大切な人達を全て奪われたけど、夢が叶ったので過去は振り返らず前に進もうと思います

アイスノ人

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第36話 真実への第二歩

 午後の陽ざしがまだ残る中、ひんやりとした風が制服のスカートを揺らした。
私は、伍代先輩の前に立っていた。彼の驚いた目が、まっすぐに私を映している。

「わ、別れる!?」

先輩の声が、校舎裏に響く。
その声には、驚きと焦り、そして私の予想以上の動揺がにじんでいた。

「……はい。ごめんなさい、先輩」

私は丁寧に頭を下げた。
この言葉を口にすることに迷いはなかった。
私は、自分が間違っていたことを理解している。
だからこそ、ここでちゃんと終わらせなければならない。

「待ってくれよ! 俺たち、さっきまでうまくいってたじゃん! だから、あいつより俺を選んだんだろ!? それに、この前の公園の件だって、さっき誤解だって言ったよな!?」

伍代先輩が、一歩近づく。

──「あいつ」
彼の言う「あいつ」とは、きっと啓のことだろう。

私はゆっくりと首を横に振る。
最初から、伍代先輩を選んだわけじゃない。

私はただ、啓を傷つけるために、伍代先輩を利用しただけだった。
そんな自分が、ひどく情けない。

「別に、伍代先輩を選んだわけじゃないんです。ただ……」

「たっただ?」

伍代先輩が問い返す。その声には焦りがにじんでいた。

私は、胸を押さえながら言葉をつむぐ。

「私は……自分の気持ちに嘘をついていました」

心の奥底にある感情は、もうはっきりしている。

「先輩にひどいことをしました。本当にごめんなさい」

「……俺のこと、好きだったんじゃないのか?」

伍代先輩の声が、低く落ちる。

私は、ゆっくりと首を振った。

「先輩は……私の夢をかなえてくれた。素敵な人です。でも、それは恋じゃないんです……」

「なんだよ、それ」

伍代先輩の顔から、笑みが消えた。

その瞬間、彼の空気が変わる。
それまで見せていた余裕ややさしい笑顔が、一気に消えたのが分かった。

その変化に、私は無意識に肩を震わせる。

「本当に、ごめんなさい……先輩!」

私は、彼の前から走り出した。

伍代先輩の「待て!」という声が背後から追いかけてくる。
でも、振り返ることはできなかった。

走りながら、涙がにじんできた。

──私は、最低だ。

伍代先輩を利用して、啓を傷つけた。
結局、自分の感情をぶつけているだけだった。

そのとき、頭の中に浮かんだのは、響子さんの言葉だった。

「他人まかせで自分の見たいものしか見ない……だからそうやって真実を見失う……」

響子さんは、私のことを見抜いていた。
私は、自分が信じたいものだけを信じて、都合よく解釈して、傷つくことを避けていただけだった。

私は、啓と向き合うことを怖がっていた。

だから、伍代先輩を利用して、啓の目をそらそうとした。

そんな自分が、ひどく情けなかった。

「……もう、こんなこと、やめなきゃ」

私は、制服の袖で涙をぬぐう。
泣いている時間なんて、ない。

私は、このままでは終われない。
今度こそ、まっすぐ啓と向き合わなきゃいけない。

私は足を止めた。
目の前には、夕焼けにそまる校舎の壁が続いている。
オレンジ色の光が影を作り、私の姿を長く伸ばしていた。

そう、私は今までずっと影を追いかけていた。
過去にしばられ、誤解にとらわれ、自分の本当の気持ちから逃げていた。

でも、もう違う。

もう一度、啓に向き合う。
本当に聞きたかったことを、ちゃんと聞くために。
誤解を解くために。

……そして、

自分の本当の気持ちを確かめるために。

「……今度こそ」

私は、前を向いた。

今までとは違う一歩をふみ出す。

迷うことはもうない。
答えを出すのは、私自身だ。

ただ、大切なのは、

もう二度と、自分に嘘をつかないこと。

風が吹いた。
涙のあとが、乾いていくのを感じた。

私は、もう一度、歩き出した。
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