知らぬが兎

深海めだか

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中学校ー文化祭と犯人ー

七話

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 ところ変わって中学校。

 新しい制服、新しい鞄、新しい友達……今度こそ、一生ものの友達を作ってみせる。
 周りにバレないようにグッと小さくガッツポーズをしていると、朔が不思議そうにこちらを眺めていた。

「こーちゃん入るよ」
「おう!」

 教室の扉が開くと、既に着席しているクラスメイトたちの値踏みするような視線が突き刺さった。何人かの女子は、朔を見てさっそく頬を赤らめている。

 出席番号順に並んだ席の前から四番目に座って、控えめに辺りを見渡す。
 まだ何人か来ていないみたいだけど、教室の席はほぼ埋まりつつあった。

「なぁなぁ、俺相澤賢介って言うんだ。名前なんてーの?」
「え……あ、俺? 俺は嵐山虎徹」
「おー、名前カッコいいな! なぁ虎徹って呼んでもいいか?」
「うん! 俺も賢介って呼んでいい?」

 緊張したまま座っていると、いきなり声をかけられた。
 最初は違う人に話しかけているのだと思ったけど、その視線は真っ直ぐこちらに向けられている。

 短く刈りそろえられた髪に、健康的な小麦色の肌。見るからにスポーツ少年といった感じで、屈託なく笑う顔には好感が持てた。

(前の席が優しそうな人で良かった)

 翔太のことがあってから、自分は無意識に人を怒らせているんじゃないかと思ってた。知らず知らずの内に相手の嫌がる言動をしているから、だから嫌われるんだって。
 それでも、人当たりの良い彼に話しかけられたことで、俺は心底ほっとしていた。

「あれ虎徹の友達? スゲー目立つな」
「あぁ、朔のこと? 家が隣で幼馴染なんだよ」

 既に教室の視線を独占している朔は、一ミリも動じることなく、席に置いてあったプリントを眺めていた。成長期真っ只中の朔は、中世的な顔立ちも相まって、まさに美少年といった感じである。

 俺の視線に気づくと猫目を細めて、ひらっと手を振るものだから、女子から小さな歓声が上がっていた。
 入学早々アイドルにでもなるつもりかお前は。



 かくして始まった中学校生活は悪くないスタートだった。

 担任の先生は少々熱血すぎて暑苦しかったけど、賢介と一緒にサッカー部にも入れたし、近くの席にいた数人と自然にグループを作ることができた。
 とりあえず、これでぼっちは回避である。

 ただ一つ面倒なのは、女子からの呼び出しが増えたこと。
 名誉の為に言っておくが、これは俺に告白するための呼び出しではない。幼馴染であることを知った女子たちが、ラブレターを届ける仲介役にと俺を選んだ結果である。

 来る日も来る日もラブレターを運んでくる俺に、朔は困ったように笑っていたけど、困ってるのはこっちの方だ。
 まったく、俺は郵便屋さんか!

 靴箱か机の引き出しにでも入れておけと、そう思わないでもないが、朔は大体中身も読まずに捨ててしまう。
 割とクズだとは思うけど、世のイケメンたちはそれが普通なんだろうか。

 ……まぁそんなこんなで、俺に頼むのが一番成功率が高いとの判断も、あながち間違ってはいないのである。
 こうして今日も呼び出された俺は、重い足を引きずって渋々校舎裏に向かうのであった。

「あの! 兎山くん、……好きです! 私と付き合ってくださいッ……!」

 お、おお? 約束通り校舎裏に到着すると、どうやら先客がいたのか、告白の真っ最中だった。
 直接告白するとは中々勇気のある女子だ。あんな子が多ければ、俺の仕事も減るんだけど。

「へぇ、俺のどこが好きなの?」

 朔は中学に入ってから、一人称を"俺"に変えた。出会った頃から僕呼びだったから、正直なところ違和感の方が大きい。
 全国のお兄さん。弟が離れて行く時って、こんな気持ちなんでしょうか。

「え、っと…凄くカッコいいし、笑顔が素敵だなって思って……」
「ありがとう。でもごめんね、俺好きな人がいるんだ」
「そっか…私こそ急にごめんなさい。話はそれだけなので! では!」

 真っ赤な顔をして走り去っていく女子の姿が見えなくなった頃、朔が大きなため息を吐いた。
 もしここに先程の女子がいたならば、憂いのある流し目に頬を染めていたことだろう。

 一方で完全に出て行くタイミングを見失っていた俺は、木の影に隠れたまま朔が去って行くのを眺めていた。

(あいつ、好きな子いたのか……今度聞き出してやろう)

 そんな密かな誓いを胸に、どこぞの配達員よろしく今日もラブレターを届けるのであった。
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