大切な人達を全て奪われたけど、夢が叶ったので過去は振り返らず前に進もうと思います

アイスノ人

文字の大きさ
35 / 65

第39話 背負い続けた孤独と、差し伸べられた手

 家族全員で囲んだ晩御飯の食卓は、笑い声が絶えなかった。

母さんの作る料理は相変わらず絶品で、父さんはお酒を片手に上機嫌。
響姉はそんな父さんを軽くあしらいながらも、楽しそうに会話を交わしていた。

そして、僕の隣には真凛と神楽。

二人とも、母さんの料理を「美味しい!」と大絶賛しながら食べていて、母さんも嬉しそうに頬を緩めていた。

「啓君、毎日こんな美味しいご飯食べてるの? ずるいなぁ」

神楽がそんなことを言いながら、器用に箸を使って煮魚を口に運ぶ。

「母さんが毎日ご飯を作ってくれるんだ。でも今日は真凛と神楽も手伝ってくれたから、ちょっと特別な感じがするよ」」

「本当に?、じゃあ今度、神楽ちゃんが啓君に手料理作ってあげよっか?」

僕が返事をする前に、真凛が小声でぼそりとつぶやいた。

「……あんまり期待しないほうがいいですよ」

真凛が小声でぼそりとつぶやく。

「ちょっと、聞こえたんだけど! ひどくない!?」

「だって、神楽、前に“卵焼き”作るって言って、スクランブルエッグもどきになってたでしょ」

「うっ、それは……でも、ちゃんと味は美味しかったもん!」

そんな掛け合いに、響姉が「ふふっ」と笑う。

「啓は幸せ者だな。こんな可愛い二人にご飯まで作ってもらえて。でも、こいつは私の大事な大事な弟だ、そう簡単に落とせると思うなよ」

「な、なんでそうなるんだよ……!」

僕が慌てて否定すると、父さんが「まあまあ」と朗らかに笑い、母さんも優しく微笑んでいた。

そんな賑やかな食卓も、やがて食べ終わる頃には落ち着きを見せ、食後のお茶を飲みながら談笑が続いた。

母さんが食器を片付け始めると、真凛と神楽も立ち上がり、一緒に皿を運ぶのを手伝っていた。

僕も手を貸そうとすると、神楽が軽く手を振った。

「啓君は座ってていいよ。せっかくだから、今日は私たちが最後までやるからさ」

「いや、さすがにそれは……」

「遠慮しなくていいですよ。私たちに任せて、ゆっくりしてください」

真凛がクスリと笑いながら、台所へと向かう。その後ろ姿を眺めながら、僕は少し気まずそうに席についた。

そうして後片付けが終わると、団らんの雰囲気も一段落し、ゆっくりとした時間が流れ始めた。

「じゃあ、そろそろ啓君の部屋行こっか」

食後の団らんが落ち着くと、神楽がそんなことを言い出した。

「ちょっ……部屋って、もう見たよね?」

「だって、今日泊まるんでしょ? どうせ夜更かしするんだから、先に場所を確保しないとね」

「えっ、泊まるって……」

「えっ、泊まるの?」

 父さんと母さんが同時に反応する。僕は慌てて「違う!」と否定した。

「ふふ、冗談ですよ。映画のことで確認したいことがあるので、啓君の部屋でシナリオについてちょっと話そうと思っています」

「私も啓君の意見とか聞きたいし」

真凛と神楽がさも当然のように言うものだから、両親も「なるほど」と納得してしまった。

「じゃあ、いいじゃない。啓の部屋で仲良くお話ししてきなさい」

「母さん!? 」

止めてほしかったのに、まさかの公認とは……。

「……ん、お前らどこに行く気だあ……ふわぁ」

響姉はそう言いながら、大きく伸びをしたかと思うと、そのままソファにどかっと座り込んだ。

「お父さん、飲ませすぎですよ」

母さんがクスリと笑いながら、響姉の肩を軽く揺するが、すでに反応がない。

「まったく……こうなると起きないんだよな」

響姉なら確実に止めに入るはずなのに、今日は静かに寝息を立てている。

こうなったら素直に諦めるしかない

「よし、じゃあ行こう!」

神楽は満面の笑みで立ち上がり、真凛も「お邪魔します」と微笑んだ。

……逃げられない。

結局、僕は二人を連れて自分の部屋へ向かった。

二人と並んで階段を上がる。夜の静まり返った廊下を抜け、部屋のドアを開けると、いつもの自分の空間が目に入った。
ベッドや机、本棚の配置は変わらないが、今は違った緊張感が漂っていた。

中に入るや否や、神楽がベッドに飛び込んだ。

「ふわぁ~、啓の部屋、落ち着く~」

「ちょっ、神楽、勝手に……!」

「えー、いいじゃん。ベッド、ふかふか~」

そう言いながら、ゴロゴロとベッドの上で転がる神楽。その拍子に、スカートの裾がふわりとめくれ上がった。

「わっ!ちょ、神楽!」

僕が思わず視線を逸らすと、真凛が慌てて神楽の足元に駆け寄る。

「ちょっと、動かないで!」

真凛が必死にスカートを押さえようとするが、その勢いで自分のバランスを崩し、前のめりになってしまう。

「あっ……!」

真凛が倒れ込む瞬間、僕は反射的に手を伸ばす。しかし、彼女のスカートも同じようにふわりと舞い上がった。

瞬間、空気が凍りついた。

「……」

神楽がベッドの上で大爆笑しながら、僕と真凛を見下ろしていた。

「な、何も見てないですよね!?」

真凛が真っ赤な顔で僕を睨みつける。

「いや、僕は何も……」

「……ホントに?」

疑いの眼差しを向けられ、僕はただ必死に首を振るしかなかった。

「もう……」

真凛はため息をつきながらスカートを整え、椅子に腰掛ける。

「啓、意外と整理整頓してるんだね。もっと本が散らかってるかと思った」

先ほどの気まずさを吹き飛ばすように、何事もなかったかのように話題を変える。

「そりゃまあ、仕事場みたいなもんだから、ある程度はね……」

「ふーん」

真凛は本棚を眺めながら、少し嬉しそうな表情を浮かべる。

「じゃ、ここでゆっくりお話ししよっか」

神楽が僕の枕を抱きしめながら、いたずらっぽく微笑んだ。

「話?」

神楽が枕を抱きしめたまま僕を見つめる。

真凛も静かにこちらに視線を向けた。その瞳は、普段の柔らかさを残しつつも、何かを探るような色を帯びている。

「啓君と雅さん、葵さんのこと……私たちもずっと気になっていました」

真凛の言葉に神楽も頷く。

「二人とも、啓に対して明らかに他の人とは違う態度だしね。あの雰囲気、どう考えても何かあったでしょ?」

心臓が締めつけられるような感覚に襲われる。

もう誤魔化すことはできないと悟った僕は、静かに息を吸い、全てを打ち明ける覚悟を決めた。

「……そうだね。話すよ」

僕は幼い頃に交わした約束、雅と葵のために書いた小説のこと、そしてそれが二人にどうしても伝わらず、誤解されてしまったことを、言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。

話しているうちに、胸の奥にしまい込んでいた感情が少しずつ溢れてくる。
どれほど努力しても、どれほど必死になっても、その想いは届かなかった。
雅と葵に拒絶されたときのことを思い出すたび、胸が締めつけられるような感覚が蘇る。

僕はただ二人のために書き続けていた。

幼い頃の約束を果たすために、彼女たちが願った物語を紡ぐために、ひたすらペンを握り、すべてを継ぎ込んだ。でも、それが伝わらないどころか、雅と葵の間に誤解を生み、距離を作ってしまったことが何よりも悔しかった。

言葉を紡ぐごとに、僕の声はわずかに震え、指先がかすかにこわばっていく。

まるで、その感情まで見透かされてしまいそうで、目を伏せた。

「それでも……僕は、あの約束を守りたかったんだ」

やがて話し終えたとき、部屋には静寂が満ちていた。

話しながら、胸の奥に沈めていた痛みが徐々に押し寄せる。

どんなに努力しても、どんなに雅と葵のために頑張っても、その想いは伝わらなかった。

言葉にするたびに、今までの辛さが蘇ってきて、声が震えた。

沈黙が流れた後、ふいに温かいものが僕の身体を包み込んだ。

「啓君……今まで、一人で……」

真凛の小さな嗚咽混じりの声が聞こえた。

彼女の肩が震え、涙がぽろぽろと落ちていく。

「なんで……なんでこんなに苦しいこと、一人で背負ってきたの……」

神楽の声も震えていた。

「バカ……ほんとバカ……。何でもっと早く言わなかったのよ……私たちに愚痴ればいいじゃん!もう!本当に……」

真凛も神楽も、涙を拭おうとするけれど、それは止まることなく流れ続ける。

「大丈夫だよ……もう、一人じゃないからね」

真凛がぎゅっと僕を抱きしめる。
神楽もその腕を伸ばし、僕を包み込むように抱き寄せる。

「これまでよく頑張ったね、啓……」

神楽の手がそっと僕の背中を撫でる。

優しく、慈しむような手のぬくもりが伝わってくる。

その優しさに、今まで張り詰めていた心がほどけそうになった。

もし泣いてしまったら、ずっと自分を支えてきた強がりも、耐え続けた孤独も、一気に溢れ出してしまいそうだった。だから、今は涙をこらえることで、僕はかろうじて自分を保とうとした。

「じ、実は、さっき雅と葵から話したいって連絡が来たんだ……」

二人は涙を拭きながら顔を上げた。

「啓君、どうするの?どうしたい?」

「……正直、もう関わりたくないと思ってた。でも、やっぱりちゃんと話さなきゃいけないと思う」

言葉を絞り出すように、心の奥にある想いを口にする。

「本当は……怖い。でも、このままだと、ずっとこの傷を抱えて生きていくことになる」

真凛と神楽は微笑みながら、しっかりと頷いた。

「うん、ちゃんと話したほうがいいです。後悔しないように」

「啓、頑張れ。私たちはずっと味方だから」

二人の言葉が、僕の胸にじんわりと染み込んでいく。

今までずっと独りで耐えてきた苦しみ、報われることのなかった努力、全てを飲み込んで、それでも歩き続けてきた。だけど、今、こんなにも温かく、こんなにも真剣に僕のことを思ってくれる人たちがいる。

この優しさに触れたことで、今まで張り詰めていた心が少しずつ解けていくのを感じた。

「……ありがとう」

その言葉が自然とこぼれた。

真凛と神楽は静かに微笑みながら、僕の肩を優しく叩いた。

「大丈夫、啓君ならきっと乗り越えられるよ」

「うん、これからは私たちがずっと側にいるから」

その言葉が、僕の心の奥深くに灯る小さな炎を強くする。

背中を押され、僕は静かに、けれど確かに、前に進む決意を固めた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。