大切な人達を全て奪われたけど、夢が叶ったので過去は振り返らず前に進もうと思います

アイスノ人

文字の大きさ
28 / 65

第32話 Drive & Shot

「マジでやるのかよ……」

「体育館のど真ん中で1on1なんて、どっちも負ける気ゼロって感じだな」

「でもバスケで立花先輩に勝つのは無理だろ……」

「いや、篠宮神楽だぜ? スポーツ得意ってテレビで言ってたし、ただの芸能人って思ってると、痛い目見るかも」

生徒たちのざわめきが体育館に広がる。
二人の周りには自然と人だかりができ、すでにスマホを構える者までいた。

コートの中央で、神楽は余裕たっぷりに微笑みながら葵を見つめている。

「勝負の条件、忘れてないわよね?」

「もちろん。私が勝ったら、神楽さんは私の言うことを何でも聞く。逆に神楽さんが勝ったら……」

「はじめが私のお願いを一つ聞いてくれる、よね?」

「そんな勝手なこと、啓が承諾するわけないでしょ」

「ふふ、勝ってから言ってくれる?」

神楽は軽く髪を指で巻きながら、挑発するような笑みを見せた。

「大丈夫よ、私が勝ったら、はじめにはしてもらうから」

「……調子に乗らないで」

葵がグッとボールを床に叩きつけると、周囲の観戦者から「おお……」とどよめきが起こった。

「ルールは三点先取。言い訳なしのガチ勝負、始めるよ!」

試合開始と同時に、葵が素早く動いた。

「速っ!」

「立花先輩、やっぱエースだな……!」

観客の声も耳に入らないほど、葵は全力で攻めた。
軽快なドリブルで神楽を翻弄し、一瞬の隙を突いてゴールへ駆け込む。

「ほら、一本!」

「へ~、さすがね?」

神楽は軽く肩をすくめながら、余裕の笑みを浮かべる。

ボールを受け取ると、ゆっくりとドリブルしながら葵を見つめた。

「じゃあ、お返ししようかな?」

次の瞬間、神楽は鋭いフェイントを入れ、体のバランスを一瞬崩したかに見えた。

「チャンス!」

葵がすかさず詰め寄る。しかし、それは神楽の計算のうちだった。

素早く体勢を立て直し、一気に方向転換。完全に振り切り、華麗なジャンプシュートを決める。

「うそ、読まれてた……?」

「一対一ね」

「でも、まだ私の方が有利。次は簡単に抜かせないから!」

葵は気を引き締め、攻撃に転じた。だが、神楽は少しずつ彼女の動きを読み、ペースをつかんでいく。

スコアは二対二。

「これ……どっちが勝つかわかんないな……」

「てか、篠宮神楽、普通にバスケ上手くね?」

「葵先輩がこんなに真剣になってるの、初めて見たかも……」

試合の行方に、生徒たちも息を呑む。

「最後の一点……」

「ここで決めるよ!」

葵が一気に加速した。

神楽は動じずに構えるが、葵はスピードを活かして鋭く切り込んでくる。

「このままゴール下に持ち込めば……!」

だが、神楽の目が冷静に葵の動きを追っていた。

「なるほど、強引にいく気ね?」

次の瞬間、神楽はわざと一歩後ろに下がった。

「は?」

観客も、葵も、一瞬の違和感を覚える。

バスケの1on1において、ディフェンスが下がるのは普通ならあり得ない行動だ。

しかし、その「違和感」が葵のリズムを狂わせた。

「……!」

少しでも動揺すれば、その隙を神楽は見逃さない。

下がったと見せかけて、次の瞬間、一気に前へ踏み込む。

「しまっ──」

ボールをカット。

そのまま神楽はゴール下に駆け込むが、葵も即座に追いかけた。

「絶対に止める!」

そして、神楽がシュートモーションに入った瞬間──

「……やっぱやめた」

神楽はニヤリと笑い、シュートモーションを途中で止め、葵を飛ばせた。

「くっ……!」

完全に空振り。

その一瞬の隙を逃さず、神楽は軽やかにシュートを決めた。

「決まったぁぁぁ!!!」

ボールがネットを揺らす。

「うそ……やられた……!」

葵は悔しそうに拳を握る。

「最後のフェイント……ずるい……」

「ずるくないわよ? バスケは技術だけじゃなくて、頭も使うスポーツだからね」

神楽は余裕の笑みを浮かべ、指先でボールを回した。

「はい、これで私の勝ちね」

「くっ……!」

観客たちの間からも驚きの声が上がる。

「篠宮神楽すげぇ……!」

「立花先輩がフェイントに引っかかるなんて……」

葵は悔しさを噛みしめながら、神楽を睨んだ。

「じゃあ、約束通り……はじめには私のお願いを聞いてもらうわね?」

「……啓が承諾するかどうかは別でしょ」

「ふふ、そこは私の腕の見せどころよ?」

神楽は挑発的に微笑み、くるりと踵を返した。

葵は唇を噛みしめ、まだ納得がいかない様子だったが、それ以上何も言えなかった。

「次は、絶対負けない……!」

ボールを強く握りしめ、葵は悔しそうに呟いた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。