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第17話 休日の決意
日曜日の朝。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな陽の光が、白いシーツの上を淡く照らしている。
目を開けると、部屋の静けさがやけに心に響いた。
昨日のことが、まだ頭の片隅に残っている。
私はシーツの中でゆっくりと身を起こし、肩まで流れる黒髪を指先で梳すいた。白いキャミソールとショートパンツの寝間着のまま、ベッドの端に腰掛ける。
昨夜はなかなか寝つけなかった。
考えても仕方のないことを、つい延々と考えてしまったせいだろう。
昨日、私は啓が香坂 真凛と篠宮 神楽と一緒に喫茶店にいると聞いて、いてもたってもいられなくなった。
昨日、初めて顔を合わせたばかりなのに、私は彼女たちと真正面から向き合うことになった。
それは、啓をめぐる対峙でもあった。
女優の香坂真凛と、歌手の篠宮神楽。
あの二人の名前を聞いた瞬間、胸がざわついた。
彼女たちは、ただの「有名人」じゃない。
どちらも美人で、堂々としていて、それぞれの世界で成功している人たち。
そして、二人とも啓のそばにいた。
その光景が、信じられなかった。
啓が有名人と仲良くしていることも。
そして、昨日の喫茶店で私たちが互いに牽制し合っていたことも。
彼女たちは、私と啓の間に割り込むように寄り添っていた。
真凛さんは清楚で可愛らしく、恥ずかしがる素振りを見せながらも啓のそばを離れようとしなかったし、神楽さんは挑発的な笑みを浮かべて、私たちの反応を楽しんでいるようだった。
あの場の空気は、張り詰めていた。
私と葵、伍代先輩、鷹松先輩がいるにも関わらず、啓を巡る意識のぶつかり合いがはっきりと感じられた。
まるで、啓をどちらが手にするかを競い合うみたいに。
私は、あの場でどうすればよかったのだろう。
問いを重ねても、答えは見つからなかった。
そんなことを考えていると、不意に枕元のスマートフォンが震えた。
着信音が静かな部屋に響く。
画面に表示された名前を見て、一瞬だけ躊躇ちゅうちょする。
「伍代先輩」
私はため息をつきながら、ゆっくりと通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
『おはよう、雅ちゃん。起きてた?』
相変わらずの軽い口調だった。
「ええ、さっき起きたところです」
『そっか。昨日は色々あったし、疲れたんじゃない? ちゃんと寝れた?』
「……まあ、なんとか」
口ではそう言ったものの、正直、昨夜はなかなか寝付けなかった。喫茶店での出来事を思い返しているうちに、考えがまとまらなくなって、気づけば深夜まで起きていたからだ。
伍代先輩はそんな私の様子を察したのか、ひと呼吸おいてから、労わるような優しい声で続けた。
『そうか……あんまり無理しないでね。雅ちゃんは真面目すぎるから』
「……別に真面目すぎるなんてことは」
『いやいや、あるって。昨日だって、色々考え込んでる感じだったし』
ぐっと言葉に詰まる。確かに、昨日の私は終始落ち着かなくて、どこか気持ちが揺れていたのは事実だった。
伍代先輩はそんな私の沈黙を気にも留めず、明るい声で言った。
『それでさ、今日なんだけど……午後から、ちょっと出かけない?』
「出かける?」
『うん。昨日は、色々あってちょっと空気重かったし、気分転換も兼ねてさ。せっかく付き合い始めたんだから、デートっぽいことしようよ』
デート――。
その単語に、胸の奥が微かにざわつく。付き合うことになったとはいえ、私はまだ伍代先輩と手を繋いだだけ。それ以外は、特に彼氏彼女らしいことは何もしていない。
だから彼の提案は至極当然しごくとうぜんのことなのかもしれない。
伍代先輩はいつも優しくて、私が戸惑うようなことも冗談めかして軽く流してくれる。最初は少し軽い人だと思っていたけれど、話していると、ちゃんと私のことを気にかけてくれているのが分かる。
私は、伍代先輩のことを素敵な人だと思っている。
それは嘘じゃない。私の夢を叶えてくれた人だし、こうして気遣ってくれるのも、私のことを大切に思ってくれているからだろう。
まだ戸惑うこともあるけれど、せっかく付き合うことになったのだから、ちゃんと彼に向き合っていきたい。
私は小さく息を吐いて、スマホを耳に当て直す。
「……分かりました。お誘いありがとうございます」
『おっ、いいね! じゃあ、学校近くの駅に迎えに行くわ。時間と正確な場所はメールで送るから、楽しみにしといて』
「はい……お願いします」
スマホの画面が暗くなり、静寂が戻る。
私はしばらくじっと座ったまま、朝の光がゆっくりとカーテンを透けていくのを眺めた。
外に出れば、昨日のことも少しは忘れられるかもしれない。
それに、伍代先輩との時間がどんなものになるのか、自分の中でも確かめてみたい。
せっかくなら、前を向いてみよう。
私はスマホを置き、ゆっくりと立ち上がった。
カーテンを開けると、柔らかな日差しが差し込んでくる。
今日がどんな一日になるのかは分からない。
でも、少なくとも――
私は今、前を向こうとしている。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな陽の光が、白いシーツの上を淡く照らしている。
目を開けると、部屋の静けさがやけに心に響いた。
昨日のことが、まだ頭の片隅に残っている。
私はシーツの中でゆっくりと身を起こし、肩まで流れる黒髪を指先で梳すいた。白いキャミソールとショートパンツの寝間着のまま、ベッドの端に腰掛ける。
昨夜はなかなか寝つけなかった。
考えても仕方のないことを、つい延々と考えてしまったせいだろう。
昨日、私は啓が香坂 真凛と篠宮 神楽と一緒に喫茶店にいると聞いて、いてもたってもいられなくなった。
昨日、初めて顔を合わせたばかりなのに、私は彼女たちと真正面から向き合うことになった。
それは、啓をめぐる対峙でもあった。
女優の香坂真凛と、歌手の篠宮神楽。
あの二人の名前を聞いた瞬間、胸がざわついた。
彼女たちは、ただの「有名人」じゃない。
どちらも美人で、堂々としていて、それぞれの世界で成功している人たち。
そして、二人とも啓のそばにいた。
その光景が、信じられなかった。
啓が有名人と仲良くしていることも。
そして、昨日の喫茶店で私たちが互いに牽制し合っていたことも。
彼女たちは、私と啓の間に割り込むように寄り添っていた。
真凛さんは清楚で可愛らしく、恥ずかしがる素振りを見せながらも啓のそばを離れようとしなかったし、神楽さんは挑発的な笑みを浮かべて、私たちの反応を楽しんでいるようだった。
あの場の空気は、張り詰めていた。
私と葵、伍代先輩、鷹松先輩がいるにも関わらず、啓を巡る意識のぶつかり合いがはっきりと感じられた。
まるで、啓をどちらが手にするかを競い合うみたいに。
私は、あの場でどうすればよかったのだろう。
問いを重ねても、答えは見つからなかった。
そんなことを考えていると、不意に枕元のスマートフォンが震えた。
着信音が静かな部屋に響く。
画面に表示された名前を見て、一瞬だけ躊躇ちゅうちょする。
「伍代先輩」
私はため息をつきながら、ゆっくりと通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
『おはよう、雅ちゃん。起きてた?』
相変わらずの軽い口調だった。
「ええ、さっき起きたところです」
『そっか。昨日は色々あったし、疲れたんじゃない? ちゃんと寝れた?』
「……まあ、なんとか」
口ではそう言ったものの、正直、昨夜はなかなか寝付けなかった。喫茶店での出来事を思い返しているうちに、考えがまとまらなくなって、気づけば深夜まで起きていたからだ。
伍代先輩はそんな私の様子を察したのか、ひと呼吸おいてから、労わるような優しい声で続けた。
『そうか……あんまり無理しないでね。雅ちゃんは真面目すぎるから』
「……別に真面目すぎるなんてことは」
『いやいや、あるって。昨日だって、色々考え込んでる感じだったし』
ぐっと言葉に詰まる。確かに、昨日の私は終始落ち着かなくて、どこか気持ちが揺れていたのは事実だった。
伍代先輩はそんな私の沈黙を気にも留めず、明るい声で言った。
『それでさ、今日なんだけど……午後から、ちょっと出かけない?』
「出かける?」
『うん。昨日は、色々あってちょっと空気重かったし、気分転換も兼ねてさ。せっかく付き合い始めたんだから、デートっぽいことしようよ』
デート――。
その単語に、胸の奥が微かにざわつく。付き合うことになったとはいえ、私はまだ伍代先輩と手を繋いだだけ。それ以外は、特に彼氏彼女らしいことは何もしていない。
だから彼の提案は至極当然しごくとうぜんのことなのかもしれない。
伍代先輩はいつも優しくて、私が戸惑うようなことも冗談めかして軽く流してくれる。最初は少し軽い人だと思っていたけれど、話していると、ちゃんと私のことを気にかけてくれているのが分かる。
私は、伍代先輩のことを素敵な人だと思っている。
それは嘘じゃない。私の夢を叶えてくれた人だし、こうして気遣ってくれるのも、私のことを大切に思ってくれているからだろう。
まだ戸惑うこともあるけれど、せっかく付き合うことになったのだから、ちゃんと彼に向き合っていきたい。
私は小さく息を吐いて、スマホを耳に当て直す。
「……分かりました。お誘いありがとうございます」
『おっ、いいね! じゃあ、学校近くの駅に迎えに行くわ。時間と正確な場所はメールで送るから、楽しみにしといて』
「はい……お願いします」
スマホの画面が暗くなり、静寂が戻る。
私はしばらくじっと座ったまま、朝の光がゆっくりとカーテンを透けていくのを眺めた。
外に出れば、昨日のことも少しは忘れられるかもしれない。
それに、伍代先輩との時間がどんなものになるのか、自分の中でも確かめてみたい。
せっかくなら、前を向いてみよう。
私はスマホを置き、ゆっくりと立ち上がった。
カーテンを開けると、柔らかな日差しが差し込んでくる。
今日がどんな一日になるのかは分からない。
でも、少なくとも――
私は今、前を向こうとしている。
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