大切な人達を全て奪われたけど、夢が叶ったので過去は振り返らず前に進もうと思います

アイスノ人

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第61話 新章・絶体絶命!配信という戦場

 配信画面の向こうで、視聴者たちのコメントが洪水のように流れていく。蘭子が楽しげに進行する中、僕はただひたすら耐えることしかできなかった。

 彼女のテンポのいい会話に翻弄されながらも、視聴者たちはどんどん乗ってきて、コメント欄は狂乱状態だ。

 『ランランルー!』

 その掛け声に合わせて、画面がコメントで埋め尽くされる。いや、それ違うだろ、と心の中で突っ込んだが、声に出せるはずもない。

 そして、次の瞬間。

「じゃあまずは第一問ね! 啓先生は今、彼女いるんですか? チッチッチッ──」

 秒を刻む蘭子。問いかけるように僕を見つめる。

「い、いません!」

 即答するしかなかった。しかし、蘭子はまるで疑わしげに僕を見つめてくる。

「本当にぃ?」

「本当にいません!」

「ふぅん……」

 その含みのある声に、背筋がゾワリとした。

「では次、第二問! 先生は新車ですか? それとも中古? チッチッチ」

「は? え? 何?」

 質問の意図が分からずに混乱する僕。すると、蘭子が身を寄せ、悪戯っぽく囁いた。

「多分、童貞かどうかってことじゃないですか?」

 悪魔的な微笑みを浮かべる蘭子。僕の脳が一瞬停止しかける。

「ど、童貞!?」

 パニックのあまり声を荒げてしまい、コメント欄がまさにお祭り騒ぎに突入。

『先生wwww』

『新車確定wwww』

『おい、今の声ボリューム爆上がりwww』

 僕は完全に弄ばれていた。

 ネットミームってこうやって生まれているのかもしれない……。

『おいおいwww』

『先生の反応www』

『やっぱ新車かwww』

「どうなんですか~?」

 蘭子はなおも僕を追い詰めるように、甘い声を絡ませてくる。

「そんなの答えられるわけないでしょ!次!次行ってください!」

 額に手を当て、深呼吸。冷静になれ、落ち着け──。

 その時だった。

 ──何かが触れた。

 不意に、下半身に生暖かい感触が這う。

「へ?」

 思わずマヌケな声が漏れた。視線を下に向けると──僕の太ももに、蘭子の手が置かれていた。

 いや、正確には……まさぐられていた。

「なっ……!?」

 急激に全身の血が沸騰するような感覚に襲われる。僕は声を荒げそうになったが、寸前で飲み込んだ。

 蘭子は、まるで何事もなかったかのように、コメントを拾って読んでいる。

「し~」

 僕が抗議しようとすると、彼女は唇に指を当てて制した。配信中であることを思い出す。これ以上醜態を晒すわけにはいかない。

 蘭子は耳元に唇を寄せ、まるで悪戯を仕掛ける猫のように囁く。

「だって、昼間のお礼、まだしてないですもん……」

 いたずらっぽくウインクする彼女。その瞳は完全に獲物を捕まえた狩人のそれだった。僕はまるで金魚鉢に落ちた金魚のように口をパクパクさせることしかできなかった。

 叫びたい。しかし、言葉が出ない。

 心臓はうるさいほど鳴り、背中にじっとりと汗が滲む。

 視聴者たちは、まさか今の状況を知るはずもない。ただ、僕の挙動不審さを笑い、楽しんでいるだけだ。

 落ち着け……ここで反応したら、相手の思うつぼだ……!

 そう自分に言い聞かせる。

 しかし、蘭子の手は止まらない。指先が、ゆっくりと動き出す。

 脳がパニックを起こしそうになる中、僕は何とか冷静を保とうと、視線をコメント欄に書かれた質問内容に向ける。

「えっと……影響を受けた作品ですが……」

 震える声で答えようとするが──。

 その瞬間、蘭子の指先がピクリと動いた。

「っ……!!」

 僕は耐えきれず、椅子の上で体をずらし、彼女の手から逃れた。

「おっと、逃げた~」

 蘭子が面白がるように笑う。

 だが、今の僕にはそれどころじゃない。

「……ごほっ。え、影響を受けた作品ですが、『夜の果てへの旅』ですね……」

 ようやく答えたものの、声はかすれていた。

「へぇ、先生らしいですねぇ~」

 蘭子はニヤニヤしながらしれっと次の質問へと進める。

 僕は息を整えながら、心の中でただ願った。

 どうか、この配信が、早く終わってくれ……!
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