ガタッと何かが揺れるような音が聞こえた。
「え………?」
音の聞こえた方を恐る恐る振り向く。広い部屋のほぼ真ん中、その壁際に設置されていたのは大きなクローゼットだった。
掛けていた服が落ちたのだろうか? 掛け直してあげようという親切心半分、好きな男の子の私服がみたいという興味半分で木製の扉に手をかけたその時、タイミング悪く彼が戻ってきてしまった。
「あれ、どうかした?」
「あ……勝手に開けようとしてごめんね。物音がしたから服が落ちたのかと思って」
「掛け直そうとしてくれたんだ? ありがとう、でも気にしないで。片付けるときに手当たり次第詰め込んだから中で崩れたのかも」
「なるほど! ふふっ。片付けるって言ってた割に凄く綺麗な部屋だったから、実は不思議に思ってたの」
「本当は言わないつもりだったんだけどね」
悪戯っぽく笑う顔が可愛くて、普段とのギャップにドキドキした。初めて会ったのに部屋に入れてくれたし、これって期待していいってことだよね……?
あんなに地味な子が友達だなんて正直半信半疑だったけど、頼んでみて本当に良かった!
――あれ、そういえば
「……そういえば嵐山君は? 片付け手伝ってくれたんじゃなかったっけ」
「ああこーちゃんなら裏口から帰ったよ。邪魔したくないとか変なこと言ってたけど……なんだろうね?」
「えっ、あ……そう、だね。不思議だね……!」
二人きりにするために帰ってくれたのだとしたら、仲介役としてまさに完璧に近い立ち回りだ。月曜日に会ったら、ちゃんとお礼を言っておかないと。
『~~ッ、ふ……、ぅ』
カタリ、再びクローゼットが音を立てた。
また中の荷物が崩れたんだろうか。彼は確かにそう言ってたけど――今度は、くぐもった呻き声まで聞こえてきたような気がしたのだ。
空耳? でもあの声は……。会話の隅で考えている間にも、再びクローゼットが音を立てる。一度ならまだしも、二度、三度……やっぱりおかしい。なんだか急に怖くなって、慌ててソファから立ち上がった。
「ごめん、今日はもう帰るね」
「そう? もう遅いし送って行こうか」
「ううん、友達と電話しながら帰るから大丈夫!」
「わかった。じゃあせめて玄関までは見送るよ」
それからは、何を話していたかなんて碌に覚えていなかった。初めて足を踏み入れた時はあんなに素敵に思えた家も、人間味のない不気味な空間に思えてしまう。
彼のことを嫌いになったわけではないけれど、今はただこの場所から逃げ出したかった。
「今日はありがとう。じゃあ、また来週……」
「うん、じゃあね。…あ、一つだけお願いがあるんだけどいいかな?」
「お願い?」
「俺の家に入ったことは誰にも言わないで欲しいんだ。昔それが原因で、クラスの子が喧嘩しちゃってさ……」
口にされたお願いは案外あっけないものだった。女はマウントを取りたがる生き物だから、彼女面をしようとして喧嘩にでもなったのだろう。
協力してくれた友人達にも話せないのは少し不満だったけど、ここで断って彼に嫌われるよりはずっとマシだと思った。
「わかった」
大人しく首を縦に振ると、ホッとした顔でお礼を言われる。クローゼットのことはちょっと不気味だったけど、また今度遊びに来れたらいいな。
スマホを覗き込んで、もう何度目かもわからない化粧チェックを繰り返す。待ち初めてはや二十分、すでに辺りは真っ暗闇に染まっている。そろそろかと思って緊張していると、ようやく目の前の扉が開いた。
「お待たせ。ごめんね、寒かったでしょ」
「ううん、全然!」
家に招き入れてくれた彼は、ラフな部屋着に身を包んでいた。多分部屋を片付ける為に着替えたのだろうけど、自分だけが知っている特別な姿だと思うとつい嬉しくなってしまう。
「わ~、すっごく素敵なお家だね……」
「そう? 母さんが聞いたら喜ぶよ」
吹き抜けのあるリビングにはお洒落なインテリアが並び、片側の壁一面が本棚になっていた。
その手前にある階段が二階に繋がっているそうで、彼の部屋はその一番奥にあるらしい。期待と緊張でうるさいほど高鳴る心臓を抑えながら、黙って後ろをついていく。私、もしかしたら今日――
「ここだよ。はいどうぞ」
「お、お邪魔します」
「飲み物持ってくるから適当にソファにでも座ってて」
「うん。ありがとう」
案内された部屋は想像以上に広くて綺麗だった。恐る恐る足を踏み入れ、部屋の右側に置いてあった革張りのソファに腰掛ける。二人掛けのそれはよく使い込まれており、見た目以上に柔らかかった。
目の前にはヴィンテージ調のローテーブルとテレビボード、その上には薄型のテレビが設置されている。
部屋の左側には勉強用のデスクと本棚、少し離れたところに電子ピアノ、それに……男の子らしいパイプベッドが置いてあった。
赤く染まった顔を隠すように、両手で頬を包み込む。口には出せないような妄想に思いを馳せていると、ガタッと何かが揺れるような音が聞こえた。
「え………?」
音の聞こえた方を恐る恐る振り向く。広い部屋のほぼ真ん中、その壁際に設置されていたのは大きなクローゼットだった。
掛けていた服が落ちたのだろうか? 掛け直してあげようという親切心半分、好きな男の子の私服がみたいという興味半分で木製の扉に手をかけたその時、タイミング悪く彼が戻ってきてしまった。
「あれ、どうかした?」
「あ……勝手に開けようとしてごめんね。物音がしたから服が落ちたのかと思って」
「掛け直そうとしてくれたんだ? ありがとう、でも気にしないで。片付けるときに手当たり次第詰め込んだから中で崩れたのかも」
「なるほど! ふふっ。片付けるって言ってた割に凄く綺麗な部屋だったから、実は不思議に思ってたの」
「本当は言わないつもりだったんだけどね」
悪戯っぽく笑う顔が可愛くて、普段とのギャップにドキドキした。初めて会ったのに部屋に入れてくれたし、これって期待していいってことだよね……?
あんなに地味な子が友達だなんて正直半信半疑だったけど、頼んでみて本当に良かった!
――あれ、そういえば
「……そういえば嵐山君は? 片付け手伝ってくれたんじゃなかったっけ」
「ああこーちゃんなら裏口から帰ったよ。邪魔したくないとか変なこと言ってたけど……なんだろうね?」
「えっ、あ……そう、だね。不思議だね……!」
二人きりにするために帰ってくれたのだとしたら、仲介役としてまさに完璧に近い立ち回りだ。月曜日に会ったら、ちゃんとお礼を言っておかないと。
『~~ッ、ふ……、ぅ』
カタリ、再びクローゼットが音を立てた。
また中の荷物が崩れたんだろうか。彼は確かにそう言ってたけど――今度は、くぐもった呻き声まで聞こえてきたような気がしたのだ。
空耳? でもあの声は……。会話の隅で考えている間にも、再びクローゼットが音を立てる。一度ならまだしも、二度、三度……やっぱりおかしい。なんだか急に怖くなって、慌ててソファから立ち上がった。
「ごめん、今日はもう帰るね」
「そう? もう遅いし送って行こうか」
「ううん、友達と電話しながら帰るから大丈夫!」
「わかった。じゃあせめて玄関までは見送るよ」
それからは、何を話していたかなんて碌に覚えていなかった。初めて足を踏み入れた時はあんなに素敵に思えた家も、人間味のない不気味な空間に思えてしまう。
彼のことを嫌いになったわけではないけれど、今はただこの場所から逃げ出したかった。
「今日はありがとう。じゃあ、また来週……」
「うん、じゃあね。…あ、一つだけお願いがあるんだけどいいかな?」
「お願い?」
「俺の家に入ったことは誰にも言わないで欲しいんだ。昔それが原因で、クラスの子が喧嘩しちゃってさ……」
口にされたお願いは案外あっけないものだった。女はマウントを取りたがる生き物だから、彼女面をしようとして喧嘩にでもなったのだろう。
協力してくれた友人達にも話せないのは少し不満だったけど、ここで断って彼に嫌われるよりはずっとマシだと思った。
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大人しく首を縦に振ると、ホッとした顔でお礼を言われる。クローゼットのことはちょっと不気味だったけど、また今度遊びに来れたらいいな。
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