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第47話 黄昏に染まる危機
車窓の向こう、新宿のビル群が夕陽に照らされている。
ガラス越しに見る駅前は人の波が絶えず、どこか慌ただしさを感じさせる。
オレンジ色の光が高層ビルの窓に反射し、まるで燃えているかのように輝いていた。
時計を見ると午後五時を過ぎたところ。街の灯りが徐々に増えていき、日が落ちる準備をしている。
「啓は何食べたい?」
後部座席で隣に座る神楽が、僕の腕に密着しながら問いかけてくる。その胸の感触に戸惑いつつ、反対側に視線を向けると、真凛も負けじと腕に絡みついていた。
「また食べさせてあげますね」
優しく微笑みながら、真凛が囁く。どちらも競い合っているのが何となく分かる。
……やっぱりこの二人は距離感がバグってるな。
それにしても、二人の距離の近さに心臓がバクバクしている。
神楽の柔らかな感触と真凛の温かいぬくもりが両側から伝わってきて、どうしたらいいのか分からない。
乾いた笑いが漏れそうになるが、ここで反応したら余計に火をつけてしまいそうだった。
「で? 何がいいのって聞いてるんだけど?」
神楽が強引に僕の顔を自分の方へ向ける。それに対し、真凛が「むぅ……」と不満げな声を漏らす。
「いや……二人の転校試験の合格祝いなんだから、二人が行きたいとこ――」
そう言いかけたところで、神楽が誘惑するように僕の顔を覗き込んだ。
「啓といっしょに行けるからお祝いになるんじゃない…ね?」
「神楽! 啓君が困ってるでしょ!」
真凛がすかさず口を挟む。
「困ってません~ 喜んでるんです~!」
神楽がにこにこと笑いながら、真凛に向かってぺろっと舌を出す。
二人のやり取りを見ながら、僕はふと考える。
とりあえず新宿に降りて、みんなで行きたい場所を探したほうがいいかもしれない。
「じゃあ、一旦新宿で降りて、皆で見て周りながら探さない?」
そう提案すると、二人も「それいいかも」とすぐに同意した。
僕たちは運転手に伝え、タクシーを新宿駅の中央付近で停めてもらった。
タクシーを降りると、目の前には新宿の喧騒が広がっていた。
行き交う人々の足音、遠くで響く車のクラクション、ネオンの光がちらつく繁華街。
僕たちの周りを、仕事帰りのサラリーマンや買い物客がせわしなく通り過ぎていく。
神楽と真凛は、周囲にバレないよう帽子を深く被り、おしゃれなサングラスをかけていた。
二人とも女優と歌手として有名だから、目立つわけにはいかない。そのため、帽子を深く被り、オシャレなサングラスで顔を隠していた。
そんな中、彼女たちは通りの賑わいに目を輝かせ、楽しそうに店を探していた。
一方で僕だけはどこか、胸の奥に引っかかるような不安を感じていた。
「啓、何かあった?」
その様子に気づいた神楽が、僕の顔を覗き込む。
「あ……うん……雅たちも一緒にお祝いに参加できたら、もっと楽しかったかも……なんて」
苦笑いを浮かべながら言うと、真凛がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば私たちが啓君と合流した時は、もういなかったですよね。先に帰ったんですか?」
「うん……授業が終わった後、すぐに二人ともいなくなってた……」
視線を落としながら答える。
「ふ~ん、あの子たち、朝見かけた時はだいぶ素直そうな感じだったけど……なんかあった?」
サングラスを少しずらしながら、神楽が興味深そうに尋ねる。
「お昼休みにみんなでご飯を食べたんだけど、その時雅たちの様子がどこか変だったかな……」
「なるほど……啓君はそれを気にして、ここに来る途中もどこか浮かない顔だったんですね」
真凛が、まるで見透かしたように言う。
「あ、いや、その……ごめん、せっかく二人のお祝いなのに……」
僕が気を遣うように言うと、神楽がにかっと笑いながら僕の腕に抱きついた。
「いいじゃん別に、それが啓だし」
「そうですよ! 啓君らしいです」
真凛も満面の笑みで僕の腕に絡みつく。
二人に翻弄される僕だったが、少しだけ気持ちが和らいだ。
その時だった。ポケットの中のスマホが震える。
画面を見ると、葵からの着信だった。
「葵? どうしたんだろう……」
疑問に思いながらも通話ボタンを押す。
『啓! 雅が……雅が危ないの!』
葵の悲痛な声が急に耳に飛び込んできた。
胸が一気に冷たくなる。
「どういうことだよ、葵! 落ち着いて話して!」
『実は伍代たちが雅を脅して、カラオケに付き合えって言ってきて、雅がついて行っちゃったの……い、今私、伍代たちの後をこっそりつけてて、新宿のカラオケボックスにいるんだけど……』
脅し? 新宿のカラオケ?
頭の中で情報を整理しようとするが、混乱してうまくまとまらない。
「け、警察には……?」
『脅迫内容がカラオケじゃ、警察は動いてくれないって……』
それを聞いて、確かにと納得せざるを得なかった。しかも三人は同じ学校の生徒で顔見知りだ……。いや、脅した内容に問題があるなら?
何を言われて雅が従ったのか、それが分かれば、内容によっては警察も話くらい聞いてくれるかもしれない……。
「葵、大事なことなんだ、よく聞いて。伍代たちが雅に何をして脅したの? 脅しに使った内容さえ分かれば、警察にも話を聞いて――」
その瞬間、通話が途切れた。
「葵!? ……クソッ!」
焦ってかけ直すが、繋がらない。
心臓が激しく鼓動し、手のひらがじっとりと汗ばむ。
焦燥感が全身を一気に駆け巡り、息が詰まるような感覚に襲われる。
いてもたってもいられず、気づけば足が動いていた。
「ちょ、啓!?」
突然の行動に驚いた神楽が思わず声を上げる。
「何があったの!?」
真凛も不安そうに僕の背中を追いかけるように見つめていた。
「ごめん二人とも! この埋め合わせは必ずするから!」
流石に有名人の二人を巻き込むわけにはいかない。
声を震わせながら叫び、僕は雑踏を掻き分けるようにして走り出した。
目の前の景色が滲んで見える。心臓が痛いほどに鳴り響き、喉が締めつけられる。新宿のカラオケボックス、雅が、危ない──その言葉だけが頭の中で反響し、足が勝手に動く。
背後で神楽と真凛の声が聞こえた気がしたが、振り返る余裕はなかった。
ただひたすら、葵の悲痛な声と、雅の姿が焼き付いて離れなかった。
ガラス越しに見る駅前は人の波が絶えず、どこか慌ただしさを感じさせる。
オレンジ色の光が高層ビルの窓に反射し、まるで燃えているかのように輝いていた。
時計を見ると午後五時を過ぎたところ。街の灯りが徐々に増えていき、日が落ちる準備をしている。
「啓は何食べたい?」
後部座席で隣に座る神楽が、僕の腕に密着しながら問いかけてくる。その胸の感触に戸惑いつつ、反対側に視線を向けると、真凛も負けじと腕に絡みついていた。
「また食べさせてあげますね」
優しく微笑みながら、真凛が囁く。どちらも競い合っているのが何となく分かる。
……やっぱりこの二人は距離感がバグってるな。
それにしても、二人の距離の近さに心臓がバクバクしている。
神楽の柔らかな感触と真凛の温かいぬくもりが両側から伝わってきて、どうしたらいいのか分からない。
乾いた笑いが漏れそうになるが、ここで反応したら余計に火をつけてしまいそうだった。
「で? 何がいいのって聞いてるんだけど?」
神楽が強引に僕の顔を自分の方へ向ける。それに対し、真凛が「むぅ……」と不満げな声を漏らす。
「いや……二人の転校試験の合格祝いなんだから、二人が行きたいとこ――」
そう言いかけたところで、神楽が誘惑するように僕の顔を覗き込んだ。
「啓といっしょに行けるからお祝いになるんじゃない…ね?」
「神楽! 啓君が困ってるでしょ!」
真凛がすかさず口を挟む。
「困ってません~ 喜んでるんです~!」
神楽がにこにこと笑いながら、真凛に向かってぺろっと舌を出す。
二人のやり取りを見ながら、僕はふと考える。
とりあえず新宿に降りて、みんなで行きたい場所を探したほうがいいかもしれない。
「じゃあ、一旦新宿で降りて、皆で見て周りながら探さない?」
そう提案すると、二人も「それいいかも」とすぐに同意した。
僕たちは運転手に伝え、タクシーを新宿駅の中央付近で停めてもらった。
タクシーを降りると、目の前には新宿の喧騒が広がっていた。
行き交う人々の足音、遠くで響く車のクラクション、ネオンの光がちらつく繁華街。
僕たちの周りを、仕事帰りのサラリーマンや買い物客がせわしなく通り過ぎていく。
神楽と真凛は、周囲にバレないよう帽子を深く被り、おしゃれなサングラスをかけていた。
二人とも女優と歌手として有名だから、目立つわけにはいかない。そのため、帽子を深く被り、オシャレなサングラスで顔を隠していた。
そんな中、彼女たちは通りの賑わいに目を輝かせ、楽しそうに店を探していた。
一方で僕だけはどこか、胸の奥に引っかかるような不安を感じていた。
「啓、何かあった?」
その様子に気づいた神楽が、僕の顔を覗き込む。
「あ……うん……雅たちも一緒にお祝いに参加できたら、もっと楽しかったかも……なんて」
苦笑いを浮かべながら言うと、真凛がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば私たちが啓君と合流した時は、もういなかったですよね。先に帰ったんですか?」
「うん……授業が終わった後、すぐに二人ともいなくなってた……」
視線を落としながら答える。
「ふ~ん、あの子たち、朝見かけた時はだいぶ素直そうな感じだったけど……なんかあった?」
サングラスを少しずらしながら、神楽が興味深そうに尋ねる。
「お昼休みにみんなでご飯を食べたんだけど、その時雅たちの様子がどこか変だったかな……」
「なるほど……啓君はそれを気にして、ここに来る途中もどこか浮かない顔だったんですね」
真凛が、まるで見透かしたように言う。
「あ、いや、その……ごめん、せっかく二人のお祝いなのに……」
僕が気を遣うように言うと、神楽がにかっと笑いながら僕の腕に抱きついた。
「いいじゃん別に、それが啓だし」
「そうですよ! 啓君らしいです」
真凛も満面の笑みで僕の腕に絡みつく。
二人に翻弄される僕だったが、少しだけ気持ちが和らいだ。
その時だった。ポケットの中のスマホが震える。
画面を見ると、葵からの着信だった。
「葵? どうしたんだろう……」
疑問に思いながらも通話ボタンを押す。
『啓! 雅が……雅が危ないの!』
葵の悲痛な声が急に耳に飛び込んできた。
胸が一気に冷たくなる。
「どういうことだよ、葵! 落ち着いて話して!」
『実は伍代たちが雅を脅して、カラオケに付き合えって言ってきて、雅がついて行っちゃったの……い、今私、伍代たちの後をこっそりつけてて、新宿のカラオケボックスにいるんだけど……』
脅し? 新宿のカラオケ?
頭の中で情報を整理しようとするが、混乱してうまくまとまらない。
「け、警察には……?」
『脅迫内容がカラオケじゃ、警察は動いてくれないって……』
それを聞いて、確かにと納得せざるを得なかった。しかも三人は同じ学校の生徒で顔見知りだ……。いや、脅した内容に問題があるなら?
何を言われて雅が従ったのか、それが分かれば、内容によっては警察も話くらい聞いてくれるかもしれない……。
「葵、大事なことなんだ、よく聞いて。伍代たちが雅に何をして脅したの? 脅しに使った内容さえ分かれば、警察にも話を聞いて――」
その瞬間、通話が途切れた。
「葵!? ……クソッ!」
焦ってかけ直すが、繋がらない。
心臓が激しく鼓動し、手のひらがじっとりと汗ばむ。
焦燥感が全身を一気に駆け巡り、息が詰まるような感覚に襲われる。
いてもたってもいられず、気づけば足が動いていた。
「ちょ、啓!?」
突然の行動に驚いた神楽が思わず声を上げる。
「何があったの!?」
真凛も不安そうに僕の背中を追いかけるように見つめていた。
「ごめん二人とも! この埋め合わせは必ずするから!」
流石に有名人の二人を巻き込むわけにはいかない。
声を震わせながら叫び、僕は雑踏を掻き分けるようにして走り出した。
目の前の景色が滲んで見える。心臓が痛いほどに鳴り響き、喉が締めつけられる。新宿のカラオケボックス、雅が、危ない──その言葉だけが頭の中で反響し、足が勝手に動く。
背後で神楽と真凛の声が聞こえた気がしたが、振り返る余裕はなかった。
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